double standard

平成仮面ライダーへの思い入れを語ります。現在は更新停滞中。

小説 仮面ライダードライブ 〜マッハサーガ〜


著者:大森 敬仁(監修:長谷川 圭一)
出版社: 講談社 (2016/4/21)
ISBN-10: 4063148769
ISBN-13: 978-4063148763

仮面ライダードライブの小説版は、主役が詩島剛!
単独主役がメインライダー以外というのはこれが初になりますね。『W』はそもそもがダブル主役だったのでノーカンだし、『オーズ』は短編が3つという構成でしたしね(しかしあのアイディアは美味しかった…)

表紙どうするんだろ、と思ってましたが、こうきたか。
でも、なんとなく少年漫画のラストでキーキャラの顔が空に浮かぶ構図を思い出してしまいました…なんとなく遺影っぽい…ゴホン。

さて、本編では隠し事をしていたり主役ではなかったりしたせいで、描写がさかれず、わりを食ったな〜という印象が強かったマッハでしたが。小説版で主役に据えられたのは、主役である進ノ介の物語がすでに一段落していたためもあるのでしょうが、そのあたりの後悔を消化したいとスタッフ側も考えてくれたからでしょう。
結果として、この小説、愛されてるな〜剛くん。という感想でした。
でも、その「愛」は、たとえばチェイスがVシネでたくさん表情を引き出してもらったような愛し方とは違って。
詩島剛は、みんなの弟なんだな。とこの小説を読んで思った次第です。

ざっくりとあらすじ

あらすじはざっくりと、本編終了後から2年後。
新たにロイミュードの影が見える事件が起こりだす。
剛もまた捜査に参加することになるが、その過程の中で一人の犯罪者に再会したことから、彼のエンジンに火が灯りだす……

物語の主軸となる事件は、ずばり過去のロイミュード犯罪の模倣。なので、懐かしい事件や、その時の犯人や関係者の今も語られます。
さらにそこに謎のアプリゲームが絡んで来たり、人質による声明文の発表や、脱獄したかつての凶悪犯人まで出てきて、模倣といいつつキナ臭さも漂ってきていたりと、けっこう複雑なお話になっています。
捜査ものとして手が込んでるのが『ドライブ』ですねー。

ていうか、仁良さん!仁良さんが復活だぞみんな!(そこ)

犯人の数がなにせ多い物語なので、名前だけ聞いても「誰だっけ」なんですけど、どんな事件だったか(どんなロイミュードが出て来たか)が出てくると判別がついて良かったです。

凶悪きわまる事件の中で、またしても捜査員の一人として招集された剛。
2年前からの苦い後悔を背負い続ける剛は、しかし、もうかつての迷走していた青年とは違う。
真実を見極め、最善を尽くし続ける――
はたして剛は、新たな一歩を刻むことができるのか?

みんなの弟として

という感じでお話はいつもの刑事物『ドライブ』に、小説という媒体を活かして複雑度をあげた読み応えのあるものとなっていますが、主軸となって描かれていくのは、剛の復活

というかですね、たぶん、本編ではわたしたちは彼の本領を実は見ていないんですよ。
だから、この物語で剛が立ち上がると同時、わたしたちはやっと、彼を知ることが出来る。

剛が主人公なので、彼の目線で物語は進むのですが、随所に感じるのは彼に対する他の登場人物の温かい視線。
そして、それに気づいており、応えよう応えたいともがく純真な剛の気持ち。
その様子は、これまでのほかのライダーの物語とは趣が大きく異なっています。

なんというか、剛について、未熟であるのが前提って感じがあるんですよ。
でも、それでいいんだ、とみんなが言っているように思える。
もちろんこれまでも未熟と言われるライダーもいました。でもそれは、未熟さが生み出す奇跡を肯定されているものでした。
剛の場合は、「いいんだよ」と。君にはまだ先がある、だから、もがけ、と。

