彼女が端正な顔立ちでありながら、あまり友達と言える人がいないのは、
その刺々しい言動もそうだが、それ以上に彼女の瞳に原因があると思われる。
今日も塾講師のバイトが終わると、会話をした。
だんだん話が続くようになったし、わりかし趣味があうことも分かった今日この頃だが、
彼女の黒髪と白い肌のコントラストの中にくっきりと浮かぶ、その二つの瞳はいつだって、
疲れているでも、憂いているでもなく、明確な「嫌悪」を浮かび上がらせている。
はじめに見たときは死んだような目だと思ったが、とんでもない、
彼女の目は生きて、そして嫌っている。何をかなのかはよく分からないけれど。
「最近なんだか地味に忙しくて、日記を書く暇すらないよ。」
「地味に忙しいって、不思議な表現ね。派手に忙しいって言うのもあるのかしら?」
「そこに突っ込まれたか。まあなんて言うか、レポートが不毛って言うか。」
「日記なんてつけているの?少女趣味なのね。」
「会話がワンテンポ遅れてるよ!いやまあ、日記って言うか、ブログだけど。」
「余計駄目だわね。ブログなんて、心の弱い人間が寄りかかるための、不毛な媒体だわ。」
彼女がその両目で嫌悪しているのは――ブログ?
「そこまで言わなくても。確かに一理あるけどさあ……まあいいや。
俺さ、そこで最近夢日記をつけてるんだ。でもあの夢の続き、見てないなあ。」
「夢の続き?夢って言うのは記憶の断片が、脳によってランダムに拾われ、
強引に繋げられてできるものなのよ。
続きどころか、そもそもストーリーがあるわけがないじゃない。」
「いや、でもその記憶の断片とやらがわりと大きな欠片でさ、それを何度も拾ったりとか、
そういうことならありうるかもしれないじゃん?現に俺、もう三回見たよ。」
「三回も同じ種類の夢を?」
「それも妙に暗示的でさ、常に彼女が手を引いて歩いてくんだ。
それで、建物がはりぼてだったり、駅があるはずの部分が空白だったりとか。」
「…………ふうん。そうなんだ。」
「そうなんですよ。なんとかして、またあの夢見れないかな。」
「ねえ、その夢はちょっと面白そうね。くわしく教えてよ。」
「ああ、それなら俺のブログの過去ログを見てもらったほうが早いよ。書いたの最近だし。」
「ブログね。気が進まないけれど、まあいいわ。ブログ名教えて。」
そんなわけで。わりと明確に覚えている会話の断片が示すように、
同じ塾講師で大学一年の彼女は、このブログの存在を知った。
夢のことを直接伝えず、あえてブログを知らせたのは、それを嫌悪しているらしい彼女の目に、
どうやってこの「日記もどき」が映るかに、興味があったからでもある。
ねえ、今……見てる?