爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ウナギと日本人」筒井功著

著者の筒井さんは通信社記者のあと、民俗学研究にすすみ山岳の非定住民(サンカと呼ばれる人たち)の研究などをされているそうですが、ウナギなどの川魚もかつては専門の定住漁師ではなくそのような人々が取っては売ったということがあったそうです。その縁もありウナギについてもなかなか詳しく研究をされているようです。

今年はニホンウナギ絶滅危惧種に指定されると言ったニュースが飛び交いもはや取れなくなるのではという不安もありますが、そもそもウナギなど川魚の生産量というものは正確な統計と言うものはないそうです。
昔から自分で取っては自家消費といったものが多かったと言うこともあり、またシラスなどは不漁になってからは正規のルート以外の裏取引も蔓延しているためになかなかきちんとした量が把握できていないようです。
養殖が盛んになってからは、まだ養殖ウナギの出荷量というのは確かになってきたそうですが、それから逆算していってもシラスの購入量と全然あわないということもあるとか。
シラスもニホンウナギとそれ以外の海外のものとがどのような構成かと言うことも、養殖家自体も知らないと言うこともあるようで、大きくなってきてからニホンウナギにしてはおかしいと気付くこともあるということです。

ウナギの養殖は明治時代に始まったものの、戦前は浜名湖周辺など限られた地域で行われていただけで、生産量もさほど多いとは言えず誰でも気軽に食べられるというものではなかったのが、戦後は急激に広がり特に鹿児島宮崎が伸びてきました。これらの養殖業者は意外に農家が多かったと言うことです。これには地上に広い土地が必要だったと言うことと、温室を使うようになりハウスをそのまま転用ということもあったようです。
しかし、魚の養殖という技術がないまま金儲けできるということで始める人も多く、失敗もあり博打のようなものだったということです。

しかし、その後台湾や中国でも養殖が始められそちらからの輸入が増えると国内の養殖もだんだんと下火になっていきました。それが最近のシラス不漁で価格高騰ということにもなり、廃業をするという業者も増えてきたようです。
今年はシラスの漁獲量が昨年より少し増えたと言うことで、昨年のキロ300万円という高値から一挙に80万円まで下がっているということですが、これも養殖業者が多ければそこまで下がることはなかったのが、かなり減っているためにシラスの必要量も激減してしまったそうです。

ウナギは太平洋のある場所(グアム島の近辺)で産卵して孵化し、幼魚が潮の流れに乗って日本までたどり着き、そこから川を遡上して行きかなり上流にまで住処を求めていきます。そこで成熟するまで過ごした後また海へ下りはるばると産卵場所まで泳いで行き産卵して死んでしまうという一生を送ると言うことなのですが、実は沿岸まで来ても川に上らず海で暮らすものもかなり居るということです。また、川を上ったまま性的に成熟することなくいつまでも留まり何十年も行き続けるものもいるようです。

ウナギの絶滅が不安視される中で、最近は各県で成魚の捕獲を禁止すると言う動きもあります。これを聞いた時には「シラスの禁漁しなきゃ意味なかろう」と思いましたが、本書にも各地の専門家からそういった意見が出ていると言うことはあるようです。しかし、それでなくてもシラス漁というのは密漁が横行するような世界ですので、禁漁にしたところで大して実効は上がらないのは始めから分かっていることで、それと比べれば関係者がはるかに少ない成魚の漁を禁止すると言うところから始めるのは仕方のないことだそうです。

なかなか難しいウナギ保護の道ですが、生命力はすごいものなので、必ず復活してくれるでしょう。