ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん このページをアンテナに追加 RSSフィード


AMAZON『英国メイドの世界』へ  ■講談社より刊行しました! 屋敷の暮らしと使用人の仕事が分かる『英国メイドの世界』
 -屋敷で働くメイド・執事の仕事が分かる資料本『英国メイドの世界』:第一章の試し読み開始
 -出版化時にこだわった「読みやすさ」と「分かりやすさ」

 ■英国ヴィクトリア朝・屋敷や貴族関連の資料/映像をお探しの方にオススメ
 『ダウントン・アビー』を見る前に読んでおきたいカントリーハウスと職場の解説

 -SPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]更新中




2016-10-19 ヴィクトリア女王の最新ドラマ

[][][]ITV『Victoria』 2016年放送のヴィクトリア女王の最新ドラマ

Amazon UKからヴィクトリア女王の最新ドラマ『Victoria』が届いたので、1話目を視聴しました。




女王の頼るべき人

序盤は影響力争いというか、子供扱いして権限を残したい母親 Duchess of Kentと、そのKent家に取り入っているSir John Conroy、このふたりとのコミュニケーションが面白いです。失敗を願うようなコミュニケーションが多く、周囲に支えてくれる味方がいない女王は強い反発を抱き、このふたり(あと母の侍女で、Conroyとの関係が疑われたLady Flora)からのコミュニケーションを拒否し始めます。


母の影響力が強いケンジントン宮殿から、バッキンガム宮殿への引越しは、さながら平城京から平安京への遷都のようでもあります。そして、この頃のバッキンガム宮殿は四辺がある今の形ではなく、あとで増築されたというエピソードも踏まえた外観になっています。ただ、さすがにそこはCGです。バッキンガムに移り住んだ女王は、自分をサポートする側近を自分で選び、当時の首相の2代目Melbourne子爵William Lambを頼るようになり、また自分の部屋と母の部屋を遠ざけます。


年齢が離れたMelbourne子爵が女王の庇護者として、教育者として、女王の自主性を重んじつつ、自身の影響力も自覚しつつ、抑制した距離感で側に支え始めます。権力を失い始めたSir John Conroyは焦りますが、追い打ちをかけるように、女王はSir JohnとLady Floraを戴冠式に呼びません。また、Lady Floraに妊娠の疑惑の噂が広まり、身の潔白を証明するため、Lady Floraは妊娠しているか物理的な検査を医師から受けるという、残酷な仕打ちを受けます。結果、彼女の妊娠はありませんでした。


https://en.wikipedia.org/wiki/Lady_Flora_Hastings


その後、彼女は死に至り、女王もその点で責められます。なお、このLady Floraにまつわるエピソードは、 以前に見たヴィクトリア女王の映画『ヴィクトリア女王 世紀の愛』にはなかったように記憶しています。これは、先の映画が「アルバート公との恋」がテーマのすべてではないので、より丁寧に描かれているからかもしれません。また、他の映画との比較ではジュディ・デンチが女王を演じた『Mrs Brown』(使用人Brownの影響力が大きく、その夫人と揶揄された未亡人時代)までいくのかな?とも思えました。


第1話は、戴冠式を迎えたのち、執務に励む女王の姿で終わっています。


見所1:家事使用人描写が充実している!!

今回のドラマで『ダウントンアビー』の影響を強く感じるのは、階下の描写を丁寧に行っている点です。即位した女王はすぐに階下にも手を伸ばし、元ガヴァネスのLouise Lehzenに階下の統括を任せます。面白くないのは元々いたハウスキーパー(侍女)と執事ですが、逆らえずにいます。


この階下の描写がかなり充実しており、たとえばケンジントン宮殿からバッキンガム宮殿に引越しをした際は、女王を描くだけではなく、階下の使用人の引越し後の仕事も描いているのです(ここで出てきたキッチンは、Harewood Houseで撮影したような気がします)


