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2006-09-14

[]真夜中の人間の消費行動=“いなりずし理論”に、音楽業界再建のヒントあり!?

 先週、本業のノルマに追われて更新を怠っていた時期のニュースだが、米タワーレコードが二度目の倒産の危機に襲われた(以前書いた通り、日本のタワレコは一昨年にMBOで完全な暖簾分けを果たしているため、今回の件による実害はない)。私も昔、仕事でシアトルとサンフランシスコ、ニューヨークのタワレコを覗いてきたことがあるのだが、確かに店の中は閑散していて、カントリージャズのCDをゆっくり選んでいる中年層の姿しか見かけなかった。敷地面積が元々でかいのでそういうものかと思っていたけれど、これはけっしてタワーだけの話じゃなく、専門店の存在自体が篩いにかけられているということなのだな。日経BPの記事によると、タワー倒産の主因ではないかと思っていたiTMSなどの音楽配信の売上比率は、それでもわずか10%。直接の原因となったのは、ウォールマートなどのディスカウント店でのCD販売普及のためで、それが実に売り上げの40%を占めているらしい。自由価格の国アメリカでは、ロット数の大小で単価が決まってしまうために、オーダー数が多ければ多いほど安く販売できる。店舗分布や規模からいっても、ディスカウント店からの発注数は専門店の比ではなく、新譜のアルバムの新品が10ドル近くの価格差となって表れることもあるという。それがアメリカ国民にとって「CDはディスカウント店で買うもの」という新しい消費行動に向かわせたという説もあるのだ。

 日本は再販制度のおかげで定価販売が死守されているから、アメリカのような危機に専門店がおののくことはないだろう。しかし、やがて日本のコンビニもCDを本格販売するのは世の趨勢として必至だろうから、それが実現したときに専門店がどれだけアドヴァンスを打ち出せるか。昨年末、東京に初のビデオレンタルコーナーを設けたローソンがオープン。今夏からは薬事法の改正で、薬剤師が不在でもそれに準ずる資格を保持すればコンビニ医薬品(一部)を売ることができる。いずれもウォールマート>タワーのような専門店以上の魅力を打ち出すことはまだないだろうが、「弁当を買いに来たついでに、切れていた置き薬を補充しとこう」なんていう行動パターンは大いにあり得そう。実際、私のいる出版業界でも、東販経由で下ろすコンビニ販売のチャンネルは実に大きく、書籍では100%、雑誌でも80%をコンビニにのみに配本するという「コンビニ向け商品」もたくさんある。「弁当代+お茶代+ながら読みできる雑誌代=1000円ポッキリ」なんていう、価格設定の算出法もあるぐらい。ここに、コンビニレコード会社の共同開発で、「弁当代+お茶代+ながら聴きできるCD代=1000円」なんていう廉価音楽ソフトが登場してきたら、我々出版界の人間は一発で食いっぱぐれてしまう。コンビニが自社で開発すれば(つまり、半強制的に販売数を決められれば)、新譜アルバム1枚1000円以下という実現性もないわけではない。CDは本のようにハードコストがかからないから、もともと大量生産に向いているという意味でコンビニ向けなのだ(書籍の場合は、紙代などの原材料費が平均で定価の2/3〜半分を占める。CD代のほうは、金がかかるのはブックレットぐらいで、盤自体の原価コストは数円もかからない。ただしいずれも、返品商品の廃棄には、産業廃棄物なので別途に特別経費が計上される)。

 今でもコンビニでは、すでにブロックバスター作品や1500円価格帯の映画やアイドルもののDVD、一部CDなどを扱ってはいる。もっと早い時期から商品拡充すればと私などは思っていたが、これは日本のコンビニ一店舗あたりの敷地面積の限界があるために、早々に対応できるような問題ではないのだろう。実は今から20年以上前、私が広告業界にいたころに、イトーヨーカ堂が系列のコンビニで日本で初めて、テスト的にCDを置いた調査結果という記事を読んだことがある。メディアレコードからCDに変わり始めた時期で、コンビニも新聞は扱っていても雑誌の数もわずかで、まだ24時間の店が珍しかった時代の話。新規商品開拓の名目でCDを置いてみたものの、ほとんど売り上げはゼロに近かったため、「コンビニ商品としてCDは向かない」という結論がその時に出されて、しばらく10年近くコンビニにCDが置かれることはなかった。これはおそらく、試験販売のために最優先タイトルとして選ばれた松田聖子などのアイドルCDと、「コンビニで生活品を買う」という様式のあらかなミスマッチのためだと思った。昔やっていたコンビニのCMで、「深夜、いなりずしが食べたくなっても、行けば必ずあるセブンイレブン」というコピーを覚えている人もいるだろう。昼間の食生活とは微妙に異なり、深夜、ふと無性に食べたくなるものというのは、そういう“いなりずし”みたいな珍味だったりするものなのだ。私もジャズを聴き始めた直接の原因は、仕事が忙しくて深夜帰宅が多い生活の中で、寝る前に聴くのにベターなBGMを補充したいなあというところから、必要に迫られて勉強し始めてハマったというところがある。現代人の生活様式を考えれば、この“いなりずし”に相当するものこそが、コンビニで扱うべきCDの王道になるのだろう。すると当然、浜崎あゆみなどのヒット曲よりも、ジャズやニュー・エイジあたりが、手っ取り早いという話に落ち着きそうだな。

