書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ドリス・レッシング『破壊者ベンの誕生』

 今年のノーベル賞作家。両親ともイギリス人ながらイラン生まれのアフリカ育ちという風変わりな経歴の持ち主ですな。

破壊者ベンの誕生 (新潮文庫)

破壊者ベンの誕生 (新潮文庫)

 理想の家庭を築くことを人生の目標に掲げるハリエットとデイヴィッドの夫婦は、大きな邸宅と四人の子供を抱え、ときに親戚と交際しながら幸福に暮らしていた。ところが、ゴブリンのような奇怪な風貌と狂暴な性格を持つ五人目の息子ベンが誕生したときから彼ら一家は崩壊していく。

 どちらかといえば淡々とした文体だと思うが、夫婦の生い立ちからゆったりと説き起こし、五番目の子による家庭の崩壊へと少しずつ展開を速めていく語り口はなかなかの至芸。最初眠かったのが終わりのほうはつい夢中で読み進めてしまった。
 主人公たるベンの内面はほとんど描写されず、物語は母親ハリエットの視点を通して語られ、そうして異端者たるベンの不気味さ、不可解さ、哀れさが表現されている。ベンは果たしてエイリアンか? 家族に愛されなかった哀れな子供なのか? はたまた社会がそうさせたのか? そのいずれもなのか、そのいずれでもないのか。とこう、いかようにでも読めるようになっている。


九百人のお祖母さん (ハヤカワ文庫SF)

九百人のお祖母さん (ハヤカワ文庫SF)

 子供が突然先祖がえりしてエイリアンになる、という話として、ラファティの短篇「日のあたるジニー」を思い出した。もっとも、こちらはずっとユーモラスな作品であるのだが。この短篇は『九百人のお祖母さん』に収録されている。