「ボーカロイドのヒット曲はJ-POPだけじゃないぜ」的曲10選

4/13 0:02 弟の指摘を受け記事の冗長さを修正


桜ノ雨が卒業式で歌われるというニュースや、
街頭でのsupercellのアルバムのヒットなどで、
(というか週刊2位ならlivetuneも達成していたはずなのですけど、
やはりあのころはまだ話題になるタイミングではなかったんでしょうか)
最近はボーカロイドを使った曲の知名度も上がってきました。


それ自体は素敵な事だと思うんですが、
supercellと桜ノ雨がJ-POPに沿った曲である事から、
「結局ボカロを使った曲でも流行るのは巷で流行るようなJ-POPなんでしょ?」
というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか?


でも、僕はそんな事はないと思います。
ボーカロイドを使った曲で再生数を稼ぐ曲には、
オリコンチャートとはちがい、J-POPの枠をはみ出している曲も多くて、
それが僕がボーカロイドの曲を追いかけている理由でもあるからです。


これから再生数1万再生以上(結果的に2万5千再生以上になった)に絞って、
J-POPの枠をいろんな意味ではみ出したヒット曲を10曲、
紹介しておこうと思うのですが、
その前に、なぜ J-POP をはみ出す曲が多いと思うのか、僕なりに根拠を上げます。

(1)売れる必要がないから趣味を全面に押し出せる

(2)同じボーカルという共通点が聞きなれないジャンルを聞きやすくする

(3)初音ミクの声にはテクノ、エレクトロニカ調が合う

(4)動画が聞きなれない曲の理解を助ける


以下は、以上の根拠の実例になります。
どれもニコニコ動画内ランキングの音楽カテゴリにランクインしたり、
週刊VOCALOIDランキングの上位(30位以内)で、
紹介されたことがあるようなヒット曲ばかりです。

■ のどが渇く


ニコニコ随一の狂気曲の作り手、ヒッキーPによる曲です。もはやジャンル不明。冒頭のノイズから、柔らかさの全くないひしゃげたキック音、汚しすぎて原型をとどめていないピアノの不穏な響き、そこに攻撃的だけど、どこかナイーブで美しさのあるメロディ。これは(4)の効果も手伝い、ヒッキーPさん最大のヒット曲になりました。僕がこれを冒頭で紹介した理由は、動画を開けば分かると思います。

■ 炉心融解


これは1万どころか、100万再生すら越えている、鏡音リンの代表曲ともいえる曲です。それでいて、バッキバキのドラムンベースが聞けます。この流行を無視したドラムンベースが大ヒットしたのは、僕が(1)の理由をあげた根拠になってます。作り手はいい意味で受け手を無視して自分の好きな音を追求できるんですね。


僕がボカロ曲を巡っていると、予想以上にドラムンベース、ドリルンベースに出会います。これも、聞く側よりも、DTMを嗜む作り手側の好みが反映されている結果ではないでしょうか?

■ Room206


最近頭角を現して怒濤のペースで曲を作りそれが安定してヒットを飛ばしているジミーサムPの曲です。ジミーさんの曲はJ-POPに沿った曲も多いのですが、時々こういった半分はみ出た曲も投稿してくれるのが僕のような人間には嬉しいです。この曲は一聴するとどこもJ-POPの枠をはみ出てないじゃんと思われるかもしれませんが、
Aメロ Bメロ サビ (長い間奏) サビ
と実はかなり間奏の比重が大きい曲です。この曲の主役は間奏の早弾きエレピなのです! 動画はシンプルな一枚絵ですが、間奏部分では、白背景に白い「♪」コメントがたくさん流れてくるので、耳も目も気持ちよくなれます。(4)の効果ですね。この曲は歌主体で曲を聞いていた人が、「鳴っている音それ自体の気持ちよさ」に気づくきっかけに絶好の曲なのではないかと、勝手に思っています。

■ YOUTHFUL DAYS GRAFFITI


これはもろに(1)の例です。曲名、サムネの絵、ドラムにコーラスにと、細部まで80年代を意識した曲になっています。鼻そうめんPはすごい経歴を持った方で、音楽的にはまぎれもないプロなのですが、まさに彼のような人がやってくれるいい意味での遊びは80年代を知らない僕には逆に新鮮です。中田ヤスタカも最近の曲で80年代要素を巧みに取り入れているし、これからボーカロイドに限らず80年代リバイバルが来るんじゃないかと思っているのは、僕だけですかね?

