ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

外伝 Let's go to London with the 'Gentleman'

日本を発ってロンドンに向かう途上、ひとりの紳士と出会いました。



「故郷へ、久しぶりに帰る途中なんだ」

口髭の似合う彼は、こう語りました。



初めてイギリスに行くことを告げると、彼はしばし目を閉じました。



「……テームズ河の対岸から眺める国会議事堂は素晴らしい。君たちさえよければ、私が案内しよう」



穏やかな笑みを浮かべ、彼は同行を申し出てくれました。これは、異邦の地に降り立つ僕らに、心強い言葉でした。





彼が案内してくれたテームズ河の岸、旧ロンドン市庁舎の前に立ち、ウェストミンスター・ブリッジ越しに、ヴィクトリア朝の建築家「アウグスタス・ウェルビー・ノーモア・ピュージン」と、「チャールズ・バリー」が建てた、ゴシック様式に包まれた国会議事堂の美しさは、息をするのも忘れるほどに美しく、ただ静かな感動が体の奥底から、湧き上がりました。



「ここで私は生まれ変わったんだ」



護岸のコンクリートの上に軽やかに立ち、テームズ河の上を通り過ぎる、柔らかで少しひんやりとした風を浴びながら、彼は感慨深げに、微笑みました。



彼が今、何を見て、何を感じ、僕らに何を伝えようとしているのか、わからないけれど、ロンドンの灰色の空を背負うような彼の背に、生きてきたその歴史を、感じるのです。





これが、彼を写した一枚です。

























穏やかな水面。

ささやかな太陽の光。

静かに通り抜けていく、午後の風。

そして、ネプチューンマン様。



そんな、ロンドンの思い出。






番外編、或いは本編

イギリスといえば?

我々の年代にとって、イギリスといえば「ロビンマスク」です。ロンドンの観光名所「タワーブリッジ」を必殺技にする、イギリスきっての超人です。



ところが、イギリスに行くと決まった時、友人二人は口を揃え、こう言うのです。



「イギリスといえば、ネプチューンマン



ネプチューンマンがケンカマンだった頃、絶望して、テームズ河(原文ママ)に飛び込んだこと、川底でビッグ・ザ・武道に出会い、そこでネプチューンマンになったこと……久我は言われるまで、すっかり忘れていました。



そんなある日、友人がヤフオクネプチューンマンのフィギュアを見つけました。



「6000円か、高いよね」

「そういえばそんなフィギュアがどこかで売っていたっけ……」



運よく、ヨドバシカメラにいたネプチューンマンのフィギュアを入手。店にはビッグ・ザ・武道もいたのですが、サイズも値段も本当にビッグだったので、止む無くあきらめました。



そして、我々はネプチューンマンと共に祖国イギリスに渡りました。



麗しのテームズ

ちょうどその日の午前中は市内観光のオプショナルツアーを利用していました。ロンドンの名所をあちこち見学できるコースで、テームズ河に行く準備は整っていました。観光バスを下り、テームズ河をはさんで、対岸の国会議事堂を見ることに。



タワーブリッジの上で撮影する話もありましたが、さすがにそれはやりすぎだろうと(英国に持ち込んだ時点で既にやりすぎですが)思いとどまりましたが、最も美しく撮影できた国会議事堂の写真が、これだけというのが泣けます。しかも、よく見ると、ウェストミンスター大聖堂の二本の尖塔まで綺麗に写っているではないですか。



しかし、悲しい話が、この後に続くのです。



悲しみのバッキンガム宮殿

撮影を終えた満足感に浸りながら、その後、バッキンガム宮殿へ向かいました。ちょうど時期がよかったので、宮殿内部が公開されていました。



チケットを買い、いよいよ宮殿内部へ、と思ったその時。



エックス線で手荷物をスキャンされた久我を、受付係の妙齢の美しいイギリス女性(金髪・青い目・『ハリー・ポッター』に似た制服着用)が、呼び止めました。



荷物の中身を確認したい、というのです。



特に見られて困る荷物なんて入っていない、と思ったものの、即座にカバンの中身に気づき、動揺します。



見て欲しくはない、見ないでくれ、……しかし、その願いは当たり前ですが、空しく潰えました。



若いお姉さんはカバンの中を丁寧に調べ、布袋の中に入っていたネプチューンマン様を見つました。その手は止まり、久我の顔を見てから、しばしうつむいて。



ぷっ。


笑っていました。



もはや、どうにもなりません。



荷物検査は念の為、もう一度、行われました。お姉さんはもう一度、控えめに袋の中身を見て、かすかに微笑み、鞄を返してくれました。



イギリスで見た、最高の笑顔でした。



悪夢再び?

それから別の日に、アスコット競馬場へ行きました。



友人は「もう一度、ネプチューンマン様を連れて行こう!」と言っていましたが、結局、ホテルに残留させました。その日、アスコット競馬場の入り口では、宮殿にいたお姉さんとは正反対の、屈強な警察官が荷物検査をしていました。今思い出しても、あのときの決断は正しかったと、思うのです……



こんな感じで、友人もこっそりコミックス『シャーリー』をイギリスに持ち込んだり、裏では楽しんでいました。



キン肉マン』を知らない方には、ごめんなさい。

ということで、旅行記は通常版に戻ります。