また、家事使用人はperksという、仕事を行う上で生じる「役得」として、たとえば料理で出た肉汁、たとえばこのドラマでは使ったロウソクのあまりや、女王の使い古した手袋などを、関わる使用人がいわば売り払って現金を手にする点についても描いています。このエピソードがLouise Lehzenの目に止まり、女王に報告されてあわや解雇か、というシーンにつながりますが、この辺の女王の対応はユニークでした。


これが仮に実話だとして、そういうのが実際に流通して購入した人があとで知ったら、どんな気持ちになるのだろうか……時になります。


見所2:女王の衣装

DVDパッケージには英国Leeds近くのカントリーハウス、Harewood Houseでこのドラマで使うコスチュームの展示があるとのチラシが入っていますが、2017年からとのことで。この前の9月下旬の英国旅行で訪問した場所です。IMDB撮影地情報にはこの屋敷の名前もあり、出てくる模様です。


http://www.imdb.com/title/tt5137338/locations


女王が閲兵するときに着たという軍服的なスタイルは、ヴィクトリア女王が始めたもので、バッキンガム宮殿でも展示されていたのと同じもののように思います。また、引越ししてすぐ王座に腰掛ける女王はかわいく、その辺りは子供っぽいてんも描かれています。この時の女王は半袖パフスリーブのドレスを着ていて、これも以前見たことがある女王のドレスを想起させます。


この時期が華やかであればあるほどに、喪服をメインとしていく女王のその後が際立つ、かもしれません。


第2話を見て元気があれば、また書きます。

2016-01-11 こういう切り口もたまには

[][]羽海野チカ先生がダウントンしない英国ドラマを紹介してみる

昨日からNHK総合で『ダウントン・アビー』シーズン4の放送が始まりました。私は先に寝てしまって、真夜中に目覚めてTwitterを見たのですが、『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』を描く漫画家・羽海野先生が以下のようなつぶやきをしていました。



確かに『ダウントン・アビー』はシーズン3の終わりからシーズン4にかけて、より描写が過激化(人が死ぬ、精神的にも肉体的にも悪意によって傷けられる)していくので、私個人としてはピークはマシューの結婚までと、シーズン6ぐらいからの復活なのですが、「ダウントンしない」作品というものを考えるのは、自分の棚卸的に良いかも、と思いました。


事前に私の立場を記しておくと、『英国メイドの世界』という英国家事使用人の歴史本を作り、英国メイドの研究は16年目です、2014年12月には『ミステリマガジン』2015年2月号「ダウントン・アビー特集」に寄稿しました。


条件

・上流階級の屋敷や生活描写ができるだけある。

・ドロドロした恋愛劇や、ドラマ上の死が数多くは存在しない。

・キャラクター同士が傷つけ合う関係がずっとは続かない。

・ハートフル要素あり。


そうした条件でいろいろ考えてみました。


映画『アーネスト式プロポーズ』

アーネスト式プロポーズ [DVD]

アーネスト式プロポーズ [DVD]

オスカー・ワイルドの『真面目が肝要』を原作とする『アーネスト式プロポーズ』が、屋敷を舞台にした喜劇で楽しい作品です。撮影に使われた様々な屋敷が豪華なだけではなく(私が大好きなロンドン・スタッフォードハウスの階段も出てきます!)、コリン・ファースジュディ・デンチルパート・エヴェレットなど役者も豪華でオススメです。


執事もメイドも様々に出てきて場面を彩るので、今回の条件に最も適合すると思います。


『アーネスト式プロポーズ』感想


ドラマ『ラークライズ』

『ラークライズ』は英国の古典的な書物で、「イギリスで高校生の必読書とされた」作品です。1880年代の英国を生きた作家フローラ・トンプソンが描き出すのどかな田園風景と、田舎の素朴な暮らしは英国田園マニアには最高の資料で、日本では先に書籍が登場しました。


一九世紀イギリスの田園風景を描いた『ラークライズ』


ドラマも作られ、英国ではシーズン4ぐらいまで続きました。日本でDVD化されていないのですが、LaLaTVなどで一時期放送されました。


DVD『Lark Rise to Candleford』第1話(2008/04/12日記)

