ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん このページをアンテナに追加 RSSフィード


AMAZON『英国メイドの世界』へ  ■講談社より刊行しました! 屋敷の暮らしと使用人の仕事が分かる『英国メイドの世界』
 -屋敷で働くメイド・執事の仕事が分かる資料本『英国メイドの世界』:第一章の試し読み開始
 -出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」

 ■英国ヴィクトリア朝・屋敷や貴族関連の資料/映像をお探しの方にオススメ
 『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説

 -SPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]更新中




2010-11-23 明日から

[]日本ヴィクトリア朝文化研究学会第10回全国大会の参加・感想

2010/11/20(土)に名古屋大学で開催された学会の全国大会に参加しました。細かく書くと長くなりそうなので、ざっくりと。概要理解が間違っているかもしれない点はご容赦を。自分の領域以外は基本的に知らないことが多いです。


1.研究発表

会員の方による研究発表が2つの教室に分かれて行われて、今回は第一室の発表を聞きました。


1.19世紀中葉イギリスのホメオパシーにみる医療の権威

ホメオパシーを巡る議論はネットでよく見かけますが、そのホメオパシーが19世紀イギリスでどのように受容されたのかの研究概要です。流れとしては以下のような理解です。


  1. 18世紀に既存の医療概念(ギリシャ医学・四体液説)が揺らぎ、その中で生まれてきている。
  2. この時期に登場したいくつかある新しい医療概念で、その後、生き残って現代に継続。
  3. 受け入れた地域では他に医療機関がなく、概念の是非より必要性が重視される。
  4. 貴族や地主の慈善活動として支持を受ける。
  5. 正統な医療教育を受けた人たちがメンバーで、ホメオパシー以外の治療も行う。


正統的な医療とホメオパシーのいずれも地域社会の支援に依存しており、医療を受ける側はそれほど両者の違いを区別していなかったことや、慈善の支持を取り付けることが医師のキャリア形成・社会的成功に繋がるとの話は印象的でした。


2.視覚化への欲望――観光と文学

文学で紹介されたり、モデルとなったりした現実の場所を、観光客が「観光」していく19世紀の消費行動の発表でした。日本では映画、アニメの撮影舞台を訪問する「聖地巡礼」的な行動がありますが、それらと重なりが感じられました。私自身、英国旅行時、ドラマの舞台を訪問しました。


  1. 文学を介した再生産:ある作品の舞台を別の作品が参照して、さらに別の作品が的な。
  2. ガイドブックの影響:これが面白かったです。
    1. ディケンズの舞台、サッカレーの舞台など。
    2. スコットランドでは詩人ロバート・バーンズとウォルター・スコット縁の地
  3. 作家の作品から「視覚化・体験」の欲望が喚起される話。


この辺りは、以前、英国における貴族の屋敷の観光地化を調べた際の重なりを感じました。元々は宗教的な意味での聖地巡礼、聖遺物の観光などがエリザベス一世の屋敷訪問があったことや屋敷に美術品が収集されたりする中、屋敷とその庭園が観光地化し、ガイドブックが登場するようなトレンドが生じました。


今回の発表で言及されていたHorace WalpoleのStrawberry Hillはまさに作家が自分の作品の舞台を具現化した屋敷で、入場料を徴収したハウスキーパー(基本的に貴族は慈善目的以外では長く見物料を取らなかった)は相当お金を蓄えたとのことです。


視点としては「小説の舞台を消費する行動」や「小説そのままのイメージで建物を建てる消費」行動では、ディズニーランド的な消費も含まれるでしょうか。


3.イザベラ・バードのアジア紀行をめぐって

世界中を旅して開国した明治日本を訪問したことでも知られるレディ・トラベラー、イザベラ・バードの生涯と、彼女が見た日本やアジアなどについての発表でした。個人的には彼女がどのように旅行資金を得ていたのか、興味がありました。かなり旅行記が売れているようなので、プロ作家として食べていけたのでしょうか。


特別研究発表「ヴィクトリア朝建築の詩学――桂冠詩人が守った街並み」

桂冠詩人John Betjeman(1906-1984)の紹介と、彼の建築における美学や、ヴィクトリア朝建築や郊外住宅の景観を評価する動きを軸に、ネオ・ゴシックや新生ネオ・ゴシックなどの建築様式の紹介がありました。Betjemanは建物に対して美学を持った表現を行い、実際に建物や景観の保護運動にも参加していたとのことです。


特に面白かったのが、「建築に対する好古趣味的偏見への批判」です。あえて古く古く作ろうとするのではなく、その時代にあった様式で作っていく、修復でもその時代ごとの様式が混在して構わないとの考え方や、そして建築素材はその土地界隈で算出するもの(材料工学という言葉があるようです)や、景観もその土地にあったものとするなど、「現在を生きる建物」を重視しているような視点です。


カントリーハウスを研究されていた田中亮三先生も、人が住まず、観光地化してしまった屋敷よりも、建物は人が住んでいてこそ魅力的であって、生活の匂いがそのまま残る(たとえばキッチンで料理が作られている)屋敷がいいとお話になっていたことを思い出しました。


他、中流階級における郊外住宅の話はヴィクトリア朝を支える中流階級にかかわるのですが、この辺りは新井潤美先生の『階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見』(ASIN:4121015894)が詳しいです。


個人的にはJohn Betjemanが「エイサ・ブリッグズとともに設立したヴィクトリア朝協会」について興味があります。ヴィクトリア朝への歴史的な評価は時代によって変遷しており、「大戦を引き起こした」的なトーンで非常にネガティブに扱われた時期もあったと聞き及んでいますが、現代ではそれほどネガティブでもありませんし、1960〜70年代の家事使用人(英国におけるメイドブーム)にも連結する印象があるので、この協会の活動の影響を知りたいと思った次第です。(協会の歴史


これとは別の機会に、学会の副会長となられた井野瀬久美恵先生が、最新の学会誌で紹介した書評のお話をされていて、書評対象の本の中で英国における「ヴィクトリア朝」の見方の変遷が書かれているとお話されていたのを思い出しました。


これは買って読もうと思います。


The Cambridge Companion to Victorian Culture (Cambridge Companions to Culture)

The Cambridge Companion to Victorian Culture (Cambridge Companions to Culture)



以下、後日更新予定です。


シンポジウム

アームストロング砲と幕末・維新
ヴィクトリア朝英国におけるJapanismとmedievalism
大英帝国の航路から見た横浜居留地――人種交流
結核の世紀、19世紀の日英


トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/spqr/20101123/p2