「POSTALCO Wheel Printer」展


クリエイションギャラリーG8で開催中の「POSTALCO Wheel Printer」展を見てきた。

マイク・エーブルソンとエーブルソン友理の両氏が、ニューヨーク・ブルックリンで活動をはじめたデザインオフィスであり、“EQUIPMENT=道具”としてのプロダクトとして、バッグやステーショナリーなどを展開しているブランド「POSTALCO(ポスタルコ)」。東京に拠点を移して11年目の年、マイク氏が展覧会にあわせて新たな印刷機を制作しました。その名は“Wheel Printer”。クルマや自転車の車輪にインクを付けたら、どんな軌跡を描くだろう?交差点で、それがカラフルに交錯したら、どんなにきれいだろう!そんなことから思いついたのが、ウィール(車輪)が回転する印刷機です。構造は、ひとつひとつの輪が廻りながら、ノートや紙にインクを刷るというもの。ストライプ?斜線?三角?予期しなかった格子模様?会場では、その新しく出来たポスタルコのウィールプリンターを展示。実演会を行うと共に、印刷されたものや、その他のプロダクトも展示販売いたします。

POSTALCO Wheel Printer|展覧会・イベント | クリエイションギャラリーG8

マイク・エーブルソン氏がつくった新しい印刷機は、会場の真ん中に、まるで使っている途中のように置かれていた。木材でつくられた、飾ることのない、刷ることだけを目的につくられた印刷機。ぶらさがっているパーツをよく見るとペットボトルの先っぽだったりする。周囲にはアイデアスケッチや、着想のもととなったと思われる資料のコラージュ。機織り機やピアノの鍵盤の絵が貼られていた。プロトタイプも展示されている。


これは実演を見るべきだったと思ったが、会場ではビデオで印刷の様子を見ることもできる。仕上がりを完全に予想することはできない、車輪によって印刷される線は、とてもかわいかった。実際に刷られたノートを購入することもできる。

*ビデオはこちらでも見ることができる。→ Wooden Wheel Printer by Postalco | OEN

会場には、2007年に開発したという「Chance Printer」も展示されていた。こちらは、インクのついたピンポン玉大のボールを上から紙に次々と落とし、偶然ついた模様を図柄にするというもの。インクまみれになった「Chance Printer」そのものが、ひとつのアート作品のような存在感だった。

2つの印刷機や、その周囲にちりばめられたスケッチやメモ、そして作品を見ていると、マイク・エーブルソンがどんなに印刷が好きで、その行為を楽しんでいるのかが伝わってくる。印刷という行為が、紙やノートをこのうえなく魅力的なものにする。「刷る」っていいな、とうれしくなる展示だった。

明日2月16日(木)が最終日。印刷や紙もの好きな方は、ぜひ。

POSTALCO

『デザインのひきだし15』

デザインのひきだし15

デザインのひきだし15

今回も編集に参加しています、『デザインのひきだし15』。ひきだし史上最高のぶあつさと重さ。表紙はレンチキュラーで、角度によって特集1のタイトルが消えてしまいます。

特集1は「自分で印刷・加工を発注しよう!」。印刷加工の発注の仕方から、個人でも購入可能な紙商、本文にも使える価格のすてき色紙の紹介(実物付き)、製本会社の紹介などなど……。私は巻頭のインタビューを中心に編集または執筆を担当しました。インタビューのラインナップは尾原史和さん(スープ・デザイン)、大原健一郎さん(ナイン)、鶴見智博さん(印刷設計)、高田唯さん(オールライト工房)。手軽に本をつくりたいときに活用できる「編集部おすすめ フォトブック10」なんていう企画も。

特集2は「2011年ベスト・ブックデザインはこれだ」。アイデア編集長・室賀清徳さん、デザイン書編集者・宮後優子さん、そしてデザインのひきだし編集長・津田さんセレクト。
特集3は「飛び出す! 動く! 3D印刷A to Z」

