日記13

塾帰りの夜の道を、World's end girlfriendをかけながら、自転車で突っ走った。
美しいストリングスと、壊れたリズムは、夜の街を切実な終幕感で彩った。
僕はその夢見心地に浸りながら、自転車をこぐ足を速めていく。


World's end girlfriendは、本物の世界の終わりを見たことがあるんじゃないだろうか。
そうとしか思えないほどに、彼の音楽は終わりに満ちているのだ。



塾四連勤の最後は、またあの無愛想な女の先生と一緒だった。
僕は塾の電気を消し、コンセントを全て抜き、クーラーが付けっぱなしだったので切った。
彼女はその様子を何もせずに見ていた。いや、その言い方は正確ではない。
彼女はその様子を、にらみ付ける様な視線で凝視していた。


「どうして僕を、そんな断罪するような目で見るの?」


素敵な会話の出だしを思いついたとは思わないかい?
君が初対面の女の子と話す時でも、この一言さえ言えばバッチリさ。


「断罪するような、とは不正確ね。私はあなたを断罪しているのよ。」


素敵な返し言葉を貰った。どうやらあのひどい出だしは成功だったようだ。
僕は何も悪いことをした記憶がないので、何も言わずに黙っていた。
すると、彼女の鞄の中に、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を見つけた。
僕の心はそれですこしだけ、平静を取り戻したようだった。


「それ、好きなの?俺も最近、二回目を読み始めたよ。」
「私はもう五回ほど読んでいるわね。」
「すげえな。ところで俺、なんか貴方に断罪されるような悪いことしたかな。」
「特にしてないから、気に病むことはないわ。
まあそれでもあなたが気に病みたいと言うならば、自分の弱さについて省みるといいと思う。」
「僕と君って、ほぼ初対面だよね……」
「そうよ。それがどうかした?」


僕のどこが弱いのだろう。心当たりがありすぎてよく分からない。
とりあえず、僕は自転車をこぎながら、iPodminiの音量をぎりぎりまであげてみた。


結局今日分かったのは、彼女に友達がいなさそうだということだけだ。


「僕の弱さを断罪する目」2007.05.25.0:21am