やっぱりカーナビはなくなる

2011/06/21 14:23清水 直茂=日経Automotive Technology

スマートフォンの急激な普及とスマホナビの隆盛に、カーナビメーカーも徐々にス
マホナビに舵を切りつつある兆候と言えるかもしれません。とはいえ、現段階はあ
くまで車載カーナビありきの取り組みです。

スマートフォンにCAN情報

 ところが最近、この考えの崩壊を予見させる試みが出てきました。トヨタ自動車
は最近、経路案内というカーナビの核といえる機能をスマートフォン(とデータセ
ンター)にすべて担わせる車載カーナビの試作機を「次世代自動車産業展2011」(
2011年6月15〜17日、東京ビッグサイト)に出展しました。試作品では、スマート
フォンと車載カーナビをHDMIケーブルでつなぎ、スマホナビ(とデータセンター)
で演算した経路案内画面や音声を車載カーナビに伝送していました。無線LANで映
像を、Bluetoothで音声を送ることもできます。こうなると車載カーナビは単なる
ディスプレイです。

トヨタが開発中のスマホと車載カーナビを連携するシステム
スマホナビに車載カーナビの機能を担わせる
 もしこのカーナビが実用化されると、これまでの高価な車載カーナビは不要です
。カーナビメーカーもいりません。肝心の機能はスマホナビで実現できるわけです
から。

 もちろん、スマホナビで現在の車載カーナビの機能をすべて実現できるわけでは
ありません。車載カーナビはブレーキやサスペンションなどの制御系システムに位
置情報などを送る機能を担いつつあるからです。車両安全の根幹に関わる制御系シ
ステムの情報を担うのは、スマホナビではなかなか難しいところかもしれません。
開発には自動車に関する深い知見が必要です。スマホナビで車載カーナビの機能を
すべて置き換えるには、ここに大きなカベがあります。

 ただ、このカベも将来は崩れるかもしれません。トヨタが開発中の前述のシステ
ムにはそう思わせる試みがありました。スマートフォンに、車載LANの「CAN」に流
れるステアリングの動作信号などの制御系情報を伝送していたのです。
 これを見たときには驚きました。安全性と信頼性を重んじる自動車メーカーは一
般に、制御系情報の扱いにとても慎重だとみていたからです。もし外部からCANに
悪意のある情報が流れると、重大な事故につながる可能性があります。CANを外部
のネットワークとなるべく隔絶させるのが普通です。しかしトヨタは、そうしたリ
スクを鑑みた上で、外部のネットワークとCANをつなげる取り組みに挑んでいるの
です。今回の試作機の場合、車載カーナビにゲートウエイを設け、そこをセキュリ
ティゲートとしてスマートフォンとCAN情報のやり取りをしているようでした。

 将来は、スマートフォン(とデータセンター)で車両の制御系情報を扱い、それ
を車両側に送るといったことができるかもしれません。そのとき、スマホナビは従
来の車載カーナビに完全に取って代わることになるのです。