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2009-07-15

[]ハンマー・レーベル復活第一弾!『file under:ORDINARY MUSIC』(ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション)


 通な洋楽ファンならご記憶のことだろう、90年代に渋谷発の個性派レーベルとして知られた「ハンマー・レーベル」。HMV、タワーなどの外資系大型CD店が情報先取りで競っていた、iTsどころかインターネットもまだなかった時代に支持された、あの伝説のレーベルが長い沈黙を経て今世紀に復活。今年9月に、新生第1弾のオムニバスCD『file under:ORDINARY MUSIC』(ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション)をリリースすることになった。

 拙著『電子音楽 in JAPAN』にも登場している、日本の機材レンタル大手のはしり「レオ・ミュージック」の項でも触れている、黎明期シンセサイザープログラマーの一人、森達彦氏が主催する同レーベル。レオ・ミュージック在籍時代に、松武秀樹氏らの次世代のプログラマーとしてキャリアを開始。ムーンライダーズアマチュア・アカデミー』への参加を契機に、同事務所に乞われて系列会社として森氏が立ち上げたのが、母体となるプログラマー集団「ハンマー」であった。80年代のムーンライダーズエレクトロニクス面を支えた土岐幸男氏をはじめ、数々の若手プログラマーを世に送った名門だが、その活躍の場はテクノポップ、ロックにとどまらず、ニュー・ミュージック、アイドル歌謡曲まで広範囲にわたり、80年代の日本の打ち込み音楽シーン全体に、同社は質的貢献を果たした。小生が監修した『テクノ歌謡アルティメット・コレクション1』でもおなじみ、高見知佳くちびるヌード」をはじめとする清水信之アレンジ作品の、森氏のプロフィット5の音作りはもやは神の領域。以前ここでも再三取り上げさせていただいた女性編曲家山川恵津子氏とのタッグによる、おニャン子クラブ新田恵利真璃子などの仕事では、トニー・マンスフィールドスウィング・アウト・シスターXTCといった通好みの洋楽サウンドのエッセンスを取り入れて、ちょっと驚くような技巧的なアレンジを聴かせている。鈴木慶一白井良明ライダーズのメンバーの歌謡曲参加作品はもちろん、萩田光雄鷺巣詩郎といった、打ち込みサウンドに長けた編曲家とのコラボも多い森氏。その足跡は、まさに「テクノ歌謡の生き字引」と言っていいだろう。Perfumeの初期シングルあたりが大好きなファンならば、そこにいたる80〜90年代ポップス変遷史の重要な仕事を発見できると思うし、ブレイク中の菅野よう子が手掛けるポップス仕事のルーツ的作品として、80年代の山川恵津子×森達彦作品は今こそ聴かれるべきだとワタシは主張する(このあたり、今月末発売予定の『ユリイカ8月号・菅野よう子』でもびっしり長文書いてますんで、よろしくです)。

 実を言えば、おニャン子クラブのアルバムなどで聴ける、異常なほどのトニー・マンスフィールド度数、テレックス度数の高さはプログラマーの森氏が持ち込んだもので、ご本人はかなりのマニアックな洋楽通。ロック、プログレ系はいわずもがなだが、特に80年代のUKポップのサウンド研究を語らせれば、右に出るプログラマーはいないはず。生涯初のライヴを実現させたデイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキンの86年の日本公演も、機材周りをセッティングしたのは森氏らハンマーの面々。ここが90年代にCDレーベルとして立ち上げた「ハンマー・レーベル」では、まだ自国でしか活躍していなかったデンマークのギャングウェイの名作カタログをいち早く紹介して話題を呼んだ。ギャングウェイとの縁はその後、BMGビクターに引き継がれるまで続くが、プロデューサーのデヴィッド・モーション(ストロベリー・スイッチブレイドレッド・ボックスプロデューサー)から信頼を得ることとなり、日本側マネジメントを担当。チャラ、高見沢俊彦、高島政宏、本間哲子(プラチナ・キット)といった、デヴィッドが手掛けた日本人作品で、重要なコーディネート役を果たしている。とにかく森氏が手掛けた音を聴けばトニマンへの傾倒は一目瞭然なのだが、レーベルマークもデペッシュ・モード『コンストラクション・タイム・アゲイン』からの拝借。果たせなかったものの、ギャングウェイに続くハンマー・レーベルの次回作には、ドイツのフライハイトを計画していたというほど、わかってらっしゃる御仁なのだ。

