ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん このページをアンテナに追加 RSSフィード


AMAZON『英国メイドの世界』へ  ■講談社より刊行しました! 屋敷の暮らしと使用人の仕事が分かる『英国メイドの世界』
 -屋敷で働くメイド・執事の仕事が分かる資料本『英国メイドの世界』:第一章の試し読み開始
 -出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」

 ■英国ヴィクトリア朝・屋敷や貴族関連の資料/映像をお探しの方にオススメ
 『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説

 -SPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]更新中




2008-03-24 人の心は、変わっていく

[][][]『Under the Rose』5巻感想「疑うこと、信じること」〜貴族とメイドの織り成す最高の世界

結局、読み終わった余韻が忘れられず、なんとかこの作品の魅力を言葉にしようと、ブログに向かい合っています。


結論から言えば、「ここまで使用人の世界を描き、また噂に支配される社交界を描けた作品は皆無」、ということです。


正直なところ、『Under the Rose』の作品としての完成度は、群を抜いています。この作品がネット上で爆発的な評判を得ていないこと自体、信じがたいことです。それこそ、「人の噂が当てにならない」と言うこととも似ていますが。


物語の密度、描写、イラストのひとつひとつに込められた重さ。読む人によって、読むときの心境によって、そこに見える姿は異なってきますが、今回、様々なシーンに心が震えました。胸に響く台詞も多く、電車の中で読まなくてよかったです。


久我は、数多くの使用人の資料を読みました。比喩ではなく、日本で五番目ぐらいに使用人には詳しいつもりです。しかし、船戸先生の描く使用人像、存在感、距離感、貴族的な価値観はそうした知識だけでは到達できない、「人をよく知っている」作家だけが到達しえるレベルで、感嘆し、自分では絶対に見えない世界だと感じます。


あまりにも美しく魅力的に、真似しがたい価値観を提示し、その世界に生きる人間を描き出して、人間の強さも弱さも醜さも、美しさも、すべてが描かれていて。


作品としての完成度が、一段と高くなっているように思えます。そこに余分な雑音は無く、あるのは家族と使用人、それに生きる人間たちの姿。壮大なストーリーでもなく、倒すべき魔王も、世界の危機もありません。それでも、ただ人を魅せていきます。


過去に、最大のミステリは人の心、と書きました。第4巻までを読み終えた時点での感想は、「人の心は、迷宮の森のよう」というものでした。


誰が何を言っているのか、わからない。


その言葉が本当なのか、わからない。


目の前にいる本人と、人から聞くその人の大きな相違。


登場するキャラクターの行動原理が、まったくわからない。


そうして森の中をさまようように進んできた物語も、今回の5巻で少し趣が変わります。それは、公式サイトで公開されていた表紙からも感じられたことです。しかし、テーマは同じだと思います。


人の心はわからない、だからこそ、その真実を知りたいと思ったのが第4巻でしたが、「何かをきっかけに、変わっていくわからなさ」、そうした人の心を描き出したのが第5巻だと思います。何かをきっかけに、人は変わっていく。


噂に翻弄されず、自分の目の前に見えた姿を信じる。


逆に、描写された姿に翻弄され、騙されているのではないかと、まだ不安もある。


しかし、信じることで相手が変わることもある。


最終的には、「人を信じることも、疑うことも同じ」だと思っています。結局、「信じるのは信じる根拠を信じる」、疑うのは「疑う根拠を信じる」、両方「信じる」ことに変わりはありません。であるならば、出来る範囲とはいえ、信じてみたいものです。


暖かな世界を信じ、ひっくり返される。そうした展開の中、「今度は信じていい?」と、読者の心を、様々に揺さぶってくれます。しかし、そうした思考も、「物語」に毒されているのかもしれません。


そうした読者の心を抉り出すように、老婦人の言葉は胸に突き刺さります。対象をありのままに理解するのは難しく、結局、自分の理解できる範囲にまで対象を引きずり落とす、のもよくあることです。


真面目すぎる題材を扱いながらも、その美しい作品世界とイラストで、読者を導いてくれる、そして愛すべき楽しい描写も織り交ぜ、人の虚実を描き出していくその構成力には驚くばかりです。とても心地いい時間、しかし同時に、まだ久我は船戸先生を疑っています。この後、どういう展開で落としてくるのか、と。


でも、この心地いい時間の先にある幸せな結末を信じたいです。この『Under the Rose』と言う作品はどのような終わりを迎えるのでしょうか? 今後、翻弄されても、構いません。もっと、この世界を、キャラクターを、見ていたいです。


今回はアイザック、メイドのメアリ、アーサーの優しさ、それにウィルとレイチェルの表情が素晴らしかったです。子供たちのいたずら描写、そして最後に登場したライナスも。さらに付け加えるならば、ローズは相変わらず最高です。


ローズみたいな存在感あるキャラクターを生み出された時点で、久我はもうメロメロです。そういえば、あの喋れない三つ編みのメイドの女の子はいずこへ……ゲストが来ているからへましないように、奥に引っ込められてしまったのでしょうか?


Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)

Under the Rose 5―春の賛歌 (バーズコミックスデラックス)



余談ですが、そうしたテーマを作品で伝えていればこそ、画像の無断転載について(船戸先生のブログ)、このように書かれているのかもしれません。


関連するサイト

[あんだろ]5巻「友情!乙女編」発売日です(船戸先生のブログ内での配信告知)


『Honey Rose』公式サイト


当ブログ内での『Under the Rose』検索結果


当ブログ内での『Honey Rose』検索結果


トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/spqr/20080324/p2