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2006-01-26 映画三昧

[]一難去って二難三難当たり前

と言う感じで、人生、盛りだくさんです。


[][]『クィーン・ヴィクトリア』

以下、映画のネタばれとディケンズオリバー・ツイスト』のネタばれが含まれます。ご注意ください。真面目に書くと長い……反省です。


年末のコミケ悠々アソブさんよりいただいた『クィーン・ヴィクトリア』を週末に見ました。


夫のアルバート公を亡くしたヴィクトリア女王がワイト島の「Osborne House」に篭っていて、政務から遠ざかった日々を送っている。そこへ使用人のブラウンが女王のポニーを連れてやって来て、彼の飾らない態度、女王のことだけを思う忠義の強さが、やがて女王の関心を惹き、次第にふたりの絆が強まっていく、しかし女王は公務を担う立場にあり、そこに様々な関係者の葛藤が生まれていく話です。


あらすじそのものはいろいろなサイトで扱っていると思いますので、個人的に最も重要視している風景描写・衣装描写などを中心に感想を書きます。


珍しく「女王」が主役

正直なところ、王族関連の映画・映像は今まで接してきた例が少ないです。


1:『LILLIE』(エドワード七世の愛人)

2:『フロム・ヘル』(ある意味エドワード七世の王子時代)

3:『VICTORIA & ALBERT』(結婚当時の話:手元にあり・未視聴)

4:『Upstairs Downstairs』(エドワード七世が食事に来る)


書籍でも、直接の本を読んでいません。ということで、今回の映像はそれが事実かの考証は出来ませんが、比較的興味深い内容になっています。


女王その人は「悲しみに落ち込み、公務を放っておく」「ブラウンを寵愛し、臣下を不安に陥れる」「さらに家族(王族)に迷惑をかけ、一人は父と同じ病に倒れる」など、わがままな振る舞いが目立ちます。アルバート公への想いが強すぎた、それだけ立派な人だったのです。


ただ、関連する本などを読むと女王は非常に影響を受けやすい人でもあったようなので、影響力の強い人を前にすると、弱いのかもしれませんが。最高権力者とその従者、時に起こる立場の逆転、というのは題材として面白いです。今回は特にそういう描写はありませんでしたが。


喪に服する

女王は冒頭から、喪に服しています。女王が喪服を着て残りの生涯を貫いたという話が残っているほど、女王と喪服は切っても切れません。ドラマの中では三人の侍女がいたようですが、三人とも喪服を着ていました。彼女たちが実際に「使用人」であったかは、難しいところです。王族ともなれば、彼らに仕える人々が単なる「侍女」ではなく、列記とした貴族の夫人や娘であることもありえるからです。


ヴィクトリア女王の個人生活に関しては今までほとんど関心が無かったので、使用人なのか不明ですが、彼女の近辺を取り仕切る人は「Sir Henry」と呼ばれており、宮内庁長官のような人がいたのだと思います。


ドラマの中には衣装を準備する役職のメイドが他にいましたので、単純な身の回りの世話をする侍女ではなく、取次ぎや社交の手助け、コンパニオンと呼ばれる人々に近かったのかなと。


喪服については、『十九世紀のイギリスの日常生活』において、喪服に関する様々な規定が紹介されています。使用人についても、使用人向けのルールが定められていました。


後述する、最近視聴したオスカー・ワイルド『THE IMPORTANCE OF BEING ERNEST』においても、主役の一人ジャックが自らのカントリーハウスを出発する際、彼を見送る使用人たちは真っ黒の衣服を身に着けていました。ただ、これはなかなか微妙で、ジャックが保護する少女セシリーは明るい普通のドレス姿でした。なのでメイドさんがエプロン外しただけなのかもしれません……


十九世紀イギリスの日常生活


食事のシーン

イギリスに旅行して思ったのが、「意外と料理は音を立てて食べる」ことでした。スープを音を立ててすするという話ではなく、「ナイフやスプーンやフォーク類が、皿にあたる音」で、今回のドラマの中でもそれは緊張感を高める意味、静けさを強める意味で使われていたようです。


映画の中では、「上位者がコース料理の皿のひとつを食べ終えると、すべて下げられる」ところも描写されました。同人誌の使用人の食事の解説で話しましたが、執事がナイフとフォークを置くと料理が下げられる、故に幼い使用人たちはそれまでに必死に目の前の食事をお腹に詰め込まなければなりませんでした。


何事もすべてにおいて共通するルールではないのですが、今回のドラマの中、女王の最初の食卓は、女王のこうした振る舞いによって食事があっさり終わっていました。当然、育ち盛りの子供は階下に食事を求めていくことになるでしょう。それを見越して、優しいメイドさんが準備してくれればいいなぁと。


階下

今回のドラマの目玉の一つは、「階下」も主役になっていることです。主人公のブラウンは「女王付き近侍・主馬頭」とでも言うべき立場ですが、使用人です。彼は女王の命令以外は聞く気が無く、事実そのように振舞った点で、主人の管轄下にあった「上級使用人」と言えます。


映画の中では使用人たちがホールで食事をする場面があります。このホールはやや狭すぎ、また収納できる人員も限られていることから、あまりいいシーンに仕上がっていない気がしました。より年齢が若い使用人は席につけず、もっぱら給仕をするのかと思いましたが、そういうわけでもありませんでした。


