塾帰りの夜の道を、World's end girlfriendをかけながら、自転車で突っ走った。
美しいストリングスと、壊れたリズムは、夜の街を切実な終幕感で彩った。
僕はその夢見心地に浸りながら、自転車をこぐ足を速めていく。
World's end girlfriendは、本物の世界の終わりを見たことがあるんじゃないだろうか。
そうとしか思えないほどに、彼の音楽は終わりに満ちているのだ。
塾四連勤の最後は、またあの無愛想な女の先生と一緒だった。
僕は塾の電気を消し、コンセントを全て抜き、クーラーが付けっぱなしだったので切った。
彼女はその様子を何もせずに見ていた。いや、その言い方は正確ではない。
彼女はその様子を、にらみ付ける様な視線で凝視していた。
「どうして僕を、そんな断罪するような目で見るの?」
素敵な会話の出だしを思いついたとは思わないかい?
君が初対面の女の子と話す時でも、この一言さえ言えばバッチリさ。
「断罪するような、とは不正確ね。私はあなたを断罪しているのよ。」
素敵な返し言葉を貰った。どうやらあのひどい出だしは成功だったようだ。
僕は何も悪いことをした記憶がないので、何も言わずに黙っていた。
すると、彼女の鞄の中に、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を見つけた。
僕の心はそれですこしだけ、平静を取り戻したようだった。
「それ、好きなの?俺も最近、二回目を読み始めたよ。」
「私はもう五回ほど読んでいるわね。」
「すげえな。ところで俺、なんか貴方に断罪されるような悪いことしたかな。」
「特にしてないから、気に病むことはないわ。
まあそれでもあなたが気に病みたいと言うならば、自分の弱さについて省みるといいと思う。」
「僕と君って、ほぼ初対面だよね……」
「そうよ。それがどうかした?」
僕のどこが弱いのだろう。心当たりがありすぎてよく分からない。
とりあえず、僕は自転車をこぎながら、iPodminiの音量をぎりぎりまであげてみた。
結局今日分かったのは、彼女に友達がいなさそうだということだけだ。