恩田陸『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ。参加者は、姉妹の甥の嫁で美貌の桜子や、次女の娘で女優の瑞穂など、華やかだが何かと噂のある人物ばかり。不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。これは真実なのか、それとも幻か?(文藝春秋http://www.bunshun.co.jp/book_db/7/72/90/9784167729028.shtml)

久しぶりに恩田陸の作品を読みました。最近出版点数が多くて追いかけられなくて…。でもたまに読むとやっぱり「物語」の紡ぎ方は好きだなあと。恩田さんの読書体験と自分の読書体験、重なる部分があるんですよね。だから物語のオマージュ部分にすんなり入り込めるんです。読んだことのない物語なのに懐かしい気持ちになる。


さて、『夏の名残りの薔薇』はミステリ系の物語。豪奢なクラシック・ホテルを舞台にパーティの参加した6人の視点で変死事件が語られるという構成。各章のタイトルに「第一変奏」「第二変奏」と付けられているのですが、その「変奏」という言葉通りに章ごとに変死事件の内容が少しづつ変化していく。場所、登場人物に変化は無く、時系列もそれぞれに重なっているのだが「物語」だけが変容している。真実と虚構がどこにあるのか。それぞれに濃厚なクセのある物語が紡ぎだされていきます。登場人物の独特のクセの強さと物語の引き強さ、いかにも恩田陸らしい。かなり私の好みの物語でワクワクしながら「第五変奏」まで読み続けました。そして「第六変奏」、やっぱり恩田陸恩田陸だった。良い意味でもあり悪い意味でもあり。


たっぷりと華々しく広げられた物語をそのまま広げっぱなしで終わる。物語を真実と虚構をそのままにして曖昧にして、という終わり方は余韻があって良いですしそれで物語が広がることもある。何も理に落ちる結末でなくても良いんです。でも、その余韻を感じさせるには広げたものを綺麗に形作ることが必要です。今までの物語をひとつに纏め上げ、それからどこかに落とす、その着地点が綺麗でなくてはいけません。そういう部分で『夏の名残りの薔薇』は残念ながら主題をまとめきれずに終わったという印象。どこかに「真相」が欲しかったですね。せっかくの魅力的な三人姉妹を活かせずに終わったという感じ。うーん、ラストの持って行きかたによっては傑作になっただろうに。もったいない。また文中に挿入される映画『去年マリエンバートで』の断片も効果的ではない。何か繋がるものがあるのかと思ったのですが。途中までの物語が好きなだけにほんとにもったいないとしか言い様がない。

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)