DVD『Lark Rise to Candleford』第2話(2008/04/17日記)


ドラマ『クランフォード』

おばあちゃんたちが主役の物語『クランフォード』も、羽海野先生へのオススメになるでしょう。エリザベス・ギャスケル原作の英文学で、ジュディ・デンチが主演するこの作品は田園地帯を舞台とした庶民の物語で、英国貴族の絢爛豪華な生活描写という指定からは外れますが、ドラマとしてはハートフルで、落ち着いた作品です。


『クランフォード』感想


ドラマ『北と南』

同じエリザベス・ギャスケル原作の『北と南』は工業都市が舞台の異色作ですが、上流階級の物語です(正確にはUpper-Middle?)。先述の『ラークライズ』と『北と南』には、『ダウントン・アビー』でヴァレットを演じるベイツ役のブレンダン・コイルが、それぞれ石工のお父さん、工場の職人長で出てきます。


あと、この作品は『ホビット』でドワーフのトーリンを演じたリチャード・アーミティッジが工場主として主演をしています。


『北と南』感想


ドラマ『高慢と偏見

高慢と偏見[Blu-Ray]

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安心してみられる上流階級のドラマといえば、ど定番の『高慢と偏見』です。最近では『キングスマン』、その前では『英国王のスピーチ』でおなじみのコリン・ファースの代表作といえるものではないでしょうか。1990年代半ばに日本ではNHKで放送され、この作品を通じて彼のファンになった女性も多いとおもいます。


原作は英文学を代表するジェーン・オースティンの『高慢と偏見』です。シリーズ数も短く、屋敷での撮影もしっかり行われていつつ、田園の風景もあるなど、さまざまな魅力が詰め込まれた作品です。


『高慢と偏見』感想


映画『秘密の花園』

秘密の花園 [DVD]

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バーネットの児童文学の映像化では、まず映画『秘密の花園』が最高にハートフルといえると思います。そういえば、この作品で屋敷のハウスキーパーを務めているのが、『ダウントン・アビー』で伯爵未亡人のおばあちゃまを演じるマギー・スミスでしたね。メイドが出演する作品としてはベスト3に入ります。


鉄板すぎて、自分のブログでは感想を新しく書いていないですね……


ドラマ『小公子』

Little Lord Fauntleroy [DVD] [Import]

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同じバーネットの児童文学の映像化では、ドラマ化した『小公子』があります。こちらは相当忠実に原作を映像化しており、個人的にはオススメの作品なのですが、NHKで15年以上前でしょうか、放送があったのち、再放送がありません。その上、日本での商品化もなく、英語版を買うしかありません。


『Little Lord Fauntleroy(邦題:小公子)』感想


映画『ミス・ポター

ミス・ポター [DVD]

ミス・ポター [DVD]

ピーター・ラビットの原作者のビアトリクス・ポターを主役とした『ミス・ポター』は、いかにしてミス・ポターが自身の作品世界を作り、また出版を行って自分の世界を伝えていったかを描いたハートフルな作品です。生まれが良いので、上流階級の世界(こちらもUpper-Middleといったほうが良い?)も描かれています。


『ミス・ポター』感想(ネタバレなし)


映画『日の名残り

最後に、上流階級の家事使用人のトップである執事を主役とした、英国使用人ドラマの最高峰『日の名残り』を。英国作家カズオ・イシグロと言えばこの作品だった時代がありました。この作品は第二次世界大戦後の英国屋敷に住むアメリカ人富豪に仕える英国執事スティーブンスが主役です。スティーブンスという執事キャラがいれば、間違いなくこの作品の影響でしょう。


物語の時間軸は2つあり、「戦後を生きる執事」と、そもそもこの屋敷の所有者でスティーブンスが最高の敬意を持って仕えた英国貴族ダーリントン卿がいた時代=「屋敷の暮らしが華やかでピークだった時代」への回想で進みます。


1990年代に作られた映像作品では最高資料と言えるほどに家事使用人の仕事(日常生活ではないですし、執事視点なのでその他の使用人はそれほど描かれないです)と、また執事とハウスキーパーという「上級使用人」の管理職を描きました。


