キース・ジャレットによるバーバー、バルトーク

ついに出た! キース・ジャレットのクラシック・ピアニストとしての技巧の頂点のひとつを明らかにした記録である。すばらしい名演だとおもう。まずはバーバーの協奏曲。第1楽章のインプロバイザーならではの自在さを感じさせる無伴奏の導入部から一気に引き込まれる。カデンツァの超絶技巧に腰を抜かした。第2楽章は冒頭で示されるフルートとオーボエによるテーマに加わるキースのラインの歌わせ方がまるで彼自身の即興ソロのような透明な抒情を湛えている。終楽章のプロコフィエフのようなエネルギーの塊。キース・ジャレットの卓越したリズム感についてはたとえばミカラ・ペトリが驚嘆していたが、明晰かつ爆発的に繰り出される音群のドライブ感は圧倒的である。2000年のトリオ・アルバム『インサイド・アウト』には超ヒップでクールな"Riot"というトラックが収録されているが、これはバーバーの終楽章からアイディアを得ているのかもしれない。1910年に生まれ1981年に亡くなったアメリカの「保守的」作曲家、サミュエル・バーバー。これを機会にヨエル・レヴィ指揮アトランタ交響楽団によるいくつかの管弦楽曲を聴いてみた。2曲の「管弦楽のためのエッセイ」が印象に残った。有名な「弦楽のためのアダージョ」の痛切なメロディ。ソプラノ独唱がつく「ノックスヴィル」は詩がいささか甘い。マーラー的苦悩のかけらもない、ノスタルジックな回想。しかしピアノコンチェルトはなかなかいい。ヴァイオリン協奏曲も聴いてみようか。バルトークの3番は、1985年1月30日、今は無き五反田簡易保険ホールでのライブである。オケは秋山和慶指揮の新日フィル。武満徹プロデュースの第1回トーキョーミュージックジョイ第2夜の演奏会であった。ぼくはこのコンサートを聴きに行った。CDで聴き直すと感無量である。バーバー同様、2楽章の静謐さがよい。オケの楽器との応答も生き生きしている。終楽章のエネルギーもすごい。コーダはとりわけ圧巻である。惜しむらくはバルトークのほうの録音が今一つである。終楽章のピッコロが耳につくし、ノイズも気になる。しかしそんなささいなことはこの演奏のすばらしさを削ぐものではない。ライナーでキースが語るところによれば、とある冬にスキー事故で手を痛め、バルトークの2番やストラビンスキーのコンチェルトの演奏を断念したという。なんとも残念な話だ。80年代の伝説のキースのクラシック演奏。ほかの音源のリリースも期待したい。きっと出てくるだろう。