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2007-04-14

[]大坪ケムタ『世界が100人のAV女優だったら』(扶桑社

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 またまた、久しぶりの更新です。本当にごめんなさい。このところ、本業の追い込みと実家のゴタゴタで時間が取れず、更新する機会を逸してしまいました。その間も訪問いただいた方々がいらしたようで、ご期待に添えなくて申しわけありませぬ。まだ多忙中におりますが、ちょっと宣伝がありまして、久々に書き込ませていただきます。

(以下は、いつものであるだ口調で失礼します)

 今回は知人が今月出す書籍を紹介する。カリスマAV女優森下くるみ嬢の表紙が目印の新刊、『世界が100人のAV女優だったら』扶桑社/1365円/4月20日発売)である。編著者は、週刊誌時代からよくいっしょに仕事をしているAVライターの俊英、大坪ケムタ氏。同じく友人でライターの安田理央氏(ナゴムからも作品をリリースしているテクノポップバンド、モデル・プランツのヴォーカルとしても活動中)の事務所のスタッフとして、彼と初めて出会ったのはもう10年も前のこと。地元、佐賀県でコピーライターをやりながらネットでAVレビューを書いていたところ、安田氏の目に止まり、上京して事務所のスタッフとなってからは、『ビデオメイトDX』(コアマガジン)、『オレンジ通信』(東京三世社)、『ビデオボーイ』(ジーオーティー)などで健筆を振るっている。ディープなAVファンには、ALL ABOUTの「アダルトビデオ」カテゴリのナビゲーターとしてもおなじみか。本書は彼の初の、書き下ろし単行本である。

 週刊誌時代から好きが高じてアダルト記事をよく企画していた小生だが、84年から編集者をやっているので、AVやエロ本文化については、黎明期から現在までの流れをリアルタイムでよく知っている。『宝島』時代に読売新聞の朝刊で宮沢りえの『サンタフェ』の全十二段広告を見たときには驚いたよな。思えばあれが、事実上の日本のヘア解禁の扉を開いてしまったわけで。編集者なりたてのころのまだゲリラな商売だったAVが、今や数十億を稼ぐ巨大な市場に成長していることには感慨深いものがある。いやホント、『momoco』時代に外回りでメーカーに足繁く通っていたころは、原田宗典の『十九、二十歳』で描かれているビニ本出版社のようなノリが業界にはまだ残っていた。寺山修司天井桟敷のスタッフだった人が立ち上げた老舗のKUKI作品には、町田町蔵(康)氏や大槻ケンヂ氏、人生にいた石野卓球氏らが出演していたり、中野D児監督がローリング・ストーンズ海賊版コレクターとして『宝島』文化とAV文化をつないでいたり、ザッパなんてレーベルがあったり。行く先々で濃ゆいスタッフの人に出会い、多大な影響を受けた私だ。ああ、懐かしい……。すでに主戦力のエロ本関係は別会社に引き取られていたとはいえ、先日の英知出版の倒産劇には考えさせられるものがあったし。現在も版元名が変わって継続しているはずの、ライバル誌だった『ウレッコ』も、ミリオン出版時代は「エロ本界のロッキング・オン」を標榜していたのが懐かしい。フランク・ザッパが亡くなった月には、意味もなく表紙に「フォーエヴァー・ザッパ!」とか書かれていて、その咆哮ぶりに笑かせてもらった。ケネス・アンガーじゃないが、『ロックンロール・バビロン』流に言わせてもらえば、やんちゃロックの本道は、『ロッキング・オン』編集部なんかより白夜書房、ミリオン出版の編集部のほうにあったと言わせてもらいたい。

 後進にはむしろ、エヴァブームのときに英知出版の『デラべっぴん』が1/3のボリュームでマジメにエヴァンゲリオン特集をやったことが神話として語られていると思うが、その前時代のやんちゃぶりを知っている世代には、それすらそろばんずくのあざとい印象に思えてしまうもの(とは言え、我々の前進の竹熊健太郎氏らがエロ本作っていたころは、もっと益荒男がいっぱいいたと聞くけれど)。まあ、話が大きく脱線してしまったが、そういう時代のサブカル・エロ文化のノリを知っている数少ない友人のAVライターが安田氏や大坪氏で、ロックやインディーズ映画、コメディや出版文化などをマジメに語るのと同次元で、AV女優の世界を調理してみたいという思いが結実したのが、本書なのである。