ハートフルかと言われれば難しいのですが、先述の「ダウントンしない」条件は満たすかと思います。


『日の名残り』感想(原作小説)


ここまで書いてみて:なぜ「ダウントンする」のか、背景を考えてみる

そもそも「ドラマシリーズ」は話を長く続ける都合上、「繰り返し」と「何かしら事件を起こして話を続ける必然性」があるので、あまり「ダウントンしない」条件に適合しないかも、と思いあたりました。飽きさせずに次回を見たいと思わせるには、強い引きもインパクトも必要かもと。


そして『ダウントン・アビー』のようなドラマは、「そのほかの同時期に放送している現代ドラマ」シリーズとも視聴率争いをしているかもしれません。その点では、放送中のほかドラマと意識して、ある程度、展開の起伏が大きくなっていくのも必然なのかも、と考えました


「ダウントンしない」作品として私が列挙したものは、ほとんど文学作品のドラマでした。表現に規制が多かった時代もあり、こうした原作付きの作品はおとなしい表現が多くなりますし、短い時間で済むことも多いです。その点、児童文学もハートフル枠になりますし、アニメの『ハウス世界名作劇場』シリーズも、この枠に入るでしょう。スタジオジブリの作品も、空気感は似ていますね。


こうした「先行のドラマ」作品がある上で作る別のドラマは、その先行作品との差異化の中で過激化する必然なのかもしれないと、改めて思いました。


終わりに

『ダウントン・アビー』には非常に魅力を感じる点が多くありつつ、「ダウントンしない」という言葉はしっくりきました。とはいえ、いざそうした作品を紹介しようと考えると、意外と思いつかないものでした。『ダウントン・アビー」がきっかけで色々とこの界隈に興味を持つ方がいるならば、その楽しみ方の選択肢を広げるお手伝いができればと、ブログの形でまとめました。


全作品オススメですが、いくつか上流階級の屋敷ではないドラマも混ぜてしまいましたので、きっちり絞れば『日の名残り』『秘密の花園』、『アーネスト式プロポーズ』でしょうか。


なお、『名探偵ポワロ』と『ゴスフォード・パーク』はハートフルではないので除外しています。『名探偵ポワロ』はポワロさんとヘイスティングスがチャーミングなので、ぜひ、見ていただきたいですね(今、NHK-BSで土曜日夕方に放送していますので)。BR>


NHK公式:名探偵ポワロハイビジョンリマスター版


取り上げなかった英文学で言えば、ディケンズ作品シリーズで『荒涼館』もありますね。他に、イブリン・ウォーの『Brideshead Revisited』も。『情愛と友情』としてリメイクされた作品には、ベン・ウィショーもでていますね。

情愛と友情 [DVD]

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最後に、言及した世界名作・ジブリつながりで言えば、私の同人誌(2015年8月に製作)『メイドイメージの大国ニッポン世界名作劇場・少女漫画から宮崎駿作品まで』が、メイド・使用人描写の変遷を1970年代から遡って分析していますので、オススメです。



2012-11-18 沈む夕日の中あらわれたイリュージョン

[]ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 感想(ネタバレ:2回視聴の上で)

はじめに(ここはQのネタバレなし)

『新世紀エヴァンゲリオン』は自分にとって特別で、アニメから受けた影響が最も大きな作品です。1995年の放送時、19歳だった私は毎週欠かさず、それこそ放送があった水曜日を待ち望んでいましたし、その当時は普通だったVHSに録画を欠かさずにしていました。今でも、「あ、録画をし損ねた」と飲み会の時に思い出したこと、『最後のシ者』を深夜まで何度も繰り返し見ていたことを覚えています。


あの頃、関連するゲームでも遊びました。たとえばセガサターンの派生ゲーム『新世紀エヴァンゲリオン』(委員長が主題歌を歌う)や『新世紀エヴァンゲリオン 2nd Impression』、それに『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド』、そしてTRPGのシステムで出た『新世紀エヴァンゲリオンRPG NERV白書』など、エヴァのキャラクターや世界観を相当楽しみました(その楽しみ方の原点は『ゲーム的リアリズムの誕生』の指摘で気づいたのですが、『ロードス島戦記』でしょう)。


