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AMAZON『英国メイドの世界』へ  ■講談社より刊行しました! 屋敷の暮らしと使用人の仕事が分かる『英国メイドの世界』
 -屋敷で働くメイド・執事の仕事が分かる資料本『英国メイドの世界』:第一章の試し読み開始
 -出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」

 ■英国ヴィクトリア朝・屋敷や貴族関連の資料/映像をお探しの方にオススメ
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2011-01-16 出来ることを増やしていく

[][]出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること

私は、2010年から電子書籍関連を調べてテキストを書いてきました。個人での表現活動を同人で10年以上続けた立場から、電子書籍によって得られる表現機会の広がりに関心を持っていたからです。しかし、昨年11月に講談社から『英国メイドの世界』を刊行したことで、書店の現場や本を売ることに意識が向かい、多くを考えました。


今回のテキストでは、初めて本を出す著者の目で見た現状と、これまでの同人活動の体験から書店販売を相対化し、著者が出来ることを広げ、「本の刊行時、著者としてやってきたこと」という話に繋げたいと思います。


これから全5回ぐらいで、私が初めての出版に際してどのような情報で判断を行い、行動してきたのかを、公開可能な範囲で書いていくつもりです。自分の体験を記録し、考察して、他の人の参考になるかもしれないので発表するというのは、半ば趣味みたいなものでもあります。


目次

  • 0.前提情報:刊行した書籍:『英国メイドの世界』について
    • 0-1.コンセプト
    • 0-2.メリット
    • 0-3.想定読者
    • 0-4.現状認識
  • 1.著者にできることを探す
  • 2.著者である私がアクションを行う理由
    • 2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい
    • 2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す
    • 2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために
    • 2-4.「育ててくれた環境」への恩返し
  • 3.今後の更新予定


0.前提情報:刊行した書籍:『英国メイドの世界』について

最初に、どんな本を作っているかの紹介です。今回のテキストも異なる形での「本の伝え方」になるでしょう。こうしたテキストを書く動機は、後述しています。


英国メイドの世界

英国メイドの世界



0-1.コンセプト

「メイドに興味がない」けれども、「メイドに興味を持つかもしれない人」に向けて作っています。詳しさと分かりやすさのバランスを重視し、敷居が高い「学術書」にはしないように心がけています。


0-2.メリット

1・本として読んで楽しい。

2・読後は「世界を見る目」が変わり、読書や楽しみの幅が広がります。


0-3.想定読者

初期の想定:メイドや英国ミステリ、屋敷が好きな方。

長期の想定:過去の時代の「働く人」や「仕事・業務」に興味を持つ方まで。


0-4.現状認識

このレベルの類書は少なく、読んで役立ち、ゼロからでも楽しめる本です。しかし、値段がいきなり読むにはやや高く、分厚く、敷居が高くなっています。直接会話をすると興味を持ってもらいやすいのですが、仮に楽しめる方であっても、「資料本・辞典=関係ない」と思われて、「必要ない」と手にされないこともあります。


また、実際に興味がある方でも、発売して1か月経過後に刊行した情報が届く様子も見ているので、多分、まだ私の本の存在を知らない方も多くいるはずです。


この2点から、「本の存在を認知してもらう」「本に興味を持ってもらう(実は興味を持ち得る「自分」に気づいていただく)」というのが課題です。


1.著者にできることを探す

同人誌、出版社からの販売(それに電子書籍でも同じでしょう)含めて、元々のブランド力や筆者の知名度、話題性や強力な同時代性がない限り、本は読まれるどころか、見つけてさえもらえないでしょう。「見つけてもらえない本」は、存在しないも同じです。


ではどうやって、読者となりえる方に見つけてもらうのでしょうか?


私はこれまでに、コミケを代表とする同人誌即売会で読者の方に直接お会いし、「自分の手で本を頒布する」経験をしてきました。これほど楽しい経験はありませんし、本の存在に気づいてもらうため、本を読んでもらうために試行錯誤してきました。しかし、講談社からの出版に際しては、販売は書店の方々に、印刷から流通までを出版社の方にお任せする状況がスタートでした。


それでも、著者にも出来ることは多く有ります。それは、「どうやって本を見つけてもらうか」「どう出会いの機会を作るのか」を考え、「ウェブで情報を出していく」、「店舗で売る方の支援に繋がる情報を出す」、この2点だと考えています。


