オバマ氏広島訪問1年:核情勢、暗雲に懸念

オバマ氏広島訪問1年:核情勢、暗雲に懸念
2017年05月28日


原爆ドーム前では、ピアニストの萩原麻未さんらによるコンサートが行われた=広島市中区で2017年5月27日、山田尚弘撮影

 米国のオバマ大統領(当時)による歴史的訪問から1年となった27日、広島市中区平和記念公園やその周辺では平和をテーマにしたコンサートや市民集会があり、集まった人々が訪問の意義を問い直した。

 同公園の原爆ドーム前では、祖父母が広島で被爆したピアニストの萩原麻未さん(30)らによる記念のコンサートがあり、約800人(主催者発表)が聴き入った。

 萩原さんは、オバマ氏が被爆者と抱擁した場面のテレビ中継について「涙無しには見られなかった」と振り返った。ドーム周辺で英語でガイドをしている被爆者の三登浩成さん(71)は、今年は既に昨年の3倍の1500人以上の米国人を案内したという。「米国内で自国の歴史を見つめ直す機運が高まっていると感じる一方、世界の核情勢はオバマ政権時代とは逆の方向に進んでいる」と警鐘を鳴らした。

 公園近くでは、6月に交渉が再開する核兵器禁止条約の成立を目指す市民集会も開かれ、オバマ氏の訪問が核禁止の流れに与えた影響についてさまざまな意見が聞かれた。

 国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の川崎哲・国際運営委員(48)は「核兵器を使った国の責任者が核の被害者と向き合ったことに意味がある。プラハ演説も含め、核の非人道性の国際潮流を強める大きな要因になった」と評価した。

 一方、市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子さん(78)は「訪問時に原爆投下と無差別虐殺に対する謝罪がなく、政策上でも核軍縮は進まなかった。評価される面はないと思う」と批判し、「訪問の事実をどう生かすかは我々の問題だ」と語った。【竹内麻子、山田尚弘】

◇周辺高さ、法規制検討

 オバマ米大統領(当時)の訪問で世界的に注目を集め、より多くの観光客が訪れるようになった広島市中区平和記念公園被爆地の発信力を再認識した市は、原爆慰霊碑の背後に原爆ドームが重なる象徴的な風景を保全するため、周辺建物の高さを法規制する検討を始めた。市の担当者は「オバマ氏の訪問で被爆の実相に触れてもらう意義を積極的に捉えられるようになった」と話す。

 「核兵器のない世界を追求する勇気を持たねばならない」。昨年5月27日、オバマ氏が慰霊碑に献花し、原爆ドームを背にスピーチをする様子は、全世界に発信された。

 平和記念公園は世界的建築家、丹下健三の設計。原爆資料館や慰霊碑、原爆ドームが南北の軸で結ばれ、アーチ形の慰霊碑からは真っすぐ向こうにドームが見える。オバマ氏は資料館に約10分滞在して慰霊碑まで歩き、約17分の演説で核兵器廃絶を訴えた。

 市幹部によると、オバマ氏に先だって広島入りした米国の先遣隊は、訪問を効果的に演出するため、カメラのアングルを考え、オバマ氏が演説する位置を何度も確認した。実際の訪問で、慰霊碑の向こうに約300メートル離れたドームが見える風景が「広島を象徴する景観」だと改めて認識したという。

 ドーム周辺の建物の高さは、近くに高層マンションが建設されたことを機に市が2006年、要綱によって20〜50メートルの4段階で制限。しかし、法的拘束力がなく、より強い規制の検討が必要と判断した。

 現在、ドーム北側には黒を基調とした広島商工会議所ビル(約45メートル)があり、景観問題で移転する計画が約10年前に浮上したが、実現していない。ビルの東側にある旧広島市民球場跡地の活用方法も決まっていない。【竹下理子】

加計学園文科省「確認できない」崩さず 前文科次官発言
2017年05月25日

◇野党、一斉に反発 改めて調査要求

 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人加計(かけ)学園(岡山市)が国家戦略特区で獣医学部を新設する計画を巡り、文部科学省内閣府から「総理のご意向」と早期開学を促されていたことが記された文書について、前川喜平事務次官が「文書は本物だ」と発言したとの報道を受け、その存在を改めて調査するよう求める声が強まっている。25日の国会審議で、「確認できない」との立場を崩さない文科省に野党が一斉に反発した。

 「辞職された方の発言なのでコメントする立場にない」。25日午前の参院文教科学委員会。前川氏の発言への見解を問われ松野博一文科相は突き放した。

 質問に立った民進党斎藤嘉隆氏は、前川氏が文科省内閣府が特区認定を巡るやり取りをしていた際の現職の事務次官だった点に触れ「もはや『怪文書』として無視できる代物ではなくなっている」とし、改めて文書の再調査を求めた。だが、松野氏は「調査した結果、確認できなかった」と従来の答弁を繰り返した。

 共産党小池晃氏は、国家戦略特区諮問会議が昨年11月に獣医学部の新設を認める規制改革を決定する前日、文科省が学園の計画は「不十分」と省内でやり取りしていたことを示す新文書について「調査すべきだ」と追及。これにも松野氏は「一般的に(学部)設置に関する相談は受け付けているが、内容を公表しているわけではない。改めて調査する必要はないと考えている」と応じなかった。

 同委員会に先立つ理事会では、民進党が前川氏を参考人招致するよう求めたが、与党側が反対している。

 かつての事務方トップの発言を受け、文科省では困惑の色が広がっている。ある幹部は「(前川氏の)真意が分からないし、かつて事務方のトップにいた人間の行動とは思えない。古巣を揺さぶって楽しいのか」と吐き捨てた。

 別の職員は「部下思いで尊敬できる上司だった。後輩を困らせるようなことをするような人ではないので驚いているが、何か信念があってやっているのだろう」とおもんぱかった。【伊澤拓也】