今回の担当連載では、「もじ部」でモリサワ文研(モリサワ書体をつくっている会社)を訪問。兵庫県明石市まで行ってまいりました。モリサワ文研の書体デザイナーさんたちに、書体のつくり方や、良い書体の見分け方を聞いています。
名工の肖像」では、書籍に使用されるスピンや花布でおなじみ、伊藤信男商店の二代目社長・伊藤芳雄さんに波瀾万丈の人生をインタビュー。お父上の伊藤信男さんの写真も公開しています。

もじっ子にはうれしい「秀英体101」なんていう新連載もスタート*1。「本づくりの匠たち」では、原料パルプの匂い嗅ぎすぎの名久井直子さんと大島依提亜さんの写真をお楽しみください。

そして今回も付録が充実! 主要製紙メーカーの本文用紙を中心に、パッと紙厚を比較することができる「紙厚比較早見表」(がんばりました…!)、大和板紙スペシャル見本(分厚さの理由!)、赤青メガネ、シンクログラムのメカ犬ハガキ……と、とにかくぎっしり。まずはその分厚さと重さをお確かめください。今週はじめから、徐々に書店に並び始めています。

*1:担当者は私ではありません。

「世界のブックデザイン2010-11」展


印刷博物館で2月19日まで開催中の「世界のブックデザイン2010-11」展を見てきた。会場はP&Pギャラリー。割とコンパクトなスペースだが、そこに日本、ドイツ、オランダ、スイス、中国、カナダ、オーストリアの7カ国の美しい本240冊が並ぶ。瞬く間に3時間弱が過ぎた。気になった本をいくつかメモ。

「オランダの最もすばらしい本コンクール」(出展作品 http://bit.ly/ebn6qg )でまず「すてき!」と思ったのが、『Where Next With Book History?(次世代の書物史とは?)』という本。「就任講義や最終講義など、大学教授が重要な講義をする際には、地味なグレーの表紙の薄い筆記長が配布されるのが常」だそう。『Where Next With Book History?』は、ケンブリッジ大の書物史家デヴィッド・マッキターリックがアムステルダム大に招聘され、書誌学者フレデリック・ミューラーについての講義をすることになるにあたりつくられた筆記帳。

クリーム色の本文用紙の間に二回りほど小さいコート紙を挿入、本の図版がブックインブックのようにはさまれるつくり。本文のアクセントカラーに赤を用い、中綴じの綴じ糸も赤を使っていて、かわいい。解説にあった通り、本好きにはたまらない装丁。デザインはYolanda Huntelaar (Werkplaats Amsterdam) 本文書体はJuliana。

『Intensive Care(集中治療)』という本は、“人が死に直面した時どう向きあうか”というテーマを扱いながら、いや、だからこそなのか、軽やかな装丁。並製本の背がくっついていない(という説明でよいのか)「スイス式製本」で、背を見せた状態のコデックス装になっている。背から見える綴じ糸が赤青ピンクの3色で、とてもかわいい。表紙のタイトルはレーザーカットによる抜き加工。裏から見ると焦げ目がわかる。デザインはMarloes de Laat。

『Where Next With Book History?』の展示キャプション、質感やサイズの違う本文用紙が交互に入っていることを「21世紀初頭の流行」と書かれていたが、確かに、色や質感が異なる紙が数種類入っている本が多かったように感じた。

中国の『姜尋詩詞十九首(共二四)』(姜尋 著、文津出版社、デザイン:煮雨山房)は、“清朝の伝統にならい”木版印刷の手作業で印刷。麻の葉の糸綴じがかわいらしい。文字がとても美しいです。必見。

日本の作品、『一九堂100年社史』(株式会社一九堂印刷所、デザインはHosoyamada Design Office)は、重厚な本をイメージさせるタイトルとは裏腹に、小型の愛らしい本。革紐をほどき、本を開くと、ポップアップ絵本となっていた。街の様子など、細部を思わずじっくり見てしまう。

