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2008-09-09

『数学的にありえない』アダム・ファウアー


 アダム・ファウアーは新進気鋭のミステリ作家。1970年生まれというのだから恐るべき才能。統計学、確率論、物理学、量子論を散りばめた傑作ミステリ。佐藤勝彦監修『「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!』と、V・S・ラマチャンドラン著『脳のなかの幽霊』、ビル・ブライソン著『人類が知っていることすべての短い歴史』、苫米地英人夢をかなえる洗脳力』を事前に読んでおけば、面白さが倍増する。間違いなく映画化されることだろう。


「オーケー、わかりました」とスティーヴがいった。「でも、なぜそれが重要なんですか」

「それは、確率論がどういうものかを具体的に説明してみせたからだ。現実を予言する最高の方法は、正しい答えを計算することではなく、間違っている可能がいちばん低い解答を考えることである――そうラプラスは示したわけだ」


「よし、いまいったように、クオークには12のちがうタイプがある。ただし、おれたちが生きている現実世界の物質はすべて、アップとダウンのふたつ、それにレプトンというクオークに似た素粒子だけから成り立っている」ジャスパーはをついだ。「理解すべき重要な点は、クオークとレプトンは実際には物質ではないことだ」

「なら、なんなんだい?」とケインは訊いた。

「エネルギーさ。わかるか? 量子物理学によれば、物質は現実には存在していないことになる。古典物理学が物質と考えていたものは、原子からできている元素の合成物であり、その原子はクオークとレプトンからできている――いいかえればエネルギーというわけだ。かくして、物質はエネルギーだということになる」ジャスパーはいったん説明を休み、自分の説明がケインの頭にしみこむのを待ってから先をつづけた。「では、エネルギーでできているもうひとつのものはなにか」

 ケインは点と点をつないでいった。すると突然、ジャスパーの複雑な説明がひとつに結びついた。

考だ」とケインはいった。

「そのとおり。識も無識もひっくるめて、すべての考は、脳のなかのニューロンが電気的なシグナルを発することで生みだされる。それは知ってるな? すべての物質がエネルギーであるように、すべての考もエネルギーだ。ゆえに、すべての物質と考はたがいに結びついている。そこから導きだされるのが集合的無識――現在、過去、未来にわたってこの地球上に存在したすべての生物の無識が共有され、つながった-ものだ-斧だ-ロトだ-友だ」

「オーケー」ケインは兄がいまいったことをなんとか理解しようと努力しながらいった。「集合的無識の形而上的な顕現がほんとうにあるとしよう。でも、どうしてそれが時を越えられるんだい?」

「なぜなら、時間は相対的なものだからだ」とジャスパーはいった。「考えてみろ。光速よりも速い唯一のものは――」

考のスピードだ」ケインはあとをひきとった。最後のピースがカチッと音をたててはまった。

「そのとおり。とくに、無識の考だ。粒子が光速に近づくと、静止状態にくらべて時間の流れは遅くなる。ゆえに、無識は永遠だと考えることができる。したがって、無識は文字どおり時間を超越しているんだ」(中略)

「東洋の宗教哲学はすべて、宇宙はエネルギーだという考えに基づいています。それが現代の量子物理学によって裏づけられたってわけですよ。それに東洋では、宇宙において人間のは基本的にひとつだと信じられています。これは、ユングの集合的無識を起せずにはいられません。

 教徒は、万物は永遠ではないと信じています。ブッダは、この世界のしみはすべて、人間がひとつの考えやモノに執着することから生まれると説きました。人はあらゆる執着を捨て、宇宙は流れ、動き、変化するものだという真理をうけいれるべきだとね。教の視点からすると、時空とは識の状態の反映でしかありません。教徒は対象をモノとしてではなく、つねに変化していく宇宙の動きと結びついた動態過程とみなしています。彼らは物質をエネルギーとしてとらえているんですよ。量子物理学と同様にね」


数学的にありえない〈上〉 数学的にありえない〈下〉

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