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読書その他の悪癖について

「なんでまた他人の事を年中喋りまくるのだろう。」
「それはあの方はお頭がごくごく小さいから、自分の事は考えられない。
それで年中他人の事ばかりお考えになるのです。」
――ゴルドーニ『珈琲店』

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2013-07-06

[][][]カルロ・ゴルドーニ『珈琲店・恋人たち

「なんでまた他人の事を年中喋りまくるのだろう。」

「それはあの方はお頭がごくごく小さいから、自分の事は考えられない。それで年中他人の事ばかりお考えになるのです。」(「珈琲店」、42ページ)

 「珈琲店」はその名の通りコーヒー店に集まる人々が巻き起こす騒動を描いたコメディ。

 賭博にのめりこむ御曹司、彼から金を巻き上げる偽貴族、身分を隠して現れ彼らを正道に引き戻そうとする妻たち、偽貴族と交際中の踊り子(彼が妻帯者であるとは知らない)、噂好きの紳士、コーヒー店の店主らが登場し、どたばた騒ぎを繰り広げる。

 身を滅ぼしそうな若旦那と、彼を食い物にしようとする連中、逆に彼を救おうとする人々――という構図だけ見ると単純だが、登場人物に嘘つきが多い(身分を隠したり仮面をかぶったり)ので、物語は素直には展開していかない。特にドン・マルツィオという怪人物は、噂好きの軽口男といった領域を超えており、やたらと憶測で物事を話し、ほかの登場人物たちに誤解を与え、物語を引っ掻き回す。古典喜劇らしく最後には落ちつくべき形に落ちつくものの、そこに至るまでのはちゃめちゃ・二転三転ぶりが読んでいてとても楽しい。

 「恋人たち」は些細なことで傷つき、相手を傷つけるお馬鹿な二人が巻き起こす珍騒動。主人公たちはお互いにべったり惚れ込んでいるくせに、顔を合わせれば罵り合ったり皮肉を言い合ったりして、周囲の人々に気を揉ませる。

「ああ、その訳ならすぐ見当がつきますわ。二人で喧嘩なさったんですよ。」

「そうかもしれぬ」

「喧嘩をなさったのなら、仲直りなさるにちがいありませんわ」

「そう簡単には参らぬ。」

「今まで何度も仲直りなさいましたもの。」(219ページ)

 家族も友達にもメイドにも主人公二人の恋愛沙汰はバレバレで、皆で二人をどうにかくっつけようとするものの、肝心の当人たちは毎回毎回、些細なことで頭に血を上らせては別れる話ばかりしている。悪意の人が一人も登場しないというのになかなかうまくいかない。ツンデレが登場するラブコメディが好きなら最初から最後までニヤニヤできるはず。


 古典文学に対して、人生に対する示唆や教訓を求めている人にはおすすめしない。面白い読み物を探している人向け。

2013-06-17

[][]ウラジーミル・ソローキン『青い脂』

青い脂

青い脂

 大まかにいって三部構成。第一部は、未来シベリアの研究機関にいるボリス・グローゲルが情人(男)に送る何通かの手紙からなる。ボリスと同僚たちは、ロシアの作家たちのクローンから「青脂」という物質を取り出すための準備をしている。第二部は「大地交合教団」なる怪しげな宗教団体の人々が主役。青脂をボリスたちから奪い取った彼らは、それを過去へと送り届ける。第三部はヒトラースターリンヨーロッパを支配している架空の1954年が舞台。未来からやってきた怪人の遺体と青脂とがもとで、スターリンとその周囲に騒動が巻き起こる。

 ゆっくりゆっくり、丁寧に丁寧に作品世界を築き上げ、最後の最後で執拗な態度でそれをぶち壊した『ロマン』とは違って、この『青い脂』は最初からぶっとんでいる。よって、圧倒的にこちらのほうがとっつきにくい。

 まず最初のボリスの書簡の文体がくせ者で、中国語その他の言語に未来世界の新語が入り混じる奇怪な代物になっている。おまけに内容はものすごく卑猥(こうやって中国語の語彙をやたら使ったのは、19世紀のロシア文学フランス語の語彙が大量に入ってたののパロディなんだろうか?)。目眩。

