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雪景色

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2009-07-03-Friday

[]在り続けてほしいもののために、自分ができること

突然だが、Jリーグ清水エスパルスが好きだ。よく試合を観に行くようになったのは1998年ごろ。少ししてから後援会に加入して、以来ずっと後援会員だ。そんなに急激にのめりこんでしまったのか。もちろんとても好きだから入ったのだけれど、理由はそれだけじゃなかった。

エスパルスは、経営母体を持たない市民クラブとして誕生した。けれど97年、当時の運営会社エスラップ・コミュニケーションズの経営が破綻し、消滅の危機に陥ってしまう。それを知り、クラブの存続を強く願った多くの市民、サポーターが署名活動や募金活動を実施し、それに応えるように地元企業が資金援助を行なって、なんとか存続の危機を乗り越え、98年に株式会社エスパルスとして再生した。

そう、わたしがエスパルスの試合を観に行き始めたころというのは、クラブ消滅の危機を乗り越えたばかりの時期で、サポーターはクラブの経営状態に強い関心を寄せており、「また消滅の危機に陥るようなことがあってはいけない」と一人でも多くがスタジアムに足を運ぼうというような、そんな空気がエスパルスサポーターを取り囲んでいるころだった。だから、わたし一人の後援会会費なんて微々たるものではあるけれど、ほんのちょっとでもクラブの足しになるのなら……と、そんな気持ちで後援会に入ったのだった。こんなに楽しませてもらっているエスパルスが、なくなってしまうのは嫌だったから。

* * * * *

昨日、『STUDIO VOICE』休刊のニュースがTwitterを駆けめぐった。それを受けて、内沼晋太郎さんがTumblr.にこんなエントリを上げていた。

「あなたが一冊買えば、その雑誌は続く」

スタジオボイスにしてもエスクァイアにしても、惜しんでいる人はすごく多いんだけどそれが必ずしも買っていた人ばかりではない。「買ってましたか?」ときくと「買ってなかったけど」という人が多い。

エスクァイアのときはそういう人に会うと、内心ちょっとイラっとしながら「惜しむなら買えよ」と思っていたけれど、スタジオボイスがtwitter でこんなに盛り上がってるのをみるとそんな毒を吐いてる場合ではなくて、むしろ存続がヤバイ雑誌が、まだなんとか立て直せるうちに「存続がヤバイ」ということをアピールできるような方法を考えなきゃいけないんじゃないか、と思った。

雑誌は読者コミュニティであるといわれていた。いまはどうかわからない。けれど、少なくともその雑誌に対して一時期お世話になったという気持ちと共にふだんは読んでいないけれど愛着を持っていたり、毎号ある連載だけを熱心に立ち読みしていたりする層がいるとして、その人たちがもし「いまこの雑誌は売り上げ不振で存続がヤバイらしい」ということを知るようになれば、その雑誌や編集部に対して投票するような気持ち、あるいは募金するような気持ちで、「なくなるのは嫌だから、買う」という行動を起こすことだって、ないことはないような気がする。

(後略)

NUMABOOKS

ちょうど同じころ、やはりTumblr.で、こんなエピソードを見かけた。

かつて人形町の末広亭が閉場したとき、閉場を惜しむファンが詰めかけ、「閉めないで!」、「なんで止めちゃうんだ!」の声が上がった。

それを聞いた立川談志師匠は

「てめえらが毎回聞きに来ねえからだよ!」

と怒鳴った。

幽玄会社中山商店 | The Merchant of Venice

そうして先に書いたエスパルスのことを思い出した。

わたし自身、『STUDIO VOICE』休刊の知らせを聞き、「ショック……」と思ったけれど、買ってはいなかった。それは雑誌の一ファンとしてのつぶやきというよりは、出版業界の片隅に身を置くものとしてのつぶやきだったからかもしれない。けれど「なくなって残念」と思うなら、買う。そこにお金を使う。一人ひとりの金額は微々たるものだとしても、「在り続けてほしいものにお金を使おう」という気持ちが広がったら、状況は変わるかもしれない。

雑誌はどんどん書籍的になっているな、と感じる。気軽にパラパラめくるというよりは、じっくり読む、資料として保存される、少なくともわたしのまわりではそういう流れがある。けれど書籍と違うのは定期的に刊行されるということで、特集によって買う買わないがあったとしても、その雑誌の動向が気になり、新たな号が出ると特集テーマを確認するというファンが生まれるということだ。そのことを、作る側としても忘れちゃいけない。

* * * * *

伝統工芸の職人を取材する「職人の哲学」というシリーズをやっていた時、一緒に取材に行ったカメラマンさんが、こんなことを言っていた。

「ぼくが以前、一緒に仕事をしていた編集長は、職人のところに取材に行くと必ずなにかものを買っていた。そのことが、その伝統工芸を守ることにつながるとわかっていたからなんですよね」

わたしに向けて、ではなく、職人さんに対して語った言葉で、いつも取材に行くだけのわたしは、「こういうものに在り続けてほしい」と言いながら、どこか距離を置いて買い物をするわけじゃない自分を恥ずかしく思った。高価で手が出ないことも多い。でも、その言葉を心に刻もうと思った。

「在り続けてほしいものだから、なくなったら嫌だから、お金を使う」

そんなふうに、気持ちのあるお金の使い方をしたいと自戒する。

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