もちろん、テレビ版の終わりの2話や、旧劇場版の結末は忘れられません。ただ、あの最後の旧劇場版で私は「感想」を何も抱けませんでした。劇場を出て呆然として、空っぽでした。一緒にいた友人とも会話ができませんでした。


しばらくして、お金を払って、なぜこんな目に遭わなければならないのかと思いました。テレビ版のキャラクターたちがあっさりと殺されていく、人類補完計画の名の下に蹂躙されていき、キャラクターの無力を味わってカタルシスが無く、最後のセリフも意味が分かりませんでした。


その当時、ネットにも同人にも繋がっていなかったので、新しい情報を入手したり、共有したりする場もありません。そこで私はストップし、作品への怒りも特になく、淡々と受け流していました。旧劇があのような作品であっても、『新世紀エヴァンゲリオン』と言う作品全体から受けた印象は総じて私にとってはプラスでしたし、特別なものとして残り続けました。


衝撃的な旧劇場版から時を経て、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズが2007年から始まりました。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』はテレビ版を踏襲しつつ、テレビ版よりも人の繋がりが強く描かれているようで、街にもネルフにも学校にも「人間」が多く描かれていました。使徒のデザインの変化も驚きました。


『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、その当時見たアニメでは最高峰の技術が結集されていて、純粋にアニメとしての気持ち良さが詰まっていました。エヴァが走る躍動感は何度見ても爽快で、使徒のデザインは人間の想像力を試されている感じがしましたし、単純に倒せない使徒の変異も素晴らしいものでした。映画館で結局、3回以上は見たでしょうか? 作品の中で、ネットで言われるようにシンジくんは「シンジさん」と呼ばれるような変化を遂げたのも旧劇場版との違いですし、「楽しませよう」「気持ちよくさせよう」というエンターテインメントとしての意志を感じました。


では、その次の作品となる『Q』は?


以下、ネタバレとなるQの感想です。






















『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は、『序』『破』の延長にあると期待して、私は劇場に行きました。『破』で感じた「アニメ的気持ちよさの追求」が継続し、旧劇場版にあったような「?」な作りはもう無いであろうと。ところが、『Q』は序盤から『破』と雰囲気が違っていました。


時間は14年後になっていますし(旧劇場版からも14年が経過していますね)、何よりも当惑したのは、そこにあった雰囲気が「旧エヴァ」だったことです。とにかくコミュニケーションがぎすぎすしているというか、きちんと説明すれば伝わるのに、一言や二言が足りず、或いは踏み込むことができず、また説明することもせず、それが積もり積もって結果を悪い方へと導いていく。どちらかでも歩み寄っていけば結果が違うかもしれないのに、との構造でした。


初回は正直、この話に翻弄されて、感想を持てませんでした。さながら旧劇場版を見た後のような気持ちで、エンディングの曲も耳に入る余裕がありませんでした。次回予告に救いを見出しましたが、『破』の時にあったようなカタルシス(『破』の本編で死んだと思っていたアスカが、予告編に登場)が一切なく、「これで終わるの?」「この予告はなんなの?」と、より疑問が深まるばかりでした。


そして、帰宅してからは、ネットを回遊して、感想を探しました。この「分からなさ」や「作品で受け止めたものを、『補完する』アクション」こそ、エヴァだったなぁと思い出しながら。


ヱヴァQの話をしよう(2012/11/17)

『ヱヴァQ』感想 シンジ君は『Q』で底を打ちました(2012/11/17)

間違いない。エヴァだ――『ヱヴァンゲリオン新劇場版:Q』(ネタバレ)(2012/11/17)


というところで、頭を冷やして、2回目を見に行きました。すると、一度目にあった「『破の』延長と考えていた自分の期待」によって生じた当惑と驚きが消え、よりフラットに作品を見ることができました。その中で気になったのは、カヲルくんの言葉です。「エヴァで起こしたことは、エヴァでやり直せる」との言葉は、「旧劇エヴァ」でやったことは「新劇ヱヴァ」で、或いは新しい物語でやり直せるとの意味にも取れました。


