smectic_gの日記

2010-05-22

[]「民主主義アフリカ経済を殺す」

ちょっと前に「民主主義アフリカ経済を殺す」を読んだ.結構前に買って,半年くらい放置して最近読んだ.

民主主義がアフリカ経済を殺す

民主主義がアフリカ経済を殺す

買った直後は要するに「土人に民主主義はまだ早い」ってタイトルにしろよとか揶揄してたけど,読むと思ったより深かった.経済学的手法を使う社会学者というポジションはやはり良い.結局,数字をベースに論じないと固定観念からは離れられない.もっとも逆は真じゃないけど.

とりあえず,この本の内容で2点だけはblogに書こうと付箋を貼っていたところがあるので,紹介したい.

P.29

それどころか特筆すべきは,民主主義が不在なところでは,社会が裕福になり始めると政治的暴力の発生する傾向が増していた.民主主義国では所得の増加と共に安全度が増し,独裁下では危険度が増す.これを手がかりに二本のラインが引けるだろう<中略>民主主義が暴力に対して,正味の影響をもたらさない所得水準は一人当たり年間所得2700ドルだが,これは単純に二本のラインが交差するポイントだ.これを現代で最も著しい所得の変化があった国に当てはめると,中国がその境界を越えたところで,最近では3000ドル超まで急上昇した.つまり中国がこのまま進んでいくと,民主化を遂げない限り年を追うごとに,その目覚ましい経済成長が政治的暴力の傾向を高めるといえよう.

何という預言者.というのは冗談だけど,統計的には一人当たりGDPが低い国=生活に手いっぱいで政治のことを考えることなんて思いもよらない人たちで構成されている国に民主主義を導入しても,しがらみとか見た目とかで投票するだけなので,政治に対するアカウンタビリティは改善しないどころか,選挙が変なお墨付きを与えて好き勝手するので逆効果になる.逆に,政治に時間を使う余裕がある一人当たりGDPの高い国では,独裁制よりも民主主義の方が一般に効率の良い政治に対する監視を行えるし,独裁制を導入すると政治的発言機会をうわばれた国民はいらないことばかりするということ(そして,金持ちだから中国でプレス加工により作られた刀を振り回すアフリカのどこぞの国の人たちと違って,小数でも被害のある攻撃をおこなうことが出来る).

その意味では,シンガポールは奇跡でどうしてあれだけの一人当たりGDPを持つ国が開発独裁でいて,安定しているのかは結構不思議.ただ,都市国家だからというのはそれに対する答えになりうる.著者は反乱や内戦が起きやすい特徴として

  • 山岳部の割合が多い.(反政府組織が潜伏しやすい)
  • 若い男性の割合が多い.
  • 国の規模が小さい.(安全保障の規模の経済が効かない)
  • 天然資源に依存している.(戦争が起きようがなんだろうが天然資源は売れるので,反政府組織の収入の確保がしやすい)
  • アフリカフランス語圏(唐突だけど,フランスの対アフリカ政策は混乱していたかららしい)

をあげている.シンガポールは,最初の山岳部が多いかどうかという点で致命的に反乱が起こりづらい.また,天然資源もなく,外部勢力が介入しない限り反政府組織の活動を維持できない.

その意味で昔,左翼の人たちが日本は軍隊なんかもたなくても,豊富な山岳部に逃れて抵抗すればいいから大丈夫とかうそぶいていたのは,多分半分は正しい.でも,半分は正しくなくて,内戦になった後に崩壊するであろう日本の統治システムの価値というのを理解していないということになる.これだけ,山岳部が多い国で内戦が起きてしまえば,もう一度統一して統治システムを全国に張り巡らすのはかなり先になる.

国家が国家である理由というのは,限りなくはかない.内戦になってしまって違う物語を持ってしまった国民は,何らかの犠牲なしにはひとつの国民には戻れない.民族自決なんて幻想だ.民族なんてものは,何世代もかけて育てていかないといけない共同幻想であって,その幻想がない国の末路がどうなるかの例でアフリカはいっぱいだ.

で,次は

P.238

私は腐敗した政治家の選択を,単純な決定問題として設定しうることに気付いた.自由に着服出来る分を最大化する税率を選ぶのだ.課税が低すぎても,横領できる分が無くなってしまうので良くない.かといって課税が高すぎても,歳入は増えるが,横領に対する監視の目が厳しくなるので都合が悪い.こう考えると,腐敗した支配者の目から見て理想的な税率があり,それはきわめて低いと思われる.

課税を高くすると市民が監視の目を厳しくするのは事実だろう.でも,国民は自分がどれだけの税金を取られているかについて適切な認識を持っているのだろうか.重税感を軽減するために必死に工夫された日本の税制度を見てると,無条件にそれを仮定するのは難しいんじゃなかろうかと思った.でも,ラッファーカーブのような目が覚める話.本当の独裁者は重税をかけない.

で,これが含意していることは腐敗した政治家の元では適切な社会資本の蓄積が進まないという話.利益誘導のためといいつつ国全体に道路を引きまわして,膨大な国債と引き換えに社会資本を蓄積しまくった国とは次元が違いすぎる.