Hatena::ブログ(Diary)

SAY NO MORE! Twitter

たとえ自分が創りださなくても、
これこそと思うものは自分の責任で、徹底的に支持すべきなのに。(岡本太郎)

2016年04月09日

[][][]「家族ノカタチ」#10レビューその2 〜人の力が起こしたちっちゃな奇跡


 

f:id:sran:20160409100756j:image

2、人ってものを財産に

(1)誰しもが成長できる

 何が素晴らしいって、このドラマは、登場人物を全てきっちり成長させてくれたことです(結婚詐欺の久美と浩太のおじさん以外、ってもういいかコレw)。
 それも、回を追うごとに何らかの成長を見せてくれる。成長、もしくは、変化。
 大介と葉菜子は言わずもがな。老若男女全て、もう大人も子供もまんべんなく。

 陽三の「新しい葉っぱ論」じゃないけど、「古い葉っぱ」は何も人間そのものを指すだけじゃなくて、その人の中のある部分、を指してもいたんです。その人の「頑なさ」という古い葉っぱが散って、「素直さ」という新しい葉っぱが芽吹いてくる、みたいな。
 またその微細な変化を、ちょっとした映像一つでわからせてくれる、伝えてくれる、というのが素晴らしいんですよね。

 例えば浩太。

 今までろくに学校に通っていなかった浩太が、大介や佐々木の骨折りで中学校に転校できるようになり、通いはじめました。でも友達を作ろうとしない、勉強もよくわからない。
 そこで陽三の言葉が、水のように、養分のように、浩太の中にしみていきます。無駄なものなんか一つもないんだ。俺たちは、古い葉っぱ、お前たちは、新しい葉っぱ。
 浩太は、勇気を出して、自分から「しめじ」、じゃない、匠に声をかけました。シゲさんにも勉強教わって、「天才」なんて褒められちゃったりなんかして。
 中身だけじゃない、身体だって成長します。どんどん背が伸びて、大介ならぬ香取さんに「つながらないよ」って言われたり、大介に教わってピクルス作ったり。

 そして最終話、浩太は「しめじ」じゃないw、匠を誘って「みんなでメシ」に参加しました。
 仲良く大介の手伝いをし、一緒にカレーを頬張る姿は、かつて「友達は無駄」「みんな死ぬ」って暗い目をしていたあの少年とは思えないほど。
 浩太を見てるとわかりますね、大介が憧れの存在なんだってこと。大介に教わってピクルスも作ったし、大介の手伝いをしている浩太はとても誇らしげです。役に立てている嬉しさがにじんでいます。「はいっ!」なんて返事しちゃってね。

f:id:sran:20160409100757j:image

f:id:sran:20160409100758j:image

 さらに、陽三の葬儀では、クラスの担任やクラスメートが大勢駆けつけてくれていました。
 本人の葬儀ならともかく、父親の葬儀になんか、余程のことがなければ、親友でも恋人でもないクラスメートが参列することは普通ありません。
 この描写だけでも、浩太がクラスに受け入れられて、それなりにみんなに愛される存在になっている、というのが伝わってきます。長いスパンで、浩太は、ゆっくり、でも着実に成長して、みんなに受け入れられているんだな、って感無量になりますね(保護者目線)。

 それから、最初の想いを遂げられなかった二人、和弥と田中莉奈。

 9話から、お互い自分の好きな人の相手の背中を押し合う、という「貧乏くじ」を引いてきた、誰かさんの想いには敏感な二人。
 人がよくて、勘が良くて、何より「好きな人の幸せ」を自分より優先できる二人ですから、きっかけさえあれば、結びつくのはまあ必然だったわけで。
 振り返ってみれば、第7話、葉菜子がインドネシアまで出張して病に倒れた時に、もう既に種は蒔かれていたんですよね。
 葉菜子に「和弥に任せておけば大丈夫」と仕事ぶりの素晴らしさを吹き込まれた莉奈と、葉菜子がいない不安を必死に払いのけてプレゼンを成功させた莉奈を見ていた和弥と。

 最終話、茄子を食べてくれた和弥にズッキューンの莉奈、この段階では莉奈の一方的な想いだけかと思われましたが、葬儀の場面では、二人の中が一気に進展していたことがわかります。
 二人で一緒に陽三とのお別れ。そして、喪主挨拶ではまるで一足先に結婚した夫婦みたいな空気感で、大介に野次を飛ばし、葉菜子に決断を迫る。「俺たちこれくらい言ってもいいよね」「ですよね」みたいに息ぴったりで。

f:id:sran:20160409100759j:image

f:id:sran:20160409100800j:image

 この二人の最初の想いは、たとえ叶ったとしてもいずれはお互いが苦しむ選択でした。
 そもそも結婚しようとは思っていない相手。しかも、結婚しても子供は持てないか、子供は嫌い、という相手。
 だから、和弥と莉奈は、夢を共有できるもの同士がようやく出会えたんです。
 子供をたくさん育てて、毎日賑やかな、笑顔の絶えない家庭。庭に花壇を作って、アンみたいに花を育て、お菓子を焼いて、でっかい黒い犬でも飼って((c)オザケン)。仕事にも理解のある夫と、家庭と仕事を両立したい妻。
 いやもうこれ以上ない最高のカップルじゃないですか。大介と葉菜子だけじゃない。こっちの二人にも、よかったね、って言ってあげたくなりますね。

 そして、成長してるのは子供たち世代だけじゃありません。

 むしろ、親たち世代だってしっかり成長できるんだってことを示してくれたのが、このドラマのミソでもあります。死の間際までね。
 律子がしみじみと恵に言います。

律「私もね、娘に、育てられた感じ」

f:id:sran:20160409100801j:image

 親たちも悩んでる。親たちもたくさんの間違いを犯す。親たちも、自分のやっていることに自信があるわけじゃない。親たちだって、自分の成長を喜びたい。まだ成長できる自分に驚きたい。
 そして親たちだって、勝手に一人で育つんじゃない、人に支えられて育つものなんです。

 ずっと家庭を顧みなかった、息子と一言もちゃんと話をしたことがない陽三が、亡き妻美佐代の置き手紙で「変わろう、変わらなきゃ」と痛感したことがスタートでした。
 その強い願いが恵や大介に波及し、逆にフィードバックされ、恵も大介も、陽三自身も成長していきます。
 娘のことが心配で、どうにかしてやらなきゃって思っていた律子が、実は娘に心配されていて、娘にすごく気遣われていたことを知り、母としてまた一つ大きく成長します。

 自分がきっと激しく拒絶されるだろうとわかっていても、でも一生に一度の祝いには駆けつけなければいけないと、遠慮がちに息子の姿を見に来た入江の母親も、晴れの席でその切実な思いを拒絶せずに受け入れた入江も。
 いつでも陽三のそばに寄り添って体を気遣いながら「どうするのが一番いいんだろう」と悩み続けていたに違いないシゲさんも。
 最初に大介にこっぴどい言葉をかけられたのに、ずっと善意のお隣さんとしていてくれたミヤマさんも、みんな変化し、成長してきた。
 それを一つ残らず、丁寧に見せてくれたんですね。


 

(2)良い人ばかりってわけじゃない

 かといってね、別に「良い人ばかりだった」ってわけじゃないです。善人しか出てこないドラマ、なんてつまらない。
 このドラマに出てきてる人、確かに「悪人」はいないけど(久美以外。しつこいw)、みんなそれぞれに相当「こじらせ」てる。
 だからこそ、「成長」の落差がはっきり見えていいんですよ。

f:id:sran:20160409095401j:image

 だって、大介にしても葉菜子にしても、第1話の段階では結構キッツイ人ですよ。
 大介は本当に言葉遣いが無遠慮だし、オレオレオレオレって、あ〜自分大好きなんだねこの人、って思わされるし。一方葉菜子はまずクレームガンガン書き込んでる段階で引くし、わりと感情すぐ表に出すし。
 親二人だって、最初の頃はTLに「ありえない」「あれはないわ〜」ってツイがガンガン並んでましたよ。
 自分だって若干カリカリ来てましたしね、あの傍若無人ぶりには。

 あのイケメンでラブリーで妖精呼ばわりされてた入江だって、母親のことが絡んだら激昂して茜に怒鳴りまくって、せっかくのガブリエルキャンドル道に投げ出してましたし、誰も気づかないうちに水面下でコトを進め、華麗にハットトリックを決めた帝光商事の田中部長も、最初は「女性は感情的だから上司に向かない」って葉菜子にセクハラ&パワハラ発言ぶつけてましたし。
 こう振り返ってみると、あ〜あ〜そういえば、って感じになると思うんですが、それでも「良い人ばっかりだったね」って印象になるのは、「良い人」ばかりを出そうとしていたんじゃなく、その人の「良い面」を、積極的に描こうとしていたからだと思うんです。
 つまり、一人一人を先入観ではなく多面的に、とても大切に描いてきた、ってことなんです。

f:id:sran:20160409095525j:image

 誰にだって、できることなら、あまり表沙汰にしたくない面があります。あえてそんな部分を見せたくないよ、って面は自分にも多々ありますしね。
 もちろんドラマの必然としてどうしても見せざるを得ない場合はありますが、そうでなければ、そんな生々しいギスギスした部分、あえて描かなくてもいい。
 たいした必然性もないのに、感情をむき出しにしたり、過剰に人を傷つけたり、要するに視聴者の気持ちを必要以上に波立たせて、ドラマに興味を持たせようとする、なんてのは日本のショウビズのよくある風景です。が、そういうセンセーショナルな演出を一切してこなかったのがこのドラマです。

 例えば、浩太がようやく学校へ通い始める、というシチュエーションだったら、「いじめ」問題を引き起こして、耳目を集める手だってあった、というか、ありがちですよねそういうの。
 なかなか周りと打ち解けようとしない、転校が多くて勉強もあまりよくわかってない、母親はほとんど学校と連絡がつかない、ものすごく年の離れた父親がいるけどどんな関係かいまいちよくわからない。
 まあ凡百のドラマなら、舌なめずりしてライトな「いじめ」ぶっ込んできて、そういう場面をスポットで流して数字取ろうとするでしょうね。
 でもそんなことはしなかった。なぜって、必要ないからです。今回のドラマにそういう方向の「リアル」はいらなかったんです。描きたいのは浩太の「そういう面」ではないからです。

 あるいは、葉菜子の問題だってそうです。
 葉菜子がもう自然妊娠できない身体となったあと、和弥の母親とは、それはいろいろな角逐があったことでしょう。
 が、そのことは一切詳しく描かれません。葉菜子もそれ以上言いません。
 でも、あの葉菜子が、いろいろ頭がついていけなくなって、離婚してくださいとお願いした、と言ったことを考えれば、相当深く傷つく経験をしてきているだろうということは想像に難くない。
 はい、最近はやりの嫁姑問題ですね*1

 凡百のドラマwなら、葉菜子や和弥の回想シーンで、葉菜子を厳しく詰る姑とか、部屋で一人泣き崩れる葉菜子とか、嫁と姑の板挟みになって自分を責める和弥とか、そういうの、これでもかとぶっ込んで、そういう場面をスポットで流して数字取ろうとするでしょうね。
 でもそんなことはしなかった。なぜって、必要ないからです。そんなのいちいち入れてたら軽快なドラマのテンポが停滞します。
 「5年間も誰にも言えずに心の奥底にしまっていた」ってことだけで、なのにことさらに冷静に語ろうとしていることだけで、葉菜子の抱えてきた辛さはヒシヒシと伝わるからです。

f:id:sran:20160409100802j:image

 で、特に今回のドラマで自分が「人を大切にしているな」って感じさせられたのは、田中莉奈と佐々木の描き方なんです。
 この二人、凡百のドラマwwなら、きっといいように便利に使われていただろうと思われるんですが、そんなことはさせなかった。
 田中莉奈は女性としてその魅力的な成長ぶりを見せてくれましたし、佐々木は彼の抱える意外なほど重い様々なものをきちんと表現してくれました。

 まずは田中莉奈の場合。

 社長令嬢の縁故入社で、腰掛けゆるふわ女子。仕事はできないし、すぐ泣くし、すぐ辞めると言うし、言葉は選べないし、葉菜子でなくても音を上げるダメ社員だった田中莉奈。
 でもその彼女が、やる気を出し、少しずつ仕事を覚え、葉菜子の代理を務める程に力をつけ、大介には女子力全開の健気なアタックを繰り返し、彼を理解しようと努力し、潔く振られて、切り替えて、葉菜子の後押しをする。
 そんな風に成長し変わっていく姿を見せてくれるにつけ、視聴者はみんな田中莉奈のことが好きになっていってしまったはず。
 最初は「うぜえ」「いるいるこういう女」ってTLでも結構な言われようだったのに。

 まず、水原希子さんの振り幅の広い演技の力があります。
 大介好き好きで舞い上がっている表情と、振られた後水族館で一人しゃがみ込み嗚咽する表情、仕事を覚えるごとにだんだん商社OLの顔になっていく変化。などなど、本当に見事に魅力的に田中莉奈を演じてくれました。水原さんにとっても忘れられない、代表作の一つになったんじゃないでしょうか。

f:id:sran:20160409095917j:image

 もう一つの理由は、田中莉奈という人物造形にしっかりと芯が通っていたからです。
 もちろん家族ノカタチの登場人物は、主要の4人から始まって、みんなにしっかりと芯が通っていて、変化し成長するけれどぶれない、多面的な造形がされています。田中莉奈だけが特別に、というわけではありません。
 が、往々にして凡百のドラマwwでは、こういうキャラはすごく便利に狂言回しとして使われてしまう、いや、使い捨てにされてしまうことが多いのです。

 以前のエントリにも書きましたが、第6話、帝光商事での打ち合わせ後、葉菜子が和弥を部屋の外に誘い出し、再婚話について自分の考えを告げている時、田中莉奈は廊下の陰から様子を伺ってはいましたけど、立聞きはしなかった。いや、制作陣は、させなかったんです、田中莉奈に立聞きを。
 この時、ああ、このドラマは、登場人物に敬意をもって接してるんだな、って強く感じました。その時のエントリを手前味噌ながら引用します。

 それと、田中莉奈。

 登場した頃の彼女は「大人」とは言いがたいキャラでしたけど、ドラマの中で少しずつ成長してきて、それなりに仕事への意欲も湧いていてるようだし、案外鋭かったり一途だったりと、魅力が伝わるようにもなってきてます。

 そして今回、田中莉奈のシーンの中にドラマの作り手の姿勢がかいま見えました。

 それは、帝光商事に商談に来た和弥を葉菜子が廊下に誘い出したシーンです。

 葉菜子が和弥を誘って外に出たことに気付いた田中莉奈が後を追います。

 ああ、ここで田中莉奈が二人の秘密というか、再婚話を聞きつけちゃうのか、でもまあ仕方ないか、田中莉奈だし、って思って見てたんですけど、ドラマは結局田中莉奈に「立ち聞き」をさせなかったんですよ。

(略)

 このドラマは、大介と葉菜子だけでなく、ほかの人達にもそれぞれの出自があり生活があり、思いがあり立場があるってことを丁寧に描いている、みんな魅力的、あの人もこの人も好き、ってツイをよく見るんですけど、結局それは、作り手の中に、登場人物への敬意がある、ってことなんだろうな、って思います。

 ただの一人も「タメにする」役がいない。

 最後にやられるためだけの悪役とか、いつでも愚かしさで場を引っ掻き回す困り者とか。そういう役がいなくたって、ドラマは面白くなるし、むしろ余分な苛々がないだけ、登場人物の細やかな感情の機微に集中できるんだな、って思わされます。

「家族ノカタチ」#06レビュー 〜静かなるドラマの革命 - SAY NO MORE!

 いかにもやりそうに見えるキャラにだって、それまでの人生経験があるし人格がある。
 だから立聞きなんてさせないし、そんな汚れ役を彼女に引き受けさせられない。

 田中莉奈が、大介のマンションに押しかけ、陽三と律子に自分の家庭の話をしている中で、彼女は社長令嬢だけども、わがまま放題に育ったわけでも、放任されてきたわけでもなく、一番好きな人と一緒になりなさいと話す母親と、会社の経営については厳しいけれど娘には優しい父親の元で、素直にすくすくと育ってきたんだなあ、ってことがわかります。
 だから彼女には、社会人としての一般常識や、仕事をする上での心構えなどはまるっきり欠けていましたけれど、素直さがあり、気品があり、まっすぐな人への思いがあり、しかもどんな場面でも便利に使える「なるほど」があったw。

 田中莉奈という登場人物を、こんなにも丁寧に思い入れを持って描いてくれていたことからも、「一人一人を大切にしてるんだな」ってことが伝わります。莉奈ちゃんお幸せに。

 さて、佐々木の場合です。

 佐々木も田中莉奈と同じく、凡百のドラマwwだったら、コメディリリーフとして便利に使われ、いや、使い捨てられていたことでしょう。
 まあとにかく隅々まで美男美女勢揃いのこのドラマの中であの魁偉な容貌、そりゃ「オチ」としてオファーされたんだな、ってドラマが始まる前は思ってました。

 ドラマが始まってからもしばらくは、結婚したいけどできない男の代表みたいな扱いで、視聴者からもまあ無理でしょ佐々木は、って思われてたし、ドカドカと大介の城に上がりこんで勝手に振舞ってて、こういうウザいやついるよね、って呆れられてた。
 陽三に「師匠、師匠」なんつってとり入っちゃってまあ、タイコモチかお前って。

 ところが、葉菜子に横恋慕して、電話でサクッとフラれた時に佐々木が言っていた自己紹介「母一人、妹一人」で、あ、そうか、って気づかされるんです。
 佐々木があんなに陽三のことを好きで「師匠、師匠」ってまとわりつくのは、彼にとって陽三は「お父さん」だったんだな、って。

f:id:sran:20160409094755j:image

 佐々木がいつ父親を亡くしたのかはわかりません。亡くしたのか、別れたのか、それもわからない。
 でも、彼にとっては、陽三はきっとお父さん代わりだった。
 大介の家で陽三と過ごす時間は、本当に楽しくて、陽三のためにFBの設定してあげたり、一緒に食事したりするのが、嬉しくて仕方なかったんだろうな、って思います。
 だから、陽三の葬儀の時のあの号泣なんでしょうね。出棺のときにもすがりついていつまでも泣いている姿は、本当に大好きなお父さんを亡くしてしまった息子のそれでした。気丈に喪主挨拶を務める兄と、いつまでも泣きじゃくっている弟、みたいな。

f:id:sran:20160409100804j:image

 大介の喪主挨拶がだんだん変な方向へ曲がり始めたときに、真っ先にツッコミを入れたのは佐々木、プロポーズが成就したときに真っ先に「バンザーーイ!」つって祝福したのも佐々木。
 本当、弟かっていうw
 この万歳、良かったですよね。葬儀の前後は、なんだかんだ言って、佐々木に泣かされちゃうんだな。

 こんな風に生き生きと造形されていた佐々木なんだけど、でももっと深いところまでこのドラマは突っ込んでいきます。
 葉菜子にサクッとフラれ、結婚詐欺にまで会い、一方で入江は結婚式を挙げ、大介はあの可愛い田中莉奈にプロポーズされている。どうなってるんだ? って思いを、第8話で佐々木はぶつけました。

佐「いいなあ…プロポーズ。俺とお前何が違うわけ?」

大「さあ…」

佐「俺も、週6回ジム行こうかな」

大「やめとけ」

f:id:sran:20160409100805j:image

 テレビを見ている視聴者のほぼ全員が「俺とお前何が違うわけ?」に「顔」「ルックス」って答えたであろうこの場面。でも、とても根深い問題をはらんでいるんですよね。
 それは「ルックス問題」です。
 さっきも書いた通り、このドラマ、端役の隅々に至るまで美男美女を取り揃えてるんですが、その中で荒川良々さんをキャスティングしたことの意味がここであらわになります。
 いわゆる「三枚目」の必要性ですね。もっと言うと、ルックス的に今一つという人を、コメディリリーフとして入れておきたいというバランス。
 まあ凡百のドラマwwだったら、佐々木はフラれ役定着、で終了です。

 でもこのドラマはそこに「ルックス問題」をぶっ込んできました。
 実はこれ、かなりデリケートで難しく、こんなのぶっこんで大丈夫か、って正直思いました。問題が大きすぎる。

 どんなに社会的に成功していても、突出した才能を持っていても、何不自由のない生活を送っていても、人はなかなか「ルックス」に関するコンプレックスから自由になれません。
 同じ能力を持っていて、同じくらいのクオリティであれば、ルックスがいいと思われる方が選ばれてしまう。
 それこそ会社や学校や友人同士や、いろんな場面で、そういう経験、多くの方がされているんじゃないでしょうか。
 かつて「人は見た目が9割」という本がベストセラーになりましたが、誰しもが「見た目で判断されてしまう」「見た目で判断してしまう」ことに思い当たるフシがあるはず。

 ルックスなんて、ほとんど自分じゃどうしようもない問題なんですけれど、それだけに根深く厄介です。
 俺とお前何が違うわけ? って佐々木に聞かれたら、身も蓋もないけど、みんな、顔かな、ルックスかな、って答えざるをえない。あとは大介みたいにしらばっくれるしかない。

 しかし、クレーマーハナコを「ブスだ」と思い込んでいた大介が本人を前にして「ブスじゃなかった」と驚いたように、田中莉奈が最初に大介を気に入った理由が「大介さんの顔、すっごい好みの系列で」というルックス先行だったように、「大切なのは中身。ルックスなんか顔の皮一枚の造作」なんてやっぱりなかなか言えません。
 そこから自由になるのは本当に難しい。難しいし、ルックスによってもたらされる快感には抗い難い。
 もちろん自分だって、美しい人、綺麗な人、自分の好みのルックスには惹かれてしまいますからね。広瀬香美さんは「性格よければいい、そんなの嘘だと思いませんか」と、AKB48は「ルックスはアドバンテージ」と歌ってますしね。コンセントピックスは「ごめんね君はとてもいい人、だけど顔が嫌いなの」って歌ってますしね(視聴注意)。

D

 こんなにでかい問題、不用意に扱っちゃって大丈夫だろうか、と心配してたら、ドラマはそこにコペルニクス的展開を持ち込みました。
 自分は、このドラマだから、きっと佐々木も何らかの幸せを見つけることができるだろう、で、それはきっと、佐々木が今まで他の人のために一生懸命頑張ってきた姿を誰かが見てくれてたんじゃないかな、って思ってました。つまりは中身重視。
 そしたら、あの結婚詐欺の狩場での、まさかの出会いですよ。あのさ中、実は加絵も佐々木にロックオンしてたんですね。

佐「本当馬鹿ですよね俺、…ていうか、あの、なんで僕のこと」

加「フォルムが、いいなあって」

佐「フォルム?」

加「優しそうで」

f:id:sran:20160409100806j:image

 フォルム?! ビックリですよ! 中身じゃなくて、ルックスだったんだ! って。

 確かに、誰が見てもきれいだと思える美男美女は確実に存在する。けれども、好みのルックス、というのはその限りじゃない。
 佐々木を、中身じゃなくて、まずルックスから入るような人に見初めさせるなんて、やってくれるよチーム家族ノカタチ、ですよ。
 「俺とお前何が違うわけ?」って愚痴ってた佐々木を、その佐々木のルックスだからこそ選ぶ人がいた、っていう。たぶん加絵は、ルックスから言っても大介を選ばない。佐々木の方をこそ選ぶ。