そこで、作品の方向性がタイトルにあると思い至りました。


『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 EVANGELION:1.0 YOU ARE (NOT) ALONE.』は、「あなたは一人(ではない)」となっており、この場合、劇中で選択されたのは「一人ではない」でした。作品内ではシンジは「繋がりの中にいる」感じが見えました。


『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.0 YOU CAN (NOT) ADVANCE.』は「あなたは先に進むことができる(できない)」。この場合、選択されたのは「進化」でした。自分からなかなか意思決定を行えなかったシンジが、綾波を助けることを選択し、ミサトもそれを支持しました。そこには、カタルシスがありました。


しかし、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.0 YOU CAN (NOT) REDO.』では、その選択の結果、サードインパクトが生じ、世界は滅びかけてから14年後からスタートします。そしてタイトルで問われていたのは、「あなたはやり直すことができる(できない)」です。そこにカヲルくんの言葉を重ねると、この物語は「やり直しのための物語」であると。


実際にはカヲルくんが「やり直せる」として挙げた二本の槍が、期待と違っていて「やり直せなかった」のかもしれませんが、旧劇と違って、ラストシーンではアスカがシンジと綾波を連れて一緒に旅立っていく(アスカは物語中、罵りながらもシンジを最後まで絶対に見捨てない)点で異なる未来が見えました。


そもそも、私は「なぜ、エヴァンゲリオン」は新劇場版として作られなければならなかったのかを、正しく理解していませんでした。この時代に作られる=過去にできなかったことの表現(やり直し:REDO)ではないかと思った時、この新劇場版を作るに際して庵野総監督が行った「所信表明」を見つけました。そこに、答えは書いてありました。


(前略)「エヴァ」はくり返しの物語です。

主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。

わずかでも前に進もうとする、意思の話です。

曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。

同じ物語からまた違うカタチへ変化していく4つの作品を、楽しんでいただければ幸いです。


最後に、我々の仕事はサービス業でもあります。

当然ながら、エヴァンゲリオンを知らない人たちが触れやすいよう、劇場用映画として面白さを凝縮し、世界観を再構築し、

誰もが楽しめるエンターテイメント映像を目指します。


庵野秀明総監督 所信表明http://neweva.blog103.fc2.com/blog-entry-26.htmlより引用


新劇場版はループ構造を持ち、また「肯定(否定)」の選択の結果で物語が変わっていくことも指摘されています。その上で過去に指摘されたような「見た人を馬鹿にするような要素」については、「サービス業」「エンタメを目指す」との言葉で抑えられているでしょう。新劇場版では雑誌で特集が組まれるぐらいに企業の広告メディアとしての活用を取り入れており、「見た人を意図的に傷つける」リスクも少ないのではないでしょうか? その点で過去と立ち位置が変わっている感じもしています。


「エヴァ」はループ的に消費されてきた作品でした。冒頭で取り上げたように、セガサターンのゲームや『鋼鉄のガールフレンド』、『綾波育成計画』、『新世紀エヴァンゲリオン2』、そしてキャラクターデザインの貞本氏によるコミックスと、キャラクターや構造は同じながらも、様々な形で消費されてきました。さらには『スーパーロボット大戦』やパチンコでの展開など、物語の接点の広がりと消費は確かに「エヴァ」の「繰り返し」を物語っています。


とはいえ、"REDO"をできたとしても、それは「行ってしまった過去」が消えることではありません。公開された次回タイトルに含まれる「シン」が「sin」(宗教的な意味での罪)と指摘されているのは、それを暗示しているでしょうか? 作り手にとって、過去の行いは「REDO」したいものであって欲しい(だから『新劇場版』が作られた)との想いは、きっと私が見たい現実を見ている結論なのでしょうが、こうした「補完」したくなる、納得したくなるところがエヴァの魅力ならば、まさしく今回のQは「エヴァ」でした。