 AV女優本らしいのは、表紙のくるみ嬢のスナップぐらいなもので、ページ内にはハダカの写真は一切なし。タイトルはご存じのように、有名なベストセラーからのいただきだが、つまり「世界を統計マッピングする」というあの本のコンセプトをAV女優に当てはめたもので、あまり知られていないAV女優の実像をアンケート集計で炙り出してみよう、ということで立案されたものだ。昔、晶文社から出て話題になった、スタッズ・ターケルの『仕事!』『よい戦争』で実践された「統計ノンフィクション」という手法を、アダルト・ヴァージョンとして蘇らせてみたものといえば、少しはカッコがつくかな。実は、AV女優を対象に100人規模でアンケートを取るという企画自体が前代未聞で、業界紙でも前例はないもの。昨年末に150問に項目が及ぶ長大なアンケートを各メーカー、事務所に配布し、断られたり疎まれたりしながらも、必死の思いでかき集めてできた貴重なデータ資料本なのだ。エロ本のインタビューではおなじみの、「エッチは好き?」「初体験は?」といったお約束も押さえてはいるが、AV専門誌ではタブーとして触れない話題である「1本の出演ギャラは?」「豊胸している?」などの質問にも果敢に挑戦。参考までに主な設問をピックアップすると、「OLなどの他の仕事と兼業していますか?」に、なんと59%がイエス!? 「飯島愛PLATONIC SEX』を読んだことがある?」には54%の人が読んだことあると答えている。して、その理由はなんと!? ……そんな各設問の回答をグラフ化し、編著者の大坪氏がプロファイラーよろしく分析を試みながら、著名AV監督である二村ヒトシ氏が業界からの視点でシャープなアンカーコメントで締めるという、かなりコンセプチュアルなAV女優研究本なのだ。永沢光雄AV女優』、中村淳彦『名前のない女たち』などの過去のAV本のヒットにあやかった企画であるが、一切ウエットな話題をカットしたのが新機軸。見えない現代女性の性意識を知るための一冊として、“日本版キンゼイリポート”のように読んでいただければと思う。

 先日、大坪氏に会ったばかりなので、発刊の辞を本人からいただいた。

「過去のAV女優本では、不幸な幼少体験などが語られることで、読者の共感を得ていた。でも、それは『なぜ彼女たちはハダカの仕事を選んだのか?』という、男には永遠にナゾな女性心理を理解するための、勝手な解釈でもあるわけですよ。特別な体験を経てきたことを確認して、社会的モラルの世界の“異物”としてのAV女優という存在に納得できるわけです。ところが、撮影などで実際に会う女優たちが、皆不幸な逆境の中で、AVの仕事を選んでいるかといえばそうじゃない。本当に両親の愛情を受けてすくすくと育てられた、天真爛漫な性格の子もいたりするんですよ。そこら辺にいるOLや女子大生と比べて、AV女優になる子というのが特別な子というわけではない。一般人よりもセックスが好きかと言えば、まったく逆の場合もある。日本にはキンゼイレポートのようなものが存在しないので、一般女性と比較はできませんが、“性のプロフェッショナル”の人たちの統計ではなく、これをそのまま現代女性の性意識として読み替えることは可能だと思いますね。つまり、女性なら誰でもAV女優になる、資質や可能性はあると思う」

 過去にAV女優時代があったことを告白した、タレントの飯島愛が書いた半自伝『PLATONIC SEX』は累計で200万部を売るベストセラーになり、映画、ドラマになって好評を得た。この本の校了中に、あの突然の飯島愛引退の報を聞き、奇妙な符合を感じたものだ。引退特番のハイライトだった『金スマ』の引退特番が視聴率22%を記録し、いかに世間が彼女の生き方に興味を抱いていたのかを痛感させられた。「辛口コメンテーターは表の顔で、実は弱い存在の私」と語っていた飯島愛の生き方は、本書に登場する多くのAV女優たちとも共通するものでもある。本書で垣間見れる「その他の飯島愛たち」の声を聞けば、『PLATONIC SEX』の物語も、より深く感じることができるだろろう。

 そして本書の集計を読んで驚くのは、毎月単体だけでも新人が40人単位でデビューするという現状だ。そこには、女性向け高額アルバイト求人誌やインターネット、携帯サイトの募集告知を見て、自らが志願してこの世界に入ってくるAV女優がいかに増えたかを物語っている。大坪氏曰く、

