2008-05-18
■人口最大都市が首都ではない国とその理由について
「アメリカの首都は?」「オーストラリアの首都は?」「カナダの首都は?」「スイスの首都は?」といったように、クイズ番組では間違えやすい首都に関する問題がときどき出題されます。これらの国は首都よりも有名な都市を抱えているため、あやふやな知識しか持っていないと間違えやすいのでしょう。さて、これらの都市をよく観察すると首都よりも人口が多いケースが多いことに気がつきます。首都は政治や文化の中心地ですから、当然経済も発展しやすく、たいてい人口最大の都市になるものです。それにも関わらず首都が人口最大都市にならないのにはそれなりの理由があるのでしょう。例えば首都が計画都市として作られたとか、首都が移転したばかりで発達していないとかが考えられます。そこで世界のすべての国の首都と人口最大都市を調べ、両者が別の都市である国について、どうして首都が最大都市ではないのかまとめてみました。
アジア
- 中華人民共和国
- 首都は北京、人口最大都市は上海。イギリスやフランスの租界地に選ばれた上海が、20世紀前半に大きく発展した。中国港湾部の経済中心地として重要な役割を担っている。北京の人口もかなり多いほうだが、上海には及ばない。
- フィリピン
- 首都はマニラ、人口最大都市はケソン。ケソンは首都マニラに隣接している首都圏の町で、近郊都市として発展している。かつて首都として計画された町ということもあり、生活環境が整っている。そのためマニラのベットタウンとしての人気を集め、マニラよりも多くの人が住む町に成長したようだ。
- ベトナム
- 首都はハノイ、人口最大都市はホーチミン。ベトナムは北ベトナムが南ベトナムを吸収合併して生まれた国という歴史的背景がある。そのため、北ベトナムの首都ハノイが統一ベトナムの首都となり、南ベトナムの首都だったサイゴンはホーチミンに改名させられた。それでもホーチミンはベトナム最大の経済都市であることにかわりはなく、特にドイモイ政策以後、国内外から多くの移民を集めているようだ。
- ミャンマー
- 首都はネピドー、人口最大都市はヤンゴン。長らくヤンゴンが政治経済の中心地として発展してきたが、ミャンマー軍事政権が、軍事戦略や民主化運動家対策として遷都した。軍事政権を守るための計画都市であり、一般人の立ち入りが規制されており、最大都市としてのヤンゴンの地位は変わらないだろう。
- スリランカ
- 首都はスリジャワルダナプラコッテ、人口最大都市はコロンボ。政治経済の中心都市だったコロンボから、古代王朝の首都だったコッテへ20世紀後半に遷都した。その際、首都名をスリジャヤワルダナプラコッテに改名している。ただ実際の首都機能はコロンボに残ったままで、政治・経済の中心は現在もコロンボのままである。
- インド
- 首都はニューデリー、人口最大都市はムンバイ。ニューデリーは、カルカッタ(現コルカタ)から遷都する際に、デリー近辺に計画都市として作られた町だ。デリーを吸収合併して拡大しているが内陸部の町ゆえに貿易面での力が弱い。それに対しイギリス東インド会社の拠点として発展したムンバイ(旧ボンベイ)は、イギリスからの独立後にカルカッタを抑えて、南アジアの経済・金融・貿易の中心都市として成長し拡大した。
- アラブ首長国連邦
- 首都はアフダビ、人口最大都市はドバイ。アラブ首長国連邦は、首長(アミール)が治めるいくつかの首長国が合併した連邦国家である。その首長国の中でも豊富な石油資源を背景に政治力を持ったアフダビ首長国の中心都市であるアフダビが首都機能を果たしてきた。ただ近年はドバイ(ドバイ首長国の中心都市)の経済都市としての地位が高まり、国内外から多くの人が集まるようになった。
- パキスタン
- 首都はイスラマバード、人口最大都市はカラチ。1940年代の建国時に、小都市カラチを首都に選定したところ、多くの人が住むようになり、パキスタンの経済の中心地として発展した。イスラマバードは1950年代に遷都して作られた計画都市で、こちらは政治の中心地として発展している。
- カザフスタン
- 首都はアスタナ、人口最大都市はアルマトイ。1997年にアルマトイからアクモリンスクに遷都された際に改名した。遷都後に首都としてふさわしい町にするため、黒川紀章デザインのもとで大規模な都市改造を行った。カザフスタン政府としては、首都アスタナを政治と経済の中心都市とする計画で、現在こそアルマトイが人口最大都市だが、今後アスタナの地位が高まっていくだろう。