 その辺を「みんなでメシ」の時にきっちり回収してるんですよね。
 ロフトでみんなでカレーを食べている時。

有「加絵さん、本当に付き合うんですか?」

佐「なんかね、俺の〜……、フォルムがいいんだって」

加「なんていうか、安心するんですよ。こう……おっきいぬいぐるみみたいで」

有「佐々木さんにまさかのビジュアル的評価w」

 まさかのビジュアル的評価、ってきちんと言ってますよね。
 そう簡単に結論なんか出ない大きな問題ではあるけれど、少なくとも佐々木に関しては綺麗に解決なんです。それも最高の形で。

f:id:sran:20160409100807j:image

 あと、佐々木はああ見えて結構細やかなんだということも示してくれてました。陽三の通夜に美佳を呼んだのは佐々木でしたね。
 まあ、いらぬお節介ちゃお節介なんだけど、ちゃんと美佳のことを覚えてて、一応知らせなきゃな、って考えたんでしょう。
 なかなかに細やかな心遣いですし、なんといっても、そのおかげで美佳と葉菜子が出会うあんないいシーンが見られたんですからね、視聴者としても佐々木に感謝です。

 これまでつらつらと書いてきたようなこと、ドラマ内ではほとんど説明されません。
 田中莉奈も自分の気持ちの変化なんかこと細かく説明しませんし、佐々木だって「陽三さんのこと本当の親父みたいに思ってた」なんて言いません。
 他の登場人物についても同様。様々なシーンについても同様。
 余計な説明は一切しません。登場人物が自分の気持ちをペラペラしゃべったりもしません。

 それは、登場人物のことをとても大切にしているから。一人一人の人格やそれまでの人生を大切にしているから。一人一人に敬意を払っているから。
 そして、人を信じているから。

 この場合の「人」というのは、スタッフキャストであることはもちろんですが、視聴者のことでもあります。
 このドラマを見ている間ずっと自分は、「信じられているなあ」って感じていました。


 

(3)視聴者を信じる

 いちいち言葉で解説しない。その時の気持ちをペラペラしゃべったりしない。
 そんなことしなくてもわかってもらえるはず、そんなことしなくても伝わるはず。そんな風に、作り手が視聴者を信じていたんだな、ってことを随所に感じます。
 かといって、描くべきところを端折ったりはしません。
 言葉で説明するのではなく、表情や情景をたっぷり見せて、視聴者自身が気付いたり感じたりできるように描く。
 その方が、視聴者にとって、より「身近な作品」と思えるからです。

 最近の日本のドラマや映画にはその真逆のものが少なくありません。
 まず、ペラペラなんでも説明しすぎる。気持ちも、情景も、全部言葉で言ってしまう。「ひどいこと言われて悲しい」とか、見てればわかるよそんなの。「私あなたのことがとても好きなの」って、ああ、そうだろうねえ。
 しかしその一方で、本当にちゃんと描かなければいけないところを簡単に端折ってしまう。
 「大胆な省略〜」ってドヤ顔なのかもしれないけど、要するにそこの描写が大変すぎるから逃げたんでしょ、ってバレてる。

 何でもかんでも言葉で説明して、反面、大事なところを全然描かないで放り投げて。要するに、視聴者を信じてない、ってことなんですよね。
 信じてないから、「言葉で言わなきゃわからないだろ」「言葉で説明しとけば、クレームこないだろ」みたいに、どんどん言葉で説明してしまう。
 CMの隅っこに小さい字で「CM上の演出です」とか「イメージです」とかいちいち書くのと一緒。
 「そんなこといちいち言われんでもわかるわ」と考える大多数の視聴者もコミで信用してない。「あいつらには言葉で説明しなければわからない」って、まあ、ナメてる。

 そのくせ必要なところをきちんと描かないというのは、視聴者を信じてないくせに、視聴者に甘えてるんですよ。
 「ここはほら、察して」とか「大胆な省略っていうことで、イケてる、って思って」みたいな。
 入り組んだ事情や、多くの人の感情が絡み合うようなシーンって、やっぱり描くのは大変です。結果だけポーンと見せてしまって、「いろいろあったんだけど略して今はこうなりました」って出しちゃった方がそれは楽です。途中経過の描き方によっては、その結論に全く納得できない、ってこともよくありますからね。

 だから、日本のドラマや映画が、だんだんそういう傾向になってきちゃったのは、心情的にはわからなくはないんです。
 見ている人間のレベルは千差万別。下手に誤解されて、変な言いがかりをつけられたらたまらない。
 そつなく、大過なく、作品作りを終えるには、なんでも説明しちゃえばいい。面倒くさくて物議をかもすような部分はバッサリ略しちゃえば文句言われないし。とにかくいらん波風立たせたくない。

 でもそれで楽しいのかな、やりがいはあるのかな、って門外漢なりに思うんですよね。

 一方「家族ノカタチ」は、最初から最後まで「言葉だけで説明しちゃう」ということをしませんでしたし、「面倒くさくて難しいデリケートな描写」から逃げませんでした。

 「葉菜子の告白を自分なりに受け止められるようになる」というそれだけの話を、ドラマ1話分使って描いた第6話。
 面倒くさいし、デリケートだし、下手するとただ退屈なだけでダラダラ終わってしまったかもしれないこの回が、しかし、神回と言っていい素晴らしい1話だったことはみなさんの記憶にまだ新しいことと思います。
 大介の心の動き、葉菜子の心の動きに、徹底的に付き合って、一歩も引かずに粘り強く描く。しかもそこには説明的なセリフの一つもない。なのに、最後の二人の心の交流が、この上なく暖かく、気持ちよく、胸にジーンと伝わってくる。
 こういう風に、余計な説明がなくとも、役者の表現力を信じ、心情と情景を、しつこく粘り強く描いて行けば、視聴者には届く、きっと深く感じ取ってくれる、そう作り手が信じているから出来たことでしょう。

 公式サイトの現場レポートでも、大勢が集まる最終話の撮影が本当に大変だったことが伺えます。
 人数が多いから、つながりを切らないだけでも相当神経を使うし、カメラ位置や照明、音声レベルや消え物の温度管理など、ちょっと気の遠くなる作業量ですよね。丁寧にやればやるほどやることが増える。「面倒くさい」が束になって襲ってくる。しかもそれを1話のドラマ内で2回も。
 しかしそこから絶対に逃げずに一つ一つの描写をゆるがせにしないで撮影したから、あんなにスムーズなシーンに仕上がったわけです。

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

f:id:sran:20160409100808j:image

f:id:sran:20160409100809j:image

f:id:sran:20160409100810j:image

 そういうことの積み重ねがあるから、最終話のエピローグ、いつの間にか結婚指輪をつけた大介と葉菜子が、互いの部屋を行き来しながら結婚生活を楽しんでいるのを見ても、そこには何の違和感もありませんでした。むしろ「よかったね!」「おめでとうお二人さん!」って納得して心から祝福できた。
 例えば1話の後すぐに「1年後」とか言ってこのシーンにつながったら、みんな「ふざけんな!」ってちゃぶ台(ないお宅はダイニングテーブル、こたつなどで代用ください)ひっくり返したに違いありません。
 最後の二人のあの幸せそうなシーンに繋げるまでの9話分、途中で「あーこれ言葉で説明しちゃえば楽なのに」って時には思ったかもしれませんし、「あーここの描写本当に入り組んでて面倒くさいな、略しちゃダメかな」って考えたこともあったかもしれません、でも、絶対にそこから逃げずに、「きっとわかってもらえるはず」って視聴者を信じてやりきってくれた。
 まあ、ぶちかましてくれた。
 だから、こんな素晴らしいドラマに仕上がった。視聴者を信じて、妥協しないでくれたから。

 他にも「信じられてるな」って思った点は多々あります。

 先にも書きましたが、決して人寄せパンダ的にセンセーショナルな描写を入れなかった。
 正直数字的には苦戦していたドラマです。ですが、例えばテコイレ的に「大介と葉菜子をキスさせちゃえば」とか「和弥のお母さんと葉菜子の嫁姑バトル勃発!」とか「大介の肉体美をもっと前面に押し出そう」とか、そういうの一切入れませんでした。
 いやそれなりに圧力はあったんじゃないかと思いますよ。でも、意地でも、そういう表面的なウケ狙いは入れなかった。
 それはもちろん、そんなの入れたら作品の世界観がガタガタになっちゃうからだし、「そんなことしなくても、見ている人は見ていてくれる」「これまできちんと見てくれている人に失礼だ」ってポリシーがあったからだと思ってます。
 何よりもまず、登場人物に失礼ですから。

 最初の頃の大介&葉菜子も、陽三&律子も、結構キッツイ人たちでしたが、そこにとってつけたように「いい人」描写を入れませんでした。
 雨に濡れた子犬を拾って「お前もひとりぼっちか?」なんて言ったりはしなかったw。
 そこで手を緩めなかった。この「こじらせてる人たち」が「こじらせてるまんま」で変わっていかなくちゃ説得力やリアリティがないからです。
 かといって、いかにも「これから僕達変わっていきますよ」って、成長計画を隠し持ってるキャラでもない。
 いろいろこじらせていても、根はまっすぐ。近づいたと思えば離れて、どっちにしても一筋縄じゃいかない。
 だから、結構キッツイキャラでも、いやだからこそ、多くの共感も集めたんです。

 今振り返っても、よくこんな難しいドラマ作ろうと考えたなあ、って思います。
 結果的には大傑作だったから「よかった、素晴らしかった」って言えるけど、場合によったら大事故だったかもしれないドラマですよ。

 大きな事件が起きない。
 浮気もない。嫁姑問題もない。隣人との根深い確執もない。要するに激しく感情を暴発させるようなやり取りがない。
 くっついたり離れたりの恋の鞘当てもない。陰謀もない。嫉妬や絶望もない。いじめもない。
 ただ、人間を愚直なまでに丁寧に描く。
 ほんのわずかな気持ちの揺れも見逃さない。人と人の距離をまさに数mm単位でデリケートに描写する。登場人物に敬意を持つ。登場人物のあら探しをしない。一人一人をきちんと成長させる。
 そして、大介と葉菜子という二人を、限りなく等身大に、限りなく魅力的に描く。
 この二人のことが、みんな大好きになってしまう。こじらせてるのに。相変わらずしょっちゅうぶつかってるのに。

 振り返ってみれば、ただそれだけの、ほんの数ヶ月の物語。
 なのにこんなにも自分の心を捉えたのは、人ってものを財産にしていたことともう一つ、このドラマを構成する屋台骨がとにかくしっかりしていたからです。


 

3、見事な屋台骨・構成の美学

(1)必ず戻ってくる

 このドラマを見ていて多くの人が気付き、感心していたのは、全てのセリフやシーンに無駄がないこと、そして、それらが必ず形を変えて戻ってくることです。
 あ、このシーンはあの時の、とか、あのセリフここで戻ってキター、とか、本当に、長短さまざまな伏線がビシッとつながったり、何回も繰り返されるたびに新しい意味を帯びたりする快感に満ちていました。

 最終話エピローグに何シーンか映った、大介と葉菜子の新婚生活だけでも「あ、ここ!」「あ、それは!」ってセリフやシーンに溢れていましたね。
 そんなのを一つ一つ数え上げていたら、あまりに多すぎて、すでに開始から3スランを優に超えているこのエントリがどこまで長くなるのか予想もできないので、印象的なものだけを幾つか書き留めておきたいと思います*2

 まずは、ドラマ全体に隅々まで浸透していた陽三の言葉です。
 発言にしろ行動にしろ、全く「どうかしてる」陽三でしたが、ドラマ全体は、ほとんど彼の言葉通りに展開して行きました。

 「一人より二人、二人より三人」と、亡き妻美佐代の言葉を胸に、いつもそれを繰り返していたように、大介の周りには、いつしかどんどんと人が増えていきました。「人ってものを財産に」って言っていた通り。
 「古い葉っぱ、新しい葉っぱ」と言っていた通り、自分は亡くなりましたが、まさにその「思い」は栄養となって、大介や、葉菜子や、浩太たちを、育んでいっています。
 「ほんのちょっと助けてあげれば」と心配していた恵と浩太の母子には、多くの手がさしのべられようとしていますし、「その手を離すな」と言われた大介は、葉菜子の心をぐっとつかんだ。
 その時の決め台詞は「一人より二人になってみない」でした。

 葉菜子が捨てようとしていたのを、陽三がもう一度育てて生き返らせた鉢。
 「生き物ってさ、案外強いんだぜ」って言ってたのに、自分が死んじゃったなあ、陽三さん、って思ってたら、そうじゃなかったんですよね。
 シゲさんが言ってました「春まで持つ状態ではなかったんですよ」って。
 つまりこれは、自分のことでもあったんです。きちんと水をやり、愛情込めて育てれば、生き物は強いんだよ、ほら、俺だってさ、まだ生きてるんだぜ、みたいに。

f:id:sran:20160409100111j:image

 自分、この時の陽三の表情が、場面にそぐわないような鬼気迫るものだったのに若干違和感感じてたんですけど、今思うと、そうか、俺だってまだ生きてる、って奥底からの言葉だったんだな、って改めてグッときます。シゲさんの言う「あなたと一緒に暮らせたのが、とても、良かったんだと思いますよ」が染みてきます。
 怒鳴りあい、喧嘩しあいながらも、陽三はそこに生きている喜びを感じ、恵や浩太のことを心から心配しながらも、陽三はそこに生きる意味を感じていたんです。

 だから、陽三の言葉や願いが、みんなを育んでいたのと同時に、陽三も、みんなが存在してくれることで、文字通り生きていくことができていたんです。
 精一杯生き抜き、はらはらと散る、その日まで。

 その鉢を大切に育て、たくさんの花を咲かせた葉菜子。
 最終話エピローグでは、葉菜子の部屋に大介がいて、その花の世話をしています。「水やりちゃんとやってるか見ておくこと」という、和弥から受け取ったトリセツ通りに。そこへ仕事から帰ってくる葉菜子。
 それだけでも胸熱なのに、そこにかかるテロップが「永里陽三」ってのがもう。スタッフ絶対狙ってるでしょ、視聴者だけに見えるスリーショット、ニクい。

f:id:sran:20160407234550j:image

 このエピローグシーン、短いのに凝縮された情報量があまりにもすごくて、本当チーム家族ノカタチGJすぎるんだけど、その隅々にまで、陽三さんの思いが反映されてるんですよね。

 葉菜子の育ててる鉢もそうだし、浩太のピアノレッスンもそうだし(あの曲「ファイト」のAメロ?)、もうすっかり大介の部屋のインテリアに溶け込んでいる仏壇もそうだし、葉菜子が仏壇に手をあわせるのがまた繋がってるし。
 そして、転校前の浩太に陽三が言っていた「人間な、挨拶ができればなんとかなるから」を地で行くように、みんながちゃんと挨拶を交し合っているのが本当に素敵なんですよ。
 さりげない「おはよう」「行ってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえり」。親しき中にも礼儀あり。
 そうやって言葉を交わし合うことのできる人がいつでもそばにいる、そんな家族ノカタチ。

 思えば二人が深く知り合うきっかけとなった「消防車出動事件」は、陽三が作ろうとしていた「鮭の燻製」が原因でした。
 その「鮭の燻製」を持って、「食べれば?」って言いながら葉菜子がロフトに上がってくる。
 また、電気の消し忘れで言い合う葉菜子と大介、大介の「指差し確認」「俺はね」は、この「消防車出動事件」の時も、タコ足配線をめぐってなされた会話でした。

f:id:sran:20160409100326j:image

f:id:sran:20160409100217j:image

 最悪の出会いだった時のエピソードが、ぐるっと大きな円を描いて幸せな結末に帰ってくる。「ああ、物語が綺麗に閉じたなあ」っていう満足感。
 鮭の燻製を食べる時、大介が「シャケ」って言うんだけど、そういえば陽三も「シャケ」って言ってたなあ、親子だなあ、ってね。

 それから、一つの言葉が違う意味を持って帰ってきたり、さらに意味を強めたり、同じ言葉が繰り返されるたびに変化してきたり、そういうセリフの妙がまたたまりませんでした。

 まずは何と言っても「僭越ながら」でしょう。

 そもそもはクレーマーハナコがクレームを出すときの決まり文句。
 そもそも「僭越ながら」とは「出過ぎたことですが」ということ。低姿勢に見せかけながらも、攻撃的で徹底的で、しかも的はずれていない正論だからタチの悪いクレームの弾頭。

 この印象的な言葉、実は、ドラマの中では、葉菜子がクレームを寄せるモニターの中以外ではほとんど発せられていません。
 大介が「何が僭越ながらだ」って呆れる場面と、一度葉菜子が大介の部屋を訪れ、ドア越しに手帳のフリースペースについてクレームする場面だけ、だったんじゃないかな。

f:id:sran:20160409100434j:image

 だからこそ、あのプロポーズのシーンで、大介の方から「僭越ながら」と切り出したことが感動的なんですよね。
 人を攻撃するために使われていた言葉が、人を呆れさせていた言葉が、人に愛を伝えるために使われるというこの転換。天地が逆転するような。
 いや、もう、ため息。

 その他にも印象的な言葉といえば、田中莉奈の「なるほど」です。「なるほど」という言葉が、こんなにも汎用性の高い言葉だったとは。

 ただその場しのぎのために使われていた言葉が、田中莉奈の成長にしたがって、自分を鼓舞するための言葉となり、辛い現実を受け入れるための言葉となり、人の幸せを喜ぶ言葉ともなる。
 そして、その後この言葉が、他の人にまで波及していく。

 まずはさとり。
 大介にフラれたことを明るく報告した後の「泣いてても目腫れちゃうだけですからね」に、思わず相槌を打つ「なるほど」。
 ここにはさとりが田中莉奈を認めたというか「なかなか芯があるじゃない、この子」ってニュアンスが感じられますよね。

f:id:sran:20160409100540j:image

 そして葉菜子。
 葬儀場で美佳と出会った時、彼女に「普通に結婚して、普通に幸せになりたかったんだもん」と言われ、思わず出てしまった「なるほど」。
 そういえば、第1話で、葉菜子は田中莉奈の「なるほど」に、「目上の人に『なるほど』はないんじゃないかな」とダメ出しをしていたはず。仕事じゃないとはいえ、美佳は明らかに目上。どうしちゃった葉菜子。
 まあずっと田中莉奈と一緒にいたから知らず識らずのうちに移っちゃったんだろうけど、やっぱり一つには葉菜子も四角四面じゃなく柔軟になってきたんだなっていうことかな。
 それと、こういう時ってやっぱり他に言いようがないよね、ってことだったんじゃないかな。
 この状況でとりあえず私に言えることはない、っていう。

 こんな風に、「なるほど」一つとってみても、千変万化のバリエーションがあって、本当に豊かな表現につながるんだな、って驚かされましたね。

 などなど、書いているときりがありません。
 今までのエントリでも折に触れ扱ってきたし、これから見返すたびトリビアルに見つける楽しみを潰してしまってはいけないのでこの辺にしますが、あと一つだけ。

 今回、というか、全編を通じて、というか、振り返ってみればこのドラマ、大介と葉菜子の不器用で可愛らしい大人のラブストーリーでもあったわけですが、なんといってもすごいのは、お互いが直接的に愛の言葉を一言も発していないこと。
 和弥に「好きなんだろ」と言われて初めて「好きなのかな?」って気づく葉菜子。
 和弥に「葉菜子のこと、ちゃんと見てやってください」と言われ、陽三に「惚れてんだろ? 好きなんだろ?」と聞かれても無言の大介。
 いよいよのプロポーズの時も、田中莉奈に「結婚!」と叫ばれ、恵に「これってプロポーズ?」と尋ねられても、大介も葉菜子も、ラブワードを一言も口にしませんでした。

 直接的には二人とも一言もそんな言葉を交わしていません。
 好きも、惚れてるも、愛してるも、結婚も、プロポーズも、みんな口にするのは周囲の人たち。本人たちの交わす言葉は「二人になってみない?」「喜んで」です。

 こういうところの言葉へのこだわりが本当にすごいと思うんですよね。
 大介と葉菜子には、今の段階では、こういう言葉を絶対に言わせたくなかったんだと思います。今こんな言葉を口にしても、体に染みてこない。白々しい。
 それよりも、この二人の身の丈にあった、この二人ならではの愛の言葉があるはず、それが、さっきの言葉だったんです。

 この素っ気なさに込められた万感の思い。
 その言葉の中に折りたたまれた何重もの意味、気持ち。それが二人だけにはちゃんと通じる秘密めいた喜び。最高ですよね。
 ここ数年のすべてのエンタメの中でも最高の愛の告白シーンの一つですよ。

 こんな風に、このドラマは、ものすごくしっかりした屋台骨に支えられています。
 形を変えて戻ってくる言葉やシーン。繰り返される対比。そこで際立たせられる思い。
 一つとして無駄がない。かといってスカスカではない。緊密に充足した構成美。
 家を建てるときのように、しっかりとした基礎を打ち、棟上げをして、柱を組み上げていく。屋台骨をしっかりとさせ、強く美しく構成していく。

 屋台骨がしっかりして、初めて家には屋根が乗せられるわけです。はい、屋根が降りてきますw


  

(2)タイトルとうかんむり

 最初にドラマの発表を聞いた時、タイトルが「家族ノカタチ(仮)」となっていて、正直どうなんだと思いました。

香取慎吾 “結婚できない男”で連ドラ主演 未婚メンバーは「いい資料」 | ORICON NEWS

f:id:sran:20160409100811j:image:left

 だって、まずダサいじゃないですかこのタイトル。家族の形、ってさ。
 まあ(仮)って書いてあるわけだから、そのうちちょっとかっこいいタイトルに変えてくれるんだろうな、って思ってたらまさかの(仮)取っぱらいですよ。
 「家族ノカタチ」? マジで? ちょっとイケてないんでは?

