狭める→誘発する→気づきにくくする

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

『サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代』下條信輔著を読む。

「学問のサイドでも、広告の効果に関心が高まっています。もともと
社会心理学の中の広告心理学や説得の心理学などでテーマとされ、ま
商学分野でのマーケティングリサーチなどで研究されてきたわけで
す。最近は、これに脳神経科学が加わりました」


ってことで、「脳神経科学」の立場から広告について考察し、さらに
現代を探るという本。話があちこち飛んでは、結局、つながっていて、
いたく刺激的。


まず、こんなとこ。


「若者だけではなく現代人は皆、食べ物やお金のような外部からの
報酬とは関係なく、感覚そのものの内にある快を楽しむ動物になっ
たのではないでしょうか」


はは。これって糸井重里西武百貨店のキャンペーンスローガン
「おいしい生活」だよね。
自分の価値観、尺度で好きなもの・ことを選択する。


「たとえば、同じくらい魅力的な対象がふたつありどちらかを選ばな
ければならないとします。ひとたびどちらかを選択すると、それを
自分で正当化しようとする動機が潜在的に働きます。
そこで次の(同じ選択肢からまた選ぶ)機会には、そちらをより魅力的
と感じそちらを選ぶ傾向が高まるというのです。チョイス・ジャスティ
フィケーション(機会の正当化)などと呼ばれます」


「自分で正当化」ってぶっちゃけていえば、言い訳だよね。
自己弁護。でなきゃ他人と同じはイヤとかいうくせして、
同じブランドもののバッグを抱えたりはしないわけだし。


「ヨーロッパでのある研究によれば、コーヒーショップでコーヒーを
飲むとき、人は「スモールトリップ」つまり日常からのささやかな旅を
求めているのだそうです」

これは、モノ(製品)ではなくモノ語り(ストーリー)という言い回し。
一時期、企画書にお題目のように書いていた。

「ブランドイメージとは意味の連合ネットワーク」

「意味の連合ネットワーク」という表現がえらいカッコいい。
ブランドストーリーなどブランドエクイティ(遺産)から
広告、店構えやショップ店員、コールセンターなどの対応に
いたるまですべてが連合してブランドイメージを形成している。


「このようにして、潜在的な報酬にアクセスしながらブランド・ストラテジー、
またはコンシューマー・インサイト(消費者の洞察)についてリサーチする。
その上で、それの報酬や潜在的なインサイトにアピールする広告への応用を
考える。このような二段階で臨むのが、今後のマーケティングの姿になっ
ていくでしょう」


たぶんこの「二段階で臨む」方法を具体的にしたものが、
この引用箇所。


現代社会は選択肢を狭め、誘導する方向に動いている」

しかし、ただ単にそれだけではなく

「選択を行動として誘発し、しかも「さりがなく」「気づかれないように」
誘導するという点に現代コマーシャリズムの特徴があることです。−略−
まとめれば、1狭める、2誘発する、3気づきにくくする、ということです。
この戦略によって、消費者が自らの自由意志で企業側の望む選択をしてくれる
という構図が見事に実現します」


このわかりやすい具体例をあげるなら、アーモンドかな。
アーモンドが滋養に優れた食品であることは認知されてはいたが、
売上げは伸び悩んでいた。で、ミセスにグループインタビューなり、
アンケートなりをしたのだろ。その結果、わかったのが、
アーモンドの表面のシワ。女性には敵である肌のシワを
ついイメージしてしまったそうだ。
で、どうした。チョコレートでコーティングした。
見た目にもつるつるすべすべ。
この話をしてくれたのが大学時代の心理学の教授だった。
おそらく第二次世界大戦前か後のアメリカのマーケティングの事例。
違うか。


「現代コマーシャリズム」は消費者に購買させるための
黒子役だったが、さらにその透明度合いが増したと。


賢い(あるいはひねた、成熟した)消費者は、いいことしか言わない
広告を鵜呑みにはせず、バズマーケテイングとかでの
やらせブログにもあおられはしない。


ここで余談。
TVCMは録画再生時にスキップされるんで、
ドラマだったらドラマ本編の中にスポンサーの商品を入れちまえ
という「プロダクトプレイスメント」があるが、実際のところは、
どうなんだろう。ミステリードラマでスポンサーが自動車会社だったら、
車両事故や飲酒運転はNG。
食品、飲料会社だったら、食べ物、飲み物の毒殺はNG。
ガス会社だったらガス心中やガス風呂の溺死とかもNG。
着物会社だったら紐などでの絞殺や縊死はNG。
殺人が起こらないミステリードラマって脚本家、どーする。


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