ヨーロッパ
- オランダ
- 憲法上の首都で人口最大都市はアムステルダム、実質的な首都はハーグ。憲法上の首都のアムステルダムはオランダ経済の中心地として栄えているが、王宮・中央官庁の多くはハーグに集まっており、アムステルダムは経済の中心地ではあるものの、政治の中心地にはなっていないようだ。
- リヒテンシュタイン
- 首都はファドゥーツ、人口最大都市はシャーン。ファドゥーツにはリヒテンシュタイン侯爵の居住する城がある。小国家ゆえに人口最大都市シャーンですら5000人ぐらいしか住んでおらず、首都と人口最大都市の差も誤差の範囲内にとらえてよさそうだ。
- サンマリノ
- 首都はサンマリノ、人口最多都市はセラヴァッレ。セラヴァッレは丘の上の居住地区として小国家サンマリノの中で比較的人気の高い地区で、どちらかといえば官公庁や教会等の占める割合の多い首都サンマリノより人口が多いようだ。
- スイス
- 首都はベルン、人口最大都市はチューリヒ。どちらも歴史のある都市だが、チューリッヒは近世に毛織物産業で発展し、近代に金融業で大きく発展したため、スイス産業の中心都市として発展している。ベルンは首都としての政治機関が整っているが、産業体制はチューリッヒほど整ってはいない。人口の差は産業の差によるものと考えられる。
- トルコ
- 首都はアンカラ、人口最大都市はイスタンブル。イスタンブルはオスマン帝国のスルタン居住地として発展してきたが、トルコ革命時に従来の政治体制からの脱却を図るべく、アンカラに遷都された。遷都されるまでのアンカラはさほど大きな町ではなかったが、経済力を備えて、イスタンブルにつぐ第二の都市に成長した。
- マルタ
- 首都はバレッタ、人口最大都市はビルキルカラ。今も昔もバレッタが政治経済の中心地であることは間違いないが、多くのバレッタ市民がよりよい環境を求めて郊外へ移住したため、首都バレッタよりも近郊都市ビルキルカラの方の人口が多くなってしまった。
- モンテネグロ
- 憲法上の首都はツェティニエ、人口最大都市はポドゴリツァ。モンテネグロの憲法は、古都として発展してきたツェティニエを首都として定めたが、議会がポトゴリツァへ遷都することを決め、首都機能を移転した。これに伴い、政治・文化・経済の中心地はツェティニエからポトゴリツァにかわった。
アフリカ
- スーダン
- 首都はハルツーム、人口最大都市はオムドゥルマン。この2つの町は川をはさんで隣同士で、首都圏を形成している。ハルツームは政治機能中心の地区、オムドゥルマンは下町の商業地区にあたる。
- カメルーン
- 首都はヤウンデ、人口最多都市はドゥアラ。植民地時代の首都だったヤウンデがそのまま首都になった。ヤウンデは山間部の町のため貿易都市としてはさほど発展せず、かわりに沿岸部のドゥアラが奴隷貿易の中継地の役割を経て、産業中心都市として発展している。
- 赤道ギニア
- 首都はマラボ、人口最大都市はバタ。1968年に政治経済の中心地であるバタからギニア湾の島に遷都された。首都マラボで石油が発掘されたこともあり、経済の中心地としての機能もマラボに移りつつある。
- ナイジェリア
- 首都はアブジャ、人口最大都市はラゴス。1991年に計画都市として国の真ん中あたりに建設された。旧首都のラゴスは港湾都市として発展しており、現在も経済の中心地として発展している。
- ガンビア
- 首都はバンジュール、人口最大都市はセレクンダ。バンジュールは政治経済の中心都市だが、川の河口の島に作られた町なので規模としてはあまり大きくない。そのため人口だけで見ればセレクンダのほうが多くなる。
- コートジボワール
- 首都はヤムスクロ、人口最大都市はアビジャン。1983年に憲法上遷都されたが、政府機関は経済都市でもあるアビジャンが実質的な首都機能をはたしている。
- ベナン
- 首都はポルトノボ、人口最大都市はコトヌー。憲法上の首都はポルトノボと定められているが、経済都市でもあるコトヌーガが実質的な首都機能を果たしている。
- モロッコ
- 首都はラバト、人口最大都市はカサブランカ。ラバトもカサブランカも国家の主要都市として発展しており競争関係にある。ラバトは政治面の中心都市として発展しているが、経済力で比べるとカサブランカのほうが大きく、その差が人口に現れているものと考えられる。
- タンザニア