 で、かなり唐突な感じでボリスの書簡が終わり、第二部に入るのだが、文体こそまともなものの、登場人物と世界は相変わらず常識外れ。ここでも目眩。

 これらに比べると1954年のパートはいたって読みやすい。スターリンヒトラーが勝利したパラレルワールドで、ロンドン原爆が落ち、プラハに壁が築かれて東西に分割されてるなんてのも、未来世界の奇怪さに比べれば、よっぽど想像しやすい。このパートの面白さは、下品さでもって全方位に喧嘩を売ってるところ。ここに出てくる登場人物はみな実在だったのみならず、『青い脂』が発表された1999年当時まだ存命の人物も多く、よくまあ意味も容赦もなくネタにできたものだと思う(たとえばスターリンの娘ヴェスタがヒトラーレイプされるシーンがあるわけだけれども、このご婦人も小説発表時は存命)。詩人アフマートヴァから詩人ブロツキーへの世代交代(というか継承というか……)のシーンなんかも、神秘的でありつつ物凄くスカトロジックできたない。ソローキン先生、アフマートヴァもブロツキーも好きなんだろうなって感じはするんだが、よく好きなものをこれだけイジれるものである。



 あと、この小説読んでて一番興奮したのは、トルストイ4号の「呻き声つき垢落とし」だったことを白状しておきます。

2013-06-04

[][]チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

 東欧に存在する都市国家ベジェルのスラムの広場で、身元不明の半裸の女性の遺体が発見される。客とトラブルになった売春婦……にしては、不審な点が山ほどある。捜査にあたったボルル警部補は、やがて隣国ウル・コーマから匿名国際電話を受け取る。電話の相手は、殺害された女性を知っているという……。

 こんなふうに書くとまるで普通の推理小説みたいだが、舞台設定がふるっている。ベジェルとウル・コーマは同一の都市の中に入れ子状に存在していて、特に<クロスハッチ>された地区ではベジェルとウル・コーマの建物・市民が両方存在しているという設定。そして彼らは外国の事物・人物を故意に見たり、話しかけたりしてはならず、必死に<見ない>ようにしているということになっている。そして、故意にこれを侵犯すると、<ブリーチ>と呼ばれる組織が現れて、犯した者を密かに処罰するという(かなりの部分が大目に見られてはいるようだが)。

 で、これで時代設定が中世とか、架空の世界とかだったらかえってすんなり入っていけるのだが、あえてグーグルとグローバルの現代世界を背景に設定しているのがまた奇怪な印象である。

 ボルル刑事をはじめとする登場人物の、自国と(目の前にある)隣国への距離感がなんともリアル、というか、ありそうで面白い。現代人のくせに不合理を疑ってもみずに受け入れているところとか、不合理なルールを侵犯せず、侵犯しようという気も起こさずに事件を捜査しようとするところとか(しかし最後の最後では……)。あとは、シエドル議員という元軍人の<ブリーチ>に対する発言、外部者たる読者からは至って真っ当な批判に見えるのに、登場人物は「また右翼の馬鹿が無茶なこと言ってるよ」みたいな扱い方しているあたりとか。

 文体はいたって普通の一人称ハードボイルド調。世界観さえつかめればさくさく読める。

2013-06-01

[]6月刊行予定の海外文学チェックリスト

 4月5月はさぼったけど、今月はできるだけ本気出す

 とりあえず注目はベケットの『ゴドー』新書化、といいたいとこだがもう読んでるからなあ。白水社には『モロイ』あたりもぜひuブックスに入れて欲しいところだ。

 とりあえず古典戯曲は押さえておく方向なので、岩波ゴルドーニは買う。

2013-04-01

[]4月刊行予定の海外文学チェックリスト

 岩波文庫の赤帯攻勢はまだまだ続く模様。いいぞもっとやれ。

旧サイト「居眠書生の書庫」