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斧節【onobusi】 このページをアンテナに追加 RSSフィード


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2011-09-25

ピアノを弾く探偵


 タイマーが鳴る前に弾き終えたが、とくに終盤での速度が足りなかった。タオルで顔を拭(ぬぐ)いながら、その部分をもっと弾き込まなくてはと思った。だが、全般に、いい気分だった。今よりはるかにうまく、曲の核心に迫って弾いている。間もなく、曲を十分理解し、時計職人のように小さな部分を調整し、磨き上げることができるだろう。その時、音楽がわたしにもたらしたもの、わたしが音楽にもたらしたものが、指から紡(つむ)ぎ出されてくる。

 もう一度弾きたいと無性(むしょう)に思った。形を成しつつあるものが実際に姿を現すまで、何もせずに数日弾き続けたい。今のままでは、あっという間に曲が消え失せるかもしれないし、そうなるともう取り戻せないことがある。このソナタを弾く心構えができるまで何年もかかった。今さら、それを失いたくない。


【『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン/直良和美〈なおら・かずみ〉訳(創元推理文庫、1998年)】


ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)

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