ゼノサイド

ゼノサイド〈上〉 (ハヤカワ文庫)

ゼノサイド〈上〉 (ハヤカワ文庫)

ゼノサイド〈下〉 (ハヤカワ文庫)

ゼノサイド〈下〉 (ハヤカワ文庫)

「死者の代弁者」が3部作の2作目という雰囲気で終了し、間を空けず3作目「ゼノサイド」に突入。いや、実際はもっと続くってのは本屋で確認してますけどね。あくまで雰囲気。前作までの大まかなあらすじが少しずつフォローされているのが続きモノっぽくてよい。


それはともかく、この「ゼノサイド」は。
2作目でルジタニア粛清艦隊の出発というエンダー達に対する死刑宣告を言い渡された状態から始まり、いかにして3つの異種族(人類、ペケニーノ、バガー)が艦隊の攻撃から生き残るのかを丁寧に描きつつもなぜかビッグバンの正体まで明かしてしまうという、やや欲張ったお話となっておりました。
とにかく問題は山積、一つの種を生き残らせれば他方が滅亡するというジレンマにどう立ち向かっていくのかを、2作目で登場したノヴィーニャの子供達を中心にオールスター状態で解決していこうとします。


対する粛清艦隊は、一切その詳細が描かれず、それどころか行方不明となってしまう。艦隊を派遣したスターウェイズ議会は、惑星パスに住む神子にこのトラブルの解決を依頼し、話はルジタニアとパスの人々が交代に描かれていって最後に収束……。ウィリアム・ギブスンが初期によくやっていた手法なのでなんだか馴染み深いです。


序盤は、前作ラストで障害者となってしまった長男ミロの葛藤が目を引きました。彼の心情が詳しく書かれて、将来有望な青年が脳の麻痺によって障害を負い、さらには宇宙旅行によって妹や弟よりずっと年下になってしまったという彼の境遇はとにかく気の毒で、本人もそう思っていて、でも弟も妹も本当の気持ちは分かってはくれず、ヴァレンタインには冷たくあしらわれ。なにより元恋人オウアンダとの関係の変化が一番ショックで自暴自棄。彼が周囲に当り散らすセリフは自己チューと分かっていても「分かるよキミ」と言いたくなる。
結局終盤になるまで彼の周りの心の壁は残ってしまっていたような。最後にうわっ……という解決方法で彼は健常者に戻るわけですが、そのあとの家族との関係の変化は描かれていませんでした。最後の方は全体的に駆け足だったのですが、彼にもうちょっとスポットを当てて欲しかったです。


このミロの話だけでも1冊本が書けそうなものですが、本の分厚さに違わずそんなエピソードは数ある中の一つに過ぎません。いろんなことが順番に起きていって、種の共存を阻む最大の障壁デスコラーダウイルスへの科学的な対処、住民の避難手段としての宇宙船作成と瞬間移動の方法の発明、とにかくとにかくノヴィーニャの子供達が何でもしてしまう。こいつら天才家族だ。
なかでも一番クセモノだったクァーラとグレゴ。最後には彼らが直接解決への道を開くわけですが、とにかく周りとの仲が悪い悪い。父の代弁をしてもらって家族は打ち解けたんじゃなかったのか。ノヴィーニャの血か。何かそんな気がする。エンダーはだんだん影響力が失われていっていました。しまいにゃ妻にも逃げられ……60にもなってあんた何やってんだよ。
それはともかく。
クァーラは、終盤まで一貫してデスコラーダウイルスも会話が出来る生物だと言い張ってウイルス改造への協力を拒みます。確かに理不尽にも思えるし、疫病の病原体にも生きる権利を、と叫ぶのと同じようにも思えるけども、反面こういう見方ができる人間も必要なのだと教えてくれます。特に少数の意見で物事が進んでいくコミュニティでは、それが解決の糸口になりえる。現にウイルスの“会話”を発見したのもクァーラでした。


一方惑星パスでは。
冒頭の序文で作者が書いたように、中国的な文化、考え方が具体的に書かれます。もともと小ネタ程度のつもりがかなり設定にくい込んでくるようになった中国文化。本屋で見て「?」と思った表紙の意外なモチーフはこの事だったのですね。古代中国の偉人の教えを守る人々の描写が妙に生々しく展開されています。
神の声を聞く人々「神子」が特殊な地位にいて、彼らは地球で言うところのエンダー達のような天才として扱われている。現に、その能力は確かに高い。(←ココが腑に落ちないポイント)神子の娘チンジャオがヴァレンタインやジェインの正体に行き着いたのは、その能力の高さゆえ。その代償(?)として、神子は異常に、そして滑稽に見える浄罪の儀式をおこなわずにはいられない。この浄罪の儀式になんとも落ち着きのない印象を持ったのは、読んでるこの本がSFだからだろうか。昔の中国では行われていた事なのであろうこういった儀式も、SFという土台に経つと「なにか裏があるに違いない」と思ってしまう。そして、現に彼らの行動と、上記の「腑に落ちないポイント」には因果関係があった。


スターウェイズ議会の僕として働く彼ら。ここでも、議会の顔が見えない。ただ議会の言われるままに仕事をしていた神子たちの中に、真実に辿り着いた者がいて欺瞞からの脱却に挑む。いわばマトリックス
そんな中で面白かったのは、ヒロイン然としていたチンジャオが、周りの変化についていけずに意外な方向に邁進してしまったこと。そう、ヒロインは別にいた!
こういう展開は好物です。
だからさ、これだけで本が一冊書けるのよ。このくだりが実におもしろくて、そして最後、チンジャオの行き着いた先にはうーん……と。唸ってしまいたくなるような結末が。
「良かったとされる事」「間違っていたとされる事」がめまぐるしく逆転する……。
これはこのシリーズの共通点かもしれないけども。


とまぁ、二つの星でそれぞれ正反対の方向に進んできたお話が最後に正面衝突して……いや、惑星パスのほうが方向転換して、目先の問題は片が付いたらしい。
このあたり、技術的な問題が解決した段階でこの話は終了する。ちょっと終わりは唐突だった気がするけど、続きは次巻ってことなのだろうか。問題が解決したあとの議会の反応とか、ノヴィーニャ一家の事後の様子なんかが書かれていませんでした。
スッキリしない部分もあるにはある。この直後から続きが語られているのかどうかは知らないけど、あえて調べなくてもどうせ読むから、今はこれでよしとします。


続きも気になるけども、次は外伝「エンダーズシャドウ」に突入します。エンダーのゲームをもう一度別の人物からなぞりなおすらしい。
マリみてでいうところの「B.G.N.」だ。
上下巻すでに確保したけど、表紙がいいですね。「エンダーのゲーム」で印象的だったバトルルームの描写が。言葉だけでは想像しにくかった陣形がしっかり描かれています。
火曜から読むことにします。

しばらくは何を読むか本屋で迷わないで済むなぁ。