 ハンマーの業務は機材レンタルとプログラマー派遣、「ハンマー・レーベル」のCD制作がメインだったが、事務所内にスタジオ(NOA渋谷501スタジオ)を構え、“湾岸スタジオ”とは別のライダーズ関係のデモ制作の拠点としても機能していた。森氏がプログラマーから、エンジニア業をメインに鞍替えされたのは90年代初頭だったか。場所は、昔タワーレコードが入っていた、宇田川町のノア渋谷。もともとムーンライダーズ・オフィスが入っていた場所に居を構えたハンマーは、カジヒデキ氏がバイトしていたことで有名なレコード店、ZESTと並びのフロアにあった。後にここは、『BARFOUT!』編集部が間借りして占拠するようになり、ZESTで店番をよくやっていた元『フールズ・メイト』のライター、瀧見憲司氏が「クルーエル・レーベル」を立ち上げる際にも、技術面で同社がバックアップしている。インディーズでありながら10万枚セールのヒットとなったラブタンバリンズカヒミ・カリィ「Mike Always Diary」などは、初期の森氏のミックス作品。後に「エスカレーターレコーズ」へと発展するトランペット・トランペット・レーベルの諸作品も森氏が手掛けるに至り、“渋谷系”というジャンルの生起の時期においても、重要な役割を果たしている。

 ここのスタジオが閉鎖されるタイミングで、スタッフの記念として制作したのが初の日本人アーティストVA『Studio Lab./FLOCKS V.A.』(ハンマー)。ブリッジの池水真由美、大友真美元、パレードの木戸功、津崎博昭、平見文生、トラットリアからソロも出しているyoshie(はにわちゃん、オリジナル・ラヴ)、上田ケンジ(Pillows)、大橋伸行(ブリッジ、PATE)、宮川弾(ラブタンバリンズ)、阿久津達也(SHEEN)といったスタジオゆかりのメンバーが、新録曲や未発表曲を提供していた。この中でギャングウェイ「TWO STORIES」のカヴァーを取り上げていたのが、森氏のグループ「u.l.t.」(宇田川ローカルエリア・トライアングルだったかな?)。“渋谷系”というジャンル名は、当時オリジナル・ラヴコーネリアスの事務所が渋谷区にあったことから付いた名前だが、ブームに当て込んでビジネス参入してきた他エリア組によってシーンも拡散し、やがて「渋谷の空気」とはかけ離れていく。そんな中、オリジネイターたちが、ZEST、クルーエルがあった魔の三角地帯を“宇田川系”と呼んだのがグループ名の由来。当時は彼らを「渋谷系コアのエリート集団」と恐れていた人も多かったらしい(笑)。

 雑誌『BARFOUT!』や、「クルーエル」「トランペット・トランペット」ら新興レーベルのいわば相談役だったわけだが、森氏が果たした重要な役割がもうひとつある。ソフト・ロックなどのメロディー復権を謳ったネオアコ・シーンと、ムーンライダーズ時代に培った打ち込みシーンを繋いだことだ。「ポストYMO」を名乗る打ち込みシーンは、クラフトワーク原理主義やらニューロマやら「つまらないメロディー」にご執心。一方のネオアコ派のほうも、メジャーがトリートメントするような打ち込みサウンドには、どちらかといえば無関心で、当時はほとんど行き来がなかったと記憶する。ギャングウェイやストロベリー・スイッチブレイドのような、ソフト・ロックの影響下にあるメロディーのセンスと、ゾクゾクするようなプログラミングのマジックの混淆は、他の渋谷系エリアや「ポストYMO」の一群からは出てこなかった。いうなれば、それが「ハンマーの専売特許」だったと言っていいかもしれない。

