ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん このページをアンテナに追加 RSSフィード


AMAZON『英国メイドの世界』へ  ■講談社より刊行しました! 屋敷の暮らしと使用人の仕事が分かる『英国メイドの世界』
 -屋敷で働くメイド・執事の仕事が分かる資料本『英国メイドの世界』:第一章の試し読み開始
 -出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」

 ■英国ヴィクトリア朝・屋敷や貴族関連の資料/映像をお探しの方にオススメ
 『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説

 -SPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]更新中




2012-01-28 来週はもうコミティア99

[]コミティア99 ろ12b(壁)で参加予定

開催日時:2012/02/05(日) 11:00〜16:00

開催場所:東京ビッグサイト

スペース:東5/6ホール ろ12b サークル:SPQR

公式サイト:コミティア準備委員会


コミティアに参加します。会場にて、お会いできることを楽しみにしております。お気軽にお立ち寄りください。新刊は冬コミの新刊となります。発掘できれば、シャッツキステとの合同誌も持っていきます。


まだティアズマガジンを買っていないので、明日に買わねば……


上半期では03/11(日)の帝國メイド倶楽部 in コスチュームカフェに申し込んでいます。参加見合わせを検討していた夏コミは「創作少年・メイドジャンル=英国メイド」から離れて、「評論ジャンル=メイド」とジャンルを変えての参加予定です。サークルSPQRの10年以上の活動の中で、コミケに「創作少年」以外で参加したことはないので初の試みです(コミティアではあり)。


ジャンルを変える以上、新刊も「英国メイド」ではありません。正確に言えば、作る本が今までと違うのでジャンルを変えるのですが、その辺は4月以降にでも公開していきます。


コミティア99・頒布予定物

『MAID HACKS』(実在の使用人のエピソード集・100本以上) 500円
『英国執事の流儀』(実在の執事の仕事の仕方) 700円
『英国メイドがいた時代』(『英国メイドの世界』の続く・19世紀末から現代まで) 700円
『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』(短編51本)1,000円


初めての方には『MAID HACKS』、『英国メイドの世界』からもっと英国の屋敷を眺めてみたい方には『英国執事の流儀』をオススメしています。メイド創作を読みたい方には11年間のメイド創作、『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』をオススメします。


新刊告知〜『英国メイドがいた時代』

『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』

新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』(2011/12/16)


2012-01-14 伝えて伝わって伝わったものを受け止めて

[]同人誌や『英国メイドの世界』への感想をご紹介

Twitter上とブログにて感想をいただいたので、ご紹介を。ありがとうございます!











久我真樹:英国メイドがいた時代(ただの日記。それ以上でもないしそれ以下です。様)

SPQR: MAID HACKS(同上)


今後の同人活動の励みになりましたし、どのように伝わったかを今後に取り入れていく所存です。ありがとうございました!


さらに、『英国メイドの世界』についても、「まなめはうす」のまなめさんのご感想をいただけました。SE経験がある立場の私が書いた本が、結構、同業者だった友人たちに響いたこともあって、まなめさんにも楽しんでいただけるかな、いつか届くかなと思っていましたが、Twitter経由で見つけていただけました。


http://homepage1.nifty.com/maname/log/201201.html#080551


こういうのもウェブらしくて、面白いですね。


関連リンク

新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』

2012年01月現在の今後の参加予定と新刊・既刊の委託先

[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)(第一章をPDFで試し読みできます)

2012-01-08 情報量の過多は現代病ではなかったのですね

[][]『ヴィクトリア朝時代のインターネット』感想

ヴィクトリア朝時代のインターネット

ヴィクトリア朝時代のインターネット



インターネットとヴィクトリア朝?

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』は1999年頃に執筆された本で、2011年12月に日本での翻訳版が刊行されました。著者の方は歴史研究家というより、テクノロジ系のジャーナリストで、そうであるが故に歴史資料本とは異なり、読者層を非常に広く設定し、またこの時代に興味が無い人であっても「現代のインターネットとの比較」を自然に行える点で、非常に同時代性を持つ書籍に思えます。


『ヴィクトリア朝時代のインターネット』はまず電信成立の歴史的経緯から、それがどのように社会インフラとして普及していき、どのように使われたか、誰によって運用されたか、そして電信の登場による社会的な影響、衰退の歴史までを扱います。これが各章がしっかりと結びついているというのか、とても分かりやすいです。


ヴィクトリア朝はそもそも、現代に通じる基礎的な部分が多いので、伝え方次第でもっと盛り上がりそうな気がしています。貧困と社会福祉、家族論、労働環境、自由主義、消費社会、メディア論、鉄道、株式会社、郵便制度、公務員制度、社会インフラなどなど、テーマは非常に膨大で、同時代的です。


これまで私が摂取する範囲の情報は「歴史」や「生活史」が多く、また日常生活にあっても今回取り扱う「電信」をネタにした本にも出会ってきませんでした。しかし、技術史を軸に見れば当然研究されている領域で、目次を見ると内容が見えてきます。鉄道や軍事関係の人は詳しそうですね。


第1章 すべてのネットワークの母

第2章 奇妙に荒れ狂う火

第3章 電気に懐疑的な人々

第4章 電気のスリル

第5章 世界をつなぐ

第6章 蒸気仕掛けのメッセージ

第7章 コード、ハッカー、いかさま

第8章 回線を通した愛

第9章 グローバル・ビレッジの戦争と平和

第10章 インフォメーション・オーバーロード

第11章 衰退と転落

第12章 電信の遺産


技術の確立からインフラ整備と問題への対応

今でこそインターネットが当たり前になって、テキスト情報や音声情報もある程度自由にやりとりできますが、100年以上前にそれに酷似した環境は作られていました。技術が確立するまでのモールスや彼の先達や同時代人たちによる苦闘を経て、国境を越えて繋がれた電信ケーブルは、海にも敷設されました。特に大西洋横断海底ケーブルのエピソードは、シュテファン・ツヴァイクが『人類の星の時間』で書いた話もあるので、興味のある方はそちらも是非。


興味深かったのは情報量の増大によってインフラが圧迫されたことで、回線利用状況の分析が行われて、多大な量を占めていた利用方法については「物理的なテキスト情報のやり取り」を行った点です。たまたまこの本を読む数日前に気になったtweetに以下のようなものがありました。




これが英国でも代替手段として用いられました。この「情報量の増大→インフラの圧迫」は、「インターネット」への関心が高い人に向けて書かれているので、現代人にも理解しやすいでしょう。当時のtraffic集中による「輻輳」の発生、原因への対応・解消策の流れが見えます。


また、利用者が発する情報量で課金される制度や通信環境のセキュリティへの不安があることから略文字による情報量削減や暗号化による難読化も行われました。こうした環境を支えて電信のやり取りを行ったのが、電信オペレータです。電信局同士を繋いだ大きな会議や、オペレーター同士で電信を通じて雑談をしたり、電信の癖で相手が誰かを分かりあっていたり、19世紀のオンラインを通じた恋愛エピソードも紹介されています。


このオペレーターと言う職種がまた面白そうで、実力主義で転職も繰り返せたとの話や、エジソンもこの職種にあって能力を発揮したとのことです。19世紀に国境を隔てた相手とリアルタイム的に取れるコミュニケーションは輝いている。今、それが当たり前の環境にあるのだけど、あらためて感じ入る次第です。


技術の普及に伴う社会的な影響の可視化

著者が歴史家ではなくテクノロジ寄りのジャーナリスト的な立場にあることもあって、影響範囲は通信インフラだけではなく、その通信でもたらされた社会的変化にも広がります。通信環境が出来上がると政治、軍事、経済や報道、交通機関にも影響を与えましたし、初期のhackerが登場して犯罪にも使われました。


通信社(AP通信、ロイター通信)誕生や、軍事利用で前線と後方を結びつけたクリミア戦争(後方から前線に対して指示が送られるタイムラグの減少、戦争報道によってナイチンゲールがアクションしていくなど)、さらには情報が即座に伝わることで変質する外交の話(悠長に構えていられなくなる)と、広がりが面白いです。軍事に詳しい方には周知の話かもしれないけれど、自分レベルではちょうどいいです。


そして現代人に特に響くのは『第10章 インフォメーション・オーバーロード』でしょうか。情報が絶え間なく流入することで判断材料が増加したり決断する速度が上昇したりすることで、さながらモバイル環境の発展で仕事が家庭に持ち込まれるように、グローバリゼーションで24時間対応の仕事が生じるように。


