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2006-02-05 何気なく舞台巡礼をしていたようです

[]『エマ・アニメーションガイド』vol.2

エマ・アニメーションガイド (2) (ビームコミックス)


2巻の完成度は高い

続刊が出たので買いました。前作は正直なところ、本単体のレベルが十分ではなく、アニメを見ながら、或いは見た人が読むべきもので、「この本だけのための企画」が薄い内容でした。設定資料、特にこだわったという建物の内装や、屋敷の構図、街並みなど、そうした部分を期待しましたが、DVD初回特典に内容を譲ったのか、ほとんど何も無い感じでした。


欄外の森薫先生や村上リコさん、そして監督のコメントを読み進めるという体裁はそれ以上でも、それ以下でもなく、どちらかというと製作スタッフサイドに立った構成、伝え方をしていました。


しかし、今回の本はそうした反省を踏まえてか、アニメを見なくても楽しめる企画が幾つか入り、本としての完成度が上がっていました。前回より、コラムの内容も密度が高い気がします。


注目箇所は二箇所です。ひとつは「取材旅行記」。


『エマ』のアニメはこうして作られる

『エマ』のアニメ版はきちんと取材して作っており、もちろん、それによって「シナリオより、忠実に舞台を再現すること」が目立ってしまう面もありましたが、今回のこれは、どのようにしてあのアニメの背景が作られたか、どういう視点で『エマ』の世界が描かれたかが、記されています。


重要なのは、「視点」です。同じ場所に行っても、同じ風景を見ても、何を軸に見るかで世界はまったく異なります。『エマ』が好きだった理由のひとつは、「その視点」の独自性、丁寧なところにありました。今回の旅行記で、ある程度、それは担保されているように思います。


暖炉

そして今回のオリジナル、巻末の森薫先生書下ろし「暖炉」。森薫先生も紹介している『暖房の文化史』は、過去に紹介済みですが(暖炉と石炭)、暖炉は、その設計で寒暖差がありました。


設計は「なんとなく」出来るものではありません。石炭を燃やすことで、「暖かい空気は中に残し、煙は外に出す」。矛盾する命題をきちんとクリアできないと、暖炉はただ石炭を燃やすだけ、部屋はいつまでも暖まりません。というような話が、延々と記されている本です。


森薫先生がコメントされているように、表紙の絵は素敵です。この風景が好きだったので、久我は同人誌の短編集の中で使いました。(『ブリキのトランク』)ことこと煮込んだスープを食べたいものです。


暖房の文化史―火を手なずける知恵と工夫


さて、暖炉が重要なのは、メイドの存在意義を高めた点にもあります。過去にコラムで書きましたが、イギリスの暖炉は「石炭」を使います。石炭は煤が出るので、メンテナンスが重要になり、手入れを怠ると、錆びました。また、部屋の中にも悪影響を及ぼすので、裕福な家は「薪」を使いました。


家の中の掃除だけではありません。レンジや銅鍋、キッチンでも石炭はその煤によって存在感を発揮し、メイドの仕事の大半は煤掃除といっても過言ではありません、とまで強く言うのは抵抗がありますが、半分ぐらいは煤との戦いだったでしょう。


そして、一歩踏み込めば、この煤は「煙突の中」にも溜まりました。そこで登場するのが、煙突掃除夫、世界名作劇場でアニメにもなった(国は違いますが)『ロミオと青い空』が主題としたものですね。当時のルポ作家であるヘンリ・メイヒューの『ロンドン路地裏の生活史』にも出てきたかと。


現実の話はさておき、こういう、森薫先生の「好き」を描いた絵が見られたのは、ファンとしてとても嬉しいです。アニメ版や6巻など、最近の『エマ』は「ヴィクトリア朝の再現」が先行して、「どこが森薫先生の好きな箇所・描写なのだろう?」とか、「生活の風景」とかが、過去に比べると抑制されすぎているように思えました。


今回のこの「暖炉」はわずかなページ数ですが、人が「どうしても描きたくて描きたくて仕方が無くて描く」というふうな雰囲気が伝わってきました。


ごちそうさまでした。


3点目? やっぱり好きなものは似ている

個人的に最も胸にきたのは、P.35の「えんじのモスリンの由来は」という箇所です。エマがえんじのモスリンのドレスを着ているところを解説した森薫先生、そのイメージとして『愛の若草物語』のジョーを挙げていました。


そう、久我も『愛の若草物語』のファンなのです。むしろ、あれによって19世紀に導かれました。あの緩やかなラインのスカート、暖かい生活のイメージ、そして登場する食べ物。


ベス>ジョー>エミィ>メグというランク付けだった久我は、大学時代、興味を持って、『若草物語』の年表と、そこに登場する食べ物のリストを作りました。失敗した料理とか、ライムとか……


『続若草物語』を買ったものの、時間軸が分からなかったのも、リストを作った理由です。久我の興味を満たす本は当時存在せず、結局、小説の中の読解だけで終わりましたが、それが『ヴィクトリア朝の暮らし』制作に繋がっているのです。


同世代で似たようなものに興味を持つには、共通のルーツがあるんだなぁと、驚いた次第です。多分、久我の同人誌の読者の方の中にも、ハウス『世界名作劇場』が大好きな方は多いと思います。


ジョーンズ邸のモデルKenwood House

小説版で「ハムステッド」と言及されていたので、モデルにするとしたらKenwood Houseぐらいしかありませんが、今回の本の中で、明確にモデルにしたと言及されていました。2005年の旅行で久我は訪問していますので、興味のある人はどうぞ。(あやうく遭難しかけましたが)


2005年旅行記・2日目


部屋の構造は記憶が曖昧なのですが、設定資料のキッチンは、そのままKenwood Houseの構図をしているようです。


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