「女王からの関心を集め、王族以上に意見を尊重される」点で、「階上の秩序破壊者」となったブラウンが、階下でも『女王に最も大事にされている』と言い張り、序列的には上座に着くべき執事の席に居座ったのは、それっぽいエピソードでしたが、男女使用人を分けて座らせていなかったり、さらに上級・下級の席次もその上座のエピソード以外に、配置を見る限りは特に無いようで、強いこだわりは感じませんでした。


ブラウンが他の使用人の席を奪うのはいいのですが、そのエピソードを際立たせるには、使用人が如何に「自分たちを階級の中で評価するか」の描写が、より必要だったのではないでしょうか? エピソードとして面白い分、ちょっともったいない感じがしました。


メイドさんがいっぱい

実はこの映画、メイドさんがいっぱい出てきます。ナースメイド、レディーズメイド、ハウスメイド、延べ人数で言えば40〜80人ぐらいは出ています。比較的若いメイドが多く出ていますが、強いて言えば、あわただしくウィンザー城に向かう女王を見送ったメイドさんが、風にはためくエプロンを押さえていた描写でしょうか? もしかすると錯覚かもしれませんが。


階下の現実

今の世の中もそうですが、人間は嫉妬深いものです。寵愛を集める者に対して嫉妬に似た感情を抱き、攻撃する。ブラウンもその対象になりました。ブラウンの場合、「オレだけが女王の理解者だ」「女王はオレだけを友と呼んでくれる」と、「主人・使用人」ではなく、「君主・臣下」のような関係を誇りにして、他者に優越感を示していたので、闇討ちに遭い、大怪我を負います。


さらに職務熱心な彼は各使用人を責任者として部署を決め、戸締りを命じていましたが、侵入者に対してのブラウンの反応を階下全体は冷笑しており、温度差がなんとも言えませんでした。人間、無視されるより、笑われる方が辛いともいいます。威張りくさっているブラウンへの、使用人が溜飲を下げる瞬間だったのでしょう。


使用人はセキュリティ・ホール

ただ、ブラウンの懸念が杞憂であるとはいえません。万が一を起こさない、備えるのがプロフェッショナルです。使用人の存在そのものが屋敷にとって「セキュリティ・ホール」になるのは、十分にありえました。彼らは自分の血縁を招き入れたり、知己となった出入り商人を勝手にもてなしたり、外部の情報・資材を持ち込む人々を、主人の許可無く屋敷の内部に招きいれました。


そういうところで関連しそうで有名な小説は、今週末に映画が公開される『オリバー・ツイスト』だったような。この小説の中で、記憶が正しければ、オリバーは屋敷に入る手引きの協力をさせられた気がします。結局、間違って内部の人に銃撃されましたが、使用人が外部の人間と結託し、強盗に協力する可能性はゼロではなく、多くの主人たちが使用人に身元保証を求めた背景のひとつにもなります。


時代劇を見ても、押し込み強盗は「賭博や酒で借金のある使用人が手引き」とか、「身分を装って入り込む、裏切る」とか、洋の東西を問いません。とはいえ、実際の事件としては少なく、多くの使用人が普通に働いていたのは言うまでもありません。


この辺り、当時の犯罪事情に興味のある人は『ヴィクトリア朝の下層社会』(絶版)をオススメします。十九世紀の犯罪マニュアル的な内容で、上述した内部の手引きの話なども紹介されていたかと。


映画『オリバー・ツイスト』公式サイト


オリバー・ツイスト (トールケース) [DVD]

BBCでドラマ化したときのもの


参考資料

最後に、このドラマの中、女王はあわただしく移動しました。その辺りについて『THE 1900 HOUSE』や『MANOR HOUSE』をアメリカで放送したPBSのサイトに、情報が出ていましたので、ご紹介します。


映画『クィーン・ヴィクトリア』(Mrs Brown:原題)


1:Windsor宮殿

2:Balmoral

3:Osborne


ヴィクトリア女王は三つの住まいを行き来していた。ウィンザー城と、ふたつの休暇用の住まい―バルモラルとオズボーンです。ウィンザー城では、女王に多くの使用人が仕えていました。その中には、専任の外科医や秘書や、シェフたち、それにメイドも含まれていて、彼らは女王の満足の為に、奉仕していました。


上記、URLより冒頭のみ抜粋

この後、ウィンザー城は「フォーマル」「ルールが厳しい」「普通の宮廷」のような状況で、この映画で最初に女王が居たBalmoralは対照的に「形式にこだわらず、使用人と王族が一緒に座ったり、話したり出来た」雰囲気だったと解説されています。それ故に『ジョン・ブラウンがウィンザー城に来た時、その文化と衝突するのは避けられなかった』と記されています。


映画の中、野放図なブラウンが「締められた」のは、ウィンザー城でした。こういう温度差を知っておくと、映画が面白かったかもしれません。総じて王族、それも女王と言う光の当たらない人を主人公に、そして地味に使用人登場シーンが多かった、個人的には好きな映画でした。悠々さん、ありがとうございました。


脈絡も無く、書き連ねました。次回はオスカー・ワイルドのDVD『THE IMPORTANCE OF BEING ERNEST』の予定です。なぜかコリン・ファースがお茶目な役で出演していました。そして、今回、ヴィクトリア女王を演じたJudi Denchも……