『いまでは世界の主要市場の報告が毎日届き、そして顧客も常に電報からの情報にさらされている。承認は毎年何本かの大きな船積みをこなすのではなく、いつも行動していなくてはならず、常に仕事を何倍もしなくてはならない。

(中略)

商人は忙しさや興奮に満ちたその日の仕事を終え、家族と遅い夕食を取りながら仕事の話を忘れようとする。すると急にロンドンからの電報で中断され、多分それはサンフランシスコで2万バレルの小麦粉を買えと言うような指令で、商人はかわいそうなことに大急ぎでカリフォルニアに注文のメッセージを送るため、さっさと夕食を済ますのだ。いまの商人は常に暇なしで、急行列車など遅くて仕事には使えず、かわいそうなことに家族の生活を保障するために、電信を使うしかないのだ』


『ヴィクトリア朝時代のインターネット』P.168-169より引用


このテキストは、そのまま現代にも通じます。運用を見ていた時は深夜にトラブル対応をしたり、旅先でもノートPCで仕事をしたり、休日でも呼び出されたりした頃を思い出します。休暇明けの絶望的なメールの件数にも……


過去の延長線上の未来にある「現代」

こうしたトレンドを書きつつ、電信の情報量増大に伴って回線を有効利用する技術が発展し、そのプロセスで「電話」が登場したり、自動的な入力機器による技術革新が生じたりして、電信オペレータの職業は特異なものではなくなり、電信技術そのものも電話に道を譲りましたが、その遺産がまさにインターネットに引き継がれていて、この繋がりの可視化には、感動を覚えます。


私事ですが、私は個人的にヴィクトリア朝を軸としてメイドや執事といった家事使用人の歴史を学びつつ、本業はデータベースSEやネットメディア企業での社内SEやウェブ解析をやってきた、ネット業界の人間です。その意味で、この2つの領域が交わるこの本は、私にとっては「嬉しい」一冊でした。


自分たちにとっての「当たり前」が決して過去の時代の当り前ではないことは歴史を学べば分かることですが、同時に、過去の時代の上に現代がある点では決して過去とも無縁ではなく、一見、無関係に見える「ヴィクトリア朝時代」と「インターネット」を結び付けて伝える本書は、ウェブを学ぶ人にも、ヴィクトリア朝を学ぶ人にも適した良書です。


温故知新と言うことで、今年オススメの一冊です。


ちなみに、私のメイド研究も『ウェブで学ぶ』から思うことに記したように、ネットの時代でなければ実現できなかったことが多々あります。研究を取り巻く環境も激変しています。その上で、ウェブを仕事にしている立場としては、「いつ、自分の技術が陳腐化し、不必要になるか」ということも考えさせられます。ある時代の最先端にあった電信オペレータが壊滅したように、今の自分も他山の石としなければなりません。それは、今行っている歴史研究の領域も同様です。


生活史の観点で、同じ著者による『世界を変えた6つの飲み物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』も面白そうなので、読もうと思います。



2012-01-05 和書における「メイド」関連資料本の変遷・暫定版

[][]日本の英国メイド関連本の刊行30年史

英国メイド(家事使用人を含む)関連書籍の歴史の整理の一環です。まずはメイド関連の知識が掲載されている資料本の変遷を暫定的に公開します。語感がいいので30年史にしていますが、厳密ではありません。私が把握する限りなので、すべてではありません。


1980〜1990年代:「貴族の屋敷」と「生活史」の範疇

『路地裏の大英帝国』(1982年)

『英国生活物語』(1983年)

『英国のカントリー・ハウス』(1989年)

『生活の世界歴史10 産業革命と民衆』(1992年)

『英国貴族の館』(asin:4062050900)(1992年)

『台所の文化史』(1993年)

『イギリスのある女中の生涯』(1994年)

『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』(1997年)

『英国貴族の邸宅』(1997年)

『英国ヴィクトリア朝のキッチン』(1998年)

『英国カントリーハウス物語』(1998年)

『図説 英国貴族の城館』(1999年)

『十九世紀イギリスの日常生活 』(1999年)


2000年代(ゼロ年代):「メイド」ジャンルの独立へ

『階級にとりつかれた人びと』(2001年)

ヴィクトリア時代の女性たち』(asin:4423493381)(2002年)

『図説 イギリス手づくりの生活誌』(2003年:改訂)

『エマ ヴィクトリアンガイド』(2003年)

『ヴィクトリアン・サーヴァント』(2005年)

『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(2005年)

『召使いの大英帝国』(asin:4896919351)(2005年)

『エマ アニメーションガイド(1)』(asin:4757724462)(2005年)

『エマ アニメーションガイド(2)』(asin:4757725973)(2006年)

『エマ アニメーションガイド(3)』(asin:4757727887)(2006年)

『図解メイド』(asin:4775304798)(2006年)

『図説 英国貴族の城館』(2008年:改訂)

『図説 英国貴族の暮らし』(2009年)

『従僕ウィリアム・テイラーの日記―一八三七年』(2009年)

『英国メイドの世界』(2010年)


2010年代:英国メイドの確立へ?

『図説 英国メイドの日常』(asin:430976164X)(2011年)

『執事とメイドの裏表』(asin:4560081794)(2011年)

『英国メイド マーガレットの回想』(asin:4309205828)(2011年)


概論

1980〜1990年代は「英国貴族の屋敷」と「庶民の生活史の中でのメイド」(日常生活ガイドブックや料理の中の1カテゴリ)、他に女性史での言及もあります。ただ、単独ジャンルとして成立していないのが特徴です。この「空白」と言える時期に「メイド資料本」を作っていたのが、同人ジャンルです。


2000年代に入ると如実にメイドブームの影響を受け(世の中の関心を満たすという意味において)メイド関連書籍が増加していきます。特に2005年ですね。しかし、少なくとも、2005年に刊行される『ヴィクトリアン・サーヴァント』『召使いの大英帝国』以前に「メイドだけ」を扱った資料的な和書は存在していません。一冊を除いて。


それが、『イギリスのある女中の生涯』(1994年)です。


なぜ1994年にこの本が出せたのでしょうか? 翻訳されたジャーナリストの徳岡孝夫さんが著名だったからでしょうか? 氏が知人から紹介されたこの本を出版に向かわせたとあとがきにあります。同書の出版社の草思社は、マークス寿子さんの本を出していたので読者のイギリスへの関心も開拓されていたからかもしれません。


私の手元にある同書は1994年時点で第三刷です。4月末にでて6月末でこの刷数というのも、「売れていた」という事実を示すもので興味深いです。


「世の中のトレンド」を複合的に見ると、2000年代半ば以降が「メイドブーム」の影響であるように、1990年代やそれ以前には別のブームがあったと考えるのが妥当かもしれません。少なくとも、1997〜1999年あたりには屋敷本・日常生活本の刊行が相次いでいます。


尚、ディケンズの孫娘のモニカ・ディケンズの家事使用人体験記『なんとかしなくちゃ』(asin:4794915462)は1979年に出ていますが、「体験記」なので個人的にはあまり取り上げていない本です。


メイドブーム関連テキスト

イメージの中のメイド/メイドが「いて」「いない」現代日本の風景

[特集]第1期メイドブーム「日本のメイドさん」確立へ(1990年代)

[特集]第2期メイドブーム〜制服ブームから派生したメイド服リアル化・「コスプレ」喫茶成立まで(1990年代)


2012-01-02 「繋がり」を描き出し、「伝える領域」も広げる

[][]2012年はメイドジャンルを繋いで描き、10年後にも残るものを

元日にコミックマーケット81・サークル参加無事終了と振り返り2011年の振り返りを記して、2011年にできなかったことや、したかったことを整理しました。


2012年の方針の核は、「自分だけでは出来ないことを実現するために、同じ目標を持つ・同じ方向を向く人に出会って一緒に何かをする」と、「自分のテーマ領域を広げて、非サブカルチャー以外との接点を作っていく」ことを挙げます。


前提として、「自分の好きを表現し、かつ好きを表現する人たちにとって心地よい環境作りに寄与できることを探す」ことがあります。私も周辺環境・ジャンルに育てられた恩義があるので、作品を出すこと以外で返せるものがあるならば、積極的に返すつもりです。