 と、最初は思ってました。
 でも今は、このタイトルしかなかったな、いや、このタイトルでよかった、最初にダサいとかイケてないとか言ってごめん、って本心から思ってます。このドラマには、このストレートなタイトルしかなかった。
 タイトルが、ドラマの内容をはっきり表していて過不足がない。

 これは、家族のあり方について問いかけるドラマなんだな、でも、カタカナで書いてあるってことは、現代にふさわしい、いろいろな新しい家族の形を模索するんだろうな、ってことがタイトルからわかる。
 もしも別のタイトルにしちゃった場合、ドラマの内容を要約して伝えるのが相当大変だから。このドラマ、中身がぎゅうぎゅうに詰まってて、それこそ色んな側面があるから。

 傍若無人な親がいきなり転がり込んできて好き放題やるので、一人の生活を満喫していた息子が大弱り→見たくない。
 結婚しないこじらせ男女が、喧嘩しながらお互いに接近して、最後は結婚する話→なにそのありがちなの見ない。
 離婚、結婚詐欺、不妊、親の死、ストーカー、クレーマー、現代の家族を襲う様々な問題をえぐる→辛気臭っ!見るか! 
 ね。

 だから、こんなにも様々な人たちの生き様が見られて、こんなにも心情や情景の表現が豊かで、こんなにも家族というものについて素直に考えさせられて、こんなにも素敵な二人(大介と葉菜子)に会える、そういう、一言では要約できない豊穣なドラマなんだから「家族ノカタチ」っていう大きなタイトルが一番ピッタリ来るんだってこと。
 そして、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、家族ノカタチは、家族の数だけある、ってこと。つまり、ドラマの中だけじゃなく。

 毎回上からぐーんって降りてくる「宀」が、今度はどういうふうに降りてくるんだろうな、って楽しみだったんだけど、そのうち気がついた。
 あれが、大介と葉菜子の住んでるマンションのてっぺんから降りてくる意味は、あの「宀」の下には、ドラマで描かれていなくても、何人、何百人分の、家族ノカタチがあるんだよってこと。
 大介と葉菜子の話だけ、ってわけじゃないんだってこと。あの窓のひとつひとつに家族ノカタチがあるんだってこと。

 だから、大介の今後の人生に大きく関わる事柄(陽三の死)が明らかになると、「宀」の出現の仕方も変わってくる。

 第8話、ようやく陽三が焼津に帰るから、俺の独身生活が戻ってくる、と喜んでいる大介が、ロフトで一人ビールを楽しむところへ「宀」。
 いよいよ俺の一人だけの城が完成する、って感じですよね。この回のラストに陽三の衝撃の告白があるとも知らずに。

f:id:sran:20160409094948j:image

 その8話ラストで陽三の「俺死ぬんだわ」宣言があった後の9話では、8話であんなに楽しげだった「宀」の下の大介とは一変して、一人で心細く、「宀」の隅っこに立ってる大介になっちゃう。
 この心細さ、寂しさ。まさに「一人ぼっち」。
 「一人がいいの」なんて到底言えない。怖い。

f:id:sran:20160409094932j:image

 そして最終話。
 「みんなでメシ」に大勢集まってきたところへ最初の「宀」。一人ぼっちだった大介との見事な対比。
 ここに集まってきているのは、友達や知り合いなんだけど、そういう人たちだってある時は家族、というこれもまた別の家族ノカタチ。

 これで終わりかと思いきや、最後の最後に見事なる家族ノカタチ、いや、夫婦のカタチ?を見せてくれる。
 ロフトで仲良くビールを飲む大介と葉菜子の上に、ゆっくり降りてくる「宀」。
 チン、というグラスの音、噛み合ってるようなないような絶妙な二人の会話。
 ここの演出も本当に見事でした。

f:id:sran:20160407234549j:image

 この時に気付いたんですけど、降りてくる「宀」、いつも第一画が緑なんですけど、これって、葉っぱじゃないのかな、って。
 これに限らず、「家族ノカタチ」って、公式HP見てもかなり緑色を効果的に使ってるの、これ、グリーン・ゲイブルズからだろうな、と最初は思ってたんですよ。
 でも、あの第一画、形といい色といい、どう見ても葉っぱじゃないか、って。
 それは、葉菜子の葉。陽三の「古い葉っぱ、新しい葉っぱ」の葉。上から葉菜子の葉が降りてくる。葉菜子が上にいつもいてくれる、って大介が安心してたのはこういう風にも示されていたんだな。
 え、ということは、二画以降の黒は、ひょっとして大介?
 「大介」の「介」というのは、もともと「鎧」の意味だ、と教えてくださる人がいまして、そうすると、あの黒光りな感じってますます大介だなあ。え、じゃあ最初から二人で屋根を作ってたの見てたのか自分たち、ってちょっとワチャワチャしちゃいました。はい、妄想は暴走中です。

 そんなこんなでラストのエピローグ、たった3分で夜も眠れず、の凄まじい燃料投下シーン連続でしたが(葉菜子のパジャマどこで着替えたの論争とかねw)、最後の最後は、4人(大介&葉菜子、陽三&律子)の笑顔の4ショットでした。

 でもこれ、たぶん、放送前の特番(ブランチ)または、ごく初期だけ流されたティーザースポット見た人でなければ何のことかわからなかったはず。
 だって、着飾った4人が満面の笑顔で写真に写るんですが、こんなシーン本編にはなかった。というか、ありえなかったからです。

 ティーザーでは、しぶしぶ仕方なくやってきたお見合い会場の4人、という感じだったんですが、このラストショットでは、みんな本当にいい笑顔です。まるで、もしも陽三が生きていたら、という幻の結納の日のような。
 もしもまだ陽三が生きていたとして、主役二人は正装じゃないので、結納でも交わしたか、その前に家族4人で会食でもしたか、そんな微笑ましく幸せたっぷりの写真。
 この、幸せを封じ込めたような架空の写真が、ラストショットになるという、作り手の優しさ。またしても、大きな大きな円を描いて帰ってきたなあ、っていう満足感。
 その満足感と共に、ああ、本当に綺麗に終わっちゃったなあって寂しさも押し寄せてきて、やっぱりグッときちゃうんですよね。

f:id:sran:20160409100755j:image

f:id:sran:20160409100812j:image

 さて、ドラマそのものは終わりましたが、当然ながら大介も葉菜子もまだあのマンションやPennaや帝光商事で生きてるはず。
 お互いに仲良くケンカしながら、新しい夫婦ならではの色々な問題に直面しながら、それでも二人でガンガンとそれを乗り越えていくでしょう。

 他にも気になる人たちがたくさんいます。
 これから結婚が控えているだろう佐々木&加絵、和弥&莉奈。いずれも一筋縄じゃいかなさそうです。
 入江家の赤ちゃんは? 川上村に残された律子の旦那さんはどうなっているのでしょうか? この夫婦こそ大丈夫なんでしょうか?
 3人目の奥さんを迎えた田中部長は結婚生活を継続できるのでしょうか? さとりはまだ合コンに通っているのでしょうか?

 などなど、まだまだ自分の中では「家族ノカタチ」は終わっていません。

 自分、ちょっと良さげなドラマを見るとすぐに「続編、続編」言う悪い癖がありますけど(「リケジョ」は結構マジですからそれはそれでお願いしますよ>TBS)、今度は「本当のやつ」です。
 これだけの豪華キャストだと、なかなかスケジュールの調整ができないでしょうから、すぐには無理だというのはわかっています。でも、1年〜2年後くらいには、ぜひ「結婚ノカタチ」の制作をしていただきたいと思います。きっと多くの視聴者も同じ気持ちのはず。
 TBSさん、心からお待ちしています。
 このドラマは「ノカタチ」シリーズとして、数年に一回ずつ作り続ける価値のあるコンテンツだと思います。それこそ「寅さん」レベルの。

 自分の脳内で自分の妄想に従って動いてくれる大介&葉菜子もいいんですが、やはりリアルな大介と葉菜子を。
 宜しくお願いしますね。


 

4、素晴らしいスタッフの皆様へ

 では、最後の最後に、こんなに素晴らしいドラマを作ってくださったスタッフの方々にお礼を申し述べて、このクソ長いエントリを締めさせていただきます*3
 公式さんからのスタッフ紹介がほぼほぼなかったので、お名前や担当など間違えていましたらどうかご寛恕のほどを。

 まず、とにかく脚本の後藤法子様。

 今回のドラマの脚本には本当に感服させられました。素晴らしかったです。
 自分はいつもドラマや映画を見ると真っ先に脚本家の悪口を言い、あそこのセリフがどうの、ここの組み立てがどうのと、聞いてないのをいいことに言いたい放題するのが常なのですが、今回の脚本に関しましては、ただただ参りました、ありがとうございましたの一言です。

 構成の緊密さ、セリフの軽妙さ、一人一人の人物造形の深さ、ペラペラ説明させないで心情や状況を理解させる筆力、こうと決めたらゆるがせにしない美意識、どれをとりましても、現代日本のドラマ脚本の最高峰だなと感じさせられました。
 とりわけ、短いことばの持つ強さ、深さに、何度も胸を突かれました。
 最小限の肯定、「うん」「うん?」「ん」などの多彩な響き。「あっそ」「だな」「ふうん」など、幾つかの感情をマーブリングしたみたいな微妙な受け答え。「言わない」ことによる能弁の一方で、むき出しの率直さで深く突き刺さってくる鋭利な決め台詞。
 研ぎ澄まされた言葉たちが、それぞれのポテンシャルを奥に秘めながら、緊密につながり、美しい軌道を描いてまた帰ってくる。

 自分にとっては、渡辺あやさんと並ぶ優れた女性の脚本家として、記憶に深く刻まれました。
 ぜひまた、上野さんとタッグを組んでくださる日を心待ちにしています。

 監督の平野俊一様。

 「アリスの棘」の時も演出をなさっていましたので、自分としては最初から何の心配もせずドラマを見ることができました。
 失礼ながら、当時からまたさらに「監督の存在」をも忘れさせてくれるような、ナチュラルな演出の力を高められているように思いました。

 このドラマでは「不自然」と感じるシーンが一つもなかったです。
 センセーショナルなシーンなどなく淡々と進んでいるけれども、その中に心情のメリハリがしっかり表現されていて、引き込まれました。
 また、今回は、現場レポにも詳しく載せていただきましたが、役者さんのアイディアを柔軟に取り入れ、そのシーンのクオリティをより良いものにしていこうという監督のポリシーが感じられ嬉しかったです。
 監督のそういったアティテュードが、現場の居心地の良い空気感を作られたのだと思います。

 今回は特に、音楽のようなここちよいテンポを感じる演出でした。
 しかもその中に、かすかなリタルダンドがあったり、スタッカートやテヌートがあったりして、平板な時間が一切流れていませんでした。
 中でも、香取さんと上野さんが絡むシーンはどれも最高で、もうずーっとこの二人を見ていたい、台詞なんかなくとも、って思ってました。

 「アリス」の時もそうでしたが、監督は上野さんの魅力をいつも本当に上手に切り取ってくださっていると感謝しています。
 また是非どこかで監督の作品の中で生きている上野さんを見せてください。

 衣装・ヘアメイクの皆様。

 今回の衣装もメイクも、それぞれの役柄に合わせてドンピシャだったことはもちろん、それが憧れのスタイルとなって「葉菜子ヘアにしてください」とヘアサロンでリクエストが相次いだり(本当にかなり凄かったようですよ)、衣装が売り切れてしまったりと、リアルに波及したのが素晴らしかったです。
 ファッションの注目度は凄かったですね。
 様々なサイトで特集が組まれたり、ブログやツイで今でも「○話の葉菜子の部屋着はこれ」みたいな情報が途切れません。

 そういうアイテムの選択はもちろんですが、それを役柄に合わせて、ライフスタイルの中で自然に着用していたのがまた人気の秘密だったのではないでしょうか。
 登場人物の経済状況、趣味嗜好、TPOに合わせて、例えば葉菜子の仕事着と部屋着の着まわしサイクル、大介の、良いものをきちんと手入れして長く着る姿勢、恵や浩太の着たっきり、田中莉奈のハイソなブランドっぽさ、などなど、衣装やヘアメイクからその人となりがうかがえるようにしていただいたのが、ファッションに疎い自分にもよくわかりました。

 美術・装飾の皆様。

 大介の部屋も、葉菜子の部屋も、彼ら彼女ららしいこだわりの品に満ちていて、もっとインテリアや一つ一つの調度品を見せて欲しいと思わされるような凝りようで、素晴らしかったです。
 選び抜かれた家具や道具の数々、それらが、二人の可処分所得や性格や趣味にふさわしいナチュラルさで、「ああ、この人こういうの持ってそうだよね」って頷きながら見ることができました。
 特に、少しずつ部屋の中身が変わっていくのが楽しくて、大輔の部屋に陽三のものが、葉菜子の部屋に律子のものが、そしてラストのエピローグでは大介の部屋に葉菜子のものが少しずつ増えていくその変化が面白く、間違い探しのようにそれを見つけては喜んでいました。
 あの二人のマンションの部屋のセット、本当にバラしてしまうのがもったいないです。また再びセットが組み立てられ、より二人の趣味を生かして、より侵食し合っている部屋に出会える日が来ることを祈っています。

 音楽の大間々昂様、兼松衆様。

 とにかく毎日サントラ聴いてます。
 どの曲も、OSTとして「家族ノカタチ」の世界観を作るのに欠くべからざるものなんですが、まず一つの楽曲として心地いいんですね。
 音楽に対する広範な知識と経験を生かして、しかも余裕たっぷりに作られた楽曲は、聞きやすく心地よいんですが、よく聞くとその中に色々な変わった要素、例えば民族音楽や第3世界のポップスといったスパイスがピリッと効いてて飽きさせません。

 まずテーマソングの「Unpredictable Story」、ellieさんのこなれたスキャットやボーカルが素敵なのはもちろんですが、やっぱり、デューク・エリントンばりのパワフルなスウィングに圧倒されます。
 本当に、マックス・ローチやチャールス・ミンガスがいるのかな?って思えるほどのバッテリーの力強さ、キャッチーなメロディ、余裕綽々のホーンセクション、ここはコットン・クラブかな?みたいな。
 テーマソングとして申し分ない存在感で最高。

 ドラマ内での音楽の使い方も素晴らしいです。
 例えば葉菜子や大介がカチンと来た時には「迷惑ナ人タチ」のあの和音が入って来て、全曲を貫く長い長いアッチェルで自分たちも葉菜子たちと一緒に気持ちが高ぶります。
 バラライカとバヤン?を使ったロシア民謡的なメロディラインに、いろんな音や掛け声が混じっていくのが本当に血湧き肉踊ります。
 何となくクストリッツァの映画を思い出すような、哀愁と情熱と滑稽が混じり合った名曲ですね。

 また、「私ハ、アン」の若干ケルト的な音色が、葉菜子のナイーブな少女の部分を表してくれて、すごく愛おしく思わせてくれるし、本当にドラマと渾然一体となっていました。
 このOSTはこれからも自分の愛聴盤となってくれそうです(第2弾、出ませんよね、出して欲しいですね)。

 そして最後に、編成・プロデューサーの韓哲様。

 このチャレンジングなドラマの企画を進めてくださりありがとうございました。
 この時代にホームドラマを作る、しかも、旧態依然の凡百のものではない、現代にしっかりコミットし、人々にアピールするドラマを、となると、企画を通す段階からのご苦労は大変なものだったのではないかと思います。
 日曜劇場という大枠で、しかもこれだけの素晴らしいキャストを擁し、大きな期待を受けながらいざ出陣というときに、いろいろな横槍が入ったり、ドラマとは全く関係ないところでの火種に煩わされたりと、大変な状況だったでしょうけれど、ドラマの力、キャストスタッフの力を信じて、また、視聴者を信じて、とにかく様々な風や弾の盾となって、ドラマのクオリティを最後まで守り抜いてくださったことに感謝しています。

 でもそのチャレンジは、予想以上の大きな成果として帰ってきたのではないでしょうか。
 こんなにも素晴らしい作品のクオリティを見れば、21世紀のドラマ史にも残るような作品として結実したのですから。

 さて、もう当然、韓プロデューサーとしては、シリーズ2作目に向けて、スケジュール調整を始められていることと思います。
 何れ劣らぬ売れっ子の方々ですから、一堂に会するのはなかなか難しいでしょう。ですが「ノカタチ」シリーズを今後も継続していくために、ぜひとも宜しくお願いします。
 おそらく、韓プロデューサーが予想するよりはるかにこのドラマはみんなの心に深く残っているし、表面的な数字では計れない熱い支持を受けていると思います。

 1年後か、2年後か、その日を心待ちにしています。

 いつの間にか、このドラマは自分にとってのオールタイム暫定ベストワンに躍り出ていました。
 ちなみに、2位は「黄金の日々」、3位は「天下御免」です。お前どんだけ長いことドラマ見てねえんだ、っつう。

 これまでのベストワンは「のだめカンタービレ」でした。
 が、あれはもう、音楽の神様が手を貸してくれたとしか思えないような本物の奇跡が随所に見られる凄まじい作品なので、ずっとそこにいると他の作品の入る余地がない、ということで殿堂入りしていただきました。

 ここまで4スラン以上費やしてつらつら書いてきたように、この作品は、人間を、それも身の回りにいる普通の、こじらせたり、偏屈だったりしている、完璧じゃない人を、ただ丁寧に描く、そういうドラマでした。
 大きな事件もない、激情的なラブもない、耳目を集める人間関係の根深い揉め事もない。
 だから、一人一人の登場人物を、本当に隣人のように、同僚のように、小さいことで悩む友人のように、つまりは、大切な人のように思えた。

 「のだめカンタービレ」は、今ちょうど再放送されていて、また新しいファンを増やしているようですが、まるで音楽の神様が降りてきて、力を貸してくれたような、奇跡に満ち溢れた作品でした*4
 でも「家族ノカタチ」は違います。スタッフ・キャスト、そして視聴者も含めて、みんながそれぞれの力を持ち寄り協力しあって、一つ一つの困難をみんなでよっこらしょって乗り越えて、人の力で作り上げたもの。
 神様は、たとえ近くにいたとしても、それを見て微笑んでいただけ。
 このドラマこそ、人の力が起こした、ちっちゃな奇跡だったんじゃないかな、って思うんです。

 その奇跡はこれからも続いていきます。
 お互い名前も知らない、ただすれ違うだけの仲だったかもしれない、香取さんと上野さんのファンを出会わせてくれ、思いを一つにして応援し続けることができたこと、今後も「ふたたびの奇跡」を信じて、語り継ぐのをやめないこと。「家族ノカタチ」は終わらない。

 やっぱり礼を言っときます。
 スタッフ・キャストの皆さんをはじめ、この「ちっちゃな奇跡」に関わった全ての方たちに「ありがとう」

*1:しかしなんで21世紀もずいぶん過ぎてるのに、嫁姑問題がこんなにいろんなドラマでクローズアップされ、しかも人気を博しているのか、自分には今ひとつわからない。ノスタルジーなんだろうか。それとも、まだまだ相当リアルな問題なんだろうか。

*2:結局、はてなに「お前のエントリ長すぎだわ、一旦切れや」って怒られて連載になったw。

*3:本当は、ここまで1本のエントリだったけど、記事の字数規制に引っかかって分割を余儀なくされたのだあw

*4:それにしても10年前の作品が今でも何回も再放送され、その度に新しいファンを獲得しているなんて。これっぽっちも古くならない、その度に新しい発見がある、本当に凄まじいパワーを持っているドラマだなあ、って感嘆しますよ。

2016年04月07日

[][][]「家族ノカタチ」#10レビューその1 〜THE 大団円!


f:id:sran:20160407234548j:image

 あの最終回からもう半月経つのに、まだその余韻にどっぷりと浸っていて、毎日その日の気分に合わせて名場面をリピしてはニヨニヨしたり涙を流したりしておりますよ。

 正直、このドラマが好きすぎて、大介と葉菜子のことが好きすぎて、終了後きっとかなり重篤なロスに見舞われるであろう、って覚悟してたんだけど、意外なほどにそれがない。
 いやま、もちろん寂しいですし、さっき書いたみたいに、毎日一回は観ないと落ち着かない、って状況はありますけど、「のだめ」ロスや「江」ロスの時みたいに、周りの人に心配されるほどのことがない。
 なにせ、普通に日常生活送れているからね!

 それはきっと、この最終回が全ての物語をきっちりとまとめ上げ、全ての登場人物の思いをすくい上げて、これ以上ないほどの暖かさ豊かさを持って締めくくってくれた。その素晴らしさ、見事さに、心から満足してしまったからなんじゃないかな、って思います。

 いや本当に、こんなにもすごい最終回を見せてもらえるなんて、予想の遥かに上でした。
 完璧、最高、文句なし。
 これほどまでに「大団円」という言葉がふさわしい最終回があっただろうか! 「最終回の見本」として、これからの多くのドラマのメルクマールにしてほしいくらい。
 一つの無駄もなく、かといって過剰にならず、これまで積み上げてきたものが見事に花開いて、すべての流れが一本にまとまって、見ている自分たちの心に自然に浸透してくる。
 オリジナルドラマの醍醐味これにあり!

 というわけで、最終話だけをとってもあまりに書くことが多く、多岐にわたってしまいますので、最終話レビューは何回かに分けてアップしたいと思います。
 今回は総論、次回以降は各論ということで、しつこく書き連ねていこうという所存。
 では今回は、この最終回がいかに素晴らしいかについて、しばらくお付き合い頂きたく存じます。


 

1、これぞ大団円

(1)1回目、みんなでメシ

 最終回の醍醐味の一つとして、「これまでに出てきた登場人物が一堂に会す」ってのがあります。グランド・フィナーレですね。

 これまでに戦ってきたライバルたちが集まってきて、ラスボスを倒す主人公へ加勢するとかね。一旦離れ離れになってそれぞれの道を歩いていた友人たちが、懐かしい校舎にまた舞い戻ってきたりね。
 物語が全て丸く収まる結末、ハッピーエンディングのことを「大団円」って言いますが、みんながまた集まってきて大きな円を作るってニュアンスを感じますよね。

 で、「家族ノカタチ」ですが、これぞ大団円、って最終回でした。
 これまでに出演したほとんど全ての人物が一堂に会す(佐々木を騙そうとした久美と、浩太を施設に送ろうとしたおじさん以外はw)。
 それも2回も。

f:id:sran:20160407234026j:image

 まずは1回目の集合。陽三の希望を叶えてやるために、大介がセッティングした「みんなでメシ」。
 葉菜子の「それいいんじゃない? みんなでメシ」っていうアドバイスが生きてましたね。既に夫婦の共同作業?w
 その「メシ」は大介の特製カレー。今まで、ピクルスやスムージーは作っていましたが、本格的な料理は初めてで、ここも最終話の一つの見せ場になってました。
 スパイスから作るこだわりのカレー。色々な味や香りや食材が一つの鍋で煮込まれる、まるでこの時の大介のマンションのような。

 葉菜子のアドバイスを受けた後、作る料理を決め、買い出しをし、色々な人に声をかけて、マンションの管理組合から座布団や食器を借りて、といったシーンはバッサリ略されていますが、大介は相当テキパキと進めたんでしょう。
 大介の引越しパーティをやった時に(第2話)、マンションの管理組合から色々借りられることがわかってたし、Pennaの掲示板に張り出しておけば、たやすくメンバーが集められることもわかっていましたしね。
 このドラマが上手いのは、こういう風に、以前やったことに関しては次は上手に略していき、軽快なテンポを作り出せるところです。
 もたもたしない。それでも伝わるんですよ、あっ、前みたいにやってるんだな、って。

f:id:sran:20160407234028j:image

 予告では確か「”なんとなくカレーでも食おう会”にお集まりいただきありがとうございました」って陽三が言ってたと思うんですけど、最終話ではその言葉はなかったですね。
 なんとな〜く集まって、なんとな〜く始まってました。
 でもこっちの方が絶対に良かった。陽三は「いつも通り、普段通り」って言っていたんだから。
 大介が「俺だけの城」ってこだわっていたマンションに、いつでも誰かしらがお邪魔するようになっていた、っていう日常のまんまで。こういう感じがもう、大介たちの「当たり前」になっていたってことなんですよね。
 いろんな人が問題を持ち込んだり、誰かに会いに来たりして、とりあえずみんなにとっての「集会所」みたいな場所になってた。俺一人だけの城、だったはずなのにw
 だから、ことさらに何か「イベント」にしなくてもいいんですよ、なんとなくみんな集まってきたから、みんなでメシ食べよう、で。

f:id:sran:20160407234027j:image

 これは実は、生きている陽三と「みんな」が過ごす最後の時間。
 でもそれは何も特別なものではなくて。和気藹々と、食べて、飲んで、喋って。「生きてるなあ」って実感できるひととき。
 その大切なひとときを、大介は陽三のために作ってやることができました。

大「親孝行、したい時には、親はなし、か」

葉「いるでしょ、もう一人。親孝行の相手」

大「ありゃ別の生きもんだ」

f:id:sran:20160407234029j:image

 第3話で葉菜子とこう話していた大介。
 でも今回、母親にはしてやれなかった、という親孝行を、もう一人の相手にしてやれた。
 それも、大介らしい最高の形で。ぎこちなく「ありがとう」を言うより、もっと大きな感謝が伝わる形で。

 しかも今回は、なんとなく集まっただけではありません。人が集まればそこにまた新しい関係が生まれる。
 陽三がしみじみと言った「古い葉っぱ、新しい葉っぱ」、まさにそのように、新しい関係がこの会を機に生まれていました。