情報の出し方は「本の内容紹介」に留まらず、たとえば『英国メイドの世界』を一定数扱っている全国の書店情報(2010/11/15)のように、ネット在庫が一気に無くなった際には出版社の編集・営業の方々の協力を仰いで「在庫が多い書店リスト」を案内したり、書店フェアを行ってくださっているお店を啓文堂書店三鷹店様にて関連書籍フェア(2010/11/23)と紹介したり、幅広い伝え方をしています。


2.著者である私がアクションを行う理由

なぜこうまで著者がするのか、疑問に思われるかもしれません。そんなに本を売りたいのかと。私は折角刊行した本が、その本を欲する読者の方々と出会える機会を最大化したいと思っていますし、本を「生き延びさせる」ために必要だと考えています。


「著者の私が積極的にアクションを行う」主な理由は4点です。


2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい

2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す

2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために

2-4.「育ててくれた環境」への恩返し


以下、詳細をお話しします。


2-1.読者と出会う「接点」を広げることが楽しい

私は同人活動を通じて、多くの読者の方々にお会いしました。「英国の屋敷・メイド・執事」というテーマを好きな方に向けた本を作っていましたが、同人イベントで出会う方の関心の持ち方の多様さを学びました。「本と人との出会い」は人の数だけ存在し、同時に、「伝え方を変えれば、本はより多くの人と出会える」のを教わりました。


『英国メイドの世界』を始めとして、私の扱うテーマは領域が広く、多くの人の中に、既に「興味を持ってもらえる可能性がある」と思います。その方たちが既に持つ、顕在化していない関心を響かせるような伝え方をすることが、私の持ちえる手段です。


「本と読者」が出会うそこにも、数多い物語があります。「本を、まだ見ぬ読者にどう読んでもらえるか」、その「出会い」を考えることが、私は本を作るのと同じくらい大好きです。「全く関心がない人に読んでもらうために注意を引くこと」ではなく、「読者として本を楽しめるかもしれない可能性を持ちながら、本人が自覚していない」方にどう気づいてもらえるか、という考え方です。


その意味では、成功していないことも多いですし、できることすべてをやり尽くしてもいませんが、出版では同人以上に出会いの機会が求められるので、まずここを楽しんでいます。


2-2.出版を決めてくれた編集部に恩を返す

「出会いを楽しむ」とはいえ、出版は趣味ではありません。元々、『英国メイドの世界』は今まで講談社BOX編集部が出したことのないカテゴリの本で、作業負荷も高く、製作に膨大な時間を必要としました。会社業務として出版を捉えた場合、評価は数字でされます。多くの方がかかわった「仕事」が評価を受けるためにも、また「出版してよかった」と編集部に安心してもらう意味でも、数字は必要不可欠と考えました。


基本的に出版では、刷った部数で著者の印税が決まります。「どれだけの冊数を売り上げたか」に著者は責任を持たず、在庫リスクを背負いません。しかし、私は上記の理由や同人時代の楽しみから、数字を伸ばす=読者と出会う工夫への関与を決めていました。


この手の資料本は「薄く長く売れる」とも言われましたが、知名度の無い本が一番売れる可能性が高いのは、話題性がある「新刊」の時期だと私は判断し、また初動で数字を出せれば、その後の展開で余裕が生まれると考えました。


そこで、発売の11月に結果を積み上げるため、わずかな施策とはいえ、出来る限りのことをしました。もちろん、売れる・売れないは運が左右する博打的要素を持っていますが、「この系統の本」という但し書きがつくにせよ、結果として発売5日目で増刷が決まったことは目標達成となりました。


2-3.個人では作れない本を、今後、絶版にさせないために

発売前に初めて刷り上った見本を受け取った際、私は担当編集さんにこう質問しました。


「絶版したら、原稿の扱いはどうなるのでしょうか?」


同人時代に身についた習慣ですが、私は失敗した場合を想定します。私が扱いえる領域のテーマについて日本では素晴らしい本がいくつもありますが、絶版となっている本も珍しくありません。絶版が多い=そのテーマは売れない・ニーズが少ない、と見ることもできます。


出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?(2010/12/07)で記したように、『英国メイドの世界』は相当なボリュームで講談社のリソースを注いでもらっており、絶版になった場合、権利処理を出版社で行った写真資料やイラスト、デザイン含めた様々なコンテンツの扱いは難しく、絶版後に私個人で「まったく同じ本」を作るのは事実上困難です。