1. 同人活動を広げる

1-1.メイド総合同人誌(または表現の場)の構築

2011年の同人活動は個人で出来ることはだいたいにおいて実現できたと思います。ただ、個人で出来ることの限界も感じていますし、私が活動のベースでしてきた同人の世界にあっても創作メイドジャンルは数年前に比べると数が減っています。とはいえ、私は『英国メイドの世界』を刊行することで、メイド創作のインフラたることを志しましたし、実際にメイド作品が商業で生まれているのも目の当たりにしました。


そこで、「メイドを横断的に扱う『雑誌的な表現の場』を作りたいと考えました。どのような形で進めるか、まだ決めていませんが、私の知人の方や私の活動に興味を持つ方々にお声掛けをして、表現活動にプラスとなる「構造」を設計したいです。


私が目指すのは「メイドが好きな人のための本」だけではなく、「読んだ人がメイドを好きになる本」ですし、「メイドを書きたい」と思う創作者の方たちにとっての表現の場、そして「この人のメイド作品を読みたい」という私の気持ちを満たす場にしたいです。


ここで私は、「英国メイド」に限るつもりはありません。「日本におけるメイド表現の多様性」を10年後に残す意味でも、幅広く考えたいと思います。今時点ではまだ構想段階ですが、少しずつ準備を始めます。


1-2.『階下で出会った人々』の刊行

これは2011年に刊行を予定していた同人誌の刊行です。[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)の後半に私が資料から登場させた家事使用人の人名リストをあげていますが、彼らが出会った人々も含めると相当な数の家事使用人のエピソードがあります。


『英国執事の流儀』で7人の執事の職場遍歴やキャリアの変遷を描いたのと同じ密度で、家事使用人の中から魅力ある人々を紹介しようという企画となります。過去と比べた最近の同人活動の気持ち的な変化には、「この人を是非、知って欲しい」と言う情熱の欠如も挙げられます。この人を伝えたくてしょうがない、だから同人誌を作るというフローがかつては存在しました。その気持ちを、取り戻そうと思います。


1-3.同人ノウハウ本の作成

私は「好きを続ける」ことを好んでいますし、他に職業を持つ人がプロの作家と同じスペースに並んで戦うことができる「同人の場」を好んでいます。アマチュアにはアマチュアにしかできないことがあります。ただ、働きながらの同人活動は障壁が高く、特に家族を持つと、家族の理解なしでの継続は困難になるでしょう。


同人活動を続けるためのノウハウを考える(2011/09/01)に詳細は書きました。この話をどう動かすかは時間配分と優先順位の判断が必要ですが、私が10年以上同人誌の刊行を続けられたノウハウを開示しつつ、他のサークルの方々のノウハウも集められるような場としたいです。


私が主催する必要もありませんが、とにかく「同人誌を作るテクニック」は多々あっても、「同人活動を続ける方法論」が少ないです。私は創作ジャンル・メイド資料本というニッチ領域にあって、オリジナリティを追求する中で活動を10年以上続け、かつ同人誌の頒布部数でも累計1.2万部ぐらいは出しているので、経験に基づく話も出来ます。壁サークルになれなくとも、ある程度の規模で活動するサークルにとって有益な情報を出せると思います。


2.境界線を広げる

2-1.商業出版企画の完遂と出版の実現(企画自体は通っています)

今年は2009年ぐらいから温めていたメイドにまつわる企画を、商業出版する予定です。企画自体の承認は出ていますが、私にとっても挑戦となる領域が多く、非常に難易度が高く、なかなか進められていませんでしたが、今年はこれを最優先事項として出版にこぎつける所存です。


私の原稿ができておらず、また出版できるクオリティに出来るかというところもあるので、内容と出版社はある程度固まってから公開を行いますが、とにかく「メイドの概念を、今メディアで伝わる一部の物からより広範・総合的に見たものへと切り替える」という、2011年目標の一環の活動となります。


「メイドに興味があり、積極的に情報を得る人」だけではなく、ここでも「メイドに興味はないが、興味を持ちえる人」を対象に、「この本をきっかけにメイドジャンルに接していく」人を増やすことを目標としています。


2-2.創作への応募

『英国メイドの世界』を刊行した折、元同僚と元職場の社長の2名に言われたのが「物語にした方が資料本よりも伝わりやすく、すそ野が広がるのでは?」との言葉でした。元々、私の同人活動は「イメージさせる短編小説+英書に基づく解説」で構成されていましたが、その辺りの創作の部分を、より特化させて切り離し、世に伝わる形にしたいとも考えました。


2011年冬コミ新刊『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』で創作11年の振り返りを行いつつ、今の自分ならば何が書けるのかという試みも行いました。メイドウ創作を行う楽しさも思い出しましたし、書きたい作品もいくつか思い浮かびました。


そこで、定常的にメイド創作を書けるようにスケジュールを決めつつ、どこかの創作小説の大賞に応募してみるつもりです。ターゲット読者は、「境界線を広げる」観点で2系統考えていて、「社会人向け」か「中高生向け」です。


2-3.中高生に届くようための図書館への寄付はできるのか?

『英国メイドの世界』を毎月10冊ずつ中学校や高校に寄付できないか、という試みです。目的としては学校図書館に接点を持ち、興味を持ってもらうための試みです。ある種、「仕事図鑑」「働くこととは何か?」との具体的な事例でもあり、歴史に興味を持ってもらう入り口にもなりやすいと考えています。


本の単価が中高生のお小遣い的には高いですし、図書館予算的にも厳しいかもしれませんので、そこは自腹で月3万円以内(約10冊)の予算で未来への投資としていくのも悪くないかなぁと思っています。


ただ、希望者を募り、配送する手間を簡単にする具体的アイデアはありません。Amazonのwishlistかなぁと思っていますが、出版社にも面倒をかけず、受け取る人も楽をできる方法を3月までに考えます。


3. ジャンルの安定化のための振り返りと繋がりの軸として

2010年の出版以降、とにかく「日本のメイドについてどう思う?」「英国メイドとの違いは?」と聞かれました。さらに出版したことで多様な情報が集まりやすくなってきたこともあって、2010年からライフワーク的に日本のメイドブームについての考察や情報の整理を始めました。


考察も大切ですが、まずデータを収集すること。そこを軸に可視化を行いつつ、「一緒に取り組んだら面白い人」を探し、コラボできる余地を探していきます。2010年の出版時には秋葉原のメイド図書館『シャッツキステ』とコラボを行いました。同じように、2012年は繋がりを広げていくつもりです。


メイド喫茶に初めて行ってみたい人向けに、英国メイド研究者が書いてみるもその一環と言えば一環で、これは「あくまでも一部にすぎないメイド喫茶の形態が、すべてのように伝わること」へのカウンターのようなもので、私から私が好きな「表現」を行う方への援護射撃になればとの気持ちがありました。


3-1. リアルの場で図書公開を行い、学びたい人の場とする

何度か呟いているのですが、正直なところ、私の家にある蔵書で私が読んでいないものは多々あります。常に全部を必要としているわけではありません。それに本は読み手によって何が響くかも違っており、私の家にあるだけでは世の中の役に立ちません。


そこで、2009年には「図書館的なことをしたい」と書き、2010年には一時的にシャッツキステとの出版イベントの中で5日間蔵書の公開を行いましたが、2012年はお声掛けいただいたとある場所で、定常的・長期的に私の蔵書の公開を行います。ここでは、メイド関連本(+ヴィクトリア朝や、広義のメイドも含めて)を読みたい方に向けて提供し、機会を創出することにしました。


具体的な話は公開可能な時期に行います。


3-2. 学びの機会を増やし、かつ自分が学んだことを伝えていく

メイドブームと並行する形で、むしろメイドブームよりも強固でかつメイドブームと混在して目立っていないかもしれない「カフェ文化」や服飾について、もう少し学ぶ機会を増やしたいと思います。実は私の同人誌の読者の中に、教えを乞いたい方たちがいたことも判明しましたので、その辺りを楽しもうと思います。


同時に、私だけでは「英国メイド」の領域についても学びきれるものではなく、また日本の「メイドブーム」も照らしえるものではないので、研究会的に相互に学びあう事、伝え合う事で広げられる場を作りたいと思っています。そのフックとして「リアルの場での図書公開」と重ねていくつもりですが、私が学んできたことを伝えつつ、その先を目指して欲しいと思います。その気持ちは、『英国メイドがいた時代』に記しましたので、そこから引用を。


