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2009-05-17

『隻腕の剣士 教壇に立つ』浅野健治


 その夜、彰(あきら)くんが教師になって、剣道部顧問として頑張っている姿を、どうしてもその人に伝えたくて私はある人に電話をかけた。

 受話器から懐かしいが聞こえた。中学で中山彰を鍛え抜いた、“剣道の鬼”古屋監督のだ。

「そうですか、彰は頑張っているんですね」

 喜びを隠し切れないような弾んだでそう言った後、古屋監督はいがけないことを告白した。

「実はですね、あれほどまでに厳しくしたのは、一年のときに彰が書いた作文を見たからなんです。その作文には『母は労ばかりしている。その母に自分は何もしてやれない。できることといえば剣道しかない。だから、剣道で母を安させてあげたい』というようなことが書いてありました。だから私はどんなことがあっても、彰を全国大会に出そうと決したんです。しかし、できたばかりのクラブではしいですよ、全国は。だから、私はどんなに憎まれてもいいから“鬼”に徹しようとったのです。今だから言えますが、死に物狂いでかかってくるあの子の気迫に、私は何度も負かされそうになりました。しかし、指導者が「まいった」とは言えません。必死で彰の攻撃をかわしていました。あの子は不屈の精神で何事にも負けずに自分の剣道を貫き、そして勝ったのです。お母さんを連れて行った、福井の全国大会。あんなに嬉しかった日はありません。私にとって今でも最高の記日です。今、『隻腕(せきわん)の中山』は、宮崎では道徳の時間の教科書になっています。彰は私の誇りです。生徒に対して本気で叱ってあげられる教師になってもらいたいと、それだけを彰に伝えてください」

 電話を切っても、九州なまりのやさしい“鬼”のは、いつまでもの奥に響いていた。


【『隻腕の剣士 教壇に立つ』浅野健治(潮出版社、2001年)】


隻腕の剣士 教壇に立つ (Memories in life)

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