樽と壷


漬け物部屋の樽が気になり、一個持ち出してホコリを払って洗ってみた。
細口の壷も同じ場所に有ったもので、花瓶にちょうどいいからと洗ってみると中に古い醤油らしきものが入っていた。が、もったいないような気にもなったが捨ててしまった。このつぼにはよく椿を生ける。

ホコリまでもじっとりと湿気を含んだ部屋の中で樽はいい色を保っていた。洗うのが惜しいほどのホコリの層。ちりも積もれば山となって、ホコリにまで歴史の重さを感じる。水をかけて桶の肌を洗うと、ふやけた木の肌が少し剥けた。木目の下の層の赤い部分が表に出る。このアクの強い部分が、木を守っているんだろうか、、、竹はふやけることも無く飴色に変わってさらにいい艶を出している。

多分この桶も醤油を入れていたんでしょう。樽のそこには白い結晶が噴き出してた。おそるおそるなめて見たら、塩だった。醤油を作らなくなって何年経つだろう。少なくとも40年は前の塩。そう、あたしは、40年前の塩をなめたんだわ。もしかしたら、50年、いや100年前のものかもしれない。

飴色になった樽はどこから眺めても美しい。人の手では決して作れない、長い「時」と「事」だけが作り出せる色なんだ。
(艸soh 2005年06月23日の記事より)