 メイドがいない社会は格差が少なく、相対的に豊かさを持ちます。現代日本は格差が広がっているとはいえ、まだメイドが普遍的ではない状況に留まり、だからこそ、漫画やアニメ、メイド喫茶に代表される「メイドさん」が育まれたように思います。


 日本のようにメイドがサブカルチャーで当たり前になる環境は稀です。私は、その日本でのメイドイメージの広がりと多様性に強い関心を持っています。


 日本で成立した様々なメイドイメージと、同人を母体として研究が進んだ歴史的な英国メイド、そして海外で広く雇用される家事労働者のメイドを、今後、比較研究していくつもりです。


 明らかに個人で出来る領域を超えていますし、どこまで出来るかはわかりませんが、「日本で行われてきたメイド研究」がどこまで広がるか、いわば私は今、「本棚」を拡張しているようなところです。この本棚に収まる本を作るのは私である必要はありません。目的としては、そこに「本が入るスペースがある」ことを示したいと思っています。

 メイド研究は同時代性を持ち、ここからの10年、もっと広げられるはずです。


4. 「メイド以外」の人々と出会い、学び、「通じる言葉・概念」にする

最後は「メイド」以外のフォーカスをしたもので、世の中により届く・伝えられる言葉を持つにはどうしたらいいかという接点作りになります。そもそもこれからの時代を生きていく立場として、私は「近代の価値観」に興味を持ちましたし、ここ数年、岡田斗司夫さんの在り方に興味を持っていました。


2011年は自分のことで手いっぱいで足場の構築に終始しましたが、2010年の振り返りで描いた軸を深化させるつもりです。これもまた2010年を振り返る&2011年への抱負から引用します。


3位:学びの機会と現代性を得る

今年は4つ、大きな視点を得ました。


ひとつは岡田斗司夫さんの活動への興味です。オタキングex立ち上げをリアルタイムで見ましたし、語られるビジョンの視点は非常に高く、自分が問題に思うことの解決策も提示されていました。まだ自分の足元が固まっていないので参加はしていませんが、この時に、岡田さんの著書『ぼくたちの洗脳社会』で紹介されたアルビン・トフラーの『第三の波』を通じて、当時疑問に思っていた「近代の特徴・家事使用人への影響」についての考察を深める機会を得ました。


2つ目は年末に刊行された『まおゆう』を通じて、今まで読んでいなかった『銃・病原菌・鉄』や、『英国メイドの世界』執筆に関連して、近代関連の知識を網羅的に広げるきっかけのひとつにしました。『まおゆう』の行間を勝手に読んだ部分もありますが、非常に刺激的でした。(『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍) 作品自体、時間を忘れて読みました。


3つめは、フーコーとの考え方との出会いです。19世紀に規律重視・時間厳守・役割分担・マニュアル化が進む家事使用人の状況を見て、アルビン・トフラーの『第三の波』だけではどうも埋め切れませんでした。「その根幹は何か?」と考えていたとき、英国留学経験者の方(社会学・哲学)と出会い、フーコーの『監獄の誕生』が良いとレコメンドされました。


フーコーとの出会いは私には衝撃的でした。その上、今まで読んでいた家事使用人の本では一度もフーコーの名前を見たことがなかったのですが、昨年末に読んだある本で、初めてフーコーの名前を見ました。最高のタイミングで、繋がったと思います。彼が描き出す近代人のモデルは今後の財産になったと思いますし、この辺りの話は、『まおゆう』の登場人物「メイド姉」に繋がるかもしれません。


最後が、やはり今年お会いした別の方とのお話を通じて、「世界のメイド」への視点を広げたことです。当初は「世界のメイド服」的な意味合いでしたが、メイド事情を調べていくと、雇用に見られる構造に気づきました。また、グローバリゼーションと移民、そして資源の減少による生活の変化にどう向き合うかというところが、20世紀前半の英国メイド事情とも重なり、私がこれまで扱ってきた事象が現代性を帯びているのを確認できました。(2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10の1位に記載)


こうした問題意識は、私が尊敬する川北稔先生の著書とも重なり、『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)に記しました。


私自身はその他でもミヒャエル・エンデの本で知った地域通貨の概念へ関心を持ちましたし、岡田さんの評価経済の話を生き方を模索される玉置沙由里さんのMG(X)への出資をしました。他に、今年は仕事での必要性もありますが、Skypeを活用したフィリピンの英会話教室を利用して英会話と、フィリピンの歴史についても学ぼうと思っています。


こうした領域は「特にメイドと接点が無い」ように見えますが、現代を生きることを考えるところで、重なりもあります。『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足で描いたように、「1.ワーキング・プアと新自由主義」「2.近代世界システムと家事労働(ジェンダーやフェミニズムの観点)」「3.移民事情と現代日本」と家事使用人の歴史・家事労働者の境遇は無縁ではないからです。


終わりに

とても盛りだくさんですが、「今年1年ですべてやろうとは思わない」「私だけでやろうとしない」ことをキーワードに、今年は活動を楽しみ、深め、より多くの人に関心を持ってもらえるような伝え方を模索していきます。会社勤めでの経験も新しいステージに入っており、仕事とのバランスをどのようにするかも課題に上がってきますが、今年はこうした目標を描くこと、スケジュール管理を行って具体化することでプライオリティを下げずにいきます。


メイドへの関心を持っていただくのも大切ですし、私の生き方や在り方を軸にメイドに興味を持っていただくことも出来るのではないかと思いつつ、水樹奈々さんのラジオで「メイドは人生」と言った手前、「人生」としてしっかり向き合っていきます。


これが全部できたら、相当、すごい人間ですね。でも、一人で出来るわけがありませんし、すごい人間になろうとも思いません。半ば誇大妄想的かもしれません。しかし、ここに描き出した「夢」を共有し、響いて受け止めて下さる方が一人でも増えれば、「世界」を見る目を変えられるとの希望があります。


見守っていただければ、そして一緒に楽しんでいただければ、幸いです。


2012-01-01 2012年最初は2011年の振り返り

[]コミックマーケット81・サークル参加無事終了と振り返り

2011年最後のイベント・コミックマーケット81へのサークル参加が無事に終了しました。サークルスペースにご来訪いただいた皆様、誠にありがとうございます。私が作った同人誌との出会いが、何かしらプラスとなることを願っております。


訪問される方々との出来事

基本的にコミケはサークルを来訪される方々が、なるべく短時間に多くのスペースを回る行動を原則としているので、忙しいです。そこでサークル側としても如何に来訪される方々の時間を無駄にしないかを意識しています。そういうところで、ノウハウ的な情報も出せそうな気がしてきました。私と言うよりも、売り子として手伝ってくれている友人が良く気付く人なので、常に改善はなされています。


今回も含めての感想となります。


「新刊下さい」

コミケのサークル参加を連続で続ける「ご褒美」は、この言葉です。新刊同人誌を読まずに「サークルの新刊」として欲して下さるのは、いわば「信頼」のやりとりのようなものです。その期待を裏切らないように活動したい、またその信頼を超えるものを提供したいという目標にもなります。


「新刊2冊下さい」「友人の分を買いに」

このところ多いのが、ご友人の分も購入されていく「新刊2冊下さい」です。この冬のコミケでもある程度の方がこのような形で本を手にしていかれました。変則的なところでは「自分の分を買う→友人と合流して、その友人が買いに来る・友人に頼まれてもう一冊買いに来る」パターンです。他に、友人に頼まれてスペースに来られる方もいます。


初めての方&「既刊全冊下さい」

ジャンルが隆盛するには「常に『初めてこのジャンルに興味を持つ方』が入りやすい」必要があり、「その入り口となる」ことを、私は同人活動で意識します。そのために、なるべく「分かりやすい」(その上で深く)同人誌を目指しています。また、新しく始めやすいように最近は続刊方式を避け、既刊も確実に変えるように運営しています。


そうした中、既刊全冊購入される方も毎回いらっしゃいます。さらに今回は、初めてでしょうか、「既刊全冊を2冊ずつ下さい」という方がいらっしゃったと売り子の友人から聞きました。その場に私が立ち会いたかったです。


「あれ、これ買ったかな?」

久我の同人活動も長く、既に19冊を刊行しています。またサークルを訪れる方々が毎回私のサークルに来ているとも限らないので、「あれ、これ買ったかな?」との言葉はよく出てきます。だいたい刊行時期と内容を説明していますが、ここ最近は机に並べる冊数を絞って分かりやすくするようにしています。