 この2つのシーンに関わっていたワタシは、常に両ジャンルに関心を寄せていたわけだが、“渋谷系”の流れから登場してきたニュー・カマーを見てみても、打ち込みサウンドに習熟していたのは、現在はmicrostarを率いて活動している佐藤清喜氏のいたナイス・ミュージック、元アルファでYENレーベルエンジニアを担当していた寺田康彦氏の薫陶を受けたスパイラル・ライフ(後期及び、スクーデリア・エレクトロ)ぐらいか。その後、コーネリアスシンバルスらがヨーロッパエレクトロニカの動きに刺激されて打ち込みサウンドに転向し、ストロベリー・スイッチブレイドを規範としたトミー・フェブラリーのブレイクで一つの大きな潮流となる。これが00年代に入り、Perfumeやそのプロデューサー中田ヤスタカ氏のcupsuleらに受け継がれるというのが、90年代から今日に至る「ポスト渋谷系」の大まかな変遷と言っていいだろう。

 たまたま活動時期には縁がなかったらしい元ナイス・ミュージックの佐藤氏と、森氏がその後出会ったというのも運命の導きだろう。佐藤氏のさまざまなサポートを得て完成した、ハンマー・レーベル復活第一弾VA『file under:ORDINARY MUSIC』は、あの時代の遺産を受け継ぐ、タイムカプセルで届けられたような豊穣なメロディー溢れたコンピレーションとなった。前作にも参加しているmarigold leaf、u.l.t.のほか、佐藤氏の現在のグループmicrostar、鈴木智文+中原信夫という元ポータブル・ロックのメンバーに、東芝EMIでソロ・アルバムを出していた女性シンガー岡崎葉が合体したmarble fudge、元詩人の血の辻睦詞、元Shi-Shonen、フェアチャイルド戸田誠司書き下ろし新曲などが収録されている。メンバーを見て「さぞやエレクトロな内容に」と思いきや、全曲アコースティック・フレーヴァー漂う風通しのよさで、それを支えている緻密なテクノロジーを通して見れば、「これこそが深化したハンマー・レーベル」と言うべき内容になっている。

 そして話題はもうひとつ、のわんとワタシが生まれて初めて本盤のジャケット・デザインを担当(!)。ネオアコと打ち込み音楽の両者に関心を持つライターが少なかった時代から、その融合を一つの理想だと主張していた小生のブログなどの内容を見て、森氏から直々にメールを拝受。昨年末におっかなビックリで始めたセミプロ画業にも興味を示していただき、そこに漂う「音楽愛」を嗅ぎ取って、失敗も辞さない覚悟でデザインを依頼いただいたというのだから頭が下がります。むろん素人域を超えていない部分もありますが、以前も紹介したテレックスアートワークを手掛けるエヴァ・メウレンや、コンパクト・オーガニゼーションのシングルなどに通じる、お洒落でファニーな感じを狙ってみますた。CD店に並ぶと、かなりギョッと目を引くジャケットになった思うので、見かけた際にはぜひ手にとってやっていただきたい。

 すでにオフィシャル・ページに告知が出てはおりますが、リリースは9月と初秋の候。しかし月刊音楽誌などは2カ月前に特集を決めてしまうところもある世界なので、プロデューサーの許可をいただいて、いち早く情報を紹介してみた。ここをご覧になったマスコミ関係者で、もし興味を持っていただける方がおられましたら、すでにサンプル資料もできてますんで、ぜひハンマー・レーベルホームページか、発売元のヴィヴィッド・サウンド・コーポレーションのほうに連絡いただければ幸いである。レーベルホームページでは今後、9月の発売に向けて森氏自身による楽曲解説なども掲載される予定。むろん当ブログのほうも別の切り口で、次回も制作舞台裏の話などを紹介できればと思うので、どうかよろしく。


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せっかくだから表ジャケットの拡大写真も載せてみた。絵柄はアレだが(笑)、マットコート仕上げの高級感ある紙ジャケになる予定。


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こちらは裏ジャケット。


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贅沢にもWジャケット仕様で、これは中ジャケのクレジット部分。エヴァンゲリオンエヴァ・メウレンの折衷みたいな、Wエヴァな不思議なイラストになってしまった。