 まずは広報さん大好きイチオシアイシテル「さくらしめじ」の二人が織り成す、始まったばかりの友情模様。
 大介が浩太にかける「友達呼んだんだよな」という言葉に驚きと喜びを隠せない陽三。
 同じような容貌ながら、どっちかというと男っぽくガラッパチな匠(ご飯すげえ大盛り)と、母親譲りなのか案外世話好きな浩太(「おかわりしなよ」ってお母さんみたいなw)。
 その二人を微笑ましく見つめる大介、階段に座って食べている二人に優しく声をかける葉菜子。
 「友達は無駄」と言っていた浩太が、友達を家に連れてきて、あのワチャワチャの中でそれなりの役割を担って一緒に働いている。
 その様子を見た陽三は、そりゃ嬉しかったことでしょう。もちろん恵も。

f:id:sran:20160407224940j:image

 それから入江夫妻。
 最初の大介のモノローグで「生まれる命、消えゆく命」って言っていた「消えゆく命」は陽三だとしても、「生まれる命」ってなんだろう、って思ってたら、それが入江夫妻のご懐妊の報告だったという。
 茜の妊娠をすぐに見抜いてしまう陽三、その懐妊を心からの笑顔で祝福する葉菜子などなど、それを巡る良いシーンが続くんだけど、さすがだな、って思ったのはここにも犬が関わっていること。
 二人の結婚のきっかけは犬だったわけですが、その名前「ガブリエル」は、聖母マリアを訪れ受胎告知する天使の名前ですからね。なんでガブリエル?押井守ファン?って思ってたけどここにつながるのかと。
 名前一つ取っても全く無駄に作られていないことがよくわかります*1

f:id:sran:20160407225152j:image

 さてそして、田中莉奈と和弥がいよいよ接近します。

 仲良く「行きますか」なんつって会場に向かう二人の様子からしてもう雰囲気漂ってましたが。

f:id:sran:20160407225300j:image

 そういえば、Pennaの方たちと和弥はほぼ初対面だったんですね。佐々木が柄にもなく「何? あの、さわやか青年」って嫉妬してましたが、あのロフトの最初の空気感がちょっとぎこちないのがリアルでした。探り探りな感じ。
 「私、茄子ダメなんですよね〜」とつぶやいたのを聞いてすかさず「いいよ、じゃ俺もらっとくよ」とパクッと口に入れた和弥。
 それを見て、田中莉奈の恋愛スイッチが点火します。「あの、莉奈で」ってお決まりのフレーズで、あ、落ちたね、ってわかる視聴者に優しい展開w
 ここの和弥のセリフが素晴らしいですよね。「俺もらってやるよ」とか「食べてあげるよ」じゃなく「もらっとくよ」。
 恩着せがましさも強引さもなく、ただ「苦手ならじゃあ俺が」っていうさりげなさ。こりゃズッキューンってなるよ。

f:id:sran:20160407225436j:image

 で、大介と葉菜子ですよ。

 そもそもこの会のきっかけを作ったのは葉菜子。それを受けてプロデュースしたのは大介。なんとも素敵なツーカーぶり。
 とにかく、この会の最中の二人の関係性ってもうすでに、恋人でも、新婚でもない、長年寄り添った夫婦感が漂ってましたね。
 黙々とカレーを作るダンナと、かいがいしく給仕したりお客をもてなしたりしてるニョーボ。その、とくに話し合ったり打ち合わせたりしていなくても、自然に相手を補い合い、ともに座を仕切っていく気持ち良い関係。
 いや本当に、見てて伝わりまくりますよ、お互いに「とっても居心地のいい相手」だってことが。

 給仕もひと段落して、ようやく葉菜子もカレーを取りに来ます。「カレーカレー」言って。
 「はい」「うん」と、大介に手渡しでご飯にカレーをかけてもらう葉菜子。もうトッピングする野菜が切れているあたりがリアル。そう、ホストは大体こんな風になりますよね。
 そして2皿目を大介に手渡す。「俺は夜は炭水化物は…」と最初は拒否する大介。若干怒った顔で再度皿を突き出す葉菜子。自分で作ったんでしょ。みんなと一緒に食べないでどうするの、みたいな。
 しぶしぶ受け取り「今日だけな」とカレーをかける大介。

f:id:sran:20160407234032j:image

f:id:sran:20160407225557j:image

 いやあ、ここ大好き。
 もちろん、他にもいくらでも大好きなシーンあるんだけど、ここ、っていうか、ここからの一連のシーンがものすごくこの二人を象徴している感じで。
 食べるつもりにはなったけど、もう一度ご飯の量を見て「こんなに食うのか?」って顔をしかめる大介。写ってないけど、このとき絶対葉菜子いたずらっぽく笑ってるはず。

 そして二人並んで仲良くカレーですよ。こんなん萌えざるをえない。
 葉菜子のもりもり食べながらの「おいしいね」に、しみじみとタメながら「うまいな」と返す大介。それを聞いてまた幸せそうに微笑む葉菜子。なんですかこの「小さな幸せ、ここにあり。小さな楽しみ、ここにあり」感は((c) “ao akua”)。
 今までもそうだった。
 葉菜子が若干強引に大介のドアを叩く。渋々ながらそれを受け入れて、大介はまた少し自分を広げる。

f:id:sran:20160407225819j:image

 ここに至るまで、大介は頑なに自分の食生活を守ってきました。
 第4話「Le Bistro」で初めて和弥と3人でテーブルを囲んだ時(そして、葉菜子の窮地を救った時)、同じようなやり取りがありました。

和「ここ、ラザニア美味しいです」

大「夜は炭水化物食べないんで。…なんかツマミみたいの軽くちょこっとあれば」

葉「せっかくだから食べれば?」

大「俺がいつ何食べようと俺の自由だろ」

葉「よくそんなんで、社会人してられるよね。仕事の付き合いで会食とかしないわけ?」

大「俺の仕事の心配をクレーマーハナコにしてもらう必要は、ない」

f:id:sran:20160407234033j:image

 懐かしいなあ。お互いけんもほろろのバチバチで、今改めて見返すと、キッツイなこの二人、ってビックリしますね。

 でも、大介は少しずつ、みんなで一緒のものを食べることを受け入れてきていたんですよね。
 カフェでのグリーンティや、ビアバーでの「同じもの」や。
 そして今回、この「みんなでメシ」で、大介は自分のポリシーを曲げて夜の炭水化物を受け入れるわけですが、それはここまでに積み上げた葉菜子との関係性があるから受け入れられたのだし、親父のためにしてやれることの一環だから受け入れたんですね。
 でも、食べてみたら美味かったと。2回も「美味い」を繰り返すほどに。
 葉菜子と一緒に、キッチンの隅っこにちっちゃく座って食べるカレー、だから余計に美味いんだ。

 そこにかぶってくる陽三の言葉、これが生前最後の言葉。

陽「なあシゲちゃんよう、息子らによ、金はほとんど残せねえよ。だけどよ、人ってものをな、財産にしろよ、っていう風には言いてえなって思ってよ。だってよ世の中はよ、うまくいかねえことも嫌なことも辛いことも山ほどあるよ。だけどさ、同じ屋根の下でさ、同じもの食ってさ、それでまあ、美味いなあって思える相手がいたらさ、世の中たいてい何とかなるんじゃねえのか?」

 陽三の言葉通り、お互い顔を見合わせながら同じものを食って「おいしいね」「美味いな」って交わし合う二人。そこに向ける、陽三の慈愛に満ちた笑顔。
 このときに限らず、陽三は最終話の間ずっと、大介にも、葉菜子にも、一番いい笑顔を向けようとそれだけを気遣っていたように思えます。
 二人にとって、陽三の思い出が満面の笑顔として残るように。

f:id:sran:20160407234034j:image

 陽三はどんな風に逝ってしまうんだろうって、ずっといろいろ予想してきましたが、実際はもっとも「家族ノカタチ」らしい優しさに満ちた最期でしたね。

 肺がんの末期がどんな様子になるのか、自分も知らないわけじゃありません。管を一本もつけることなく、モルヒネを打つわけでもなく、眠るように旅立つ、なんてことは普通はあまり考えられない*2
 でも、それがリアルであったとしても、このドラマの中で陽三は、ある日葉っぱが一枚ひらひらと散るように穏やかに逝って欲しい、それはやはり視聴者の願いでもあったはず。
 公式サイトの現場レポで、この時の撮影の様子が紹介されています。

実はこちらのシーン、ロードバイクをメンテナンスしている大介さんへ「ちょっと、昼寝してくるわ…」という陽三さんのセリフがあったんです。それを、

「セリフは言わせないで、ベランダとかで寝ている姿を見せておいて、実はここで息絶えている、という感じで見せた方が印象的だと思うんだけど、どうですかね?」

という西田さんのアイデアにより、ご覧いただいたシーンに仕上がりました。

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

f:id:sran:20160407234158j:image

 西田さんのアドバイス通りのシーン。
 今までにも何回か、現場で役者さんのアイディアが採用されるエピソードを伝えてくれてましたが、そのどれも、アドバイスを生かして撮影した方がずっといい、というか、最初からこっちだったんでしょ、と思わせるクオリティに仕上がっているというのがすごい。
 その本人として生きている役者の凄さ、すぐにそれを生かしてフレキシブルに演出を変えていくスタッフの凄さ。

 とにかく本当に「やりきった」という、陽三の穏やかで見事な旅立ちでした。

 なので、もう一度、全員が集まります。1回ならず、2回目までも。
 ドラマ内で無理なく全員を集めるなんて、1回でも大変なのに、それを2回もやるなんて。そして、2回目は1回目より、より多くの人を集めるなんて。
 本当にこのドラマ、静かだけど「革命」としか言いようのない大胆さをそこかしこに秘めています。
 本当に凄いことなんですよこれ。


 

(2)2回目、告別式からのプロポーズ

 陽三のお通夜と告別式。
 ここに「みんなでメシ」以上の人数が集まってきます。

 まずは久々の美佳。
 ぜひ美佳と葉菜子を会わせてみたい、というツイも多かったから、この場面は本当に胸熱でしたね。

f:id:sran:20160407234159j:image

 美佳と葉菜子と大介が顔を合わせた時の、女性二人のピッ、ピッ、って感じの通電具合。できる女同士の察しっぷり。これですよこれ。
 お邪魔かな、という空気を感じてその場を立ち去ろうとする葉菜子に美佳が声をかける。
 「あのう、もしかして、…大介さんの、ご近所の……方?」

 ここからの美佳の畳み掛けが本当にすごい。

美「随分、昔の話ですけどね。今はもう、二人の子持ち。だって普通に結婚して、普通に幸せになりたかったんだもん」

葉「…なるほど」

大「それなんだよなるほどって」

美「わかりますよね、そういうの全然向いてないって」

葉「ええ…、とても」

大「俺の悪口でもりあがんのやめてくんない」

葉「じゃ! 渡してくるね」

 「元カノ」って言葉で変に気を回してもらっちゃ困る、もう結婚して子持ちだし今は幸せ、この人に未練なんかない。でも、この人は「そういう幸せ」には向いてないかもしれないけど、よろしくね。という、なんかもうお母さんみたいな一生懸命の売り込み。
 そして実はその間に葉菜子の値踏みもしてる。一応大介の相手なんだから、私のお眼鏡にかなった相手じゃないとね。
 葉菜子が例の、大介に相談を持ちかけた相手だとわかった時の「あ、そう。あなたが」って、一旦上から下まで見る目線。葉菜子の、フランクだけども余計なことを言わない受け答えに満足げな眼差し。

f:id:sran:20160407225933j:image

 一方葉菜子も、美佳からの、私はこの人にはもう未練はないから、大丈夫、という信号をビビッとキャッチして、にこやかにその場を立ち去る。
 いいなあ、できる女同士の電光石火の意思疎通。
 葉菜子が場を立ち去った後、ずっと「そっか、あの人が…(ああ、よかった、あの人なら)」って、軽く頷きながら見送っている美佳の目がすごく優しくてね。

 だからそこからの「頑張んなよ、大介」「覚悟、決めなよ」という強力プッシュになるわけですよね。

 ロフトで初めて一緒にビールのグラスを傾けあった時、陽三は「葉菜ちゃん。惚れてんだろ? 好きなんだろ?」「葉菜ちゃんが、手え伸ばしてきたら、その手しっかり掴んで、離すんじゃねえぞ」って強力プッシュしていました。
 その時は何も答えず、黙ってビールをあおっていた大介ですが(味わうというより飲み干すような勢いでw)、美佳の強力プッシュで初めて、自分の言葉で答えたんですね。

 「わかってるよ」って。

f:id:sran:20160407234200j:image

 この「わかってるよ」はもう、大介にとっては愛の告白と一緒。自分は見ていてこの場面でついつい「おお、言ったよ」ってつぶやいちゃいましたからね。
 陽三からのロング&キラーパスをうまくつないで、ゴール前の大介に絶好のボールをアシストした美佳GJ、本当によくやってくれました。
 香取さんと観月さんの「リアル幼馴染」という空気感が、この元彼元カノ感をしっかり醸し出してくれていました。

f:id:sran:20160407234201j:image

 通夜振る舞いの席。
 弔問客も途絶え、あちこちのテーブルにポツリポツリと取り残された近親者たち。親族と、友人代表との微妙な距離感。リアル。
 そこではだいたい、亡くなった方を偲ぶ昔語りや、今後のいろいろなことの相談など、内輪でしかできない話が始まります。
 ここで始まったのは、浩太の処遇について、でした。

 なるべく早く浩太を引き取れるように、と頭をさげる恵に、大介は大介らしく切り出します。
 月から金までは浩太はウチで暮らす。土日は好きなように。浩太の了解もとってますから。

f:id:sran:20160407230051j:image

 俺がそうやってやるよ、じゃなく、状況的に無理でしょ、だから現実的に考えましょうよ、ってオモテムキで。
 恩着せがましく響いてしまうのが嫌なんでしょうね。だからあくまで事務的に、笑顔も浮かべず、訥々と。
 その「大介らしさ」がすごくわかってるシゲさん、律子、葉菜子たちが、大介の言葉に微笑むカットがいいんです。

 大介がそう提案したのは、そこにこんな思いがあったから。

大「…俺は流石にあなたのことを自分の母親だとは思えないけど。……一応ね、…俺の弟の母ちゃんなわけだし。親父が死んでも、約束は残ってますから」

 7話で陽三は言っていました。「恵ちゃんにはな、兄弟も、親戚もいんだぞお前。なのになんで、恵ちゃん一人だけで、生きてこなきゃいけねえんだよ。誰かよう、誰かちょっと力貸してやりゃあよ、恵ちゃんも浩太もよ、もう少し楽に生きて来られたんだよ」って。
 確かに、葬儀にはどうも恵の方の親族は一人も来ていないようでした。

 陽三の思い、それが、この場面で次々とまた「新しい葉っぱ」を茂らせていきます。
 休日の1日を使ってピアノを教えたいと言う律子。ピアノを持って帰って欲しいと言っていたけど、それならばと了承した葉菜子。じゃあ俺が勉強教えるよと申し出るシゲさん。
 陽三の「誰かちょっと力貸して」が、こんな風につながっていって、「あの親子幸せにしてやりたい」という約束が続いていく。新しい葉っぱが茂っていく。
 本当に嬉しそうに笑顔をかみしめている大介。陽三を送るのと同時に、これも大介にとって大きな仕事だったはず。

f:id:sran:20160407230240j:image

 一つ肩の荷を下ろし、葬儀場で一人椅子に腰掛け陽三の祭壇を見つめる大介。
 親父、恵さんと浩太のことは心配すんな。俺だけじゃない、みんなついてるから大丈夫だ。
 そんな報告を心の中でしているのでしょうか。

 そこへやってくる葉菜子、「疲れてない? 大丈夫?」と隣に腰を下ろします。 
 ここからの二人のしっとりとした時間、これは、9話の「好きな場所」での大介と葉菜子のハグシーン、あれと対になっています。二人の距離は、ぐっと近づいています。

f:id:sran:20160407230709j:image

 本当に穏やかな顔で、しみじみと語り合う二人。

葉「不思議だよねえ」

大「うん?」

葉「いや……ちょっと前まで浩太君のこと、赤の他人だしとか言って、追い出そうとしてた人がさ」

 きっとこの時、二人の中には、第2話の強烈ビンタや、ロードバイクで浩太を迎えに行ってきた時のことが蘇ってきていることでしょう。
 視聴者も一緒に思い出しています。ああ、あのビンタはすごかったな、とか、大介の、ストレートには言わない語り口(「帰ってこい」じゃなくて「ピクルス作れ」みたいな)ってこの時からもうそうだったな、とかね。

葉「ていうか、私達だって、本当は、マンションでただすれ違うだけの仲だったんだよね」

大「うん…お互い名前も知らないまま?」

葉「うん」

大「あの…さ、やっぱり礼を言っとくわ」

葉「ん?」

大「母親の時は、急に死んだって連絡が来て、それで焼津に帰って、そん時にはもう、葬儀の準備終わってたから、自分の身近な人の…死、って初めてでさ」

葉「うん…」

大「それでも普通でいられたのは、……葉菜子がいつでも、上に、いる、そう思えたから」

葉「………」

f:id:sran:20160407230653j:image

f:id:sran:20160407230636j:image

大「ありがとう」

葉「……うん」

 第9話、一人になるのが怖い、と本当の気持ちを吐き出せた大介が、その思いを言葉を変えて繰り返します。身近な人の死を経験するのは初めてだった、もしかしたら取り乱していたかもしれない、と。
 大介は、あの忘れがたい夜からずっと、葉菜子の言葉を支えにしてきたんでしょう。

 「来ればいい、エレベーターに乗って、一つ上」

f:id:sran:20160407230610j:image

 そう、自分の部屋の上には、いつも葉菜子がいてくれる。だから、取り乱さないで済んだ。普通でいられた。
 その安心感、その心強さ。

 そして、第6話、離婚のきっかけについて聞いた内容をなかなか消化できずにいた大介が、自分なりに受け止めて葉菜子に言った言葉「しんどくなったら、また俺に言え」。
 それを聞いた葉菜子の、心からの「ありがとう」。

f:id:sran:20160407230554j:image

 その「ありがとう」が、巡り巡って今度は大介の口から発せられます。
 何の照れ隠しもない、率直で、暖かい「ありがとう」

 まるで、小さな支流が集まって大きな川に合流していくみたいに、今までのエピソードが集まってきます。
 ここまでに積み上げてきたシーンや言葉が、再び繋がりあって、美しいタペストリーを織り上げていくかのように。

葉「奇跡だよねえある意味」

大「うん?」

葉「ご近所さんと、こんな話するようになるなんてさ」

大「ほんとだよ。ささやか過ぎて、気付かないくらいの、ちっちゃな奇跡だな」

 大介の肩を優しくポンポンと叩く葉菜子。
 第9話では、鎧を脱いでむき出しになったところへ同じようにポンポンと叩かれ、思わず一度それを振り払った大介、でも今度は、その暖かく慈愛に満ちたいたわりを、快く受け入れています。
 いろいろあって、お互いの思いを素直に受け取り、心情を正直に打ち明け会うことができるようになった二人。陽三の大きな遺影を前にして、まるで「俺たちこうなりました」って、一足先に報告しているかのよう。
 今までの数々の積み重ねが、この優しい肩ポンポンにまでたどり着いたんだなあ、って感慨ひとしお、のシーンです。

f:id:sran:20160407230535j:image

セリフと動きを確認するドライの1回目は、葉菜子さんは大介さんに一つ席を空けてのお芝居でした。そして、「隣と一つ席を空けるのと、どちらがやりやすいですか?」との監督の言葉に、

「ポンポンって肩を叩くなら、隣に座った方がやりやすいですね」

などなど、上野さんの意見もありまして、隣に座ってのお芝居となったんです。そんな二人のやり取りを、後ろから確認する平野監督。「はい、良い感じですね!」ということでドライも完了、サクサクと撮影が進み……

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

f:id:sran:20160407230513j:image:left

 でも最初は、椅子一つ空けてのシーンの予定だったんですね。
 いやいや、全然雰囲気変わっちゃうでしょ、もうこの二人は一つ空け、なんてことする必要まったくないでしょ。あの肩ポンポン、すげえ大事なカットでしょ。
 ここもまた、上野さんのアドバイスを入れて、より良いシーンに仕上がったんですね監督。

 通夜の夜はこうして更けていきました。告別式には、今までで最高の人数が再び集います。

 告別式、故人とのお別れ。
 ここで、今までに登場した人たちがほとんど集まり、それぞれの顔を見せ、それぞれが陽三との関係性の中で別れを惜しんでいく。
 一人一人の役者さんにとってもやりがいのあるカットだし、視聴者からしても、ああ、あの人はこんな表情でお別れをするんだなあ、って感じられる、三方一両得、みたいなサービスシーンですよね。
 この、たっぷり時間をとったお別れシーン、一人一人の表情を見ては、あのシーンこのシーンと思い出が蘇ってきて、どうしてもグッと来てしまいますね。

 恵と浩太。シゲさんや幼馴染の面々。泣き崩れる恵。花嫁衣装でみんなと撮った記念写真がオーバーラップして。
 号泣する佐々木とPennaの社員たち。浩太の担任とクラスメイトたち。
 厳かに手を合わせ、深く一礼する田中莉奈と和弥。「本当にありがとうございました」と声を掛ける入江、茜。
 ただのお隣さんだったはずのミヤマ夫妻。
 気丈に、陽三の死に顔をしっかり見つめる葉菜子。涙にくれながら、それでも微笑む律子。

 そしてこの後、大介の、歴史に残る喪主挨拶が始まります。

f:id:sran:20160407234210j:image

 自分、この喪主挨拶、何回リピしたかわからないくらいなんですけど、その度に感動するんですけど、一方その度に毎回、アレ?いつの間にプロポーズになっちゃうの?って思わされるんですよね。
 それくらい、自然で、なんというか、つかみどころがない。取り立ててトリガーがないんですよ、大介がプロポーズに踏み切るための。
 でも、全然強引じゃないし、むしろすんなり納得させられてしまう。
 素晴らしく感動的だけど、実に不思議なシーン、なんですよね。

 下手に演じたら、どっちらけてしまう、かなり難しいシーンだったはず。
 でも、その微妙で、なおかつ画期的な心境の変化を、香取さんは実に見事に演じきってくれたし、そこに参会した登場人物たちの支えや出が絶妙で、最後に全てを受けきる上野さんの「受け」の真骨頂もあって、ドラマ全てを象徴するような名シーンになりました。
 最後の大きな拍手に、自分も一緒に混じりたくなってしまうほどに。

 今までの全てのエピソードが、どんどん合流してきて、伏流水も支流も全てが大きな川に合流してくる。
 これまでのセリフやシーンが、押し付けがましくなく緩やかに繋がりあって、大きな流れとなる。大介の決意を後押しするかのように。

 型どおりの挨拶を滞りなく終えた後、大介は切り出します。

f:id:sran:20160407234209j:image

大「親父は、静岡の焼津に生まれまして、大きな海の中で腕一本で戦う立派な漁師でした。………いや、そうだった頃も、あっ…たんですけど、晩年は、…晩年っていうか、この3ヶ月くらいは、全然………………立派どころか、いきなり会ったこともない奴連れてきてお前の新しい弟だとか言って押しかけてきたり、消防車2回も呼ぶし、でっけえマグロとかイカとかスッポンとかいろんなもの持ち込んでくるし、……人勝手に呼んでカラオケしてうるせえし(顔を見合わせる幼馴染たち)、それにまた調子に乗った連中が集まってきて、ぞろぞろ増えてきて」

