こんなんだったっけ日記

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パクリとパロディの見分け方(実践編)

 前回の理論編に続いて今回は実践編に入る。取り上げるのは次の二曲である。
 Char「FEEL THE GROOVE」(『EDOYA COLLECTION 1988-1997』収録、作詞作曲:Char)
 TOKIO「VATE-TUDO」(『ACT Ⅱ』収録、作詞:城島茂、作曲:国分太一
 本当はYouTubeにあるような曲を取り上げた方が判りやすくて良いのだろうが、たまたま同じ日に聴いたCD群の中に、「パクリ/パロディ疑惑」の極めて濃厚なものが二曲も出て来たので、それを選んだまでである。
 「FEEL THE GROOVE」の方は、間奏部でのリフが完全にザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの「FIRE」であり、「VATE-TUDO」の方は、イントロの冒頭5秒間がまんまベン・フォールズ・ファイヴ「Sports & Wine」である。流用ということについてどちらも弁解の余地はないと思う。
 なおどちらも歌詞や歌メロではなく間奏部における流用であり、責任を問うとすれば編曲者である。「FEEL 〜」の方はクレジットがないが恐らくチャー本人。あるいはジム・コウプリーとかとの共作かも知れない。また「VATE-TUDO」の方の編曲は国分太一&KAMとされている。
 さてこの二曲を、理論編で挙げた四つの指標に当てはめて、単なるパクリか、芸術的に意味のあるパロディ(オマージュ)か、を検討してみたいと思う。


 まず(1)元ネタの認知度についてであるが、「FEEL 〜」の元ネタであるジミヘンの「FIRE」と言えば、彼のアルバムの中でよく知られた『Are You Experienced?』の中でも特に有名な曲の一つである。レッチリなどカバーも多い。ロックファン、殊に60,70年代の所謂クラシック・ロックのファンであれば知らない方が非常識という曲である。
 他方、「VATE-TUDO」イントロの元ネタである「Sports & Wine」(『Ben Folds Five』収録)は、僕は大好きであるが、世間的には、あるいはロック・ファンに限っても、それほど有名とは言えないと思う。多分同じアルバムに入っている曲でも「Jackson Canary」(これはCMにも使われた)や「Philosophy」、「Underground」なんかの方が有名だろう。
 そんなわけで(1)については「FEEL 〜」は◎、「VALE-TUDO」は×。


 次いで、(2)中心的な聴き手の知識について。チャーは、デビュー後数年の歌謡路線でやっていた頃はさておき、Johnny, Louis & Char以降には、その中心的な聴き手というのは「ギター・ロック好き」であると見られる。また彼がジミヘンから強い影響を受けていることはギター・ファンならば誰もが知るところであって(曲の歌詞に「『君ジミヘンみたいだね』って言われた」ってのがあるくらい)、チャーのファンでジミヘンを一切聴いたことがないという人は殆ど絶無に近いと言っていいと思う。よってジミヘンの代表曲の一つである「FIRE」も当然知っていると考えられる。
 一方「VATE-TUDO」の方であるが、TOKIOの聴き手の中心がどこにあるか・・・というのは、TOKIOというグループの独特さのせいでなかなか掴みにくいが、まあシンプルに1994年CDデビューのジャニーズ・グループであるということを考えると、ファン層の中心は20〜30代女性(必ずしも音楽を熱心に聴かない人を一定数含む)ということになろうか。『Ben Folds Five』というアルバムは1995年発売で、日本でも結構ヒットしたので世代的にはまあまあ合っていると言える。また、このアルバムは木村拓哉主演のドラマ『ロングバケーション』でも取り上げられたので、ジャニーズ・ファン(と一括りにすべきではない気もするが)にとっては、世間一般よりも高い認知度を有している可能性はある。
 しかしそうした事実によって「Sports & Wine」をTOKIOファンの多くが当然知っていた筈だと推論するのはかなり躊躇される。実際には、TOKIOのメンバー本人(例えば国分)がラジオ番組なりファンクラブ会報なりでベン・フォールズ・ファイヴを取り上げたりしていない限りは、ファンの大方はこの曲を知らないと見るのが自然と考える。
 よって(2)については、「FEEL 〜」は◎、「VALE-TUDO」は△(×にかなり近い)。


 どんどん行きます(3)ミュージシャンの芸風。先人の曲をチョロっと持ってきても笑って許してもらえるような「下地」があるかどうか。ユーモア、ギャグを愛するミュージシャンであるという認知がファンから得られているかどうか。
 ところで今「ファンから」と書きましたが、これがシングル曲であれば、ファンを越えて広く世間一般が耳にする可能性が高いので、認知は世間から得ている必要があるが、偶々ここで取り上げる二曲ともシングル曲ではないので、主な聴き手はそのミュージシャンのファンであると考えられる。だから認知はファンから得られさえすればOKである、取り敢えず。
 閑話休題。まずチャーについてですが、この人の冗談好きはファンには周知のところであって、何しろライブの前説にチャーリー浜を呼んじゃうくらいである。ライブでは「さっき楽屋で作った曲です」と言ってデビュー曲を演ったりする。石田長生と組んだギター・デュオの名前は「BAHO」であるが、これは東のバカ(チャー)と西のアホ(石田)を足して2で割って「バホ」。奥田民生山崎まさよしと三人でやっている「三人の侍」もかなりアホっぽいところがある。
 音楽的にも、ミネラルウォーターのCMに「Water Business」、ズバリ水商売という題の曲を提供したりと、茶目っ気が利いている。「左胸の砂丘」なんて曲もある。充分◎を与えられる。
 一方TOKIO・・・まあ所謂「キャラ」としてユーモアがあることはよく判るけれども、それが音楽にも及んでいるか否かということについては判断材料がないので、保留。
 

 最後、(4)引用の意味。どうしてこの曲を引用したのかということに何らかの意味づけを見出せるか? まず「FEEL 〜」の方は、実は歌い出しが「パット モエタラ ケムリノ Band Boom」なんですね。これが「FIRE」則ち炎のイメージと明確に結びつく。が、まあ関係ありそうなのはそのくらいである。よって○(△に近い)。
 一方、「VALE-TUDO」の方は、歌詞等について「Sports & Wine」との関連は全然窺われないので、×。


 以上を総合すると、「FEEL THE GROOVE」は◎◎◎○となり、優秀な成績を収めているので、文句なくパロディ/オマージュであると認められる。一方、「VALE-TUDO」は×△?×であり、単なるパクリであると見るのが妥当であろう。
 尤も先述のように、何らかの理由でTOKIOファンの大多数が「Sports & Wine」を知っているということが証明されれば、「VALE-TUDO」のパロディ容認度もかなり上がるであろう。断定は難しい。


 断定は難しいものの、やはり四つの指標はパクリorパロディの判断検査にはなかなか有用なのではないかと確認するに至った。皆さんも、自分が知っている「アヤシイ」曲に適用して遊んでみて下さい。 (了)