吉増剛造ナイト2

 午前中、車で成育病院へ。息子のヘルニア手術の日取りが9月1日に決まる。午後、郵便局で学資保険をどうしようかすったもんだ検討した末、結局やめる。家で夕食をとり、電動自転車にまたがってポレポレ東中野へ。夜の青梅街道を自転車でひた走るその行為は散文的日常から詩的世界へ降りてゆくための儀式となる。今日もミスター・ドーナツでドーナツ1個とアイス・コーヒーを注文。冷えた店内には入らず、空調室外機から吹きだすぬるい風が吹きつける外のテーブルでそれを食べながら、山本多助の『カムイ・ユーカラ』を読みつつ21時を待つ。
 今日も吉増さんの語り付き上映。「〜なんだよねー」「〜ですぜー」という語り口にもうすっかりやられちまった。今日の上映作品は、記念すべきGozoCiné第1作『まいまいず井戸take 1』(2006)、サンパウロの人臭い夜の表情と妖艶なジャカランダの花を捉えた『Jakaranda―リオ・サンパウロ』(2008)、デリダの「軽いテント」につっこむ『紅テントと軽いテント――唐十郎さんと今福龍太さんへ』(2009)ときて、土方巽大野一雄を継ぐ雪雄子さんのすばらしいパフォーマンスをクレーのイマージュと重ね合わせた『拈花瞬目』(2010)で昼の疲れがピークに達して心地よい夢の世界を漂った。最後は『The Voice of 〈漆〉――会津にて』(2010)。
 あのぶれる映像は「軌跡」というカメラのファンクションを使うのだそうだ。いったいなにものかと不思議に思っていた「まいまいず井戸」は羽村にあるんだ、ぜひ行って螺旋状に下降するトレースを辿ってみなければ。ぼくもカメラを回してみたくなった、いろんな場所で。発見し、想起し、聴きとるために。二夜目となると、吉増さんの詩学に目が(耳が)行く。先日のトークで「言葉をもっと揺らさなければいけませんね」という言葉が耳にこびりついている。そう、やっぱり揺れるんだね。そしてデュラスみたいなノスタルジーがある。それから、軽いテント、ということば。そう、テントは軽いのだ。吹き飛ばされないように、しっかりペグを地面に打ちこんで固定される頼りない布の避難所はつかのまのあいだ自然のなかにかげろうのように出現する。われわれはそのなかに包まるしかない。『漆〜』で流れるリンゴの唄。映像作品とそれに反応する弁士吉増剛造パロールの応酬、往還。上演後にある大学の先生が言っていたように、ぼくらはまさに吉増剛造の脳のなかから風景を見る体験をしたのだった。さあ、そこからぼくらは何を先に伸ばして行こうか。