「以前買った本が良かったので」

「裾野を広げる入口となる」手ごたえのひとつが、この言葉を頂ける瞬間です。前回ためしで一冊だけ買って、それが面白かったのでもう一度来ていただける。私の同人誌の中では『MAID HACKS』と『英国執事の流儀』が、この「初めての方向けに、分かりやすい切り口」になっています。


ウェブ・Twitter経由でやり取りのある方々

自分の何気ないTwitter上の呟きから話が広がり、いろいろとご教示くださる同好の士の方々ともコミケ会場ではお会いできています。「ずっと会場でお会いしていた常連の方はあなたでしたか!」と思うこともありますし、「Twitter上ではお世話になりました」という方もいらっしゃいます。


Twitter上で同人サークルとしての存在を認知されて、足を運ばれてくる方々も毎回コンスタントにいらっしゃいます。どんな形にせよ興味を持っていただけれるのはありがたいことで、ウェブの活動は今後も続けます。


サークル観点で思うこと

過剰搬入

前回のコミケは「100円玉が足りない!」と言うところから始まりましたが、今回のコミケでもトラブルが生じました。搬入した同人誌の量が多すぎたことです。今回、新刊の同人誌が分厚かったことを忘れて搬入依頼をしてしまったために、過去最大の14箱(A3サイズ:A5サイズの220ページの同人誌が52冊入る箱)が!


机の下に4箱、後ろに2列5箱という形でスペース内には収まりましたが、これは誕生日席の内側の席だったがために偶然スペースが広かったことによるものです。本来的にはここまでの箱は入らないと思います。


毎回、コミケの前には宅急便受付場所を確認します。今回のサークル配置は東4ホールのスペースでしたので、搬出場所は東6ホールの先のクロネコヤマトか、東ホールの中間通路を通って東1ホール近くにあるゆうぱっくのどちらかを選ばなければなりません。近い方のゆうぱっくは「中間通路」である点で人の密度と動線が混乱していることが予想されたので、距離的にあるクロネコヤマトの利用を決め、この距離を分かっていたので、今回は運搬用カートを持ち込みました。


いずれにせよ、次回以降、もう少し在庫数は厳密に想定します。今回は忙しさもあって「厳密」どころか、感覚的に行ってしまったので……


お会いできなかった方々と交流について

今回、想定を超えたのが搬出量でした。とにかく遠いことで、時間がかかりました。今回の過剰在庫で時間がかかることをを想定して、当日は14時から随時搬出を行いましたが、4往復で1時間を費やしました。その1時間にスペースを訪問して下さった方々とお会いできなかったという、大きな失敗をしてしまいました。


その中で一つ感じることは、ここ数年、同人イベント「だけ」で得られる交流のようなものが減少している気もしています。その一因は、普段からコミュニケーションできているからかもしれません。


今回は上記のように「わざわざ私に会いに来て下さった方々」との機会を自ら逃してしまったこともありますが、同人で得られていたことの変化はマイナスと言うより、時代・環境の変化というところで、ではそこから一歩踏み込んで、同人イベントで得られていることは何だろうと、自分なりに考えるつもりです。


感想をうかがう機会の減少

「同人誌の感想」を直接聞く機会も本当に減りました。その点で、過去の遺産でやっているような気もしますし、『英国メイドの世界』という過去最大に感想を引き出せた経験をしてしまったが故に、それに比肩する価値を大きく作れない中、無いモノを望んでるのでしょうか。


もしかすると昔の自分は、もっとスペースを訪れる方々と会話を楽しみ、結果として感想を引き出せていたのかもしれません。つまり自分が変わってしまった可能性もあります。新刊を買いに来ていただけることだけでもありがたい「感想」です。この点で今すぐ答えはないのですが、この視点は今回の感想を書いていて思いついたものなので、結論は出さず、しばらく温めてみます。


久しぶりに新刊をジャンル買い

自分のサークル以外の感想を書くのは久しぶりでしょうか。今回、Twitterで縁が生まれたtakatoraさんの同人誌を買いに出かけました。メイド喫茶データベースを作られており、活動が始まる経緯も拝見していたので、その研究成果を読みたい気持ちが強くありました。


メイド喫茶データベース構想/実在したメイド喫茶のデータベース化について2011/01/09夜に交わされたつぶやき。


何よりも、実際にtakatoraさんにお会いしたかったです。takatoraさんは私の世界を広げた方で、『月夜のサアカス』『うさぎの森』へ行ってみようと思ったのは、takatoraさんが薦められていたからでした。


そんなこんなでtakatoraさんにご挨拶し、新刊を手にしました。地道な作業でしか作り上げることができない貴重なデータで構成された本で、何度か比喩として使っていますが、本当にリンネのようなコレクションへの情熱を感じます。ここからより分析が広がっていくことが楽しみになりました。サークルスペースでは同じくTwitter経由で縁があった秘め子さんが参加されているカフェシカロでメイドをされている凪さんが売り子をしているサプライズもありました。


その後、サークル「くぬぎやま通信社」シャッツキステの有井エリスさんが表紙を書かれている同人誌『アキハバラ カミラジオ』を、そしてサークル「秋葉に住む」へ。確かこのサークルの同人誌は、私がイラストをお願いしていた2005年ぐらいにGENSHIさんから教わっていましたが、今回はtakatoraさん経由で興味を持った、そこに委託された『JAM AKIHABARA FanBook』が目当てでした。


元々私はメイド喫茶や秋葉原のコンテクストに強い関心を持っていませんでしたが、ここ数年は「日本におけるメイド」を理解するために、この領域で「好き」を持ち続ける方々の情報に接したいと思っています。ちなみに、実はここでも緩い繋がりながらも縁を見つけることができます。ひとつは『JAMアキハバラ』が私が初めて訪問した商業ベースのメイド喫茶であること、そしてこの店舗の名物店員だったイヌ発電さんが参加された同人イベント『帝國メイド倶楽部』で一度隣のスペースだったことがある点です。


他にもいろいろと広げられる要素はありますが、意外と気づかぬうちに、こうした「秋葉原」「メイド喫茶」コンテクストの端っこあたりにいたのだなぁと感じ入る次第です。


同人活動の原点回帰のために

今回のコミケでは「そこにしか書かれていない情報がある同人誌を欲しい!」との気持ちを思い出す機会にもなりました。これは久しぶりのことで、「欲しい同人誌がないから作る」をスタートとした私にとってはひとつの心境の変化かも知れません。そんな当たり前のことをと思われるかもしれませんが、同人にあってフォーカスを「自分」に絞っていたことは否めません。


また、長年創作メイド同人誌を作られて戦友とも呼べるきっしーさんのこの冬の同人誌に接したことも、「メイドが好きだった頃の過去の自分」を思い出すきっかけとなりました。2002年ぐらいの頃、日本にはメイドの資料が十分にありませんでした。そこで公開された映画『ゴスフォード・パーク』の完成度、そして『8人の女たち』エマニュエル・ベアール様が演じたメイドイメージ、さらにその原型とされたジャンヌ・モローが演じた『小間使の日記』のメイドは、いわばあの時代にメイドに関心を持って接した人々にとって、「同じ釜の飯」とも呼べるものでした。


今の自分は、かつての自分よりも圧倒的な情報量に接し、その時よりも密度の高い研究をできている自負はあります。しかし、今の自分は、昔と同じ情熱で研究し、また同人誌と向き合っているかと問われると、自信がありません。端的に言えば、コミケにおける情熱を、失っています。今回痛切に感じたのは、読者の方を「驚かせる」「突き抜けるぐらいのバカらしさ」をあまり実現できていないことでした。


2007年12月の『MAID HACKS』は一発ネタでしたが、2008年08月の『英国メイドの世界』は圧倒的存在感で、12月の『9巻 終わりの始まり』はArthur Munbyを召喚してかつ彼の登場する二次創作まで書くという勢いがありました。2009年08月の『英国執事の流儀』も切り口の独自性から、日本最高レベルの執事資料本との自負があります。


2010年12月には同人ノウハウを記した『英国メイドの世界ができるまで』を作って振り返りをしつつ、2010年08月は出版準備の忙しさからコミケ新刊では初の薄い冊子となる『英国メイドにまつわる7つの話と展望』を作り、2011年には『英国メイドの世界』の続きとなる『英国メイドがいた時代』、そして11年の創作活動の総集編『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を書きました。


