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過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

TPOの前身グループ、プロジェクト・グリーンの幻のアルバム『GREEN』初公開!

GREEN

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 昨年末から水面下で監修を進めていた、今年2月に発売されたTPOの唯一のアルバム『TPO1』(ブリッジ)は、復刻の首謀者だったワタシやメンバーが想定もしていなかった「amazonインディーチャート2位」という記録を樹立し、一時は品切れ店が続出。「インストゥルメンタル・アルバム」というと渋い反応しか返してこない復刻会社(サブライセンス・メーカー)が多い中で、東芝時代のロジック・システムを筆頭に渋いインストものの復刻に注力してきたブリッジにとっても、意外なヒットには嬉しい悲鳴だったようだ。自然消滅のようなカタチで解散したグループなだけに、最初はメンバー同士で探り探りのところもあったと思うが、最終的にメンバー全員がライナーノーツに参加する、理想的な復刻が実現。また、それを聞いた新世代のクリエイターから新しい仕事のオファーがもたらされたりと、「TPO神話、21世紀に再始動」といった感じの盛り上がりを見せている。リリースの翌3月には、同じくワタシが監修者として関わっているフィルムスとの合同イベントを、不肖ワタシの司会で渋谷タワーレコード7Fにて開催。『ミスプリント』が3度目のCD復刻というハンディもあって、セールス的には後手に回った感のあるフィルムス陣営も、いい意味でTPOのセールスに刺激された格好となり、現在、春リリースを目指して、思わず膝を叩いてしまうカッコイイ秘蔵音源集を鋭意制作中である。こちらも期待して待たれよ。
 さて、『TPO1』のヒットの追い風もあって、3月のイベントの際に、続く2アイテムのリリース告知チラシを配布させていただいたのだが、実は『TPO1』リイシューの準備段階ですでに、ディレクター氏はこの膨大な音楽遺産に圧倒されることしきりで、「『TPO1』が売れても売れなくても次も出します」と内々に宣言して、発売前からこっそりTPOの次のアイテム復刻のためのネゴシエーションを進めていたのである。「次に出るなら当然アレ」「アレも出たら嬉しいなあ」というTPO名義のアルバムは当然のこと、「え? 権利的に出せるの?」なんていうビックリの隠し球も用意されてたりするので、こちらは随時、発売元ブリッジのホームページをチェックしてみてほしい。
 ところで、『TPO1』のためのボーナストラック用未発表テープを探索した結果、ボーナスディスクを付けた2枚組になるほどの膨大な未発表音源(24チャンのマルチで録られたものも多し)が倉庫から見つかったわけだが、そんな中でもっともワタシをいたく感動させたのは、プロジェクト・グリーンのフル・アルバム『GREEN』の音源であった。プロジェクト・グリーンとは、TPOの前身に当たるグループで、TPOと同じく片柳譲陽=本間柑治をリーダー格(プロデューサー)に、作編曲を天野正道、プログラミングを安西史孝が担当した幻のユニット。以前、キングレコードユーロロック・コレクションの安西氏のライナーノーツのクレジットで見かけたり、実際にこの名義で編曲をやった、つのだ☆ひろ「メリー・ジェーン82」のレコードを持ってはいたが、このユニットのフル・アルバムが作られていたことは、すれっからしファンのワタシでさえ知らなかった。このアルバムは、拙著『電子音楽 in the (lost) world』でも紹介している、本間柑治の最初のソロ・アルバム『ユー・シー・アイ』(ホンマエキスプレス名義)が出た翌年に、セカンド・アルバム『ホンマ・エキスプレス2/Turkey Shot』と同時発売を予定して作られていた「本間柑治のプロデュース作品」。『Turkey Shot』は一部チック・コリアのスタジオで録られたLA録音作品で、こちらもドナルド・フェイゲンを彷彿させるアーバンな傑作打ち込みジャズ・アルバムとして完成したが、プロジェクト・グリーンのほうは本間プロデュースの下、天野・安西という若手2人を招いたイントロデュース盤として企画されたものである。