ふつうの男

その男のことを「神」と俺は呼んでいる
それは彼があまりにも「ふつう」だからである
彼はある派遣会社に勤める32才の男だ
趣味は野球観戦とドライブ
恋人はいない


自分のことを「ふつう」と呼ぶひとは多いが
その「ふつう」は彼/彼女にとってのそれであり
世間の基準のようなものを自分流にこしらえて
「ふつう」と言っているだけに過ぎない
至って「ふつう」でない人々なのだ
今日も個性が熟成されてゆく


日没にうつくしい風景が遠くからやって来る
そしてしばらくすると太陽はふて寝をする
夜の色気には勝てないらしい
猫たちの屋根の上を
鞠が人生のように転がってゆく


ふつうの男は今日も自らの「ふつう」を気にも留めず
猫よりも純粋に人生を楽しんでいる
絶対的な「ふつう」が銀河の闇のなかできらきらひかる
春の海のように澄んだ無個性な清々しさである