ドイツ人はデカい ③ 街で出会った巨大な人たち

大型ドイツ人の思い出シリーズ①②参照)、を引き続き。


それは、デュッセルドルフ街中の目抜き通り、Konigs-Alle(ケーニヒスアレ=王の道)の専門店高級デパートSevens*1の角を東に折れて石畳の舗道を歩いていた時だった。

そのおじさんは、私の後ろからバイクの爆音を響かせながら、いきなり舗道に乗り上げてきた。もはや「バイク」とは呼べないくらいの、小型自動車並みの大きさのバイク、勿論BMWのエンブレム

が白い車体に燦然と輝く。

(↑こんなバイクだったと思う)
そして乗っているのは、巨大なおじさん!舗道に思いっきり違法駐車(だろう、多分)した、推定身長185〜190cmのこのおじさんは、この巨大バイクに何と上下ビジネススーツでまたがっているのだ。濃紺に白のペンストライプの背広。ブルーのシャツに何やら賑やかな模様のタイ。バイクから降りて、大股で歩きながら、頭を振り振り巨大なヘルメットを脱いだおじさんは、何と

「怪傑ライオン丸
だったのだ!・・・ではある筈もないが、上下スーツのおじさんの頭は、「サムソンとデリラ」のサムソンも斯く在らん、というほどの、濃い金茶色のクリクリ巻き毛の長髪なのだ!イメージで言うとこんな感じ↓。

これはドイツが生んだ二大バロックの大作曲家の一人「音楽の母」ことヘンデル(まあ、バッハも似たようなものですが)。勿論ヘンデルは鬘(ヅラ)だけれども、このBMWバイクおじさんのはホンモノの巻き毛だったと思う(だって、鬘かぶってヘルメットかぶったら蒸れるでしょう?)。おじさんの巨大さと余りの迫力に呆気にとられて立ち尽くす私が見送った先には・・・いました、おじさんと正に「男雛女雛」の対をなすような(そんな可愛い感じじゃまるでないけれど)又しても巨大なおばさん!典型的なドイツ大型おばさんで、先ず顔は陽灼けしていて小麦色というよりはほとんどオレンジ色、睫毛の上にマッチ棒ならぬ割り箸が乗りそうなほどの濃〜いマスカラ、スタイルは太っているけどやたら腰高でボンッ、キュッ、ボンッがスゴい迫力、これまたオレンジに陽灼けした首や手にこれでもかとばかりじゃらじゃらと重そうなアクセサリー。ぴったりの画像が見つからないのだけれど、このドイツのブランドEscada(エスカーダ)のウェブページ(Escada)のモデルがほんの30歳トシとったおばさん(推定身長175〜180cm)、とイメージしてみてください。
そして{ライオン丸+サムソン+ヘンデル}の巨大おじさんと、巨大オレンジおばさんが何を始めたかというと、ドイツの革製品ブランド「MCM」ショップ前の舗道で、熱い抱擁と左右往復3回のキッス! XXX !!!
夫婦なのか恋人なのかわからないけれど、とにかくMCMでお買い物をしている巨大おばさんのところに、巨大おじさんがBMWのバイクに乗って会いに来た、という、お互いドイツ国産ブランド愛用の気の合うカップル、というところか?ドイツ滞在中、というか日本に帰国して出会うはずもないのだが、カップルでこの迫力、この巨大さ、というのはこの二人に勝るものはなかったのであった。



大型ドイツ人と言えば、もう一人思い出されるおじさんがいる。同じくデュッセルドルフの繁華街にある「Schadow Arkaden(シャドー・アルカーデン)」というショッピングセンターの地下駐車場のエレベーターの中であったおじさん。地下2階でエレベーターを待っていた私は、地下3階から上がってきたエレベーターにおもむろに乗り込んで、正直ぎょっとした。多分私が出会った人類の中で、後にも先にも、「デカい」ということでは不倒記録のおじさんが乗っていたのである。推定身長190cm超、それ以上あるかわからないけれども、とにかく巨大!フツーのエレベーターのほぼ半分、いやそれ以上を彼の体積が占めていた。ところがこのおじさん、ダンディなのである。イギリス人だが、かのボー・ブランメルおじさん*2並みの、シブいおじさんなのである。濃紺の見るからに柔らかそうなダブルのコートにグレーフランネルのパンツ、まさに「苔色」のこれまたどう見てもカシミアのショールの隙間からは綺麗なブルーのシャツと地味なネクタイが見えている、という感じで極めつけは持ち手の細工が複雑な見るからに誂えた趣味の品、という趣きのステッキ。シブい、シブ過ぎる。
でも。でも。
如何せん、デカいのである、このブランメルおじさん。この濃紺のコートだけで、私なら2枚分、子供ならば前身頃で2枚、後ろ身頃で2枚で合計4枚のコートがとれそうな布の分量である。これくらい大きいと、服だけでなく、ハンガーとかクローゼットとかタンスとか全てのものが、「ガリバーサイズ」でなくてはならないだろうな、と想像してみたりする。私はこういう巨大サイズのおじさんを見るにつけ、森鴎外(身長161cm?)とかましてや夏目漱石(158cm?)というのは、異国の地ヨーロッパではさぞ心理的に辛かっただろうな、と思う。人間も所詮動物、本能的に自分より大きいものには、劣等感と恐怖感を抱くものだからして。
さて、この大きなブランメルおじさん、あまりにダンディなので、ダサい「いかドイツ」(いかにもドイツ)じゃないっぽいので、
「ひょっとして、ドイツ人じゃないかも、イギリス人?」
と一瞬思ったのだけれど、それは見事に外れた。何故わかったか?
それはエレベーターが地上に着いた時に、「レディ・ファースト」ではなく、自分がさっさとエレベーターを降りてしまったから。このおじさんに限らず、
ドイツ人って、全然「レディ・ファースト」じゃない!
デパートの入り口のドアだろうが、エレベーターだろうが、ドイツのおじさん、大きい小さいに関係なく、レディ・ファーストどころか、開けたドアがスイングしているのも構わずに行ってしまうので、すぐ後ろを歩いている時には要注意、である、漫画みたいに「顔面をスイングしたガラスのドアで強打」されかねないから。ブランメルおじさんもそうだったので、彼は紛う方無く「ドイツ人」だと了解したのであった。
ドイツ人、これじゃあ、ラテン男や慇懃なイギリス男には到底太刀打ちできない、いくら図体大きくとも。