この2010年12月以降はいわば『英国メイドの世界』という自分が作った同人誌・商業誌に代表される、「これまでの11年」との対峙だったように思いますし、そこからどのように「この先」を広げていくかの足場作りの時間だったかもしれません。その点で、来年からは再び「驚き・ここにしかない価値」を追求するつもりですが、時間的な都合から、その表現の場を同人誌に限らなくてもいいとの結論に達しました。


2012年のコミケ夏コミへの参加は行わず、冬コミのみの申し込みとします。1年かけて作りたい同人誌を作るつもりです。もちろん、途中でどうしようもなく同人誌を作りたくなるかもしれませんので、この方針は変わるかもしれません(夏コミ申し込みは2月なのでその時までにこの気持ちが生じなければ2月参加しません。


むしろ、2012年は商業発表の機会創出と、「同人誌以外の形」での「同人活動」を行うつもりでいます。2012年の目標としてもう一度書きますが、2011年はやや動きが取れず、守勢でした。2012年はもう少し機会を広げ、繋がりの中で、「10年後に残る価値」を生み出していきたいと思います。


そういった「広義での同人活動」をご支援いただければ、幸いです。2011年はありがとうございました。2012年もよろしくお願いいたします。


[]2012年01月現在の今後の参加予定と新刊・既刊の委託先

参加予定

2012/02/05(日) コミティア99

ほか、未定


新刊:『とらのあな』『COMIC ZIN』への委託

新刊情報

『誰かの始まりは、他の誰かの始まり ヴィクトリア朝の暮らし短編集・総集編』


委託先

とらのあな

COMIC ZIN


既刊:『とらのあな』への委託と電子書籍

とらのあな

『英国執事の流儀』

『英国メイドがいた時代』

電子書籍

DLSite

ブクログ


委託していない同人誌

『MIAD HACKS』


[][]2011年の振り返り

振り返りを踏まえた2012年の目標・展望は明日に更新します。


足場がそれまでより不安定だった2011年

これまでの年間振り返りではほとんどプライベートのことには触れてきませんでしたが、今年は実生活の部分を抜きに振り返れないため、ある程度、私が経験してきたことについて書きます。


「出版では食えない」と分かっている中で「出版経験」を優先した2年間

2011年は毀誉褒貶あった1年でした。出版と仕事の両立が難しく、2009年に会社を辞めて2010年まで出版に専念し(途中、派遣社員での就業も行う)、2011年初頭は出版での努力が一段落したと判断し、会社生活に戻ろうと決めました。自分の実力や努力の仕方では継続的にやるのが難しく、営業能力もありません。そもそも私は会社勤めで得られる環境が好きでしたし(『エマ』10巻「アデーレの幸せ」から生きることと「仕事」の一致を振り返るにその辺は書きました)、私の力で出版で食べていくのは困難だと分かっていたので、離職する前から会社生活は前提でした。


それで出版への気持ちの区切りがついた3月ぐらいから転職活動を始めましたが、ある企業の面接へ出かけようとした一時間前に東日本大震災が発生し、それからしばらくは自分の身の回りのことで必死でした。転職に対する価値観もぶれ、気持ちに迷いが生じました。転職活動も一筋縄ではいきません。「出版を経験した2年間」は世の中的にマイナス評価されることも多く、「この出版を経験しなければ、もっと良い仕事ができたのではないか」と思うことも一度ではありませんでした。とはいえ、自分だけはこの出版を否定してはいけないと経験が生きる道を探しました。


そんな中、迷いながらも次の職場を見つけ、働きました。自分が好きな方向に近い企業で、やりがいも十分にあると思いました。しかし私がついた職種ではこれまでの経験が生きず、軸が少し離れていたり期待されていたりしたものが違って、一か月で離職しました。そこから短期の派遣を行い、やがて前職の知人の紹介で現在の職場と出会いました。そこでは、出版を含めた多様な経験を評価してもらえましたし、メイド研究を通じて続けた英語力が生きました。


現在は新環境で足元を固めつつある最中で、ようやく自分の適性についても見極めがつきました。離職した期間で失った「会社で主体的に働く感覚」もだいぶ取り戻しつつあり、現時点では他の環境でも通じるだけの自信と環境への適応能力を回復したように思えます。


今までと異なる就業環境から見えたこと

こうした点で、2011年は「同人活動を安定して行う」には、やや厳しい環境にありました。ただ、2011年の経験は私の中にある視点を変えました。


私はバイト経験もそこそこありますが、基本的に正社員での勤務が長く、出版準備のために時間の都合がつけやすい一般派遣社員のポジションを今回初めて選びました。一般派遣の方に業務指示を出し、管理した経験もありますが、その逆の立場になると、正社員との待遇の違いを多く感じました。


自分の時間の都合はつけやすく、残業もほとんどありませんでした。責任も正社員時代より軽くて精神的に楽でしたが、自分の判断だけで物事を進められない、主体的に動きにくいし期待されていない、半年働かないと有給休暇が得られない、その期間に休むと給与が出ない、給与が正社員よりも相当低く、いつ契約が切れて解雇されてもおかしくない立場にギャップを感じました。


出版との両立がしやすく時間的に都合がいい一般派遣の立場で働き続ける選択肢もありましたが、主に年収額の相違という経済的理由と有事における時間の融通具合、そして主体的に計画を立てられる立場でありたいと、私は正社員職のポジションを探して転職活動を始めました。


というものの、「勤務経歴としてブランクとみなされる『出版』の経験」は、いわゆる一般的な企業ではマイナスとされ、仮に似た年齢の人がいた場合には減点材料にもなりました。こうした経験は、育児によって勤務から離れたために、その後の就業機会の選択肢を失ってしまう女性の経験と重なりを感じました。


会社に戻る時間を最小限にするため、キャリアを維持するため、海外ではメイドの雇用も行われている、そのことに実感を持てたのもこの期間があったからですし、国の支援が乏しく、長時間労働を強いられる環境から、仕方なく家事労働者を雇用して解決策とする英国の一部で見られる動きも知りました。私の友人や親族も含めて子供がいる人も増えてきているので、「待機児童」の話は身近なものとなりました。


同時に、「就業環境の不安定さ」や「正社員は待遇が安定する代わりに長時間労働」「一般派遣社員は時間の都合は聞くけど、待遇は不安定。正社員よりも責任はないけれども、正社員と同じ労働をしても給与は安い」ことから同一労働・同一待遇との言葉を知り、同時に、そもそも正規雇用にあっても私生活を犠牲にする働き方に疑問を持ちました。仮に残業時間を相当減らせば育児に従事しやすくなる時間も出来ます。


そういったところからワークライフバランスや働き方、現代の労働環境、そしてメイドをソリューションとする現代事情に関心が向かいました。『英国メイドがいた時代』は『英国メイドの世界』と言う出版経験を積まなければ作れなかったと同時に、私自身がそれまでの職種にいただけでは得られなかった視点や感情をベースとしています。


自分を取り巻く労働環境で成立する「ルール」や「評価基準」がなぜ成立しているのか、どうしたら変えられるのか。そもそも、理想の形はどういうものなのか、との考えも生じました。相当自由度が低く、私はただ運と縁に恵まれて生き延びただけにも思えます。だからこそ、この空気のようなものを変えたいと感じています。


「働いていること」への価値観についても、「家事」についての価値観についても問い直すことは多々ありますが、その辺りはまた後日に広げます。


グローバリゼーション

2011年のメイド研究におけるテーマの一つは、グローバリゼーションでした。この視点は元々自覚していたもので、現代英国の格差を照らし、現代日本の労働環境も相対化する『英国メイドがいた時代』『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足に記してきました。


身近なところで、私が英会話学校で出会ったフィリピンの先生との会話も、グローバリゼーションへの関心を強めました。(メイドの可能性を広げて「接点」を響かせる参照)。さながら大企業と中小企業で給与のベースや福利厚生が違うように、さながら正社員と一般派遣社員と言う境遇で給与に差があるように、生まれる国や環境が違うだけでも通貨価値は異なります。日本で稼いだ給与を現地での教育機会改善に使うという先生の活動に感銘を受けましたし、この構造が持続しえる理由にも興味を持ちました。