本間氏がベーシストであることも含め、プロデュースに徹して若手2人を全面に押し出して作られた“テクノ・ラウンジ・アルバム”というプロフィールは、まるでファースト・アルバムのころのYMOのよう。内容も、アナログ・シンセサイザーをメイン機材に、ジャズ編曲を駆使したポスト・モダンな仕上がりで、特にフュージョン時代のYMOを愛する我々のようなロートルテクノ世代なら、内容を聴いてノックアウトされるんじゃなかろうか。ところが、こうして完成したこの2枚の傑作アルバムは、所属していたトリオレコードの事業縮小によって発売中止となり、21世紀になるまで、ずっと未発表のまま倉庫の奥に眠っていたというわけである。
 『TPO1』のライナーノーツにあるように、あのアルバムは当初、別の選曲で構成が作られていたのだが、会議の席で「インパクトが足りない」とレコード会社に判断された末に、半分の曲を差し替えて『TPO1』として完成したという顛末を辿っている。この会議にかけられた最初の選曲というのが、「The Jet Set」、「Safari Bar」などの片柳(=本間)曲を軸にとったラウンジ風の構成で、言うなれば『GREEN』のテクノ・ラウンジ路線がそのまま、レコード会社を移しての初期の『TPO1』の雛形になっているわけだ。半分はナタリー・コール、ビリー・ホリディなどのインスト・カヴァーだが、81年の時点で、ロジャニコのカヴァーが渋谷系の教典となっている、ルビー&ザ・ロマンティクス「萌ゆる初恋(アワ・ディ・ウィル・カム)」を取り上げているのがなんとも新機軸。なにしろ、編曲のモート・ガーソンと言えば、後にシンセサイザー奏者に鞍替えする、TPOのおじいさんみたいなもんだからね。また、編曲を依頼してあがったスコアを見て、天野氏の作曲能力を見抜いたプロデューサーの本間氏は、残りの半分の曲を天野氏に作曲してもらう構成に路線変更。その大英断が、このアルバムの復刻価値を上げている。今では劇音楽家の大御所となってしまった天野氏の、20代前半に書き下ろしたもっとも初期の作曲作品が聴けるのは、天野ファンにとっても目玉だろう。また、フィルムス『ミスプリント』で、プロのプログラマーはだしのMC-8ワザを披露していた本間氏が、本作であえて安西氏にプログラミングを全権委任しているのは、その高い技術力を買ってのこと。MIDI規格が生まれる以前に、アナログ・シンセサイザーとMC-8だけで、これほどのヒューマンなシンセ・サウンドを構築していたことには驚ろかされる(これは安西氏がプログラマーとしては珍しい、ヴァイオリニストとしての教育を受けていたことなども影響している)。また、おそらくクレプスキュールなどの80年代当初の“ポスト・モダン・インスト”の影響を受けてのことだろうが、本作は24チャンネルのレコーダーを本間氏のプライベート・スペースに持ち込んで録音。当時はまだ、海外のポスト・モダン組の影響を受けても、それを既存のスタジオで再現していたミュージシャンが多かった中で、今日のホーム・レコーディングのような環境で本作を仕上げたことの意味は大きい。YMOファンの間でも人気の高い、テストパターン『アプレミディ』あたりを彷彿とさせるサウンドになっているのは、「プロ環境からの離脱」こそが、こうしたサウンド作りの要であることを理解していた、本間氏の慧眼があってのことだろう。
 詳しくは今後、TPOの公式ページに情報がアップされるだろうから、そちらを参照いただければ幸いである。今回もまた、小生の長〜いライナーノーツを寄せているので、ご興味のある方はぜひ手にとってやっていただければ有り難い。翌月には、TPOの正式なセカンド・アルバムである『TPO・ミーツ・リンダ・マスターズ/LINDA』も復刻される予定で(こちらは事情があって、ワタシは不参加ですが)、今後のTPO関連リリースにも目が離せませぬぞ。




 ここの読者で「TPOって何?」という方がおられましたら、メンバーの安西史孝氏の自作によるYouTube用のPVをぜひご覧アレ。



 『TPO1』の主な曲はここで聴けます(こちらもPR用のオフィシャル映像)。