第45回造本装幀コンクールの文部科学大臣賞、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(デザインは松田行正さん、日向麻梨子さん)は、見るたびその美しさにため息が出る。深い黒の表紙と、三方の小口を染めた青との対比。分厚さの割に、持ち上げると軽やか(本文用紙はアドニスラフ80)。
もうすぐ絶滅するという紙の書物について

ユングの『赤の書』もすごかったな。直筆原稿の美しさ。
赤の書 ―The“Red Book

ほかにも、クロスを表裏逆にしたドイツの本とか、本フランス装をグラシン紙でくるんだ『マラルメ全集』とか、総片観音の『手塚治虫を装丁する展 図録』とか……、ドイツの『地下鉄のザジ』のジャケットをとって現れる表紙はとてもかわいかったし、とにかく見応えたっぷり。手にとってじっくり眺められる貴重な展覧会なので、興味のある方はぜひ。

ある本の展示キャプションに「補強し調和を保ちながら効果を高め合う『本という建築』」という言葉があったけれど、ブックデザインは建築に似ているな、と思いながら眺めた展覧会だった。2月19日まで。



「活字発祥の碑」


中央区築地のビルの一角に「活字発祥の碑」がある。昨日、印刷図書館で調べものをしていた際に、この石碑に関する資料をたまたま見かけたので、メモしておく。

「活字発祥の碑」は昭和46(1971)年5月末に建てられた。石碑建設のきっかけとなったのは、活字発祥の源である東京築地活版製造所の建物が、昭和44(1969)年3月に取り壊されることになったこと。印刷同業組合事務局に永年勤務していた牧治三郎*1が、全日本活字工業会の機関誌『活字界』第21号、第22号*2に東京築地活版製造所の社屋取り壊しの記事を連載し、これが端緒となって、何らかの形で残したいという声が大きくなり、全日本活字工業会総会にて、築地活版製造所跡の記念碑建設が決まったそうだ。

活字の石碑らしく、左右逆字ではないものの、文字部分が凸型に浮き出たかたちとなっている。この文字について、『活字発祥の碑』*3という冊子に記述があった。

 なお、表題である「活字発祥の碑」の文字については、書体は記念すべき築地活版の明朝体を旧書体のまま採用することとしましたが、これは35ポイントの見本帳(昭和11年改訂版)で、岩田母型のご好意によりお借りすることができたものです。
 また、記念碑は高さ80センチ、幅90センチの花崗岩*4で、表題の「活字発祥の碑」の文字は左から右へと横書きとし、碑文は右から左へ縦書きとし、そのレイアウトについては、大谷デザイン研究所・大谷先生の絶大なご協力をいただきました。(P.15)

朗文堂のブログに、「『 活字発祥の碑 』をめぐる諸資料から 機関誌『 印刷界 』と、パンフレット『 活字発祥の碑 』」という詳しい記事も発見。こちらもあわせてメモ。

*「活字発祥の碑」東京都中央区築地1丁目12-1 コンワビル敷地内

*1:1900〜没年不詳

*2:それぞれ昭和44年5月、7月発行

*3:昭和46年6月29日発行。活字発祥の碑建設委員会編纂、発行代表者:渡辺宗助、印刷・製本:今井印刷株式会社、発行者:活字発祥の碑建設委員会(全日本活字工業会内)

*4:かこうがん

途切れると、あっという間に/もじ部

ずいぶん長いあいだ更新していなかったこのブログを、ようやく再開させたはずだったのに、一度途切れたらあっという間に2週間が過ぎていた。ひさびさに書き始めて「常にアウトプットをしているほうが、書くことや考えが浮かびやすい」ことを痛感したばかりだというのに。