「高額バイトの定番と言えば風俗や水商売ですけど、主役はお客だし、やることは基本的にルーティンですよね。キャリアを積むほど稼げる、いかにもプロって感じの仕事だし。AVは同じハダカの商売でも、自分が作品の主役の身分だし、『有名な加藤鷹さんに会ってみたい』というような好奇心を満たすものでもあるわけです。あまりに遠すぎるからこそ、水商売や風俗より選択肢として身近に感じられるのかもしれないみたいですね」

 女性たちが能動的にAV仕事を選ぶという時代の流れは、昨今のAV女優ブログの隆盛にも関係している。以前からAV女優本は数多く存在していたが、それはAVライター、監督などの男性スタッフからみたAV界の一面。すでに四半世紀以上の歴史がありながら、ほとんど男目線でしか語られてこなかったAV界の実像を、初めて女性(女優)が発信するカタチで語られるようになったのが、AV女優ブログなのだ。実際はお金のかからないPR手段として、いわれるがまま事務所にお膳だてされたものがほとんどなのだろうが、そんな中には、ゴーストライターには書けない、ユニークなリテラシーを発揮しているものも多い。携帯から更新される日記の、壊れた日本語センスもご愛敬。「実はマネジャーが代筆しているものも多い」なんていう一般アイドル系のブログより、本人が書いている率が高いというのも知られるところだ。オタク気質の強い女優が多いのも特徴で、本書でも「好きな音楽は?」「好きな映画監督は?」といったカルチャー教養を測る設問で、キング・クリムゾンキリング・ジョーク森田童子ダルデンヌ兄弟なんていう名前がゾロゾロ出てくるのに驚嘆する。

 これは小生が聞いた、ある無名AV女優ブログのエピソード。「普段、私の仕事のことで心配をかけているお父さんに、父の日のプレゼントを贈りたいんだけど、ネクタイだったらどんな柄がいいだろうね」と来訪者に問いかける、親をねぎらう書き込みがあった。それは、親不孝と知りつつも、この仕事を選んでしまったことを思っての、本人にとっての罪滅ぼしというか、ささやかなつぶやき程度のものだろう。巷のAV女優本のように、ドラマティックに劇的にドラマを盛り上げなくても、そんな小さいコメントに、ほっこりできる一場面もあるのだ。

 ちなみに、本書では初めて、事務所やメーカーにご理解いただき、誰もが以前から気になっていた「AV女優の出演ギャラ」ほか、お金にまつわる謎の検証も試みている。そのために、やむなく「イニシャルでの回答も可」としたものもある。そのおかげでリアルな数字の裏付けを得ることに成功したが、このイニシャル回答者の中には、誰もが知っている有名女優もズラリと並んでいる。担当者としては、本書の最大のウリでもある、大物女優の参加を謳えないのが歯痒いばかり。しかし一方で、「好きなミュージシャン」「AV女優として主張したいこと」などの設問を、自らの名前できちんと表明したいという希望から、実名で答えていただいた大物女優もたくさんいる。こちらのほうは残念ながら「出演ギャラ」などの設問には「無回答」。しかしそれはそれで、それなりの意味を持つものだと大坪氏は語る。

「無回答という中にも、真実が隠されているんです。そこを、冒険的に解釈してみることで、ある程度それぞれの設問の回答になっていると思いますよ」

 普段AVを見ない、興味ないという人でも、面白く読んでもらえる一冊。このジャンルの入門編として、今がホットな人気AV女優ブログの紹介記事や、3大トップ女優である、森下くるみ嬢、南波杏嬢、麻美ゆま嬢の撮り下ろしインタビューも収録されている。話のネタには事欠かない一冊であるので、ぜひお手にとってやっていただきたい。


 最後にネタばらしすると、こうして小生が長々と紹介文を書かせていただいたのは、本書の編集を担当しているから(←ぎゃふん)。でも、当ブログを面白がって読んでいただいている方ならば、AVの知識がなくても楽しめると思うので、是非ご一読くださいませ。また、マスコミの方、書評ブロガーの方々で「ぜひ読んで見たい」という方がいらしたら、版元に電話、または当ブログのメールに問い合わせいただければ幸いである。4月23日には、新宿歌舞伎町ロフトプラスワンの大坪氏のレギュラーイベントでも会場で販売予定。担当者である小生も売り子として参加するのでヨロ!