社会全体で幅広くメイド雇用が成立するには、低賃金で働く人々が必要で、その状況は低賃金でも働かざるを得ないためにその環境を受け入れる人々が多数いることを前提とします。日本や現在の先進国では産業構造が変化し、経済発展による中産階級の増加に伴ってある程度格差は縮小し、メイド雇用を前提とする社会は崩れていきましたが、日本でも格差が広がり、教育の機会や就業の機会にも格差が見られ始めています。


こうした「グローバリゼーション」は私が派遣で出向いた企業に外資系があったことも影響しています。私のメイド研究のテーマに「グローバリゼーション」があるが故に、私はなおのこと、一度は外資系企業の当事者として現在の状況を経験したい、梅田望夫さん的に言えば「見晴らしのいい場所」に立ちたいとも思いました。長期的に、何ができるかを考えるためにです。


2011年の出来事

こうした背景で私の同人活動は続いていました。ここ数年は35年間の人生で、大きな転換期にありましたと、例年にないほど個人的な話から始まりましたが、自分で引き起こしたものでもあるので後悔はしていませんし、機会を得るためにリスクを取っただけともいえます。また、仮にマイナスのことがあったとしても、その経験がプラスになるように、今後を生きていくつもりです。


というところで、2011年にあった研究軸の出来事です。


1. 同人誌の電子書籍化推進

2010年10月にテストとしてDLSiteで『英国メイドにまつわる7つの話と展望』の公開を行いました。


私はこれまでに何度か同人誌を含めて電子書籍関連のテキストを書きましたが、私は電子書籍へ特に過剰な期待を抱くこともなく、私個人で大きく動かせることもないと思うので、今時点では考察や整理を含めて大きく時間を割くつもりはありません。私以上に真剣にかつ詳しく考察されている方々を見つけられた、というのも理由にはなります。


あと、次のようなモデルも考えていたのを思い出しました。






2. 『英国メイドの世界』1周年&第四刷刊行

『英国メイドの世界』は絶版になることもなく、『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに書いたように、1年間を無事に迎えることが出来ました。


一部のリアル書店でも店頭に並んでいる様子は確認できましたし、少なくともネット上で見える範囲(主にAmazonランキング)では、私の本より後で刊行された英国メイド関連本と同じか、時にはそれ以上の順位でコンスタントに推移しています。


英国メイド関連本が出た時に書店で一緒に並べて売ってもらえるポジションとしてウェブのように認識されていないように思えるのは残念ですが、著者が努力し続けることで自分の本の寿命を延ばし、埋没することなく生き続けた結果として、新しい読者の方々とも出会う機会を得るという結果を出せています。これは、当初思い描いた通りにできたことです。


3. 同人誌『英国メイドがいた時代』&『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』刊行

2008年に刊行した『英国メイドの世界』は私の人生を変えました。その余波が大きすぎたために、その後の同人活動にも影響を与えました。『英国メイドの世界』に続く時代として『英国メイドがいた時代』を作り、同人版『英国メイドの時代』が絶版して生まれた講談社版に掲載されなかった短編集を再生する『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行しました。


この点で、ようやく2008年からの様々な流れを、自分なりに昇華出来ました。同人振り返りの中では「原点回帰」と書いてきてもいますが、もはや何年原点回帰しているのだという話でもあり、そろそろ『英国メイドの世界』から子離れして、自分の世界を広げようとも思います。


4. 水樹奈々さんのラジオ番組に出演

これは出版にまつわる最大の事件のひとつ、というものでした。


FM-TOKYO『水樹奈々のMの世界』のメイド対談を振り返ってにて振り返りましたが、正直、素人の自分がラジオに出演しても失敗することは目に見えていました。それでも、出ていかねばらない「機」だと強く感じました。


「誰に依頼されることもなく、ただ好きを貫いて本を出版する」経験をした上に、「水樹奈々さんにお会いできる」機会を得るというのは、通常起こりえない人生です。さらに「英国メイド研究者がゲストとしてラジオに呼ばれる」と言う事象は、メイド界隈にとって興味深い事例になるのではなると。


私は「好きなことを続ける」ことを大切にしていますし、そういう自由さが尊重される社会であって欲しいと思っています。だからこそ、自分の活動を知ってもらう機会や人との出会いは大切にしますし、その経験が広がる機会を逃したくありませんでした。


これが「大きな一歩」となるよう、今後も機会を作れるよう努力します。


5. 「なぜ今の時代、『英国メイド』なのか」の答えを出す

最後は、文中で少しだけ触れた東日本大震災です。


私が震災後にできたことは献血、募金、津波に遭った宮城県でのボランティア活動(清掃活動)と短期的で限られたものでしたが、震災の直後、歴史を学ぶ立場として出来ることに記したように、自身の専門領域の知識や視点を提供されている方々の活動を知り、自分にも出来ることを広げたいと考えました。


そもそも現代にあって、「ただメイドが好きだから」と言う理由だけで自分がメイドの研究をしていても、社会から遊離しているようでもありますし、同時代性を欠くように思えました。私はそれを本業として食べる立場ではなく、組織に属して働く境遇にあります。その「私」がなぜ研究するのかは常に自問自答しています。


そこで、私は現代人が興味を持つような転職やキャリアアップを軸としたコンテクストを作ったり、現代の労働環境を相対化する視点としたり、更には現代に続く雇用を通じて育児環境や社会福祉にもテーマを広げたりしたつもりです。


そしてこの震災に際して私が感じたのは、「今のままの経済発展、豊かな暮らしは続かない」との想いでした。『英国メイドの世界』で「コンテンツとしてまとまった本文から若干乖離したことで没にしたあとがき」があります。そこに、私の2010年時点の気持ちがありましたので、掲載します。


○2・家事使用人/家事手伝いの歴史が伝えること

 近世を起点とした家事使用人の歴史の帰結を追いかけた本章では、家事使用人の時代の終わりを扱ったその先で、いつのまにか現代へと繋がりました。執事やメイドの姿は歴史の表舞台から消えましたが、誰かが家事を担う役割自体は残り、将来に渡って続きます。

家事使用人という一つの職業集団が生まれ、最盛期を迎えて、衰退する。この歴史や職業が直面した構造的問題は、多くの示唆に富んでいます。


■1・家事を巡る消費の側面と同時代性

 イギリスでは、消費が数多く生まれました。家庭で担った生産は商品革命の進化で外部に委ねられ、新しい製品が家に入り込んできた結果として家事の手間が増え、その解決策として使用人は消費されました。メイドがいなければ、家事は大変な作業でした。

たとえばクルマは今の私たちの暮らしに欠かせない重要な存在ですが、クルマを使った生活自体は新しいものです。メイドを前提とした暮らしは供給不足で変化を余儀なくされましたが、私たちが当たり前に思う「今の社会の便利な何か」は将来、環境や資源の問題で姿を消すかもしれません。生活様式の変更を迫る「使用人問題」は、決して私たちにとって他人事ではないものです。


 家事使用人職が衰退した一方、家事手伝いの仕事はイギリスでリバイバルし、時間をお金で買う形での消費を生み出しています。そして日本国外では、今も家事を手伝うメイドは同時代的存在であり続け、都市部を中心に発展したラテンアメリカや中国などでは、メイドとして働く人々が増加しました。たとえば香港では国内で完結せず、海外からメイドを雇用しています。


 高齢化社会の日本では介護領域で求人がありながら国内で需要を満たせず、海外からの人員受け入れが進んでいます。歴史は繰り返さないとしても、似た構造は出現しています。


■2・物の見方や価値観の基盤

 古代ローマユリウス・カエサルは『人は見たい現実を見る』と言いました。この言葉は「人は見たい価値観で物を見る」と言い換えられるでしょう。使用人問題は、使用人を必要とする生活や、使用人を見る価値観の変化を雇用主に迫るものでした。


 心理学者Violet Firthは使用人問題解決のためにプロパガンダの重要性を訴えました。使用人への偏見、使用人を必要とする生活の歴史は短いものに過ぎないとして、その見方を捨てれば問題は解決すると彼女は主張しました。


 物を見る価値観の影響は、使用人の歴史につきまといます。


 「働くことは神聖」とする考え方や「家庭は神聖」とした価値観は産業革命期のイギリスで普及し、ヴィクトリア朝以降に強い影響力を及ぼしました。「男性が働き、女性は家で有閑化する」ことを尊重した環境では中流階級の女性の就業が好まれませんでしたが、女性の社会進出が進み、使用人雇用が難しくなると、価値観は変容しました。