佐「おい、大介え(涙流しながら)」

大「お前だって親父がいなかったら、俺の部屋入れなかっただろ!」

f:id:sran:20160407230838j:image

佐「そ、それは……(泣きじゃくりながら)」

大「昭和のオヤジって感じで何でも、わかったような顔して説教してくるし、それが、それが……妙にわかってるときあって、余計腹がたつ」

入「ちょ、永里さん」

大「お前だって結婚式とか勝手に決められて困ってただろ」

茜「でも、楽しかったですよ、結婚式(入江頷く)」

大「二人はね。………二人はそうかもしんないけど、俺はさ……俺は、一人が好きな人間だから」

f:id:sran:20160407230947j:image

葉「知ってるけど、それ今、言うこと?(ちょっと、話逸れてるよ、って感じで)」

大「……今だから言うの。その辺に親父がいるうちに」

 一旦切りますね。
 第9話、「好きな場所」で葉菜子に「しんどくなったら私に言え」って言われて、大介はこう言ってました。
 「ふざけんなって。焼津に帰る前に、文句全部言ってやろうって思ってたけど、それも病人が相手じゃできない。怒りのやり場がなくなって、俺はどうしたらいいのかわからなくなってた。…以上」
 本当は「以上」じゃなかったわけですが、ともかく、この時に「言ってやろう」と思ってたことを、ようやく大介は吐き出せたわけです。相手はもう「病人」じゃないしね。
 そして、陽三が転がり込んでから大介が迷惑かけられたことを次々に振り返ります。走馬灯のごとく。
 「師匠、師匠」つってどんどん部屋に乗り込んできた佐々木、ふとしたことから結婚式を挙げることになった入江。

 今までに起きたこと、色々振り返って、確かに茜が言うように「楽しかった」一面はあるんだけど、でも、俺はまだ、一人が好きなんだよ、って強調する。
 そこに突っ込む葉菜子「それ(俺は一人が好き)今言うこと?」
 返す大介「今だから言うの(葉菜子への想い)。親父がいるうちに」
 思い出す、ロフトでの陽三の言葉。
 「こんな素晴らしい出会い、二度とねえかもしれねえからな」

 続きます。

大「…俺はだから、俺の大事な、俺の城に、入り込んで………」

シ「言っちゃえよ、大介くん、全部言っちゃえ言っちゃえ。いいんだよ、陽ちゃん、賑やかなの大好きだったんだから」

律「そうよね、言っちゃえ、大介さん!」

恵「この際だから聞きたい」 
 

f:id:sran:20160407231141j:image

f:id:sran:20160407234211j:image

   大介、ここで居住まいを正す。
 

大「……それなのに人の慣れってのは怖いもんで、俺が朝起きてリビング行って、そこで二人が納豆とか卵かけ御飯食ってんのが、すこしずつ当たり前のことのように思えてきて(浩太の方を見る)、……それでもやっぱり俺は一人が好きで、俺の世話は俺がする、俺の趣味は俺と楽しむ、俺の家族は俺一人で十分、て、そうやって今でも確かに思ってる。一人が一番、って。……そう思ってんだけど、…二人とか、三人とかも、それはそれでアリなのかな、って…」
 

f:id:sran:20160407231303j:image

   和弥、ん? これって? と何か気づいたような表情。
   葉菜子、一体何を言うつもりなの?という険しい表情。

 

大「俺がもしも誰かと一緒になる時が、あるとしたら、……この人しかいないなあって」
 

   葉菜子、目は険しいままだが、微かに息を飲む。
   和弥、微笑みながら、莉奈と目配せ。

 

大「……そういう人と親父のせいで、いや、……そこだけは親父のおかげで、そういう人と出会って、……親父の、おかげで出会って」

和「え、なに? 聞こえないんですけど」

莉「誰と出会ったんですか?」

大「……それは、だから、つまり」
 

   大介、葉菜子の方に向き直る。二人、見つめあう。

f:id:sran:20160407234212j:image

f:id:sran:20160407234213j:image

佐「ええ? そ、そうなの?(口ポカーン)」

律「知らなかったの? 佐々木ちゃん」

佐「全然。…え、は、葉菜子さんも?」
 

   笑顔で顔を見合わせるミヤマ夫妻。
 

葉「……なんでこんな時に……(眉間にしわを寄せ、顔を伏せて)」
 

   大介、ずっと見つめ続けている。
 

葉「…え? このタイミング?」

大「いやわかんないけど、なんか流れで、つい」

律「一緒にって、……つまりそれは!」

莉「結婚! …でしょ?」

大「いや、…俺はさ、そもそも結婚て制度自体がそれってどうなんだろって思ってるし(葉菜子、あれ?結局何が言いたいの?という表情)、二人の時間を共有するって言えばいいかもしんないけど、それはつまり、一人の時間が奪われるってことでしょ」

入「それで? なんなんですか?」

大「いや俺はだから別に、結婚したいわけじゃないんだけど(葉菜子、どっちなの?と不満げな口元)、したいわけじゃないんだけど、…こんなに居心地のいい相手とはもう二度と会えないかなって。ちっちゃい奇跡かもしんないけど、失いたくないなって」
 

   葉菜子、あっ、と思い返したように。大介、姿勢を正す。

f:id:sran:20160407231426j:image

大「そう…いうわけで、熊谷葉菜子さん、そちらももしも、俺と、同じような感覚を、お持ち、でし、たら」

茜「なんでいきなり敬語なの?」

入「さあ」
 

   二の句がなかなか継げない大介、息を飲んでその言葉の先を待つ葉菜子。
 

茜「頑張ってください、永里さん」

入「頑張って!」

浩「ファイト(頷く)」

大「……俺たちは多分、一人でも十分な生き物なんだろうけど、それでもせっかく出会えたんだから」
 

   大介の言葉を聞きながら少しずつ動揺して息を飲む葉菜子。
 

大「…僭越ながら、一人より二人になってみない?」

恵「これってプロポーズ?(浩太に。浩太深く頷く)」

和「すっごい変化球きたな」

莉「でもドストライクですね。……葉菜子さん、返事は?」

葉「え? えっ…と……。(恥じらいながら周りを見回し)………そ、それでは、こちらも、僭越ながら、…喜んで(乙女のような可愛らしい笑顔で)」
 

   大介、その返事を達成感に溢れた微笑で受け止める。
 

佐「バンザーーイ!」
 

f:id:sran:20160407234216j:image

   巻き起る拍手。晴れやかな笑顔で見つめ合う大介と葉菜子。
   葬儀屋さんの白手袋も拍手。

 

律「おめでとう葉菜子」

莉「おめでとうございます!」
 

   本来の喪主挨拶に戻る大介。
 

大「えーー、話はだいぶそれましたけど、その、親父は本当に幸せ者だったと思います。本日は皆さんありがとうございました!」

律「葉菜子、横に」
 

   律子に背中を押されるまま、喪主の妻の位置にならばされる葉菜子。
   なんとなく拍手に軽いお辞儀。

f:id:sran:20160407231538j:image

葉「どうかしてるよー、この挨拶」

大「俺もそう思う」

 シゲさんや律子、恵に後押しされて、大介は話を続けます。
 でもね、この時、シゲさんも律子も恵も、いや他の誰も予想していなかったんですよ、大介が本当に何を言おうとしてたのか。多分みんな、これからも、陽三にどんなにひどい目にあわされたのか、その話が続くんだろうな、って思ってたはず。
 だけど、大介は、恵に促された後、一度居住まいを正すんです。そう、これから、大切な話をします、っていう感じで。

 大介が「二人とか三人もアリなのかな」って話をした段階でまず和弥が気付きます。
 まだ二人が何もお互いに気づいてない時に、もう「葉菜子のトリセツ」預けにビアバーまで乗り込んでしまう勘のいい男ですからね。とりわけ葉菜子が絡むこととなったらその勘は研ぎ澄まされます。
 葉菜子はまだ気づいていません。この話、どこまで行って閉じるわけ?みたいな厳しい表情です。その葉菜子がようやく気づくのが次の言葉「この人しかいない」でした。
 もちろん勘のいいコンビ、和弥と莉奈はもうこの話の結末がどこに向かっているのかわかっていて、お互い笑顔で目配せし合っています。

 その和弥と莉奈に焚き付けられて、大介はキチンと葉菜子に向き合います。こんなにしっかり正対して見つめあったことなど今までなかっただろう、というくらいに真摯に。
 でも、この話の先が見えてきた葉菜子は困惑を隠せません。「なんでこんな時に」ってそりゃそうですよね。何しろ、喪主挨拶、ですからね。その最中に何言うのこの人、ですよ。

 更に律子と莉奈に「結婚?!」って焚き付けられ、一旦は言い訳めいた言葉をしどろもどろに連ねた大介ですが、多くの「頑張れ!」に支えられて、ようやく、覚悟を決めて、想いを伝えることができました。

 僭越ながら、一人より二人になってみない?  葉菜子の答え。
 僭越ながら、喜んで。

f:id:sran:20160407234214j:image

f:id:sran:20160407234215j:image

 見つめあう二人の、晴れやかで、何かを一緒に乗り越えてきたような笑顔が本当に眩しいですね。
 ドラマにして9回と半分を費やし、やっと、二人はお互いを必要としているんだ、ということを伝え合うことができました。
 そのことが、ただただ嬉しい。心から、この二人に祝福を贈りたくなるのです。

 しかしこのシーンにも、これまでの流れが凄まじいほどに集まり合流してきていました。一つ一つの言葉すべてに出自と背景がある。というか、それがあったからこそ、強引で不自然になりかねないこのシーンが見事な説得力をもって迫ってきたのでしょう。
 今までに聞いて親しんできた言葉、印象的なシーンで見たエピソード、一人一人のキャラクターを生かした使い方、それらがこの10分弱に凝縮されていて、自分は、まるで自分の大切な友人の姿を目の当たりにしているような親近感と感動を覚えたのでした。

 一話からずっと大介が言っていた「一人がいいの」が、陽三、というか、母美佐代の「一人より二人、二人より三人」に感化され、葉菜子がずっと言っていた「僭越ながら」と合流して、プロボーズになるこの「すべての人の手を経てきた」感。
 親父が燻製作ってボヤ騒ぎを起こしたから、「マンションでただすれ違う仲」じゃなくなって、お互い愚痴を言い合えるような関係になれて。迷惑だった親父の諸々すべてが、葉菜子との関係を深めていくための手立てとなっていて。
 葉菜子が言った「居心地のいい相手」、陽三が念を押した「こんな出会いは二度とない」「手を離すんじゃねえぞ」、大介が言った「小さな奇跡」、それらが渾然一体となって、大介の決心となっていく。
 そこへ、「頑張れ!」の言葉。美佳が何回もかけてくれた「頑張んなよ」、それがこの場面でみんなの声となって大介の力となる、恵と浩太の「ファイト!」も味方につけて、大介は「覚悟を決め」る。
 自分の気持ちに全然気づけなかった、そういう場面では鈍感な二人に比べ、勘が良くて、人の気持ちを推し量ることに長けている二人、和弥と莉奈は、ど直球ネタで盛り上がる。ずっと、本当のご近所さんとして、いい距離感で接してくれていたミヤマさんご夫妻も喜んでいる。

 この喪主挨拶には、本当に、すべてがあり、これまでの流れが合流して大海に注いでいく、まさに「入江」のような場面であり、そしてまた、多くの人にとっての新しい旅立ちをも示しているのです。
 ジャンルは全く異なりますが、自分は、最高によく書けている本格ミステリの謎解きで、探偵が登場人物を一堂に会して、全ての謎を華麗に解いていくような、そんな爽快感と幸福感を同時に味わっていました。

 告別式からプロポーズへ。
 涙にくれる別れから、万歳と笑顔と大きな拍手へ。
 何というダイナミズムでしょう。
 しかもそれが、何のトリッキーさもなく、何の不自然さもなく、後から考えればそこへしか流れていかないだろうと思わせるスムーズさと心地よさで、自分たち視聴者を運んで行ってくれました。これ以上ないほどの幸せな結末(Happy End)へ。
 神業としか言えません。
 最高のスタッフ・キャストが、一丸となって作り上げてきた小さな奇跡。
 ドラマには、こんなすごいことができるんだ、って、ドラマの底力を存分に味わわせていただきました。

 さすがのチーム家族ノカタチの皆さんも、この出来栄えには心から満足されていたようで、現場レポートには以下のような文言が踊っていました。

中には「最終回が楽しみすぎるので、スポットは見ずにガマンする!」という声もちらほらと聞き及びますがぁ、安心してくださいっ、最終回では、みなさんが期待されてらっしゃる以上の展開と感動が待っておりますぞっ!!

(=゚ω゚)ノ

かく言う番組サイト担当nobu-c、最終回の台本を読んで「なんとー!?」とビックリしまして、先日のクランクアップの日に行われた、最終回のクライマックスシーンの撮影にて、台本で感じた「なんとー!?」という気持ちが、感動へと変換されましたところ、これが編集されてBGMも付いた完成版でしたら、どれだけみなさんに感動していただけるのか、もう楽しみで楽しみで致し方ございませぬっ!

兎にも角にも、来る3月20日(日)は、キッチリバッチリとご覧いただけますよう、

よろしくヲン願い奉り〜!!!

<(_ _)>m(_ _)m<(_ _)>

と、少々オーバーな感じに思われるかもしれませんが、チーム家族ノカタチの最終形、きっとみなさんに喜んでいただけるものと信じていますので、ぜひぜひご覧くださいませませ♪

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

 本当に、この言葉通り、最高の最終回。どんなに予告スポットでほとんどのシーンを見せていても、それをはるかに上回る感動が押し寄せてきました。

 チーム家族ノカタチはいつでもそうでしたね。

 予告スポットで、毎回ほとんどのシーンを見せてしまう。なのに、本編を見ると、全くネタバレ感がない、どころか、予想をはるかに上回る面白さと感動がある。
 スタッフとキャストの、作品そのものに裏付けられた自信を、毎回感じさせられていました。
 そして、毎回毎回が面白いんだけど、それが積み重なってますます面白くなっていく相乗効果、すべてのエピソードが必要で、セリフも一つも無駄なものがなく、緊密につながりあっている構成美、何より、あの言葉が、あの場面が、形を変えて、必ず戻ってくる、そういう快感に満ちていました。
 その最高の達成が喪主挨拶シーンだと思います。
 最高のクライマックスに、最高に練り上げられたシーンを持ってくる。なかなかできることではありません。

 最終回で、登場人物のほとんどを無理なく集めて物語を進めていく、それだけでも結構大変なのに、このドラマは、それを2回もやりました。それもまったく不自然さのかけらもなく。
 1回目は、ほどなく命を終える陽三のためにできること「みんなでメシ」。2回目は、その陽三の通夜と告別式。全く無理がありません。
 だけどもう一つ大切なのは、1回目と2回目が、それぞれ完全に対比されていたということです。だから、漫然としない、またかよ、って感じがしない。
 それぞれの意味がはっきり伝わるんです。

 1回目は「命のための」集まり。あそこに参加していた面々のどれだけが陽三の状況を知っていたか知らないけれど、みんなでメシ食って、一期一会の共に生きる喜びを分かち合う。
 2回目は「死者のための」集まり。みんなが陽三の死を悼み、これまでのつながりを思い合う。

 でも、それだけじゃないんです。
 言ってみれば、1回目は陽三のために大介がみんなを集めた催し。陽三のために何がしてやれるのか、葉菜子と一緒に考えて設定した「みんなでメシ」。
 そして2回目は、これも一見、死んだ陽三のために大介がみんなを集めた催し、のように見えるけれども、結果的には、大介のために陽三が集めた催し、になってるんです。

 陽三が亡くなったら、当然、みんな集まります。陽三が呼んだようなものです。
 そこで、いろんな話の流れから、大介が葉菜子へのプロポーズをすることになります。
 陽三の告別式に集まったはずなのに、会葬者の面々は、大介のプロポーズに立ち会い、大介を応援し、背中を押し(美佳までもが)、思いを遂げさせる。
 しんみりと涙で送るはずだったその会が、大介と、そして葉菜子を祝福する万歳と拍手と笑顔に彩られる。

 これが、陽三が大介に最後に残したプレゼント、でなくて何でしょうか。
 シゲさんに「人ってものをな、財産にしろよっていう風には言いてえな」と言っていた陽三、最後の最後に、ほら大介、お前には、こんなにもたくさんの人がついてんだぞ、これがお前の財産だぞ、特に葉菜ちゃんな、って言ってるような気がします。
 気がするから、大介も「親父がいるうちに」って言ったんでしょうしね。

 大きな事件らしい事件が全然なかったこのドラマでしたけど、2つのイベントはとても丁寧に尺をとって描いていました。
 入江の結婚式と、陽三の葬式と、です。
 新しい「家族ノカタチ」を模索していて、どのような形の家族も応援したいって韓Pもインタで答えていたけれど、だからと言って、人生の大きな節目である「結婚」や「葬儀」をないがしろにはしなかった。
 やはり多くの人にとって、必ずなんらかの形で関わることになる行事だし、そこに込められる思いは大きなものがあるわけだし、それならば、なるべくきちんと丁寧に描こうと、そういう作り手の願いが感じられました。

f:id:sran:20160407234217j:image

 入江の結婚式。
 結婚前の面倒臭いあれやこれや、その寸前に直面するお互いの想いの食い違い、周りのみんなの有形無形の協力、わだかまりを溶かすことのできる千載一遇のチャンス。
 こういう、「結婚式周り」のこまごまとした作業や調整を、きちんと丁寧に描いているドラマも珍しいと思いました。

f:id:sran:20160407234218j:image

 陽三の葬儀。
 遺体の安置・枕飾り、葬儀打合せ、通夜、葬儀・告別式、出棺、喪主挨拶と、一般的な葬儀の流れを、ここまで順を追って丁寧に描くドラマも、葬儀をテーマにしたものでない限り、あまり見た記憶がありません。
 登場人物みんなが陽三と関わりのある人々であると同時に、視聴者も、この愛すべき人の死を共に悼み、共に送りたいと思う。そんな何百万人規模の葬儀が行われていたんだなあ、って感じます。

 冠婚葬祭、って言いますが、かように「婚」と「葬」を丁寧に大切に描いたこのドラマ、実は「冠」も「祭」も、それなりに描いていたなあって改めて思います。
 「冠」とは成人式のこと。
 この中でいわゆる成人式は描かれませんでしたが、浩太が真新しい制服に身を包み、大介に一つ一つ書いてもらった文具の名前を誇らしげに葉菜子に見せながら、新しく中学校へ通い始めるあの場面、あれこそ、年齢とは関係ない、浩太の「冠」でした。
 そして「祭」とは、先祖の霊を祀ることです。
 陽三が大介のマンションに美佐代の仏壇を持ち込んだこと。それからも毎日欠かさず手を合わせていたこと(いずれは葉菜子も)。これは、特別な法事や墓参りではないけれども、十分日常的にできる「祭」ノカタチでした。

f:id:sran:20160407231659j:image

 以上のように、このドラマは、こう言った、冠婚葬祭をはじめとした、人生の節目を、きちんと丁寧に描いてきたことがわかります。
 新しい家族ノカタチを模索しているけれど、でも、節目節目のイベントは、それなりにやはり大切にしていくものなんだ、という作り手の主張が見えます。

 でもこのドラマが、一番大切に描いてきたのは、何と言っても「人」です。

 いや普通そりゃもちろん人は大切に描くでしょ、というレベルを超えて、このドラマは本当に人を大切に、人の尊厳を汚さないように、丁寧に丁寧に描いてきました。だから、どれだけ見ても飽きないし、全ての人物が愛おしく思えるんです。 

 さらに続きます。

*1:ちなみに自分は、入江くんがガブリエルのこと最初に「犬」って言ってたのが好感度高いんですよね。「ワンちゃん」とか「ウチの子」とかじゃなく「犬」。飼っている側からしたら家族同然ではあっても、そうじゃない側にしてみたら単なるペット、「犬」に過ぎない、っていうバランス感覚があるな、って。そのくせ茜のことは「妻」じゃなくて「奥さん」って呼んじゃうんですけどねw

*2:ただ、笑顔で暮らすこと、家族に囲まれて幸せな気持ちになることが、末期がんの苦しみを大きく和らげる、という臨床もあるようなので、陽三はその恩恵を受けていた、ってことも考えられます。

2016年03月20日

[][][]「家族ノカタチ」#09レビュー 〜それはまだ愛と呼ぶには早いけれども


 

f:id:sran:20160320195058j:image

 第9話の感想レビューなんですが、あまりにも内容が豊穣すぎて、一人一人の登場人物、一つ一つのシーンが素敵すぎて、うっかり書き出したら「失われた時を求めて」をも越える長さになりそうだし、自分の涙の海で溺れちゃいそうだし、その上この2週間とんでもないデスマーチが続き、時間も気力も体力も洗いざらいごっそり持ってかれてるので(愚痴)、ほぼほぼエントリに取り掛かれる状態ではないんだけども、かといってこれほどの素晴らしい神回について何も書かないまま最終回を迎えてしまうというのも忸怩たるものがあるから、今回は本当につらつらとドラマ内の時間軸に沿って感想を垂れ流すようなスタイルでお目汚しさせていただきます、ということでようやく最初の丸が打てる、ふう。

1、ヨウゾウ・エフェクト

f:id:sran:20160326104905j:image

 恵の看護師学校合格パーティの後、陽三が打ち明けた一言。
 それは各方面に大きく波及していきます。まるで、バタフライ・エフェクトのように。

陽「俺なあ、もうじき…………、死ぬんだわ」

 この「……………」にこめられた思い。
 シゲさんが言うには、春までもたなかったかもしれない陽三の体。ということは、ひょっとしたら、大介にも何も言わずに亡くなっていた可能性もあったということです。何にも言わずに、或る日突然急変して亡くなってしまう、そういうことだって十分ありえた。

 だから逆に、この言葉を言えることが、陽三は本当に幸せだと思ったに違いありません。

 恵の合格&陽三たちとのお別れパーティ
 恵はようやく看護学校合格して、将来の姿が見えてきた。あの無口だった浩太が物怖じせず、みんなを紹介している。
 それに、このパーティに来てくれているたくさんの人たちはみんな、大介の仲間や友達や知り合いだ。
 大介自身階段のところで小さくなって飲んでるんだけど、でも、自分の息子が、こんなにみんなに大切にしてもらえてる。
 大介が一度失礼なことを言ったミヤマさんご一家も来てくれている(こういうところが本当に丁寧だし、登場人物に敬意を払ってる、んですよねこのチームは)。

f:id:sran:20160326101132j:image

 それを見て、陽三はようやく言える、と思ったんでしょう。

陽「もうちょっと、俺、ここに、いさしてもらっていいかなあ」

 これだったら、俺は俺の一番の望みを打ち明けてもいいかもしれない。
 俺は、もっと大介と一緒にいたい。もう俺は、いつ死ぬかわからない、だから、せめて、その日まで。
 それは、亡き母親美佐代の願いでもあるわけですから。

 これまでも、陽三が美佐代の仏壇視線をやるとき、毎回本当に切なく、そして潤んだ瞳だったことを思い出します。
 美佐代が死ぬまでは、きっとちょっと前の大介のように、自分の殻に閉じこもって、会話もせず、誰とも深い関わりを持とうとせずに生きてきた陽三。
 だけど、美佐代の置き手紙で、生まれ変わる決心をしました。
 シゲさんが言うように、父として、人として、大介とまともに話したことが一度もない、って思いを抱いていた陽三が、どうにかしてそれを取り戻そうと。

陽「父親らしいこと、目一杯やってやろうと思ってよ。今からでも遅くねえと思ってな」(3話)