 テレビの世界では現在、夜11時以降の時間帯は「第二プライム」と呼ばれていて、CMなどの放送料金も昔よりずっと高騰している。というのも、夜7〜11時というこれまでのプライムタイムなんて、普通の社会人は家にいることが少ないから、ここにCMを打っても、だれもテレビを観ていないので訴求力がほとんどないからである。エイベックス設立時はまだ深夜帯がいまより安かったと思うので、この裏通りに集中的にスポットを打ったのは大正解だったのだ。

 勤め人でありながらほとんどヤクザな生活を送っている私は、以前、深夜突然に目が覚めて眠れない時などに、自転車で片道50分ぐらいの時間をかけて、六本木にある24時間営業の青山ブックセンターに買い出しに出かけることがよくあった。昼間はあれだけ客がいる店内に、自分を含むわずかな人間しかおらず、伸び伸びと立ち読みできることの快感といったら(当時、自宅にクーラーがなかったから涼み目的もあった)。元々人混みの嫌いな私は、ベストセラー平積み本をわざわざ昼間の混雑時に覗くことも少ないから、案外、そんな深夜時間帯にこそ、堂々とベストセラー研究にいそしんだりできる部分もあった。京王新線の新宿から一つ目の駅である初台にずっと住んでいるから、周辺の主要な商圏にどこでも自分の足で行くことができるのが自慢。渋谷、新宿なら、急げば10分で着ける。昔、HMVタワーレコードがまだ夜8時までしかやってなかったころ、なぜか日曜日の7時30分ぐらいになると、きまって突然聴きたいCDが出てきた時があったりして、それでも自転車で急いで行けば、閉店間際にギリギリ飛び込んでお目当てのものを入手できるという生活を、満悦していたこともあった(アホですいませぬ)。そんな時、突然欲しくなるCDというのも、なぜか「いつでも買えるので、次回にしとこ」というような、“いなりずし”みたいな微妙なラインナップだったと思う(笑)。元ピチカート・ファイヴ小西康陽氏が以前、アップルiTMSの切り札として挙げられていた「音楽配信によって、廃盤がなくなる」というセールスポイントを見て、「廃盤がなくなると、人は音楽(ソフト)を買わなくなるのでは?」と批評していたが、けだし名言だと思う。そういう深夜や閉店間際の急き立てられている生活の歪みの中で、「非日常」的行為である「CDを買う」なんていう様式が成り立っていると、私自身を見てもそう思う。野戦病院で負傷兵が死ぬ直前、射精して子孫を残すべく愚息がおっ立つという“疲れマラ”の伝説があるけれど、まあ、あれみたいなものかな(違うか……笑)。

 薬事法改正による規制緩和で、深夜帯の医薬品販売がオープンになったとは言え、マツモトキヨシなどの専門店が時間延長することはあっても、まだコスト的に見合わないため「コンビニ医薬品通常扱い」というわけにはいかないようだ。しかし、ウチから自転車で10分の距離にある歌舞伎町のドン・キホーテなど、家電コーナーもCD売り場も、早朝の5時あたりになっても客でいっぱいである。そういうヤクザな人間が増えているということなのだろうが、それ以外でも、ひきこもり系の人が深夜に店に繰り出す夜行型行動様式もあるらしい。だから、敷地面積を広げたメガコンビニのような24時間ショップが登場すれば、それが都市部に於いては、音楽ソフトの消費傾向を変えるほどの影響を及ぼすことは必至だと思う。「わざわざお店に行かなくても済む」がウリのiTMSにとっても、わずか数メートル先の散歩エリアにある深夜コンビニがCD販売を始めたら、けっこう強敵になるだろう。その普及までの間、深夜の“いなりずし理論”の受け皿として、「人は夜中にどんな音楽を聞きたがるか?」の行動様式をアップルには探求していただきたいと思う。おそらく、今後の音楽業界にとって、その夜間の消費傾向こそがテレビの「第二プライム」のような伸びしろなのだと思うから。そうなると、CDの価格も、深夜の人間の行動様式に併せて「コンドーム代+セックスのBGM代=1000円ポッキリ」みたいな世界になっていくんだろうな。