 何かの価値観が社会で支持されるには理由があるからで、環境が変われば「それまでの伝統」は変化します。それを再確認することは歴史を学ぶ立場として有益で、過去の影響を受けて構築された現代を見る視点として役立ちます。


■3・ある社会で人が「働く」ことへの問いかけ

 使用人が働いた環境は、ある一時代の人の働き方を照らす良質の題材です。使用人問題は、人が働く上で問題となる労働条件を明確にしつつ、政府報告書で答えが見えながら解決されなかったことで、雇用主と被雇用者を巡る労働問題の根深さを物語ります。


 現代の日本人はメイドの問題を、過去の問題とはできません。一例として、労働時間の法的上限を定めた国際労働機関ILOの条約(8時間労働制:第1号や第8号など)を日本は批准していません。日本の労働基準法の法定労働時間は、労使協定(36協定)で上限を引き上げられます。運用や給与や環境で同一でないにせよ、過労死は問題化していますし、労働時間の実質的に上限が無いことは過去のメイドと似た境遇にある姿を示しています。


 もちろん、「働くこと」で見えてくるのはマイナスだけではありません。


 求人広告や人材バンクがあった求人市場は現代的ですし、スキルを磨き、キャリアを重ねるような、人が生きるために働く中で感じる悩みは時代を超えます。


 限られた環境で自分の仕事に責任を持ち、主体的に働いた使用人たちの声や、仕事に生きがいを見出した人たち、戦略的にキャリアを築き上げていった使用人たちの生き方は、社会で働いた「先輩」として、働く自分を見直すヒントがあふれています。


 19世紀初頭のある執事は自分が得た職務経験から、若い男性使用人のために『The footman's directory and butler's rememberancer』という書籍を刊行しました。そこには使用人としての仕事の技術だけではなく、「働く上で、同僚とうまくやる方法」や「執事になった時に大切なこと」まで掲載されていて、ビジネス本に類似した鋭い洞察や、誰かの役に立つために自分の知識を伝える想いが込められています。



私がこの当時想定していたのは、「そのうち、クルマ社会が無くなるのではないか」とのものでした。今、そうした仮定を聞いても「ありえない」と思ったり、「そこで生じる不便さはどうするのか」との反論も出てきたりするでしょう。しかし、過去にあって「メイド・家事使用人」は一部の人々にとって、クルマと似た存在でした。その雇用が難しくなって雇えなくなった場合に、人々の意識は切り替わりました。


「具体的に生活を変える」というのがどういうことか、その経験は過去の歴史の中に見出すことができます。震災の余波による原子力災害にあって、原子力発電が供給してきた「電気」とどう向き合うのかも、「寸断されたインフラ」や「計画停電」によって身近なものとなってきました。この方面の情報収集や学習を適切に行えていないので今時点で私に回答はありませんが、「現代の当り前は、過去にあって当たり前ではない」ということへの自覚や、なぜ自分がそう思うのか根拠を探すこと、そして「好きなようにルールは変えられる」との気持ちが強まりました。


私が尊敬する、1920年代の家事使用人問題の研究者Violet Firthは、こうも言いました。


『生活の一部を変えたら、結局すべてが変わります。(中略)思い込みを捨てることです。生活様式は変えられます。調査の証言者は遅い時間の夕食は必須といいました。しかし、歴史を学べば遅い時間の夕食は最近の習慣で、それゆえ英国人種は遥か昔から、必要性なしで存在していた。使用人問題の議論すべてで、人々は私たちの社会習慣が自然界の法則のように、変更できないと見なすけれども、新しい習慣に適応できなければ人類は絶滅していた。事実として、それらは単なる「習慣」の過ぎません』

(『THE PSYCOLOGY OF THE SERVANT PROBLEM』P.89)


今日は振り返りまで

というところで、これらを踏まえて2012年の目標を書きます。


番外編

2009年時点の目標の達成具合

2009年12月の同人誌『英国メイドの世界ができるまで』に書いた今後の進捗と展望のレビューです。意外とがんばっていますし、時間が経過する中で初期とは異なった形で実現に近づけている物もあります。


活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
同人活動 1. 完結編『使用人の世界の終わり』 『英国メイドの世界』で扱えない領域を書く。 達成 『英国メイドがいた時代』の刊行を行う
2. 『総集編2』について 5〜7巻で描きだした「日常生活」の総集編。 目標変更 『図説英国メイドの日常』が出ているのでよいのでは?

短編集の総集編は、2011年冬に達成。

3. 完結編以降について ・貴族の領地や屋敷での話。

・創作の賞への応募。

・創作の資料を提供する立場

33%達成 『英国メイドの世界』が創作の資料になるのは達成。
【同人以外の活動・出版】 1. 『英国メイドの世界』出版 必ず刊行する。 達成 2011年11月11日に講談社から。
2. プロモーション案の検討 しっかりと読者の方々に届くように努力する。 達成 ・第四版までを実現。

・アクションは『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返るに記す。

3. 『英国執事の流儀』の出版 出版する。 目標変更 ・特にアクションせず。

・別の出版企画を優先中。

【同人以外の活動・インフラ作り】 1. 資料本ネットワーク構想 資料本を有する作家・創作者で資料館を作る。 部分的に達成・継続進行中 ・蔵書の公開はスポットでシャッツキステとのイベントで行う。

・定常的に公開可能な場の確保は某所で進行中。

・他の作家の方を巻き込むのはまだ。

2. 論文/賞的なもの 読みたい・研究して欲しい領域のテキストに賞金を出す。 未達成 ・『英国メイドの世界』が爆発的に売れたら、と思っていました。

・資金の目途は無いので、今年中に運営スタイルを設計予定。

3. メイド研究資料のウェブ公開 Google Booksで未公開で著作権切れ資料のウェブ公開(翻訳含む)。 未達成 ・優先順位的に何もアクションせず。

・いつ行うかは、また別途検討課題。主に時間。

4. 留学と英国滞在 研究したいので。 未達成 ・それだけのお金がないです。

・外資系企業に転職したので英語力を伸ばし、英国で仕事する可能性を模索。

5. 論文を書く 研究したい領域があるので。 未達成 ・今のところ、未定です。


2010年時点の目標の達成具合

2010年を振り返る&2011年への抱負もついでにレビューします。


活動領域 項目 詳細 結果 結果の詳細・変更点
【「メイド」の概念を広げる】 メイドの概念を分類・世に伝える 「日本のメイド」「英国メイド」「現代の家事労働者」の3軸を理論化して示す。 途上 ・現代をテーマとする『英国メイドがいた時代』を刊行。

・研究自体は着手。

【同人誌】 1. 同人誌『階下で出会った人々』を刊行 実在する家事使用人の人名・エピソードガイド。 未達成 ・どうしようか考え中。

・代わりに『誰かの始まりは、他の誰かの始まり』を刊行

2. 同人誌『英国メイドがいた時代の終わり』を刊行 20世紀全体でメイド雇用衰退の経緯を描く。 達成 ・タイトルは『英国メイドがいた時代』に変更。
【個人の目標】 1. 小説を書く ・英国メイド関連の物語を描き、多様性を伝える。

・賞に応募する。

・短編小説サイトをWrodPressに移行する

33%達成 ・物語は2年ぶりに書けた。冬コミ新刊で整理・作成。

・応募作は未定。

・移行作業もまだ。

2. 活動スポンサーを見つける(非メイド関連事業) メイドコンテンツホルダー以外で研究を支援してくれるスポンサーを見つける。 未達成 ・何も働きかけをしていません。

・これも2012年中にプランのみは立てます。

3. 他メディアへの展開 旅行業界や転職業界、IT業界など。 未達成 ・メディアでの取り上げはほとんどないですね。ラジオ出演ぐらい?

・とりあえず、仕事・キャリアネタで売り込みに行きましょうか。

【勉強について】 1. イギリス屋敷への橋頭堡を築くく イギリス屋敷関連のコミュニティーに入る。見つけてもらう。 未達成 何もしていないですね、はい。
2. 英語力(TOEFL)を高める:点数を決めて 留学に必要なレベルに到達する。 未達成 2011年は時間が作れませんでしたが、今年はSkypeでの英会話レッスンを始めたり、英会話コミュニティなどに入ったりする予定です。
3. 留学する 研究したいですね、現地で。 未達成 2009年振り返りに記したとおりです。


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