 今まで一度もやったことがない「父親らしいこと」だから、ぎこちなくて下手くそで、毎回大介に怒られたり、呆れられたりしてきたんですね。
 でもその基本にあったのは「大介を喜ばせたい」という思い。
 干物焼いたのだって、イカを浴槽に泳がせたのだって子供のころ大介が好きだったから。牛糞をベランダに持ち込んで周囲に悪臭を撒き散らしたのだって、大介がオーガニック野菜を好んでいるから。そして必要以上にはしゃいでいたのも、大介に変な心配かけさせたくないから。

 そんな騒動をいくつも経て、大介はどんどん変わっていきました。別に親父に説教されたからではなく、自然に。大介らしさを保ちながら。
 絶対に人を入れようとしなかった「俺だけの城」にたくさんの人が次々やってきたり、いろんな人のためにお節介を焼いたり走り回ったり。

 陽三は、きっと、そんな大介を見て、人として、父として、思い切って最後の願いを言う決心をしたんだと思います。
 「人として」は、愛する息子と死ぬまでもう少し一緒にいたい、見ていたい、ということ。
 そして「父として」は、「きちんと死ぬこと」「死に様を見せること」です。

 陽三にとっては、妻、美佐代の死がロールモデルになっています。
 美佐代は、自分が死んだ後の陽三のことを心配し、陽三が一人でもちゃんと生きていくことができるための指針を示してくれました。

f:id:sran:20160326104906j:image

ひとりぼっちになるあなたが、とても心配です。

困った時は、人に相談してね。古い友達にも、連絡して。

年をとったら、今までみたいに、なんでも一人で、ってわけにはいかないの。

周りの人たちと仲良くしてください。

”一人より二人、二人より三人”ですよ。

 陽三の口癖や言葉の多くが、この美佐代の手紙に基づいていることがわかりますね。
 第1話、エントランスホールで葉菜子に陽三が投げかけた言葉を思い出します。

陽「俺、わかんないんですよ。息子とあんまりしゃべってねえから、息子の気持ちっていうか想いが。…寂しい時、どうしてますか? あ、私はね、女房に死なれた時にね、寂しいってのはこういうことなのか、って本当に思い知ったんですよ。でも、息子はね、大介は、寂しい時どうしてるのかなって思って。こんな立派なマンションに住んでさ、でも、生まれ故郷じゃないでしょう、帰ってきても、おかえりなさいって言う人もいないじゃん。寂しいと思うんだよね。

 ああ、もうここにすべて入っていたんだな、って思います。

 大介と会話がないから気持ちがわからない。一人になるというのは本当に寂しいことだ。大介はここで一人で寂しくないだろうか。
 この時もう、陽三は自分の命が長くないことを知ってるわけですから、その想定が入っているわけです。
 「もしも俺が死んだら、本当に大介はひとりぼっちになっちゃうんじゃないか。そうしたら、大介は、俺が感じたように、一人ぼっちで寂しいんじゃないだろうか」って。

 でも葉菜子は「寂しさともうまく付き合えるようになる」って返しています。
 それはもちろん、この時の葉菜子の偽らざる実感だけども、葉菜子が子宮外妊娠子供が産めなくなり、離婚したあと一人で生きていく決心をしていることを考えると、このさりげない言葉の中には「うまく付き合っていかなきゃいけないんだ」的なニュアンスも、今見返すと感じられるんですよね。
 しかし本当にすごい脚本だわ。あぶり出される三者三様の孤独

 だから、陽三は、自分が死んだ後、何を大介に残してやれるんだろうということを本当に真剣に考えて来たんだと思います。
 美佐代が自分に「人生のやり方」を教えてくれたように。

 パーティで思ったでしょうね、陽三は。
 ひとりぼっちになっちゃうんじゃないか、寂しいんじゃないか、って心配してた大介の周りに、こんなにたくさんの仲間が集まってくれている。
 その中には「あの時、寂しさとも付き合っていける」って言っていた葉菜子も加わっている。
 よかった、大介は、一人ぼっちなんかじゃない。俺の心配はもういらない。

 それでようやく、陽三は、死ぬまでの間息子の大介と一緒にいたい、っていう人としては当然の、切実な願いを言うことができたんですね。
 また、父として、死ぬまでの間に、大介に何かを残してやらなきゃ、とも考えてきた。美佐代が俺にしてくれたみたいに、って。
 その願いの最たるものが”一人より二人、二人より三人”なんだろうな、って思うんです。

f:id:sran:20160326104205j:image

 だからこれから広がっていくたくさんの波紋は、ヨウゾウ・エフェクトというより、ミサヨ・エフェクトなのかもしれませんね。

 まあだけどね、そんなことめでたい席の宴の後で突然カムアウトされたら、大介じゃなくても受け止めきれませんよ。

 大介。
 葉菜子。
 ようやく未来が見えてきた恵と浩太。
 子供達を通じて妙に仲良くなった律子

f:id:sran:20160326102119j:image

 それぞれが、それぞれに、この陽三の衝撃のカムアウトを受け止めきれずに愕然としています。
 突然の衝撃というのは、受け入れ、実感が沸くまでに時間がかかるもの。その言葉の大きさに少しずつ実感が伴ってくると、やっと人々はそれぞれのやり方で問題に立ち向かい始めます。

 看護師学校に合格した恵は、何と言っても妻ですから、必死に治療を受けてほしいと説得します。いろんな病院から治療法の資料を取り寄せ、とにかく治療を受けてほしいと。
 看病もする、学校も休学すると言って、怒られたりして。
 そんな恵に対して陽三は、これは寿命なんだ、って説得します。自分の番が来たんだ、と。
 恵は、その言葉に、次の句が継げません。

f:id:sran:20160326104908j:image

 浩太は聞きます、死ぬってどういうこと? 
 何だそのあまりにも哲学的な難問、ってのけぞりますが、陽三はこの哲学的な問いにひるむことなく答えます。
 死ぬっていうのは、誰にでもやってくる、普通のことなんだ、と。

 そういえば、かつて浩太もこう言っていました。美しいものも、いずれは滅びると。

浩「でも終わる。冬が来たら、全部枯れる」

 7話で、花が咲く、春はいいなあ、と話す陽三に浩太が放った言葉
 今考えると、この時の陽三に向かってなんて残酷言葉だったんだろうと思うけど(シゲさんの表情が辛かったけど)、陽三はこの時もこう答えてました。

f:id:sran:20160326104909j:image

陽「冬のおかげで、古い葉っぱは土の上に落ちて、土はその葉っぱの栄養で、どんどんどんどん肥えた土になって、新しい葉っぱが生まれるんだよ。どんなちっちゃな虫だってな、みんななんかの栄養になんだよ」

(略)

陽「つらいことも、悲しいことも、全部お前の栄養になる。無駄なものなんて、なんにもねえんだよ。世の中には。順繰りなんだよ。俺たちは、古い葉っぱ、浩太は、新しい葉っぱ」

 そう、浩太も陽三のもう一人の息子でした。
 陽三は、自分死ぬ事で、大介同様、浩太にも何を残せるか、真剣に考えていたんでしょう。
 それは、死は無駄ではないという言葉。必ず次につながっていくという言葉。そして、死ぬことは不幸ではないという言葉
 ともすれば、未来に希望を持てずにいた浩太に、ものは消えてなくなるから無駄と言っていた浩太に、そうじゃないんだよ、全てはつながっているんだ、と教えて行きたかったんでしょう。

浩「でも寂しい。会えなくなるの、寂しい」

 しかしそれを聞いて浩太が、心から語った言葉は、ただ、寂しい、その一言でした。
 大切な人がいなくなってしまう。寂しい。

 哲学的でもなんでもない。死を学んできた賢人たちの教えでも掬い取れない。ただただ、寂しい。
 その切々とした言葉と涙が、改めて思い起こさせるのは、人がいなくなるのは、どんな理屈をつけたって、やっぱり寂しい、それだけは、どうにも止めることができない、純粋で素直な心です。

 そして実は、その寂しさは、一つの救いでもあります。

f:id:sran:20160326104910j:image

 寂しいよ、という思いを共有することで、人は、その寂しさに、少しずつ、慣れることができる。
 葉菜子が「付き合っていけるんじゃないか」って言ったけど、寂しさとは、その純粋な思いに抵抗することなく素直に浸る、そういう体験を共有することでしか、きっと、慣れたり、付き合ったりはできないものなんでしょう。
 みんなで、その寂しさを、分かち合うこと。
 分かち合うことで、寂しさを、自分たちのものに、していくこと。
 浩太の、ただただ純粋で素直な気持ちが、恵も、そして陽三をも包み込んでいく、早春の明るいベランダ
 そうです、大切な人が、いなくなってしまうんです。
 寂しい。

f:id:sran:20160326104911j:image

 だけど、その輪に大介一人だけが入れません。
 弟、浩太が、心の底から素直に「寂しい」と涙を流している時、きっと大介の心の中も同じように泡立ち波打っているはずだけれど、大介はそれを表に出すことができません。
 そのかきむしられるような胸のモヤモヤを吐き出すかのように、ロードバイクで闇雲に走る大介。

 陽三も、大介のことを思えば、もどかしさとやるせなさを噛み締めるかのように、深くまぶたを閉じるしかありません。
 陽三だって、悟っているわけじゃないんです。
 ネイティブアメリカンの古老の教えを心に刻み込んで、少しずつその日に備えようとはしているけれど、ただ寂しいと涙を流す浩太や、それすらも出来ず心を閉ざしていく大介を前に、どうすることもできないんです。

 そんな陽三の心を少し軽くしてあげられたのは律子でした。
 リコリスのお茶を出してあげながら、律子単刀直入に聞きます。
 ねえ陽三さん、……怖くないの?

f:id:sran:20160326104912j:image

f:id:sran:20160326104913j:image

陽「律ちゃん、…こええよ、ものすげえこええよ。助かりてえ一心で、いろんなこと一通りやってみたけど、そんときわかったような気が済んだよ。ああ、これは、俺の、寿命なんだな、って」

 陽三が絞り出すように言った「こええよ」。本当に言えてよかったなあ、って思いますね。
 どんなに年をとったって、死ぬことは怖いに決まってる。陽三だって毎日その恐怖と戦って生きている。
 だから、そういう弱音を吐ける場所必要でした。
 恵の前でも、浩太の前でも、ましてや大介の前でも言えなかった弱音。それが、律子の前で、ようやく、吐くことができたんですね。
 この「怖い」は、のちの大介の「怖い」にも通じます。
 親子それぞれが、「怖い」と口にすることができ、それを受け入れてくれる相手がいて、しかもそれも親子だった、というこのシンクロニシティね。
 こんとき律子さん、葉菜子のみたいなレモンイエローのセーター着てるし、一瞬見間違っちゃったよ。

 しかし律子さんのこの包容力というか受容力というかがハンパなさすぎる。もう陽三さんと付き合っちゃえよ、レベル。全然夫の姿見えないしねw 本当に大丈夫なのか川上村の夫の人。

 さて、「寂しい」と涙を流す浩太をすごい目で見ていた大介。
 でも彼は、Pennaでベストデザイン賞を受賞した折も、ちょっと表情が硬い、と言われるくらいで、いつも通り普通に仕事をこなし、ジムにも通い、笑顔で「大丈夫」と言っています。
 モノローグのように、笑顔という鎧をつけて。

f:id:sran:20160326104914j:image

笑顔は心の鎧だ。本当の気持ちを隠してくれる。怯えも同様も怒りも。ほとんどの感情はこれで隠せる。そう、笑顔を作ることで。

 しかし、そんな心の鎧を葉菜子が見抜けぬはずがない。
 かくして、実は、ヨウゾウ・エフェクトを一番まともに食らってしまったのは、陽三のことを心配してるのを必死に隠している大介、のことが心配でならない、葉菜子だったんです。


 

2、あの娘ぼくがトリセツ預けたらどんな顔するだろう

 陽三がガンのカムアウトをしている時、葉菜子は最初はその話の内容が受け入れられずキョトンとしていましたが、だんだん何を言われているかがわかってくるにつけ、目に涙がたまっていきます。
 まるで、幼子みたいな無防備な顔、泣く寸前のような。
 しかし、その次の瞬間、葉菜子はまず大介が心配で、大介の方に視線を送るんですね。

f:id:sran:20160326104915j:image

f:id:sran:20160326104916j:image

 「ふざけんな」と捨て台詞を残し、マンションの外に出て行った大介。
 葉菜子はあとを追いかけ、後ろ姿に声をかけます。

葉「大丈夫? 知らなかったの? 何も? …………どうしていいかわかんないよね、急にあんなこと言われても」

大「いやいや、全然。親父のやり方にはもう慣れた。大丈夫

f:id:sran:20160326102322j:image

 いつものようにニカッと笑ってみせる大介。涙を溜めたままその表情を見つめる葉菜子の目は「嘘つき、全然大丈夫じゃないじゃん」って言っています。
 笑顔の後、ほんのわずかに口元がゆがむ大介の顔を見て、葉菜子はますます心配を募らせます。
 陽三のことが、ではなく、それで無理に笑顔を作ってショックを見せようとしない大介が、心配で仕方ないんです。
 それが、頭から離れない。

 とにかく、普段仕事も何もかもそつなくバリバリとこなしている葉菜子のことだから、ちょっとボーッとしているだけで帝光商事の面々がすぐにその異変に気づいちゃうわけ。

f:id:sran:20160326104917j:image

 まあ、この鈍感姫というか、人のことにはすぐに気づくのに、自分のことにはさっぱり気づかないで、みんなにおかしいね、って言われてる葉菜子が可愛くて仕方ないわけですよ。
 え? ああ、って誤魔化したり、あれ?って慌てたり。ギャップ萌えの見本のような。
 田中莉奈言葉に全然トンチンカンな反応を返したり、コーヒーのサンプルを間違えたり、普段だったらありえない葉菜子の様子に、みんなおかしいな、と思うんだけど、決定的だったのは、和弥と田中莉奈と一緒の帰り道。

f:id:sran:20160326104918j:image

和「何があったの、…心配事?」

葉「別に、…私じゃないんだけど……」

 心配事があって居ても立っても居られない時ってこんな感じになりますよね。心ここに在らず。
 とにかくすぐにでも確かめたい、聞きたい。
 焦燥感に突き動かされて、二人と別れた後にはついつい小走りになってしまう葉菜子。

 一方で、またしても田中莉奈の勘の良さ・鋭さが炸裂します。
 以前葉菜子に「その勘の良さ、ぜひ仕事でも生かしていただきたいですね」ってお墨付きをもらった勘の良さですが、仕事だけでなく、プライベートでも遺憾なく発揮されています。

莉「気になりますよね。私じゃないんだけど、ってじゃ今日一体1日誰のこと心配してたんだよ、って思ってましたよね今」

 本当に、恋愛体質だけあって、こういうところの勘は非常に鋭い。
 それだから、葉菜子の家にケーキを持ってやってきた時、律子言葉を聞いてすぐにピンときてしまいます。

f:id:sran:20160326102456j:image

 会社で何か心配事があるようにミスしたりボーッとしたりしてた。→ 大介の家のホームパーティでは特に変わりなかった。→ 「私じゃない」って言ってた、ということは誰か他の人の心配。→ 陽三さんが体調よくなくて、大介さんも大変と律子から聞く。→ なるほど!
 いますよね、こういう、人間関係に関しては異常に勘が働く人、人っていうか女性
 そして田中莉奈は「大丈夫ですよ、私、葉菜子さんなら」と、バトン勝手に渡す。

 でも葉菜子は全然気づいてない。田中莉奈がそんなことを言っている理由にも気づいてないし、まず自分気持ちというか、自分が今なんでこんな感じになってしまっているのか、すらも気づいてない。
 鈍感姫。萌える

 もちろん、異常な受容力を持つ母律子にも気づかれてしまう。
 暗い部屋で電気もつけずに椅子に座っている葉菜子、律子が川上村に帰るの伸ばそうかなと言ったらすんなり「そうして」って了承の返事。

葉「本当心配。あれ悪い癖だよね、すぐ自分の殻に閉じこもってさ。いきなりお父さんに死ぬなんて言われて、動揺するのはわかるよ、人に動揺を見せたくないのもわかる。わかるけどさあ」

律「あ〜あ、大介さんのこと?」

葉「ん? うん、いや、もちろん陽三さんのことも心配だよ」

律「ふう〜ん」

葉「何ふう〜んって」

律「いや、ほら、近くにいるのに気付かなかったな〜と思って」

葉「だから何が?」

律「大介さんのことも心配よね」

葉「うん」

f:id:sran:20160326104919j:image

 この時、前回のあの感動の母への告白シーンとは位置が逆。
 やっぱり、テーブルの長辺に座ってる方が安定感が増すんですよね。
 葉菜子の、ちょっと口を尖らせて、もう本当にしょうがないんだから、って若干怒り気味に話すのが可愛くて。
 しかも、その後の母親意味深な「ふう〜ん」も「近くにいるのに気付かなかった」も完全スルーして、「心配よね」に「うん」って真っ正直に頷く。

 母も気づいてしまいました。
 でも葉菜子は全然気づいてない。律子意味深に頷いたり驚いてみせたりしている理由にも気づいてないし、まず自分気持ちというか、自分が今なんでこんな感じになってしまっているのか、すらも気づいてない。
 鈍感姫〜。萌えまくる。

 そして和弥。

 今まで、元夫としてはもちろん、仕事パートナーとしても長く一緒にいた和弥だからこそわかる葉菜子の変調。
 これは、ただ事ではない、とやっぱり気づいてしまう。こんなミスを連発する葉菜子見たことがない。
 田中莉奈に突っ込まれて「誰のことを心配してたんだ?」って思ってる段階では、まだそれが誰のことかはわからない。
 なのでさりげなく確かめに行きます。

 夜遅くまでオフィスに残っている葉菜子。一号店のことで不動産部との打ち合わせが長引いていた和弥が葉菜子の元を訪れます。

f:id:sran:20160326104920j:image

和「何があった? …何かあったんだろ?」

葉「(ため息)……陽三さん。重い病気みたいなんだよね。私だったらどうするんだろうと思って。…親にさ、急にそんなこと言われたら」

和「そうだったんだ」

 この時点では和弥はまだ「陽三さんが重い病気なのを葉菜子は心配してるんだ」と思ってます。陽三とはこれまでも色々付き合いがありましたから、その人のことを心配しているというのはまあ不自然じゃあありません。
 ところが、和弥は次の瞬間、決定的なことを聞いてしまいます。
 しかも言ってる本人全く意識してない、さらっと。

葉「父親と息子じゃあねえ、男同士だし。…つくり笑いとかしちゃってさ、もう見てらんなくて」

和「!……そういうことか」

f:id:sran:20160326102622j:image

 この時の和弥の「あっ…」って表情がすごいんですよね。
 自分でもたぶんわかってないんだろうけど、こいつ、永里さんのことを…。
 それにいち早く気付いてしまったショック。
 ずっと葉菜子と復縁したいと願ってたし、7話では病院でとてもいい雰囲気になれたし、少しずつ埋めていけばこのまま…、ってきっと思っていた和弥。
 一方的に「俺じゃないんだ」って宣告を受けてしまったわけです。

 オフィスを後にして、エントランスのドアの前で振り返り、たぶん葉菜子がいるであろうあたりを見つめる和弥。
 ほんの短い時間ですけど、この時の田中圭さんの表情には本当シビレます。
 葉菜子、そうなのか。じゃあ俺がしなきゃいけないこと、俺にできることはなんなんだろう、っていう内言が聞こえてくるかのよう。
 俺が一番願ってるのは、葉菜子の幸せだ。俺ではダメなんだったら、もっとふさわしい人を。
 …なんて、そんなに簡単に割り切れるわけじゃない。

f:id:sran:20160326104921j:image

 でも、和弥は、かつて葉菜子に辛く悲しい思いをさせたことを、ずっと後悔していたはず。不妊になったそのことよりも、その後の色々な人との関わりの中で、どこかで、後戻り不能な線を越えてしまった、それは自分責任だ、と。
 一人で生きると思ったら楽になった、なんて言っている葉菜子に、もし別のチャンスがあるのなら、そして俺が、そのチャンスの後押しをできるんだったら。
 そんな逡巡と諦念を感じさせる和弥の複雑な色合い。

 そんなこんなで、大介が一人ビールを楽しむいつものビアバーヘ乗り込んできた和弥。
 まず口火を切った話題は、親の死に目に会えなかったこと。

和「俺、5年ドイツにいたじゃないですか。その間に、父親が死んだんです。病気だって知ってたのに、一度も見舞いに行かなかった」

 和弥が大介に伝えようとしたこと、それは、一言で言って「自分と同じ失敗を繰り返さないでください」ってことなんです。
 親の死に目に会えなくて後悔してる。だから永里さんは…、ってこと。葉菜子との結婚生活は失敗してしまった。だから永里さんは…、ってことです。
 和弥が大介に預けた「葉菜子のトリセツ」は、きっと全て、和弥がしてしまったことへの注意事項なんですよ。
 和弥の、葉菜子との、失敗のカタログ。手元にはないけれども、葉菜子との、大切なアルバム。

和「あいつは、自分にも他人にも厳しいけど、人の弱さもちゃんとわかるんですよ。…それが、大事な人ならなおさらでしょ」

 本に勝手に触ったら怒ったっけなあ、特に赤毛のアンの時、あれはすごかった。
 仕事のことを考えてる時、何話しかけても上の空だったっけなあ。あんまりしつこいと怒られたっけ。
 掃除ほとんど俺がしてたなあ。料理は美味しかったけど、片付けもほとんど俺だった。
 花に水やった?って聞くとしょっちゅう「忘れてた!」って慌ててたっけなあ。
 そして、嘘は全部ばれてたな……。

 和弥のばれた嘘。それは、浮気だとか何かをごまかしたとか、そういうことではなくて、おそらく、葉菜子の不妊があってからのことでしょう。

 以前(第5話)、同じように大介と和弥はビアバーで葉菜子のことについて語り合ってました。その時は位置が逆でしたね。
 和弥は離婚の原因について「不運が重なって」って言ってました。「その不運を乗り越える力が俺にはなかったのかな」って。
 子宮外妊娠で卵管を切除せざるをえなかったことは確かに不運です。でも葉菜子は「当時二人は、離婚なんて考えてなかった」(第8話)と律子に語っていました。
 だからそのあと、義母が絡んだり、その他の人たちの思惑が絡んできたりして、葉菜子は決定的に傷つけられ、和也は葉菜子を守りきることができなかった。
 その辺の話は一切表に出てきていません。でもわかりますよね。そういう時、かなり生々しい人間関係や醜さが露呈するだろうということは。
 和弥もきっと、葉菜子を守るためにつきたくない嘘をつき、その嘘で逆に葉菜子を追い詰め、傷つけ、なんてことが、あったんじゃないかな、なんて想像できます。

f:id:sran:20160326104301j:image

 だから、俺じゃダメなんだ、と。
 葉菜子のこと全然わかってない永里さんだけど、きちんとトリセツ預けて、俺と同じ失敗をしないようにしてほしいと。
 葉菜子を、ちゃんと見てやってほしいと。

