書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ピエール・プロ『この狂乱するサーカス』

この狂乱するサーカス (1981年) (サンリオSF文庫)

この狂乱するサーカス (1981年) (サンリオSF文庫)

もし、ほんとうにシティズンが狂っているとすれば……だからどうしたというのか? かれらはこのことしか、これ以外のことはなにも、求めてはいなかった。ばかになる権利、だが、狂気の世界で、かれら流のばかになる権利を求めていただけだ。(174ページ)

 俳優シティズンは、どこにいるか、本当に存在するかも知れない<大衆>のために、ゾロ・ナップシリーズという馬鹿げた映画に出演しつづけていた。やがてそれに我慢ならなくなった彼は、ゾロ・ナップのシナリオ作家ブロスに罵言をたたきつけ、<核地帯>を飛び出す。

 サンリオのフランスSFはできるだけ読んでおこうというわけで試してみた。
 カバー裏に載っている作者の写真は、ぼさぼさの髪に髭を生やし、いかにも精神的にはアウトローです、自由を求めてますといった雰囲気、小説内容も作者の風貌のイメージそのままだった。欺瞞に満ちた世界からの脱出。ただ、その世界が、あまりに奇形的に造型されているところが見所か。オチというか、結末で明かされる世界の秘密みたいなことは、たしかに気持ち悪くてなかなかいい。
 ただ、どうも文章がぬるいというか……疾走感を感じられるほど読みやすくもなければ、読みごたえを感じられるほど濃密でもない。ストーリーも後半盛り上がってくるが、前半部分の展開がいささかたるい。