■ La'zur


Treowさんによる変拍子ポストロック、それもAphex TwinSquarepusherに代表されるWarp系テクノにかなり寄った曲です。この曲に関しては基本的にJ-POPしか聞かない弟が「格好いい!」と言ったことも印象深いです。Treowさんはマニアックな要素を多分に曲に盛り込みつつも、テクニックを鼓舞する訳ではなく、いい意味でさらりと聞かせてしまうところが凄いです。

■ SOU


デビューは去年の12月なのに鬼のようなペースで曲を投稿しているAVtechNO!さんお得意のテクノソング。初音ミクの声をさらに機械的に加工し、ほぼ楽器のように扱っていながらも、歌詞が独特の世界観を持っています。これはまさに、歌と楽器の中間の存在と言える初音ミクでしか出せない世界観を形作っているといえます。この曲は、初音ミクの声を活かした曲も確実にある、という根拠にもなると思っています。

■ プラスチックガール


エレクトロニカ曲の名手、kiichiさんによるミニマルピアノ曲。少ない音で非常に抑えた展開と、幾重にも音が重なるコーラスで作られたサビが印象的です。kiichiさんもマイリストを是非巡ってみてください。もはや僕にはプロの音とまったく違いが分からない、美しい音が活かされたエレクトロニカがたくさん聞けます。
【巡音ルカ】 メグリンQ 【オリジナル曲】
などもかなり流行からはみ出た面白い曲で、外国の方が日記で思わぬ掘り出し物として紹介していたのが記憶に新しいです。

■ 舎利禮文


この文字の動きだけで聞き手を飽きさせないPV、
舎利禮文(しゃりらいもん)【初音ミク×M@STER_fonts Pv】
によって、掘り起こされヒットした曲。ナンバーガールの遺伝子を組んだピアノが美しい前半、お経「しゃりらいもん」を音を重ねながら繰り返すというフリーダムな曲構成が素敵です。実際この曲が遅れてヒットしたときに、「初音ミクでこんな曲が合ったなんて」という新鮮な驚きが反映されたコメントを僕は目にしました。

■ Francium


これまたごく最近ヒットした曲。テクノ調で初音ミクを楽器として使っていながらも、言葉遊びなのかなんなのかもはやよく分からない歌詞が面白く、何故かくちずさみたくなる曲です。サビがあるとかないとかではもはやない、まったく別の場所で鳴っている音でありながら、どこか聞きやすくもあるのがヒットの要因でしょうか。


ここまで来ると分かってきたかもしれませんが、この10選では古い曲よりも割と最近発表された曲を中心に選びました。これは、今までインスト曲にしか興味がなかったような作り手が、初音ミクに注目して、J-POPから遠くはなれた面白い使い方をしているからではないでしょうか? 最近いい意味で「変な」曲が見つけやすくなった気がします。捻れたアヒルという、少しマニアックな曲調を取り入れた音楽サークルの曲がことごとくヒットしているのも記憶に新しいです(一曲目の「のどが渇く」のヒッキーPや、八曲目の「舎利禮文」の鉄風Pもそのサークルのメンバーです)。

■ UltraHardAttacks of OddMusiK


切り貼りでも立派ミュージック

まさにそんな歌詞内の言葉が似合う曲です。ジャンルはハードコア? ドリルンベース? そんな棲み分けがどうでもよくなるような自由で、そしてどこかポップな曲です。サビはただ「ああああああ」と叫ぶ声に、暴力的なまでに早く、壊れているドラムやピアノが重なります。ゆうゆさんはJ-POPやトランスというメジャーな曲調から、この様に流行から一歩も二歩もはみ出た曲まで作るマルチな方です。


この紹介記事が、「ボーカロイド曲もヒットするのはJ-POP調だけ」という偏見を消し、J-POPにはあまり興味のない方がボーカロイド曲を聴いてみるきっかけになれば幸いです。そして、長い長い目で見て、ボーカロイドのブームが終わってしまったときに、リスナーがこれらの曲を思い出して、J-POPの形式をはみ出た曲にも手が伸びるようになれば……きっと面白いことになるんじゃないかな、なるといいのにな、と僕は思っています。