013 硝子戸の中

好きな一文
私がHさんからヘクトーを貰った時の事を考えると、もう何時の間にか三、四年の昔になっている。
理由
この章に限らず、この短編集は各章の、第1文のことばが、はっきりしていて、テンポもよく、心にポンッと入ってきます。次をつい読み進めてしまいました。ヘクトーは夏目家にもらわれてきた犬の名前。この章が一番好きだったので。
(デザイン関係 女 東京都)

012 道草

好きな一文
「己は決して御前の考えているような冷酷な人間じゃない。ただ自分の有っている暖かい情愛を堰き止めて、外に出られないように仕向けるから、仕方なしにそうするのだ」
理由
細君に対する健三の態度が良くない理由として健三自身が細君に言う言葉だが、この言い草があまりにも自分勝手すぎる単なる屁理屈なのだが、その言葉に健三と似た思考回路を持つ人間なら誰しもが言いそうなリアリティーがあるから。
(森井幾代志/自営業 男 東京都)

011 三四郎

好きな一文
「熊本より東京は広い。日本より……」で一寸切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。「日本より頭の中が広いでしょう」
理由
三四郎が熊本から上京するときに男が言った言葉です。十代思春期真っ只中の私にとって、人生の可能性が広がったような気がしました。
(U/アーティスト 女 東京都)

010 草枕

好きな一文
「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。 智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。 とかくに人の世は住みにくい。」
理由
色々いっぱいいっぱいになってくるとこの文章が頭をよぎります。なんて言い得ているんだろう、さすがうまいこと言うな〜、と。
( Ra/ 会社員 女 神奈川県)

009 夢十夜(第七夜)

好きな一文
「自分は大変心細くなった。何時陸へ上がれる事か分らない。そうして何処へ行くのだか知れない。ただ黒い煙を吐いて波を切っていくことだけは確かである。(中略)自分は大変心細かった。こんな船にいるより一層身を投て死んでしまおうかと思った。」
理由
 行くあてのない船に乗って何処へ行くのか。言い知れぬ不安。でもそこから逃げ出すことはできない。思い切って飛び出したら・・・あるのは無限の恐怖と後悔のみ。
 漱石は何を思ってこの作品を書いたのでしょうか。百年前の「自分」の気持ちは、明確な羅針盤もなく今の社会に生きる閉塞感に通じるものがあるような気がします。

(ぽちゃこ/公務員 女 熊本県

008 行人

好きな一文
「そうして私をそこへ取残したまま、一人でどんどん山道を馳け下りて行きました。その時私も兄さんの口を迸しる"Einsamkeit, du meine Heimat Einsamkeit !(孤独なるものよ、汝はわが住居なり!)"という独逸語を聞きました。」
理由
このシーンを想像すると、とても滑稽です。「俺は孤独だー!」と叫びながら、すごい勢いで駆け降りていく一郎(兄さん)。
人生の本質に気付き苦悩する一郎ですが、僕が彼に会うチャンスがあればコブクロ(歌手)のこの歌詞を教えるでしょう。"愛されることを望むばかりで 信じることを忘れないで"と。彼はわかってくれるでしょうか。
(JUN OSON/イラストレーター 男 東京都)

007 夢十夜(第八夜)

好きな一文
豆腐屋がラッパを吹いて通った。ラッパを口へ宛がっているんで、頬ぺたが蜂にさされた様に膨れていた。膨れたまんまで通り越したものだから、気掛りで堪らない。生涯蜂にさされている様に思う。」

理由
『夢』ならではの妙な不安感がたまらなくワクワクします
(アイ/映像制作 女 東京都)