ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『日本のメイドカルチャー史』上下巻・発売開始

6年間の準備期間を経て、10/26に『日本のメイドカルチャー史』の上巻が、11/02に下巻が発売しました。同時発売でないのは、校正に時間がかかり、予定を超えてしまったためです。





本書の内容は、日本のメイドカルチャー史(著者による紹介)にてすべての目次を公開し、内容を判断できるようにしています。また、参考文献や読書に役立つウェブサイトの紹介や、誤字・脱字・誤認なども補完していきます。



本書の概要については上記、著者による紹介に加えて、『日本のメイドカルチャー史』から「はじめに」全文を公開しました。



日本のメイドカルチャー史(上)

日本のメイドカルチャー史(上)





本書を読む方に向けて、ひとつ伝えたいことがあるとすれば、可能な限り、章通りに読んだ方がより楽しめる、ということです。



メイドブームの本が通史として今までほとんど出ていなかったのは、そのコンテクストが多様すぎて、個々のブームの関連性を説明するのが、非常に難しいからです。本書はそのコンテクストを丁寧に解きほぐし、読むことによって情報を整え、それ以降の章で層を積み重ねるように伏線を回収していきます。それは、読むことで知っていることが増えて、その知っていることが次の章を読む時に繋がっていく「知の連鎖」の気持ち良さを引き起こします。



メイド喫茶を扱った第5章も、その後、漫画や小説にどう影響を与えたのか第6章で補完していきますし、最終章でも、日本が生み出した「メイド喫茶メイドさん」がどのような文脈を得て行ったのかを解説しています。さらには、「メイドブームは終わって、日常となった」という意味を、多種多様な参考資料のトレンドの推移から論証していきます。



なので、お時間がある方には、『日本のメイドカルチャー史』は歴史小説を読むように、最初の章から順番に読んでいただくことをオススメしています。そして読み終わると、目の前にある景色の見え方が変わっているかもしれません。



本書が「愛と狂気」のタイトルを冠するのは、これだけ異なる文脈のブームを、「ひとりで書いている」ことにあると思います。しかし、ひとりでなければ書けません。膨大な情報を俯瞰して、本来は見えない繋がりを見ることができる視座を得られなければ、見えないことが多くありすぎたためです。



勿論、先行研究の恩恵もあります。ただ、エリアによってはその情報を「メイド」と結びつけてみようと思うことがないがゆえに、ほとんど見えていなかったところもあります。



今回の本は「私が見たメイドブーム」で、「これがメイドブームのすべて」と言うつもりは全くありません。タイトルが「全史」でないのは、無理だからです。タイトルのコンセプトとしてあったのは、『私たちが見たメイドブーム』です。見る人によって違う、でも、本書を通じてその時を思い出すような機会となること。そこに正解はなく、ただ、私が見つけたメイドを読者の皆さんにシェアする、というような設計思想です。



日本で生じたメイドブームという20年以上の期間に及んだムーブメントを、私が「ツアーガイド」として案内するようなものです。もちろん、他の方がツアーガイドを務めれば、別のルートも見えることでしょう。私の役目は、「ここに山がある」、あるいは、「ここに宝がある海図がある」と、示すことにあります。あとは、そこを目指す人たちが増えることを願うのみです。そこをかつて旅した人が多いエリアでもあるのですから。



アマゾンのレビューをお書きくださった方の言葉が、響きます。



"記憶を呼び起こす楽しい作業に満ちている。"



https://www.amazon.co.jp/dp/4065103991



そのために作りましたし、その楽しさに突き動かされて研究が続きました。



帯に記された「愛と狂気」をシンプルに言えば初期原稿は約51万字(400字詰め原稿用紙1275枚)、メイドについてそれだけ書くことがあるのかと言われれば、まだ書き足りません。費やした時間は6年。新聞記事と雑誌記事がそれぞれ約1000記事(使えなかったものも含む)の閲覧・コピー、収集した資料も大変なもので、資料を自由に集めるために会社で働いているのかと錯覚するような状態でした。



この狂気に付き合ってくださったのが、講談社BOX時代に『英国メイドの世界』出版を決めてくださった、星海社太田克史様です。



以下の写真と、太田様のつぶやきが、初期状態です。











気がつけば、商業デビュー作?『英国メイドの世界』出版から7年が経過しました。2作目も、気がつけば「上下巻」となっていました。「冊目」という言い方をすれば、「2冊目の本と一緒に、上下巻なので3冊目もある」という、いわば「双子」が生まれた状況と同じです。



という思いつきを書いていて、ふと。この「双子」は、武内崇様に描いていただいた琥珀翡翠という双子のメイドにも繋がっていきますね。







出版を見届けたのと、伝えたいことはすべて本に書いたので、通常営業に戻ります。あとは、読者の方たちに委ねます。読み終わるのに数日かかるはずで、なかなか一つの本にそこまで時間を使えないと思います。みまさまが読書を楽しみ、自分たちが見てきたメイドブームを思い出し、あるいは今の中に見出し、楽しまれることを願っています。