- 作者: 貴島吉志,AKIRA
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: 文庫
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感想というほど立派なものは書けないのですが、主従関係(主人とメイドという概念だけではなく)をしっかりときれいに描いて、読後感が気持ちいい作品でした。ラノベ読むのは久しぶりでしたが、短時間でしっかりと満足できるのは、いいですね。
アクションの描写も、さすがです。
ところどころ思春期の若者を刺激しそうな要素が盛り込まれつつ(AMAZONのレビューの方が的確で、納得してしまったので感想を書きにくかったというのもあります)、それでも氷山の一角的な何かを感じつつ、テキストもギミックもきっしーさんらしい小説でした。
メイドが好きで、カタルシスを得たい方にはオススメです。「存在理由」という点では、武士道的でもありますね。
たまたま、何を思ったか『銀河英雄伝説』を5月末〜6月頭にかけて見直しました。ヤン提督の命日(06/01)と重なるタイミングだったのが奇縁ですが、キルヒアイスを久しぶりに見ると、もう泣けてきます。いい子です。初めて見た時は年上だったはずなのに……
そこでの主従関係の形を考えたときに、「自分を分かってくれる人・存在理由を与えてくれる人」というのは、大切なのだなぁとつくづく思います。キルヒアイスはラインハルトに人生を捧げて生きる充足を得ていましたし、ラインハルトはキルヒアイスに生きる場所・必要を、与えていました。
きっしーさんの小説でも、それを考えさせられました。
最近読んでいた資料本の中に、あるスカラリーメイドの話があって、「おばあさんの屋敷に勤めていた」「娘(語り手の母)がイギリスに戻ってくるので、そこで料理しなさい」と言われて、30年間でしょうか、そのままコックとして勤めてしまったというエピソードがありました。
人生を捧げる、というのに十分な期間です。他にも、面白い執事もいました。今まではキャリア志向の執事ばかり見ていましたが、彼は地元に人がいないから若くして採用され、転職もせず、生涯勤めました。多分、転職なんていう選択肢を知らなかったのではないかと。
そんな働くという観点でいうと、「安心して、何十年も働ける環境」を使用人たちに与えられた人たちも、すごいと思います。屋敷を長く存続させるには、何かがないといけません。その何かは個人によって異なりますが、日本にも、そういう時代があった気がします。
かつては武士が藩主に仕えた終身の主従関係(藩からの異動はほとんどなかった:但し家を守るための運用自体には凄惨なことも多いし、生まれに左右されすぎますが)、そして日本企業の特徴といえた終身雇用制度。終身雇用は擬似的な主従関係を作り出していたのかなぁと、ふと思いました。
数十年を安心して何かに捧げられるって、生きる上では強いです。「安心して働く足場の有無」で、考え方や生産性に差が出てくるのではないかと。
その環境だけに依存することは弱さかもしれませんし、よく言われる「蛙は水からお湯へと温めていくと、逃げ出すことが沸騰に近づいても逃げ出せない」というふうに、その環境が壊れる時の危機対応能力が失われているかもしれません。
しかし、ある種、自分の生活を守ることを考えなくていい環境、そこに縛られて逃げ道がなくなることも意味しますが、そういう対象や環境を自分で作れた人は強いと思います。
それが何なのかはまだ見えていませんが、永遠ではないにせよ、そういう何か安心できるような揺ぎ無い「場」というのは、作ってみたいですね。