 くうう、切ない。
 なんていい奴なんだ和弥ってば。なんて、ここで感動してる場合じゃない。
 和弥の最高の見せ場は、その次にやってくるんですから。

そんな撮影中、葉菜子さんと和弥さんの関係性をどう見せるか? ということで、

「私、この間(第7話)のことで葉菜子と和弥の関係は修復したと思っているので、ここはサバサバした感じの方がいいと思います」

という上野さんの言葉もあり、その方向性にて撮影が行われました。

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

 そう、そのサバサバ感が異様に生きてくるんですよねこの次の場面に。

 上野さんが解釈したように、葉菜子はすでに、和弥とのわだかまりが解消したと思ってる。まだ、復縁をという気持ちにはなってないけど、病院で和弥の顔を見てホッとしていたあの時から、元夫婦という親しさが醸し出されてる。
 だから、和弥から呼び出しがあって、カフェに顔を出した時、葉菜子は「なんだろ?」ってむしろ楽しみな感じで、柔和な表情で席に着く。何も知らないでニコニコやってくる葉菜子、引導を渡そうとしてる和弥。

f:id:sran:20160326104539j:image

 もうとにかく、和弥のいい人ぶり大爆発、葉菜子の鈍感ぶり大爆発で、クスクス笑えるおかしさと、切なさと、暖かさとがいっぺんに押し寄せてくる神シーンですよ。

葉「なに? 話って」

和「バカだなあ俺。なにやってんだろ。ずっとやり直したいと思ってたんだけどなあ」

葉「え、どうしたの?」 

和「熊谷葉菜子のトリセツ、預けてきちゃった、よ」

葉「は?」 

和「ん? 離婚された元夫の忠告じゃあん意味ないのか」

葉「何言ってんの?」

f:id:sran:20160326102911j:image

 この辺の、照れ隠しを入れながら、ちょっとずつ本題に迫っていく和弥と、本当に何の話かわからなくてだんだん眉をひそめていく葉菜子とのコントラストがいいですよね。
 預けてきちゃった、よ。の言い方。
 自分でもあんまり言い慣れてないぎこちなさと照れくささがちょっと滲んでて、和弥の人の良さが透けて透けてもう。

和「好きなんだろ? ……心配で、らしくないミスするくらい」

葉「…もしかして和弥、うちの下の階の住人のこと言ってる?」 

和「他に誰がいんだよ」

葉「やっぱそうか、いやでも誤解だよ。……確かに、遠慮なく言い合えて、気持ちよくケンカできて、辛い時は、気持ちを吐き出せて、うん、とっても居心地のいい相手だけど」

和「他に何が必要? 一緒にいたいって思う理由に、それ以上他に何が必要なの?」

葉「え、…………好きなのかな?」 

和「それ、俺に聞く?!」 

葉「……だよね」

 くううう、和弥〜。
 若干おふざけモードの後、しっかりと目を見て、どストレートに問いかける和弥。
 それに答えて、葉菜子が大介についていろいろなこと語ります。はたから聞くと、まるで恋人のことをのろけてるようなその言葉、葉菜子には全くそんなつもりがなくて、一方、それを聞かされる和弥は目を伏せて薄く微笑むしかなくて。
 楽しそうに語る葉菜子の脳裏には、きっと大介との今までのあんなことやこんなことが思い出されていて、そこに全くタッチできない和弥は、その差を思い知るしかなくて。

 その上、「好きなのかな?」って、それは残酷だよ和弥に聞くのかよ、って思うんだけど、その時の和弥の表情が本当にいいんですよ。
 ああ、やっぱり俺、葉菜子のことが好きだなあ、って顔。本当にこいつ可愛いなあ!って。 
 でもそのすぐ後に、仕方ないよね、俺が選んだことだ、ってほんの一瞬笑顔が曇る。
 和弥、切ない、切ないよ。

f:id:sran:20160326103113j:image

 みんなに「どうしてあんなにいい人と別れちゃったの?」って聞かれまくっていた葉菜子。
 本当に、和弥のいい人っぷりは筋金入りでした。葉菜子の幸せを心から願って、自ら買って出たキューピッド
 愛すればこそ身を引くその潔さに涙ちょちょぎれなんですけど、でも、やっぱり葉菜子にとっては「いい人」ではダメだったのかもしれない、一生を共にする相手ではなかったのかも、という残酷な感じもまたきちんと描かれているんですよね。

 今回は、葉菜子が色々な人と話をしながら、自分の本当の気持ちに気づく、というか、周囲の人たちにダダ漏れで気づかれる、というストーリーだったんですけど、この構成は、6話の、大介が色々な人たちのアドバイスを受けて、やっと葉菜子の告白を大介なりに受け止める覚悟ができるまでの構成とシンクロしています。
 そして、最後には「しんどい時には俺に言え」「しんどい時には私に言え」のキメ。
 なかなか気づかない鈍感男女の背中を最後に押すのは元カノと元ダン。
 本当に、こういうところの構成美にもまたうっとりするんですよね。


 

3、鎧が劈(ひら)かれるとき

 というわけで、ようやく大介が登場します。

 今回、大介のセリフが本当に少ない。普段も、主人公としては、割とセリフが少なめなんですが、今回は特に。
 それだけ、大介の内面表現重要になってきます。
 でも、ここまで8話を使って作り上げてきた大介という人間像は、全くゆるぎなく存在していて、ん? とか、ああ、とか、そんな一言で十分大介の気持ちがわかるし、張り付いた笑顔の奥にある、恐れや、悲しみや、迷いが、しっかりと伝わってくるんです。

 和弥によって気付かされた「好きなのかな?」って気持ち
 葉菜子は大介を探して回ります。
 考えてみれば、葉菜子は、当然出会ったり(エレベーターやジムやカフェなど、行きつけの場所)、待たれたり、追いかけられたりはしていたけど、自分からこんなに大介のことを探してあちこち歩き回ることなどありませんでした。
 そこがまず新鮮だったんですよね。葉菜子が大介を探して走ってる、って。
 それだけでも、葉菜子の気持ちの高ぶりがわかります。
 前回も、ジムのランニングマシーンで、大介よりも速いスピードで葉菜子が走ってましたが(葉菜子が走った!ってクララみたいに言われてたw)、プライベートでは基本、ポケットに手を突っ込んだりして、ヌボーって歩いてる葉菜子ですから、こういうふうに積極的に動いているのを見ると、本当に気持ちが高まっているんだな、て感じます。

f:id:sran:20160326103313j:image

f:id:sran:20160326104338j:image

 行きつけのビアバー。
 以前酔いつぶれた葉菜子を大介が解放してくれた橋のたもと。
 などなどと探し歩いて、やっぱり大介は「好きな場所」にいました。まるで小学生のようにちんまりと膝を抱えて。
 浩太の心からの「寂しい」という涙に共感する家族の輪にも入れず、和弥から聞かされた葉菜子のトリセツに「かといって俺にどうしろと」という戸惑いも抱え、誰にも頼ることもできず、一人ぼっちで、座っています。
 その姿は、陽三が「寂しいと思うんだよね」って心配していた姿そのもののよう。

 そこへ駆けつけた葉菜子の第一声。
 「ここか」
 見つけたよ、大介、っていう温かい響き。

葉「この前さ、またしんどくなったら俺に言え、って言ってたよね」

大「うん。しんどいことまたなんかあった?」

葉「いやそうじゃなくて。私はもう、前に聞いてもらったでしょ? だから、私には、借りがあるってこと」

大「ん?」 

葉「次はそっちの番。それで貸し借りはなし」

大「いやいや、なんだよそれ」

葉「…だから、しんどくなったら、私に言え、って言いに来た」

大「……あっそ。…じゃ言うけど、俺は今、すげえ頭にきてる」

葉「うん」

 深刻なことじゃないよ、借りを返しに来ただけ、っていう葉菜子の気負いのない語りかけ。
 大介が自分気持ちを吐き出しやすい雰囲気を作ろうと、なんだよそれ、って突っ込みやすいように切り出しているのがわかります。あの「仕返ししてやれ」的な、心のハードルを下げる言葉選び。

f:id:sran:20160326103523j:image

 でね、最初に大介が「しんどいことまたなんかあった?」って聞くんですけど、言葉は柔らかく優しいんですけど、そこに感情が全くこもってないような、何かが本当に上にかぶさってるような感じがちょっと凄いんですよ。
 自分はこの言葉に最も「鎧」を感じました。
 鎧っぽくないからこそ、最も強固な鎧。ガワを取り外した最もコアなところ。

大「ふざけんなって。焼津に帰る前に、文句全部言ってやろうって思ってたけど、それも病人相手じゃできない。怒りのやり場がなくなって、俺はどうしたらいいのかわからなくなってた。…以上。………うん、言ったらすっきりしたかも」

葉「やめなよ。そんな作り笑い」

大「いや、作り笑いって」

葉「やめなよもう。ここには、他に誰もいないんだしさ。そんな無理して笑わなくたって」

 「言ったらすっきりしたかも」って、葉菜子がビアバーで大介に離婚理由を打ち明けた時と同じ言葉です。
 はい、終了。葉菜子も前そうだったろ? って合図ですね。

f:id:sran:20160326103910j:image

 でも、ここまで、大介の顔の上半分、全く変わらないんですよ。早回しをしてみると分かりますけど、全く視線筋肉の様子も変わらない。
 瞬きしてるだけ。
 最もコアな鎧があるんですよまだそこに。

 でも、その鎧を劈(ひら)くのは葉菜子の言葉
 「そんな無理して笑わなくたって」です。
 大介の顔の上半身に、初めて動きが生じるんですよ。そう、鎧に、だんだんとヒビが入り始めてるんです。

f:id:sran:20160326104324j:image

大「俺はただわかんなくてさ。治療しろとも言えないし、静かに見守るなんてことも無理。素直に浩太みたいに泣くこともできない。親父の顔、まともに見れない。いきなり死ぬだなんてふざけんなっつうの。親父が焼津に元気で帰るって思ってた時は、…一人に戻んのがすげえ楽しみだったのに、それなのに今は、…………今は怖い。…………親父が死んで、一人になんのが、……そんな日が来ると思うと、………怖い」

 すごいですよね。ここの大介の感情の動き、ほとしり
 「ただわかんなくてさ」で一度眉をしかめてから、目に生気が宿ってくる。顔全体に表情が広がっていくんですよ。

f:id:sran:20160326104126j:image

 「それなのに今は」から「今は怖い」までの間に、どんどん幼くなっていく。顔の鎧に無数に入ったヒビが割れ、中から、生身の大介の顔が現れてくる。
 第8話で、葉菜子の告白シーンで、律子の「泣くのは私じゃないでしょ」の言葉に、一気に表情が崩れ、隠されていた幼子の表情がむき出しになった時みたいに、大介の隠されていた「本当の気持ち」が露わになる。
 いやもう、本当に掴まれますよこれには。

葉「そんな時は、一人が辛くなった時は来ればいいよ。エレベーターに乗って、一つ上。……来ればいい。……似たような人がいるからさ、そこに」

 葉菜子は、そんな大介の言葉から、表情から、それを優しく受け止める言葉をかけます。

f:id:sran:20160326104430j:image

f:id:sran:20160326104447j:image

 上野さんは、あまりそういうお仕事はされないけれど、実は朗読をすると、その世界にふわっと聞き手を連れて行ってくれるような、素晴らしい表現をされるんですが、この言葉も、まるで、優しく読み聞かせをしてあげてるような、心地よいリズムと、心地よい響きで、大介の心の中に、すうっと浸透していくのがわかります。

 寂しい時、どうしてますか? 陽三の問い。
 答えは、来ればいい、です。似たような人が、いるからさ。

 そしていよいよ、今回二回目の神シーン。
 大介と葉菜子の優しすぎるハグです。

韓哲プロデューサーはこのシーンについて、「台本に『大介が葉菜子を抱き寄せる』と書いていたが、果たして大介はできるだろうかと思っていた。台本上には書きながらもそうやってくださいとは思っていなかった」と打ち明け、「さまざまな出来事感情を積み重ねてきた2人はどうするのだろうか、現場香取さんと上野さんが気持ちに添って芝居をするとどうなるのか、2人の自然な動きに任せていた」と説明した。

そして、実際にその撮影を迎えた時に、香取が「大介は、いきなり抱きしめることはできないと思う」と意見。「でも、例えば葉菜子に肩を触れられて、いつものようにそれをはねたあとだったら、抱き寄せられる気がする」と提案したという。香取が大介として思い付いたこのアイデアによって、よりリアル自然なシーンになったのだ。

香取慎吾の提案でアレンジ!『家族ノカタチ』大介と葉菜子の感動ハグシーン | マイナビニュース

 第8話の告白シーンを寝室からダイニングに移した上野樹里
 大介がどうやったら葉菜子を抱き寄せることができるか考え、一度軽く拒絶することを提案した香取慎吾
 それを採用して、最初よりもはるかクオリティ高いシーンに仕上げたスタッフ
 現場の空気が最高なんだな、って感じさせてくれるエピソードですよね。

f:id:sran:20160326104752j:image

 鎧が劈(ひら)かれ、生身の体が出ている大介。葉菜子は優しく肩をポンポンと叩きます。
 思えば、葉菜子は今まで大介への肉体的接触は、暴力的だったり激しすぎたりしてました。ビンタとか、背中ドーンとか、袖引っ張りのリアルクレームとか。
 でもこのときの手は本当に優しく、大丈夫だよ、大丈夫だよ、と語っているかのよう。
 大介はしかし、その手を一旦払います。
 気恥ずかしさ? 鎧のない生身の肌の痛み? それでも弱みを見せたくない最後の抵抗?

 大介は一度葉菜子の顔を見て、いやいや、平気だからさ、って感じでやんわりとその手をどけようとします。
 それから一瞬周りを見て、グッと噛み締めるように目をつぶり、そしておもむろに葉菜子を抱き寄せます。

f:id:sran:20160326104734j:image

f:id:sran:20160326104717j:image

 この時、多分大介は心の中で言ってるんです。いつも言ってるように。
 「ガンバレ、俺」って。
 ガンバレ、自分に素直になれ、俺。ガンバレ、甘えてもいいんだぞ、俺。

f:id:sran:20160326104659j:image

 そして。
 抱き寄せるというより、ゆっくりと葉菜子の胸に飛び込むように体を寄せる大介。
 この時、葉菜子はじっと大介の顔を見つめています。大きな、黒い大介の体を受け止めるように、最後にほんのちょっと胸を反らす葉菜子。
 このシーンの美しさたるや。

f:id:sran:20160326104641j:image

f:id:sran:20160326104624j:image

 葉菜子の体にしがみ付くように、抱きしめる指にグッと力が入っている大介。
 優しく肩に手を添えて、大介の代わりに涙を流している葉菜子。
 この涙は、葉菜子の告白を温かく全部受け入れてくれた律子の涙と同じものなのでしょう。

 大介が抱き寄せているというより、小さな葉菜子の体の方が、大介を温かく抱きしめているようで。
 その、肩を優しくポンポンとする手が、幼子をあやす母のようで。
 葉菜子がそもそも持っている母性の大きさに、また切なさが込み上げてきたりして。

 はい、そしてこんな感じ。

 このドラマは、本当に「行間」を感じさせるドラマなので、こういう妄想にもがっつり対応してくれてるのよね。

 最終話、一瞬たりとも見逃せない!

2016年03月13日

[][][]「家族ノカタチ」#08レビュー 〜君ニ届ケ


 

f:id:sran:20160313190935j:image

 もう8話まで来ちゃったんだ、ってしみじみしますよ。

 このドラマ生活の中心になって回っていた8週間。楽しかったなあ。そして後2話で、大介や葉菜子や、みんなとさよならしなきゃいけない。寂しいなあ。
 陽三じゃなくても、もうちょっと、ここにいさしてもらえないかなあ、いや永遠に、って感じですよ。

 というわけで、1話からぼちぼち見直してるんだけど、このドラマが、その登場人物生き方や考え方、人と人との関係性、小さいけれど大切なエピソード、などなどを、本当に丁寧に、慈しむように積み上げてきてくれたんだなあ、って改めて驚きます。
 基礎をしっかり固めて、水回りや配線をきちんと計画し、柱を立て、壁を塗り、ってまるで本当に家を建てるみたいに、倦まず弛まず、着実に、ここまで作品を作り上げてくれました。
 そりゃ、いきなり屋根は乗らないよね。いつもアバンの時には屋根(宀)が降ってくるけどね。
 最終話でそれなりに屋根が乗るのかな、なんてことも、これからの楽しみだったりします。

 全てのセリフ、全てのエピソード無駄がなく、1シーン1シーンに今までの物語が畳み込まれているから、8話くらいになると、登場人物言葉、表情、行動、何もかもの中に、これまでの描写が息づいていて、何ということのないセリフ一つ取っても、奥行きと広がりを感じさせられます。
 あ、あの時のあの言葉はこうつながるのか、あの時の表情は、こんな気持ちの表れだったんだな、ってね。
 よく、伏線が見事、みたいな言い方をするし、このドラマも「ああ、あれはこうだったのか」の連続なんだけど、自分としてはあまり「伏線」を張ってる、って感じがしないんですよ、あまりにも自然で。

 あえて言うなら、「布石」かな。

 布石は、囲碁で言う序盤の石の並べ方のことです。
 このドラマは、以前拙エントリで書いたように(「家族ノカタチ」#01レビュー 〜ホームドラマノカタチ - SAY NO MORE!)、登場人物の設定と構成が本当に素晴らしく、その一人一人がまた、相手の出方によって出方を変えてくる絶妙な動き方をしていくので、「決めておいたところに落ちる」というより、「あの時あそこがこうだったから、今ここがこうなってるんだね」ってダイナミックな感じがするんですよ。その場その場で筋が生成してるみたいな。
 そっか「伏線」は、ちょっとスタティックな印象がするので、「布石」の方がふさわしいと思えたのかな。

 ともかくそんな風に、人物がダイナミックに動く布石がたくさん打ってあるから、なんてことない言葉や行動や表情が、ああこれはあの時の、ああこういう想いの奥には、みたいに、いちいち胸に響いてきちゃうんですよ。
 だから今回も、いくつかのエピソードのそれぞれに、そういうシーンが満載で、切ないやら面白いやら、愛おしいやら苦しいやらで、本当に忙しかった。正直何回かリピしないと感情が十分ついてこないくらいに。

 特に今回は、今までしっかり伝えることができなかった本当の気持ちを、さまざまな登場人物勇気を出して相手に届けようとする回でしたから、感動もひとしおでした。

 大介に結婚して欲しいと伝える田中莉奈
 離婚の顛末をついに律子に打ち明けようとする葉菜子。
 マンションに転がり込んできた本当の理由を大介に告げる陽三。
 その3人の想いの行く末に深く関わることになる大介。

 折りたたまれてきた物語、織り込まれてきたそれぞれの思い。
 「君に届け」とばかりに、切なる想いを言葉に乗せる人たち。

 今までずっと、人とうまく関われずに行ったり来たりしていた不器用な人たちが、ついに大きな一歩を踏み出す第8話。
 無限リピ必至、滂沱必至の神回となりました。

1、「なるほど」の調整

 このドラマが始まった時、まさか田中莉奈がこんなにも素敵なキャラに変化していくとは想像できなかった人も多いのではないでしょうか。
 自分もそうです。
 水原希子さんが演じるのだから、ただのイマドキ腰掛けゆるふわ女子で終わるわけがない、とは思ってましたが、こんなにも健気で可愛くて頑張り屋で、心から応援したくなる女性に成長するとは。
 自分が、作り手側の「登場人物への敬意」を強く感じたのもまた、田中莉奈の描き方を通してでした(「家族ノカタチ」#06レビュー 〜静かなるドラマの革命 - SAY NO MORE!)。

 第1話に登場した田中莉奈は、船の手配をしっかりやれずに葉菜子に注意され、泣きながら「やめます」と部屋を飛び出していました。懐かしいなあ。田中莉奈ダメダメ加減も、葉菜子のビシバシ加減も。
 この時田中莉奈は、葉菜子に「なるほど」と返して、それも注意されています。

f:id:sran:20160325141418j:image

葉「いや、目上の人にね、『なるほど』はないんじゃないかな」

 しかしこの後も、田中莉奈は「なるほど」を止めることはなく、葉菜子も「言うだけムダ」と悟ったのか、それ以上注意しなくなります。
 でもその「なるほど」、それをずうっと使い続けているということは逆に、彼女にとってこれが単なる口癖以上の、とても大切な言葉だということを表しています。
 仕事でも、プライベートでも、どんな場面でも田中莉奈は「なるほど」を使い、いつしか、この何ということのない言葉に、深みと広がりが生じてくる。「田中莉奈らしさ」がこの言葉から滲み出てきます。

 多分、田中莉奈にとって、この言葉は、「社会と自分が折り合いをつけていくための言葉」なんですよね。

 あなたのは仕事じゃなく作業なの!と葉菜子に詰められている時、田中莉奈は「なるほど」を連発して、葉菜子の勢いをせき止めていると同時に、自分なりの考えをまとめようとしています。
 まあそれが「やめます」に短絡して、葉菜子が「えええ〜」となるわけですが。
 田中莉奈は、そんなに言葉を多く知っているわけではないし、大会社の社長令嬢という縁故入社なので、あまり社会経験というものがない。
 だから「なるほど」は、そんな自分が社会と折り合うためのクッションでもあり、それを使って自分の考えをまとめる、彼女なりの「調整器」なんでしょうね。

 第8話で、大介に「ド直球(C 葉菜子)」のプロポーズをし、あえなく散った田中莉奈ですが、これまでの大介との関わりの中で、何回か「なるほど」を使っています。

 第5話、初めてロードバイクでツーリングした日、大介の反応がはかばかしくないのを見て、彼女自分なりの悩みを打ち明けます。

莉「時々言われるんです、友達とか前の彼氏にも、ちょっと乗りが変だって。……あのう、あたし、空気読めないとこあるみたいなんで、言ってくださいね、変な所とかあったら」

大「空気なんて読まなくていいんじゃない? 君のこと変だと思う相手とは元々合わない、ってことだし、オレはそういう人間とは、仕事以外付き合わないことにしてる。時間と気力の浪費だからな」

莉「なるほど」

f:id:sran:20160325144238j:image

 最初は大介の容姿に惹かれた田中莉奈だけど(「私、大介さんの顔、すっごい好みの系列で」第4話)、この言葉で本当に好きになってしまったんでしょうね。
 最初大介の言葉を腑に落ちない顔で聞いていた田中莉奈が、やがてその言葉意味に気付き、満面の笑顔で「なるほど」と言う時、もう真剣に恋に落ちた、ズッキューン、って音が聞こえますもん。
 この人は、私は私でいい、って言ってくれてるんだ、私の選択に間違いはなかった、大好き、なるほど!ってね。「仕事以外付き合わない」って、じゃ今付き合ってくれてるのは、私とは元々合ってる、ってことなのかな?なるほど!って。

 まあそんな風に思いはどんどん高まっちゃって、もっと知りたい、もっと大介さんに近づきたい! って考えた挙句に、大介お気に入りのビアバーにまで押しかけた田中莉奈ですが、そこではさすがに大介から拒否を食らい、路上で泣いてるところを律子に拾われます(第6話)。

 葉菜子のリビング風呂上がりの葉菜子と遭遇。
 この時の葉菜子のプチびっくりが可愛かったですね。

f:id:sran:20160325141542j:image

莉「一人にしてくれって。……私迷惑だったんですかね、今までも」

律「いるのよね、急に距離を詰められるとどうしていいかわかんなっちゃうタイプ。…大介さんってそういうとこあるかもね」

葉「かもね。……大丈夫?」

莉「どう頑張ればいいかわかんなくなっちゃいました」

葉「…あんま頑張り過ぎちゃうと余計逃げちゃうかもね」

莉「…なるほど」

 この力のないなるほど。
 私を受け入れて、私のことをわかってくれてたと思ってたのに、そうじゃなかったんだ。今までもずっと迷惑だったのかな。頑張りすぎると逃げるなんて、じゃあ、どうすればいいのかな。
 そんな、全く納得できていない、頭ん中がぐるぐるしている中での「なるほど」は、無理やりにでも「そういうこともあるみたいだよ」って自分に言い聞かせてるような弱々しさでした。
 上がったり下がったりの乱高下。

 この激しい高揚と落胆の両方を表現する「なるほど」、これはそのまま第8話でも繰り返されます。
 しかしこれまでよりもはるかに内実を伴ったものとして。

 葉菜子と和弥が新規カフェチェーンの候補地を視察している時、田中莉奈アシスタントとして帯同しています。
 和弥が「車を回してくる」と出て、二人きりになると、田中莉奈は大介との関係をこれからどう進めていいか葉菜子に相談します。

莉「恋の頑張り方も誰か教えてくれればいいんですけどねー。永里さん、私のことどう思ってるんでしょう」

葉「嫌いではないんじゃない?」

莉「ですよね。嫌いだったら二人で出かけたりしないですよね。うん…。ロードバイクのこともいろいろ教えてくれるし。でも自分からは誘ってくれないんですよね。近づきすぎてまた逃げられちゃったらって思うと怖いし」

葉「あんまり深く考えすぎない方がいいんじゃない?」

莉「え?」

葉「直球勝負っていうか、本気でちゃんと伝えたら、向こうも答えてくれるんじゃないかな」

莉「なるほど。ですよね! うん。なるほど」

 「嫌いだったら二人で出かけたりしない」というのは、第5話のツーリングの時の話を下敷きにしています。「近づきすぎてまた逃げられちゃったら怖いし」は第6話のビアバーでの拒絶。
 ここまで田中莉奈なりに学習してきて、大介との距離を縮めようとしていますが、若干考えすぎて袋小路に入ってしまっているもよう。
 そこへ葉菜子の「直球勝負」アドバイスですよ。

 葉菜子的には、自分がかつて「直球勝負」じゃないけれども、離婚きっかけを大介に打ち明けた経験があるわけです。
 その時、大介は、色々回り道はしたけれども、本当に真剣に、本気で考えてくれた。本気の答えをくれた。
 だから、田中莉奈にも、本気でちゃんと伝えたら、と促したわけですね。

f:id:sran:20160325141653j:image

 そのあとの田中莉奈の「なるほど」ダブルで来ます。これは相当彼女の心に響いたらしい。
 色々考えていたって仕方ない、私には大介さんと結婚したいという願いがあるんだから、それを真っ直ぐに伝えればいいんだ。大介さんは、きっと本気で応えてくれるはず! よし、やるわよ!