しかし、次の『シン』で見たい方向性としては、全滅以外のエンドですね。「誰もが楽しめる」との言葉を、信じたいと思います。


ちなみに、アスカ派でした。


ブクマでご指摘を受けましたが、今もアスカ派です。


2012-05-27 英国映画三昧

[]定番イギリス・クラシック映画が一挙放送・NHK-BS 2012年5月末〜6月上旬

NHKでイギリスを代表する、19〜20世紀前半を舞台とする映画を軸に、クラシック映画の上映が続きます。エリザベス女王の即位60周年とロンドンオリンピックのおかげでしょうか。なんだか1990〜2000年代前半を彷彿させるようなラインナップです。


NHK映画カレンダー


上記URLには該当期間のみ有効な情報が掲載されていると思うので、このブログ記事の賞味期限は短いです。


■NHK BSプレミアム


2012/05/28 『いつか晴れた日に』(1995) 13:00〜15:17

2012/05/29 『日の名残り』(1993) 13:00〜15:15

2012/05/30 『遙か群衆を離れて』(1967) 13:00〜15:49

2012/05/31 『ある公爵夫人の生涯』(2008) 13:00〜14:51

2012/06/01 『Emma エマ』(1996) 13:00〜15:02

2012/06/02 『エリザベス』(1998) 00:00〜02:05

2012/06/03 『クィーン』(2006) 14:00〜15:44

2012/06/04 『マイ・フェア・レディ』(1964) 13:00〜15:54

2012/06/05 『ガス燈』(1944) 12:00〜14:55


上記タイトルにあるリンクは、私の感想です。『いつか晴れた日に』と『Emma』もありますが、10年以上前に書いたものなので、改訂します。


お屋敷や家事使用人が出る話もありますので、貴族の屋敷で働くメイドの多様な職種や執事・フットマンの仕事、そして転職事情や働き方を解説する[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)をご覧いただくと、楽しみが増しますので是非。1章はPDFで試し読みできます。


あと、以前英語版をご紹介した『Dorian Gray』の日本版が出ます。Amazonで予約できます。


ドリアン・グレイ [DVD]

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2012-02-07 『名探偵ポワロ』新シリーズ、NHK-BSで今週4夜連続放送

[][]『オリエント急行の殺人』と『英国メイドの世界』を一緒に読むと広がる楽しみ

私の英国メイド研究・屋敷研究の原典と言える、英国ドラマ『名探偵ポワロ』の新シリーズが昨日からNHKのBSプレミアムで02/06(月)から02/09(木)まで放送されています。


NHK公式サイト


DVDも5月に出るみたいですね。


名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 4

名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 4



最終夜は『オリエント急行の殺人』です。私がこの作品に接したのは高校生の頃で、作品としてのトリックに驚きましたし、その結末も予想外のものでした。で、2004年にクリスティ文庫が創刊した際に読み直し、そこから暫く離れていました。2010年にこの作品の映像化を聞いて狂喜し、今年は自分にとって大豊作の予感(2010/05/31)や2010年・日本と英国で「ヴィクトリア朝・メイド・屋敷」的な作品が豊作の年(2010/12/23)と取り上げました。


こうした思い入れのある作品ではありますが、『英国メイドの世界』の刊行を通じて家事使用人の世界をより理解したことで、「私がこれまで接した『オリエント急行の殺人』」の印象が変わりました。『英国メイドの世界』と最も相性がいいアガサ・クリスティの作品は、『オリエント急行の殺人』だと私は思います。かつて気づけなかった「作品に描かれた世界と人物の深さ」に私は驚きましたし、より作品を愛することができました。


もしも『英国メイドの世界』をお持ちの方、並びに『オリエント急行の殺人』が好きな方で『英国メイドの世界』を未読の方は、是非、両方に接してみてください。


見える世界、表現された意味が違うはずです。




英国メイドの世界

英国メイドの世界



『英国メイドの世界』第一章・PDF試し読み版(約23.7MB)

目次や著者による『英国メイドの世界』紹介