第136回

短編小説第136回目となります。
今日は、適当な写真が見つからなかったので、テキストオンリーで。

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 窓側の一番後ろの席だった。問題用紙が届くのは、クラスで最後となる。ドミノ倒しのように、席から席へ四角くて茶色い紙が広がっていく様子が目の脇に映った。
 プリントリレー。
 小学校の頃は、隣の列と競うようにして回していたが、今はそんな余裕はない。
 リレー。まさに、今置かれている状況は競争だ。高校三年間分の努力。それがこの一日で試されていた。
 それにしても、この列のリレーは遅くないか――? 前方を窺うと、プリントを渡し損ねた様子が視界に飛び込んできた。
 しかし間一髪。真後ろの学生が、舞い上がる問題用紙をキャッチする。飛び上がった心臓もどうにか収まった。
 くそう、ここは、厄列か――。
 ここまできて、精神を乱すことは避けたかった。問題用紙が届くまでのこの時間が、本当にもどかしい。列の残りは、あと四人。隣の列も、もう回し終えていた。残りは、この列だけだ。
 なんと! 三列目のあんちきしょうは、指先が乾燥して、用紙を取るのに手間取っているようだ。
 ここまで来ると、勝敗に影響を及ぼしかねない。廊下側の列は、裏返しにした問題用紙を凝視して、透き通ってくる文字を読み取らんばかりの勢いだった。
 早くして! 早くこの席まで問題用紙を!
 あと、三人、あと三席……二席……直前の席まで来た。そして奴が振り向く。アビラウンケンオンユアマーク!
「あれ…………」
 前席の彼は、しかし困惑した顔を浮かべた。やおら手をあげた。
「すみません、一枚足りません」
 試験官に、その言葉は届かなかった。
「それじゃあ、はじめ!」
 問題用紙配布処理は、キャンセルされた。

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短編小説第136回、テーマ「カラム」でした。