この前提から、私は「この本を絶版にさせない、生き延びさせる努力をするしかない」との結論を出しました。初期に数字を伸ばすことは「出版を決めてくれた編集部への恩返し」ですが、絶版にならないように一定数売れ続けるようにすることは、まだ出会っていない、この本に関心を持つかもしれない「未来の読者」に出会い続けるための生存競争であり、また著者としての責任だと考えています。絶版で本を入手できない辛さは、資料本マニアといえる私には身に染みています。


そして、何よりも、個人では作れない本を作ってしまったので、その本に少しでも長生きして欲しい親心のような執着が、このようなテキストを書かせているのだと思います。


2-4.「育ててくれた環境」への恩返し

部数を伸ばすことには、自分が享受してきた環境への恩返しの意味があります。出版には、環境を変える力があるように私には思えるからです。


■2-5-1.メイドジャンルへ

メイドブームのピークは2005〜2006年ぐらいだったと私は考えていますが(以降は安定化しているとの認識)、ブームが一段落した後に出る『英国メイドの世界』という「メイド本」が、長期的にかなり売れる事態を引き起こせれば、「メイド」に関するコンテンツを活性化できると考えています。


同人版の『英国メイドの世界』は比較的、「コンテンツを作る方々」(漫画家・作家・ライターなど)にこれまで購入されてきた面もあります。創作をしたい「私」が、創作をする資料として作り上げてきた本でもあるので、この本をきっかけに一定数の作品が生まれていくことを期待しています。作品が増えれば興味を持つ読者が増える循環を目指し、自分が「読者」として楽しめる作品が増えます。


同人活動を含めて現在まで、私が読者の方とお会いできているのは、日本でのメイドブームがあればこそですから、メイドジャンルに興味を持つ人を増やすことも目標のひとつです。メイド喫茶を含めてメイドに関心を持つ人が多いのは、興味を持つ入口が多様化していればこそです。


私が本を出した時にコラボイベントを行って下さったメイド私設図書館シャッツキステや、お店として応援して下さった池袋のWonder Parlour Cafeは私が好きなお店です。メイド喫茶経由で本に関心を持つ人がいるのとは逆に、私の本がきっかけで足を運ぶ人が増えたらいいなとも思っています。


上記のお店以外にも、落ち着けるお店は多くあります。「メイド喫茶」といっても料金体系やサービス含めて非常に多様で、事前に必ず調べてからいくことをオススメしますが、「自分を応援してくれた人を、応援したい」気持ちがあります。


■2-5-2.同人へ

そのメイドジャンルを形成していた流れの一つは、私のバックボーンとして存在する「同人」です。


コミックマーケットコミティアを代表とする「同人誌即売会」があることで、私は表現の場を得ました。私以前にコミケに参加して「メイド」ジャンルをサークルとして形成した方々がいて、そこに読者として参加された方たちがいて、そうした連なりの中に、2002年12月に初めてコミケにて同人誌の頒布を経験しました。


多くの方々が作り上げてきた「場」がなければ、私は読者の方々に出会えず、活動を続けられなかったはずです。


「同人誌から出版」という私がたどったラインも、「趣味だからこそ生まれる」同人誌という世界が持つ可能性を示すものだと思いますし、同人誌生まれの本が「今まで同人誌に興味が無かった人たち」の手に届けば、同人という場への理解や関心が高まるかもしれません。


私自身、講談社BOXと出会ったきっかけは、同人で活躍された奈須きのこさん・武内崇さん、そして今も同人を軸にされる竜騎士07さんが講談社BOXで書籍を刊行しており、「同人との親和性が高い」と判断したからです。この道筋が存在しなければ、私の出版の機会は無かったと思います。


3.今後の予定

次回は現状認識、というところで書店巡りをしての感想を書きます。本文で述べたように、結論から言えば「ウェブで本の認知度を上げる」に尽きるような気がしていますが、書店で実際に本を売っていただいている方々の支援として何ができるのか、というのも考えていきます。




啓文堂書店三鷹店様のフェア(上記の写真:2010年11月時点)のようにしていただけるお店が増えるよう、そしてお店の特色ごとにフェアの内容を切り替えられるような提案をできたらと思います。私の本を売ることを、本が好きな書店の方に楽しんでいただけるのが、理想です。


余談ですが、最近非常に面白かった記事をご紹介します。アクションの範囲が限定される私と大きくレイヤーは異なりますが、話として元新潮社編集者・宮本和英さんが、出版業界の裏話を語る語る。は興味深いものでした。


次回以降

第2回目:本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)

第3回目:書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション(2011/02/07)


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