- 首都はドドマ、人口最大都市はダルエスサラーム。1996年に立法府が移転されたが、その他の行政機関などの首都機能はダルエスサラームに残っている。
- マラウイ
- 首都はリロングウェ、人口最大都市はブランタイヤ。リロングウェは、政治の中心地として発展してきた中部の都市で、ブランタイヤは経済の要所として発展した南部の町である。政治都市より経済都市のほうが人口を集めやすいことから、ブランタイヤの人口が国内で最も多くなったのだろう。
- 南アフリカ共和国
- 首都はプレトリア、人口最大都市はダーバン。正確には行政・司法・立法で首都が異なる。ダーバンは港町として発展した産業都市で、公式には国の最大人口を抱えている。ただ南アフリカは黒人の都市への大量移入があり、それぞれの都市がどれだけの人口を抱えているのか概算するのも難しい状況である。
北アメリカ
- アメリカ合衆国
- 首都はワシントンD.C、人口最大都市はニューヨーク。ワシントンは南部と北部の対立緩和の目的で、中間地点に作られた計画都市。ホワイトハウスやペンタゴン等の国の政府機関が集まっている。ニューヨークは世界経済の中心地として知られており、政治機能都市と経済機能都市が完全に分離している。
- カナダ
- 首都はオタワ、人口最大都市はトロント。首都選定を巡ってトロントやモントリオール等が争う中で、イギリス系とフランス系の影響の中間地である小都市オタワが首都に選ばれた。首都選定後のオタワの人口は増えたが、トロントやモントリオール等の経済の中心地に人口面では大きく負けている。
- トリニーダード・トバゴ
- 首都はポートオブスペイン、人口最大都市はサンフェルナンド。イギリス植民地の拠点として建設された町が独立後も首都として機能している。ポートオブスペインが政治や金融の中心として、サンフェルナルドは経済や産業の中心地として機能している。
- ベリーズ
- 首都はベルモパン、人口最大都市はベリーズシティ。旧首都ベリーズシティがハリケーンで首都機能を果たさなくなり移転した。ただ多くの住民はベリーズシティに残ったため、首都と人口最大都市が別々になった。
南アメリカ
- エクアドル
- 首都はキト、人口最大都市はグアヤキル。「山間地で政治文化の中心地キト」と「湾岸部で経済産業の中心地グアヤキル」の関係といえる。両者の人口はだいたい同じぐらいで競争関係にあるが、近年は沿岸部のグアヤキルの人口が最も多い。
- ブラジル
- 首都はブラジリア、人口最大都市はサンパウロ。ブラジリアは、リオデジャネイロから遷都する際に作られた計画都市で政治機能の中心地。人口はリオデジャネイロを抑えて、世界中から移民を集めたサンパウロが最も多くなっている。
- ボリビア
- 憲法上の首都はスクレ、実際の首都はラパス、人口最大都市はサンタクルス。スクレは憲法上首都と定められているが、主要政府機関は最高裁判所ぐらいしかない。ラパスが実質的首都機能を果たしている。なおラパスとサンタクルスは経済面で競争関係にあり、実際あまり仲も良くないらしい。
オセアニア
- オーストラリア
- 首都はキャンベラ、人口最大都市はシドニー。首都選定を巡ってシドニーとメルボルンが対立していたなか、折衷案として中間地点に計画都市キャンベラが建設された。なお、シドニーは港湾都市として発展し国内最大の経済力を持つことから、キャンベラと比べ物にならないぐらいの人口をかかえている。
- ナウル
- ナウルには正式な首都が存在しない。人口最多地区はデニゴムドゥで、首都機能はヤレンにおかれている。
- ニュージーランド
- 首都はウェリントン、人口最大都市はオークランド。北島と南島という地理関係、旧首都と新首都、拮抗する経済規模等からウェリントンとオークランドは競争関係にある都市といえる。人口面ではオークランドのほうが多いが、両者は拮抗関係にあると考えるのが妥当である。
- パラオ
- 首都はマルキョク、人口最大都市はコロール。2006年にナカムラ大統領の意向でコロールから計画都市マルキョクに遷都された。憲法にはコロールが暫定的な首都に過ぎないと書かれており、マルキョクのあるバベルダオブ島への遷都が要求されていた。ナカムラ大統領は死文化していた条項を実行したものと考えられる。なおコロールは日本植民地時代の南洋庁が置かれていた場所で、それに伴い経済的に発展していた。
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