エア・パワーの時代

エア・パワーの時代
マーチン・ファン クレフェルト著 源田孝訳 原著2011 芙蓉書房出版

内容(「BOOK」データベースより)

19世紀末のエア・パワーの誕生から現代まで、軍事史における役割と意義を再評価し、その将来を述べたThe Age of Airpower(2011年刊)の全訳版。

感想

タイトルから受ける印象とは逆に、エアパワー、すなわち航空戦力の限界を指摘している。著者によると、第二世界大戦で航空戦力は華々しく活躍したようにみえるが、その実態を正確に評価するのは難しいという。また、核兵器の登場やミサイルシステムの発達、不正規戦の増加により、航空戦力の影響力は低下しているそうだ。

航空ショーに行くと、巨大な戦闘機が爆音で圧倒させながら鋭利に空をきっていく様子が印象的だった。スマートな姿、すさまじいエネルギー、何ものからも影響を受けぬがごときの自在な機動。飛行機は、特に戦闘機は魅力的だ。

そんな彼らではあるが、コストの急拡大や代替手段の発達によって、軍隊のなかで微妙な位置づけになりつつある。そんな別な一面を本書はきっている。

メモ

第一次世界大戦を通し、各国の戦闘機配備数、生産数、組織の人数は爆発的に拡大。
第一次世界大戦の航空戦力の効果は、偵察、対潜水艦抑止、着弾観測など限定的だった。
空爆や魚雷攻撃は効果をあまりあげず。

第二次世界大戦以前の国家間による戦略爆撃の効果は疑問だ。
理由
・低い目標命中精度。
・攻撃側の多大な人的物的犠牲。
・莫大な人的、金銭的、物的投資に見合った成果を出したとはいいがたい。
・相手の士気をくじくのではなく、民間も犠牲になるので、敵側に連帯感と正当性をもたらしてしまう。

第二次世界大戦で航空戦力は大きな力を発揮したと考えられているが、それを正確に評価するのは難しい。

○航空戦力はその誕生以来、想像を絶する質的・量的成長を遂げた。しかし、ベトナム戦争イラク戦争、住民で行われる戦争やゲリラ戦、テロリズムといった不正規戦をみていくと、航空戦力が大きな役割を果たしたこともあったが、それでも航空戦力強者の目的が達成されたわけではなかった。航空戦力には限界があった。敵の排除、敵方の物資輸送の妨害、占領域の治安維持などは、航空戦力だけでは実現できない。航空戦力はもちろん重要だが、陸海をはじめとする戦力も必要。

○航空戦力の維持と行使には大きな大きなコストが必要。成果とみあっているか。

第二次世界大戦以降、航空戦力の重要性は低下。
理由
・圧倒的な破壊力をもつ核兵器の登場により、国家間の大規模な戦闘の抑制。
・陸海に比べても著しくコストが上昇。
偵察衛星やミサイルといった他の武器システムの発達。
・UAVやヘリコプターの役割が増大。そしてそれらは直接活用する陸海軍の隷下にはいることが多い。有人機は絶滅の方向。→空軍の役割低下。

○航空機が発達し身近で安全なものとなることで、以前は飛行によってもたらされていた自由や支配といった刺激的感覚は減少。
大規模な戦争はなくなりエースは消滅。
空軍が伝統的に育んできた組織文化(勇猛果敢、聡明さ、積極性、自信、自惚れ、高いリスクを負っているがゆえの無秩序な生活)は減退。

○監訳者あとがきより「エア・パワーを含む兵器システムは現実の脅威に適切に対処でき、適切な価格で調達でき、適切な予算で維持運用できなければならない」