今日はいろいろな方と電話で話した。正直なところ、電話はあまり得意ではないのだが、でもやはり「声を聞く」ことは大切だなとしみじみ思う。

* * *

おっと、そうだ。ひとつ告知。
『デザインのひきだし』で私が担当している連載企画「もじ部」にて、モリサワ文研(兵庫県明石市)見学会の参加者を募集しています。応募者多数のため抽選になりますが、10月31日(月)まで受け付けていますので、ご興味のある方はぜひ。モリサワフォントがつくられる流れを見ることができます。
応募方法など、詳しくはこちら↓
次はモリサワ文研! 「もじ部」参加者募集のお知らせ : デザインのひきだし・制作日記

手帳問題。

来年の手帳をどうするか、そろそろ決めたい。昨日すこし見て回ったけれど、決め手にかけて購入に至らず。ここ数年は「ほぼ日手帳」を愛用していたのだけれど、昨年iPhone4を買い、Googleカレンダーを使うようになったら、紙の手帳にはあまり書きこまなくなってしまった。紙手帳が必要な場面はあるので、iPhoneに一本化するつもりはないのだけれど、使用頻度のわりに、ほぼ日手帳は重すぎる。来年はできるだけ薄くて軽い手帳にするつもり。こうして悩むのも、また楽しい。

「言葉のデザイン2010」電子書籍 for iPad


言葉のデザイン2010 オンスクリーン・タイポグラフィを考える」が、電子書籍iPadアプリ)として登場しました。
監修は原研哉さんと永原康史さん、アートディレクションは永原さん。テキストは大城譲司さん、そして私は編集を担当させていただきました。

* * * *

このプロジェクトはTwitterから生まれました。2010年3月3日の深夜、原研哉さんがつぶやいた「web環境における日本のタイポグラフィの品質はなぜよくないのか」という言葉。そこに永原康史さんが反応し、オンスクリーンタイポグラフィについての熱い議論が繰り広げられました。

私はそれを、自宅のPCの前で、リアルタイムで見ていました。「こんな議論が繰り広げられている様子をリアルタイムで見られるなんて、Twitterが登場するまでは考えられなかった」と思いながら、息をのんでいました。

「ではまたどこか良い場所でお話しましょう」そう締めくくられた約3カ月後、「言葉のデザイン2010」の研究会の告知を見たときの興奮は忘れられません。あのときの議論がきっかけで、こうして一つのプロジェクトが誕生しているのだ……と。そこでもまだ私は観客でした。

研究会は全8回開催され、私はできる限り足を運びました。そして途中で、この研究会を電子書籍化するにあたり、編集者として声をかけていただきました。きっかけとなった議論が起きた際も研究会においても観客であった自分が、会場に足を運んでいるうち、制作スタッフとしてたずさわることになった。それも恐らくは、Twitterがなかったらありえなかったのではないかと思います。

この本は、2010年5月28日から2011年6月1日まで、約一年間かけて行われた「言葉のデザイン2010 オンスクリーン・タイポグラフィを考える」全8回の研究会の記録です。研究会講演に用いられたスライドやムービーをふんだんに盛り込み、再録しています。興味をお持ちいただけましたらぜひ、ご購入いただければ幸いです。

監修:永原康史、原 研哉
講演者:山辺真幸、小川裕子(アライアンス・ポート)/廣瀬則仁(物書堂)/鳥海 修(字游工房)/宮崎光弘(AXIS design)/高橋源一郎(作家)/橋本麻里(ライター)/松本弦人(グラフィックデザイナー)/小泉 均(タイポグラファー、グラフィッカー)/岡部 務(NHKデザインセンター)/中村勇吾(tha ltd.)/山田尚郎(日本経済新聞社)/糟谷雅章(毎日新聞社)/竹原大祐(朝日新聞社)/田中良治(セミトランスペアレント・デザイン)/山本太郎アドビ システムズ)/冨田信雄(モリサワ
アートディレクション:永原康史

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