サンデーの「舞妓さんちのまかないさん」いいですよねえ。
https://www.sunday-webry.com/websunday_samples/maikosanchinomakanaisan/
作中の人物は、地方出身だったりもして完全に京言葉ではないのですが、舞妓さんはそれなりに使っております。
ただ、この作品だと、襟替え旦那との初夜とか、水揚げの話とかは出来ないだろうなあ、とも。
その辺のことが書かれてるのが、この「京の路地裏」。
著者は映画監督の吉村公三郎。明治四十四年生れの、戦前の京都の空気を知っていた方。
底本は今から40年前(1978年初版)ではありますが、色々と面白い。
で、その中に「はん」と「さん」についてこんな風に書かれておりました
京都の人、といってもこれも女の人に多いが、神社仏閣に敬称をつける。
祇園さん(八坂神社)、知恩院さん(知恩院)、ケンネンジはん(建仁寺)、おひがしさん(東本願寺)などであるが、これは、かならずしも信仰心の深さや尊敬を意味するのではなさそうだ。
平安神宮、南禅寺、豊国神社、三十三間堂に、はんやさんをつけて呼ぶのを聞いたことはないからである。
また、デパートや老舗の店などをもこうして呼ぶ。
「大丸さん」「高島屋はん」がそうである。そのくせ、三越は三越、丸物は丸物で、はんやさんをつけない。
この場合は、お粥の事を「おかいさん」、焼き芋を「おいもさん」という風に、愛称を意味するのかもしれない。
しかし、大丸はんとは言わず、高島屋さんとも呼ばない。はんとさんには、そのものによって割りに厳密な使い分けがある。
お菓子屋でも亀屋はん、鍵善さんである。川端道善にははんもさんもつけない。
これらは京言葉になれると間違わないが、何かこうきまりのようなものがある。
(中略)
ここに長吉という丁稚さんがいるとする。彼に対する呼び方がいろいろある。主人すじは、長吉、長と呼びずてにする。少し相手を尊重すれば、長どんになる。
だが長吉どんとはいわない。長吉ットンと呼ぶ。仲間同士は長やんといい、おかみさんやお手伝いさんは長さんという。人間関係の微妙な相違がこの呼び方を決める。
すべてこれらも慣習である。
これが書かれたのが40年前だし、今ではもう変化しちゃってるのも多いかも。
落語家の桂米朝師匠は、最後の音が何になるかではん、さんを使い分けるとはしてましたが、何につけて何につけないか、については言及しておられなかったのです。(関連記事を参照)
吉村監督は法則というより慣習、としてますね。
愛称というと大阪の「飴ちゃん」もそういう文化圏だからですかねえ。
「ポリ公」は違うか。
「番頭はんと丁稚どん」てのも半世紀以上前の番組だし、こういう呼び方は落語の中位でしょうか。それも上方落語は大阪が舞台の事が多いので、京言葉とは微妙に違うし。
今時はもう丁稚なんてものはいませんけど、ブラック企業は似たようなもんか。
ついでに、食べ物の事で、とあるバーのママが、注文して食ってるものを見た話で、こんなのが紹介されています。
近所のうどん屋のオッサンがおかもちを持って来た。
とり出した丼を見たら、キツネうどんでしかもうどんが入っていない。
(中略)
この時、はじめてキツネうどんやしっぽくの「台ぬき」というのを知った。ところがこの「台ぬき」というのは、ずっとむかしから珍しくもないものだそうで、私が知らなかっただけの話である。
関東では、天ぷらそばのそばなしを「天ぬき」、大阪では肉うどんのうどんなしを「肉吸い」、と言って出すのがあるそうなので、同じ発想のものなんでしょうが、ちょい呼び方が違うってとこですか。
ただ、今現在の京都でも表メニューにはなさそうで、裏メニュー的なものだけに、呼び方が一定していたかはちょっとわからないですね。
といった所で今回はここまで。