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 『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説

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2005-05-01 『英國戀物語エマ』第五話解説

[]『英國戀物語エマ』第五話

今週もやってきました。引き続き、作品の中に織り込まれたヴィクトリア朝的な描写や要素についての解説などを行います。今回は好きな分野が多かったので、熱が入りました。



描写の解説面で説明の都合上、描き方に踏み込んでおります。まだ見ていない方はネタばれになるかもしれませんので、ここから先は読まないようにお願いいたします。


キッチン

まさかキッチンの描写から始まるとは思いませんでした。エマさんの翻るスカートのアップは言うまでも無く。


キッチンは熱が篭らないように設計されており、建物の中でも日が当たらない北側に配置するようになっています。庭を有するような屋敷において、南側の日の当たる場所は主人たちのエリアなので、その点でも、キッチンは北にあるものでした。


ケリーの家は「水道」「流し」「調理台」「食器用乾燥棚」「陶器用棚」(陶器や銀食器、茶器やプレートなど価値あるもの?)、それに「レンジ」、中央には「テーブル」があります。この中央のテーブルは屋敷の規模にもよりますが、中流家庭レベルでは、料理だけではなく、使用人たちが食事をする場所にも使われたでしょう。


この広さのキッチンはBBCドラマ『小公子』のエロル夫人が住まわされた別邸(コテージ)や、ドラマ『名探偵ポワロ』で出てくるような、一般的な広さのものでしょうか。


ここまでキッチンや料理の風景を描かれると、嬉しくなります。今回のメニューはパイに魚の姿焼き(ヒラメ?)、スープにローストビーフ、それにパンでした。


イギリスに行った時、最も見学したかった場所のひとつはキッチンです。とはいえ色々なカントリーハウスの案内を見ていても、キッチンを見せてくれるところは限られます。


実際にキッチンへ足を踏み入れられた場所は、世界遺産・バースのロイヤル・クレッセント1番地です。ここは19世紀初頭の邸宅をそのまま公開しており、一部屋ずつにガイドのおばあさんがいるという親切ぶりです。


地下にあるキッチンは意外と広く、食器や調理器具、銅鍋などが並んでいて、飽きることなく見渡していました。他にも見学できる場所は幾つもあるはずですが、最も印象に残っています。


昨年の冬コミでポストカードを展示していましたが、あのキッチンはここのキッチンです。


インテリアと壁紙

こうしてみると、ケリーの家はかなり趣味が良いです。家の中には観葉植物や花があちこちに飾られていたり、東洋趣味的な花瓶や屏風らしきものまであります。


ヴィクトリア朝の人々は家のあちこちに写真や肖像画や置物を飾って、ある種、ごちゃごちゃした印象の部屋にしてしまう傾向があったそうです。その分だけ掃除するものも増えますが、ケリーの家も当時に倣って、いろいろと置いてあります。


博識さを示すように、家に沢山の高価そうな分厚い本もありました。


未読ですが、森薫先生が昨年5月の日記に書いていた(そして筆者にお会いした)『「インテリア」で読むイギリス小説』も参考にされているのかもしれません。正直なところ、ここまで細やかに描いていることに驚いています。


「インテリア」で読むイギリス小説―室内空間の変容


壁紙は『THE 1900 HOUSE』のエピソードが面白いです。石造りの家は百年以上も残るので、改修された家のあちこちを解体していくと、昔からの壁紙が出てきたり、使わなくなった暖炉が姿を見せたり……そして、今回のように、「壁紙を貼りかえる」描写までされていました。


カントリーハウスの壁紙には、遠く中国から取り寄せたものもあるそうですが、『図説イギリス手作りの生活誌』にヴィクトリア朝らしいエピソードが出ています。

ビクトリア朝の人たちは壁紙に対して情熱的で、あらゆる壁に貼った。当時の人は、壁紙がボロになると、その上に貼るだけで、元の紙を落とさなかった。私がペンブロークシャーの農家を買った時、6枚もの壁紙をはがしたが……(後略)

『図説イギリス手作りの生活誌』P.177 ペンキ塗りと壁紙貼りより引用


今回も、そうした文化に準じて、上から貼っていました。(とはいえ、客人が来るので臨時に過ぎないかもしれませんが)


ただ、個人的なイメージで言うと、ケリーの家の壁紙はやや明るい色調が多く、紅いイメージのあるヴィクトリア朝というよりも、それ以前のジョージ朝の明るい雰囲気(18〜19世紀初頭)が残っている気がします。それはつまり、それだけケリーの屋敷が古いという裏づけになりますが(最低でも築80年以上?)、そこまで考えているとしたら、脱帽です。


暖炉と石炭

暖房の文化史―火を手なずける知恵と工夫


暖炉についてはこの本が異常に詳しく書いています。表紙のイラストもなかなか当時の雰囲気を伝えていて、好きです。ただこの本は本当に突き抜けるほどにマニアックで、科学的なので、読む人を選びます。


読んでいても忘れることや頭に入らないことが多く、久我は選ばれませんでしたが、『名探偵ポワロ』がどうして「セントラルヒーティング」にこだわったのか、如何にイギリスの暖炉が熱を逃していたのか、その理由がわかります。


展開

『エマ ヴィクトリアンガイド』のエピソードに、1巻のケリーが怪我をするエピソードを絡めていますが、本当によく仕上がっています。今まで見た『エマ』の中で、最も原作の雰囲気に調和していて、完璧です。ここまで完成度が高い回があるとは思いませんでした。


すごいです。


関連するコラムなど

・1900年の家を再現:『THE 1900 HOUSE』

・家庭の道具マニア必見:『図説イギリス手作りの生活誌』

・19世紀の料理レシピ:『シャーロック・ホームズ家の料理読本』

・第一回目の感想はこちら

・第二回目の感想はこちら

・第三回目の感想はこちら

・第四回目の感想はこちら