この視線は何かと思ったら、「弟」に対するものなんだなー。

剛は霧子の弟として登場して、進ノ介の弟となって、特状課みんなの弟でもあるんだな。
そうすると、ある意味で子どものようなチェイスのダチになったのは、当然だったのかもしれないな。

鏡のような二人

チェイスへの後悔、マッハになった理由、そしてロイミュード撲滅になぜあれだけ執着したのか…
そういったことが明かされ、語られたことも特筆すべきことですが、この小説でなにより大きかったのは、西堀令子との再会でしょう。

剛が心の一番弱いところをつかれ、操られてしまったあの事件の犯人。
あの事件は、剛の迷走がハッキリ突き付けられる話で、しかも特にフォローもないというキツさもあったので、またこうして取り上げられることに意外な気持ちと納得の気持ちがありました。
剛を語るうえで避けられない話なんですね、あれは。

西堀令子はまた小説版での事件のキーを握る人物でもあります。しかし、令子自身もそれが何かは知らない。
面会を重ね、対話の中からそれを見出そうとする剛と、容易には心の中を見せまいとする令子の駆け引きはこの小説の緊迫感に大きく寄与しています。

令子もまた、悪魔のような父親に対し、愛憎拮抗する感情を持った人物でした。
女性だから、どうしてもヒロインみたいな立場に近いのですが、剛とのやりとりは痛みを抱える者同士が必死にお互いぶつかりあうようで、子どもが二人もがいているようで切実さのほうが大きく感じました。

この二人の物語は、きっと、この後の方に任されるんだろうな。*1

マフラーと手袋をあげるところは、ロマンチックさにというより、「彼女に温かいものをあげたい」という子どものような優しい願いにぐっときました。

あとツッコミとか小さな感想とか

剛がロイミュード撲滅を心に誓うようになったダチの話ももちろんいいんですけどね。ただ、ちょっと駆け足で話が進んじゃって。一章使ってエピソードとして読みたかったなあ。

そもそも全体としてこの小説、小説というよりも、脚本の書き方だな〜と思いました。
冒頭の飛行機のシーンが、あまりに視覚的すぎて最初めちゃくちゃ戸惑いました。誰がどこにいるかはわかるようにして!
大森P、マフラーの色くらいは描いてよ!

そして、蛮野博士の息子であったことは偶然だったんかい!
ていうか、結局仮面ライダーの資格ってなんなんだろう…

チェイスが復活はせず、ああいう形での登場になったのは、賛否あろうけどもわたしはこういうのすごく好き。
なんかね、必ず再登場しなくちゃいけないっていのは、テレビ的な縛りな気がするから。
からめ手でわたしたち視聴者の思い入れが大切にされているのが好きなんですよ。

みんなが気になっていたゲンさんとりんなさんのラブストーリーが決まって良かった〜!
お互いまったくの異業種で、だからこそお互いを尊敬できるのが良いよね。りんなさんはどうしても自分と似た人ばかりに惹かれたり出会ってしまうだろうから、ゲンさんみたいな人と出会えてよかったな〜と思う。
いやだってりんなさんのエピソード切なすぎたから…幸せになって欲しい…

その後の犯人でも立ち直ろうとしている人がいたりと、気になっていたことが聞けたのも良かったなー。

てなわけで全体に不満はないんですけど、一つだけ。
仁良さんの扱いがもったいなすぎる!!!
あれじゃ単なるやられ役じゃないすか…彼はこのシリーズの正義すら大きく揺るがそうとする、蛮野博士とは違った形の精神的なラスボスですよ…もっと思想戦の形で出してほしかった!そうでなければ出してほしくなかった!

締め

いろいろと盛り込まれていた小説ですが、わたしに特に印象に残ったのは以下の二点でした。
剛が弟であること、そして鏡のように似通った女性との心のやりとり。
それを通して、わたしは剛を捉えることができたからでしょうね。
Vシネマではこれを経てどのような物語を見せてくれるのでしょうか。楽しみです。

ってボチボチ書いてたらドラマCDまで出るんかい!剛くん(とチェイス)愛されてるな!

*1:と思ってたらVシネに出てくるそうですね。