 の勢いで大介の待つビアバーへ3人、雁首そろえてゾロゾロとやってくるわけです。
 名シーンが目白押しのこのドラマの中でも、面白さという意味では白眉のこのプロポーズシーン。
 田中莉奈は、葉菜子のアドバイスのまんま、大介に直球勝負で結婚の申し込みをします。

莉「あの」

大「ん?」

莉「好きです。結婚してください!」

葉「ド直球きた!」

和「豪速球だな」

莉「一生、二人で生きていきたいんです。……言っちゃった…。言っちゃった!」

葉「大丈夫、聞いてた」

莉「返事、お待ちしてます」

f:id:sran:20160325143753j:image

f:id:sran:20160325143837j:image

 ここ、何回見ても必ずいろんな場所で吹き出してしまう面白いシーンなんですが、田中莉奈のひたむきなド直球の告白が炸裂した瑞々しい場面でもあります。
 「好きです、結婚してください、一生二人で生きていきたいんです」ひたすら思いをストレートに訴え、急に恥ずかしくなって逃げてしまう田中莉奈
 しかし大介の答えは、その思いに応えることはできない、でした。

 水族館デートではしゃぐ、あるいははしゃいで見せている田中莉奈家族連れで満席イルカショウの喧騒の中で、大介の答えを聞くことになります。

大「あのさ、こないだの返事なんだけどさ」

莉「え、あ、返事は急いでませんので」

大「うん、本当は俺も…、引き伸ばしたい。……引き伸ばしてこのままずるずるいって、それで莉奈さんが諦めるのを待つ方が、気が楽。……気が楽なんだけど、こんなに正直に向き合ってくれてるのに、ずるずるっちゅうのも悪いかなあなんて思って」

莉「あの…、結論まだ言ってないけど…、この流れって私、完全に振られるっぽいですよね」

大「うーん、まあ…、そう、かな」

莉「…一応、理由とか聞いてもいいですか」

大「……俺は莉奈さんのことをかわいいと思うし、いい子だなって思うんだけど、ずっと一緒にいる想像できない、一緒に暮らすとか、一緒に年をとって行くとか」

莉「結婚しなくてもいいって言ったら? 永里さん、結婚したくない人なんですよね。だったらただ付き合うだけでも、こうやって会えるだけでも」

大「でも結婚したいんだよね? …結婚して家族を作りたいって」

莉「私の夢です」

大「……それだったらそういうの簡単に譲るなよ。そういう大事なこと譲らなくてもいい人、きっといるから。そういう人ちゃんと探せ」

  二人無言で見つめ合う。イルカショーの最後挨拶と観客の拍手

莉「なるほど。わかりました。ちゃんと言ってもらえてスッキリしました」

 水族館の入り口に大介が姿を現した時から、田中莉奈にはこの結論はなんとなく見えていたんでしょう。だから、無理にはしゃいで見せたり、そのくせ返事は急いでない、って言ったりしたんでしょう。この時間を少しでも長く味わいたい、って。
 だから、大介が「本当は俺も引き伸ばしたい」って話しだしてからの田中莉奈の表情は、周りの浮かれる子供達の様子や、時折挿入される楽しそうなイルカショーのアトラクションと反対に、深い落胆と悲しみに包まれていきます。
 でも、この時の田中莉奈の表情が本当にいいんですよね。今までで一番キレイだな、って思いました。
 それでもと、諦め悪く「結婚しなくてもいいって言ったら?」って訴える表情は切実で、大介に取り縋らんばかり。
 大介の「でも結婚したいんだよね」に「私の夢です」と答える田中莉奈の髪は微風になぶられて、ゆるふわのロールが揺れています。

f:id:sran:20160325144236j:image

 この時きっと田中莉奈は思い出していたことでしょう。
 自分の悩みを打ち明けた時、大介は、空気なんて読まなくていいんじゃない?と、気持ちを和らげてくれた。
 しかし、それは「自分らしくあれ」「人に流されるな」ということでもあり、それはそれで厳しいアドバイスでもあったんです。

 「簡単に譲るなよ」って大介に言われて、田中莉奈は思い出し、そして納得します。
 彼女ルックスだけじゃなく、大介という人間その人を好きになった理由は、こうやって先入観なく「自分らしくあれ」って言ってくれるところであり、また、だからこそ、もう取りつく島はないんだってことに。
 「こういうことをきちんと言ってくれる大介さんが好き。でもこれは、別れの言葉なのに」

 今までで一番悲しく切ない「なるほど」の後、息を短く飲み、眉をキュッと寄せる。「わかりました」で一度鼻をすすり、いつものような明るい笑顔を向ける。
 「ちゃんと言ってもらえてスッキリしました」
 観客席から「いよっ!」と声をかけたくなるような田中莉奈の、というか水原希子さんの名演でしたね。

f:id:sran:20160325144307j:image

 ドラマの開始時には、田中莉奈の「なるほど」が、こんなところまでの大きな飛距離を持ち、こんなにも多彩で広がりのあるセリフになるとは予想していませんでした。
 ドラマには時折「決めゼリフ」のようなものが存在し、そのセリフが発せられるとヤンヤヤンヤと盛り上がる、みたいな乗りも少なくありません。もちろん、そういう楽しみ方が悪いわけでもありません。
 ですが、この「なるほど」は、そんな風に人工的に作られた言葉ではなく、あくまでも田中莉奈という女性が、自分の心情を多彩に表現するために使用する「口癖」であるところが凄いなと思うのです。
 「なるほど」の4文字に込められたその場面その場面の情報量の多彩さ、その言葉から伝わる田中莉奈人間性と成長。

 今回大介には振られてしまいましたが、いずれ彼女にも素敵なパートナーが現れ、これ以上ないほどに幸せな「なるほど」が聞ける日が訪れんことをマジ祈ってますからね(訪れそうな予感はあるんですけどねw)。


 

2、「仕返ししてやれ」の適切

 そんなこんなんで田中莉奈を振り、大勢の親子連れが楽しそうに過ごす午後の公園を抜けて、「好きな場所」に寝そべっている葉菜子を見つけた大介。「返事してきた」と声をかけます。
 その声で体を起こし、しばし大介を見上げたあと「断ったんだ」と返す葉菜子。

 全身の力が抜けたように、「疲れたーっ」と言ってそこにしゃがむ大介を見て、思わず突っ込みましたよ。
 なにその我が家に帰ってきたみたいなくつろぎ感。その土手はおたくらのリビングソファですか。

f:id:sran:20160325144308j:image

 あれだけぶつかって、言いたいこと言い合って、時にはビンタしたり、ひどく傷つくこと言ったりしながらも、徐々にお互いの距離感を縮めてきた大介と葉菜子。
 まだこの二人の関係性をぴったり表す言葉も見つからない段階ではあるけれど、こうやって土手に並んで座っている絵なんか見ると、友達やら恋人やら全部すっ飛ばして、すでに老夫婦みたいな超絶馴染み感を感じますよ。

 田中莉奈と付き合うのが「面倒臭い」とか、田中莉奈を振って帰ってきたので「疲れたーっ」とか、大介は一切飾らない言葉を、葉菜子になら言うことができる。
 葉菜子も、そういう大介を、大介らしいなって自然に受け入れることができる。
 一緒にいると不思議と落ち着く、へんてこな関係。

 ジム後のいつものカフェで、二人が語り合っていたこと。
 田中莉奈にちゃんと返事してやれという葉菜子、嫌いじゃないんだけどという大介。

大「なんだろうな、嫌いじゃないんだけどさ、ちょっと疲れる。一緒に田中さんと飯とか食ってると、色々気使ってくれて、気使われすぎて、こっちも気を使う」

葉「そういうことちゃんと言ってあげれば? 言えば変わると思う。素直な子だから」

大「俺がなんか言ったくらいで変わっちゃう子もね」

葉「はあ〜、贅沢だな。これだからこじらせは」

大「人のこと言えないだろ」

葉「……言えないか。でも、答えは出さないとね。ちゃんと向かって来てくれる人には、こっちもちゃんと向き合わないと」

 二人の関係がただ言いたいこと言い合うだけじゃない、お互いの共感を基準にするようになってきていることが伝わってくるシーンでした。
 「人のこと言えないだろ」に「言えないか」って返す葉菜子に、つい微笑を浮かべてしまう大介。お、葉菜子もこういうところ素直になったな、って感じ?

 葉菜子の「ちゃんと向かって来てくれる人には、こっちもちゃんと向き合わないと」ってのは、このドラマテーマの一つでもあり、この二人も今までずっとそうやって、いろいろな人と向き合おうとしてきた、もしくは、向き合わざるを得ない状況になってましたね。

f:id:sran:20160325143859j:image

 まずは、いきなり転がり込んできた親の傍若無人な振る舞いに向き合わなくちゃなりませんでした。
 大介はこれまで、いきなりできた弟という存在に向き合い、亡き妻の思いを受け継ごうとする陽三の覚悟に向き合い、部下の結婚式に向き合い、葉菜子の告白に向き合ってきました。
 一方葉菜子はといえば、ゆるふわ腰掛け女子社員田中莉奈に向き合い、クレーマーハナコがどう世間では受け入れられているかという現実に向き合い、ずっと避けてきた元夫に向き合い、自分離婚理由を人に打ち明けることに向き合ってきました。

 そして、第8話では、大介は田中莉奈の「結婚してください」に向き合わなくちゃならなかったし、葉菜子は「律子離婚理由を話す」ことに向き合わなくちゃならなくなったわけです。

 どちらも、今までの「向き合い」と比べてもなかなかに大きな課題でした。
 田中莉奈人生をかけてきてるわけだし、律子への告白はもう5年も黙ってきてしまっているわけだし。

 それでも、大介は、出来れば自然消滅して欲しいと勝手なことを願う優柔不断なカッコ悪さと、それを全部さらけ出して、さらに田中莉奈に「譲るなよ」ってアドバイスを送るかっこよさとのハイブリッドで、田中莉奈にきちんと向き合ってきました。
 次は葉菜子の番です。
 でも、俺はきちんと向き合ってきたからな、次は葉菜子の番だからな、なんてことは、大介は言いませんでした。

 第1話からもう一度振り返って見てくると、えっ、大介って最初こんなに尖ってた? 葉菜子ってこんなに攻撃的だった? ってちょっと認識を新たにします。
 最初こんなだったんだ、って。
 大介の、本当に「こじらせ」てる感じの自分勝手さ、表情ににじみ出る「俺はお前らとは違う」感、誰かれ構わず思ったことは口にする空気の読めなさ。
 あれ? 今と比べると随分キツイ人だったなあ、って改めて驚きますね。

 でも、その彼が、第8話くらいになると、もちろん元々の個人主義やこだわりの強さ、あいかわらずのこじらせ感は失ってないものの、むしろそういう点が個性となり、物事に動じない大きさとなり、世間一般のもの見方とは違う優しさとなっているんですね。
 少しずつ少しずつ変化して、成長して、第1話では「俺どうなんだろ、大人として」って言っていた大介が、大きくて優しい大人の男になりつつあるな、って感じさせられる。

 特に今回、田中莉奈を振って戻ってきてからの大介が葉菜子にかける言葉の大きさ、優しさ、これ以上ないほどの適切さには、本当に感心しました。
 って言うか、これからもうずっと涙無くしては見られないシーンの連続なんだけど、そ、その最初きっかけは大介の「仕返ししてやれ」って言葉からだったんだからね!

 大介は、第7話の病室で「和弥さんじゃダメなの?」「この子何にも言ってくれないの」と律子が繰り返していた様子を見て、ずっと心にそれが引っかかっていました。
 いつものように葉菜子とエレベーターで乗り合わせた時も、そのシーンを回想していましたしね。
 葉菜子は「赤の他人」である自分には離婚きっかけを打ち明けてくれたけれど、本当は、実の母親である律子にもきちんと話しておかなくちゃいけないんじゃないか、って思ってるんです。
 それは、既に母親を亡くしていて、母親「ありがとう」と言った記憶がない、という大介の苦い後悔からも来ているのかもしれません。

f:id:sran:20160325142221j:image

 律子さんはもうすぐ川上村に帰ってしまうと言っているらしい。一度帰ってしまったら、この後そう頻繁には会う機会なんて作れないだろう。
 本当に、話さないままでいいのか。この秘密を知ってるのが、俺だけでいいのか?
 大介は、そんな風に思っていたかもしれません。

 でも、それをそのままぶつけても、葉菜子が素直に聞くかどうか。
 これまでどんなに聞かれても頑として話さなかった葉菜子のことだから、通り一遍の働きかけでは動かないかもしれない。
 そこで大介は葉菜子に言いました。「少しは仕返ししてやれ」と。

葉「うちも、そろそろ帰るみたい」

大「そうか、帰るんだ。………このままでいいのか?」

葉「……」

大「余計なお世話だけど、言っちゃえば? ……言っちゃえば? 律子さんに」

葉「………でも今更ね」

大「いろいろあんだろ、この先だって。…一生子供作らないのか、とか。そういうとき律子さんに相談に乗ってもらうのが一番なんじゃない? 心配かけたくないとか言ってるけど、そっちもピアノ持ち込まれたり、随分好き勝手されたろ。少しは仕返ししてやれ」

葉「仕返し?」

 ヤバいヤバい文字起こしするだけで泣けてくる。

f:id:sran:20160325144310j:image

 葉菜子の気持ちや、お互いの距離を、本当に細心の注意で測りながら、でもそんなそぶりは見せずに、それとなく問いかけていく大介。
 「このままでいいのか?」までの長い沈黙
 暮れ泥んで黄金に輝き始める海を二人で眺めながら、ことさらに軽く、深刻さをかけらも感じさせないようにして繰り返す「言っちゃえば?」

 葉菜子だって、話さなくちゃいけない、ってわかってる。話さなきゃ話さなきゃで5年過ぎてしまった。
 カフェで大介に言っていたみたいに「ずるずると自然消滅に持ってく」ようにしてるのは葉菜子も同じだ。
 でも、なんでもっと早く言ってくれなかったの、って泣かれることも目に見えてる。
 どっちにしても、「今更」なんだ。

 大介は、一番葉菜子のことを理解して、これからも相談相手になってくれるのは律子さんだよ、と、子供のことだってずっと話題にしないように不自然に避け続けるわけにいかないだろ? と、葉菜子が「話したほうがいい理由」を並べ、その上で言います。

 随分好き勝手されたろ。少しは仕返ししてやれ。

 葉菜子は意外な言葉が出てきたことに驚き聞き返します。
 「仕返し?」

 カウンセリングの技術で、クライエントが一つの考えに固執してそこから抜けられないで苦しんでいるときに、そこに別の方向から光を当てて、他視点から見るよう促すことで、気持ちを切り替えられるようになる、というものがあります。
 例えば「Aさんがいつも私を見ている。ずっと怒ってるんです。罰しようとしているんです」という風に固執してしまっている人に、「Aさんは、あなたがまだ経験不足なので、何かあったらすぐサポートできるように様子を見ているんですよ」と視点を変えることで、恐怖心や脅迫心から逃れられるようになる、みたいに*1

 大介は、ずっと「話さなきゃ」「でも今更もう話せない」でぐるぐるしていた葉菜子に、「仕返し」という視点示唆することで、気持ちの切り替えを促したんです。
 そんなことを話したら、律子心配して悲しむだろう、もっと早く気付いてあげられれば、って自分を責めるだろう、5年間もなぜ話してくれなかった、って泣くだろう。

 それを恐れて、ずっと、5年間も話せなかった葉菜子に、大介は「それをやってやれよ」って言ったんです。
 「心配かけて、悲しませて、泣かせてやれ。それが仕返しだよ」って。
 それをこそ、やってやるんだよ。喜ぶよ、律子さん。

f:id:sran:20160325144311j:image

大「そう。心配かけたり迷惑かけたりしてやれ。その方が律子さん喜ぶんじゃない? ま、余計なお世話だけど」

 大介、カッコイイー! ですよ。
 こんなに優しく、適切に、話せない後悔と、話したらどうなるかわからない不安でいっぱいになっている人の背中を押してあげられるなんて。

 斯くして、葉菜子はようやく、5年間の思いを律子に話すことができるようになるのです。


 

3、「ありがとね」の万感

そう、第8話の中でも“心に響いた…”と番組サイト「ファンメッセージ」への書き込みが多かった、葉菜子さんが律子さんに離婚の原因などを告白するシーンを撮影しているところですね。

さてしてこのシーン、律子さんが夕食の支度をしているところに葉菜子さんが帰ってきまして、二人のやり取りが始まりますが、セリフと動きを確認するドライの1回目は、寝室でやり取りするというものだったんですよ。で、最初ドライ後、

「部屋の中でずっと話をしていると、何だか独り言みたいだし、ちょっと暗くなりすぎる感じがしますよね」

という上野さんの言葉もあり、第8話の演出を務める平野監督軌道修正しまして、寝室で上着を脱いだ葉菜子さんは、律子さんの後ろに立ち、葉菜子さんの告白が始まるという動きに変更されました。

日曜劇場『家族ノカタチ』|TBSテレビ

f:id:sran:20160325144312j:image

f:id:sran:20160325144313j:image

f:id:sran:20160325144314j:image

 そのシーン、名シーンの多い「家族ノカタチ」の中でもまた特筆すべき名シーンの一つとなったんですが、そこに至るまでにはこんないきさつがあったんですね。

 二人で寝室に入る。葉菜子はベッド、律子は床で。
 電気を消して暗い中、葉菜子が口を開く「お母さん、起きてる?」「ん? 何? 葉菜子」「あのね、私ね、もう子供はいいかなって思ってるんだ」
 こんな感じが想定されていたんでしょうか。まあ、これはこれでしみじみとしたいいシーンになったかもしれません。
 何と言っても上野樹里風吹ジュンですからね。寝室での動きが少ないシーンでも、二人の呼吸で美しく感動的にすることは可能だったと思います。

 でも、やっぱりこれはダイニングでなくちゃならなかったはず。実際、葉菜子として生きている上野さんには、違和感が残ったんでしょう。
 だって、寝室でしみじみと語ることが「仕返し」では、ちょっと陰鬱ですからね。
 内容が内容だけに、なるべく普段通りの流れの中でさりげなく話題が出た方が、葉菜子の気持ち的にも話がしやすいでしょう。
 葉菜子が帰宅してから、まるで世間話が始まるみたいなさりげなさで、いきなり本題中の本題を語り始める、このシーンは、あの始まりでなければ考えられません。

 ダイニングでなければいけない理由は他にもあります。
 シチューですよ。
 帰宅したらお母さんがシチューを作って待っててくれる、これはもうステレオタイプ家族団欒のイメージのもの。お父さんもお母さんも子供達も、みんなそろって食卓を囲む幸せの象徴みたいなメニュー。
 そこにぶつける子宮外妊娠離婚の話題、そのコントラスト
 いつも二人で食事をしている、日常のものテーブルに持ち込まれる非日常

f:id:sran:20160325144317j:image

 そしてもう一つの理由は、このテーブル律子と陽三が葉菜子の昔のアルバムを見ながら話し合うシーンがあったからです。
 その写真の中で、律子は泣いている葉菜子を抱いていました。陽三は「葉菜ちゃん泣いてんじゃん、かわいいなあ」って相好を崩しています。アルバムにつけられたコメントは「よく泣く元気な子」。
 だから、葉菜子がようやく泣くことができ、律子がそれを昔のように抱きしめるのは、このテーブルでなきゃダメなんですよ。
 むしろ、最初からそうじゃなかったんだ、ってことに驚きます。

f:id:sran:20160325144315j:image

f:id:sran:20160325144318j:image

 上野さんはいつでも、作品がより良くなるためにはどうすればいいだろう、と考えて現場に臨む人です。
 他の現場でも、上野さんのアドバイスで、撮影内容が改善されたことがいくつもあります*2
 でもそれって、改善されたものを見ると、どれも「最初からこの予定だったんでしょ?」ってくらい違和感がない。
 この「家族ノカタチ」でも、そんな風にスタッフと共に作り上げているという様子をうかがい知ることができて嬉しかったですね。

 さて、大介に背中を押された葉菜子。
 どんな風に切り出すのがいいか、どんな風に話せばいいか、葉菜子のことですから、いろいろ考えてきたことでしょう。
 でも、帰宅したら律子が美味しそうなシチューを作っていて、普通に「おかえり」と声をかけてくれて、その匂いに包まれたら、葉菜子は多分、商社で培ったプレゼン技術などはかなぐり捨てて、とにかく愚直に、淡々と、思うことを話していこうと考えたんじゃないかと思います。
 でも「結論を真っ先に」というプレゼンの鉄則は今回も発揮されてましたけどね。

f:id:sran:20160325142426j:image

 コートを脱いだ葉菜子、ちらりと律子の背中を一瞥し、髪を軽く整え、世間話を切り出すように、さりげなく話し始めます。

葉「お母さん」

律「ん?」

葉「私もう子供はいいかなって思ってるんだ」

律「ええ?」

葉「私の場合、体外受精とかもあるし、ま来年とか再来年とか、気分は変わるかもしれないけど、今はね」

律「葉菜子、何の話?」

葉「今まで、ずっと言ってこなかったんだけど、ちゃんと言った方がいいかなと思って」

 葉菜子、ダイニングテーブルに移動して、律子に向き合います。サラダを作ってた律子の手が止まります。

f:id:sran:20160325144319j:image

葉「実はね、和弥と私が新婚当時、ちょっと、思うところがあって、病院行ったの。そしたら、妊娠反応はプラスなのに、胎嚢が見えない。子宮外妊娠の可能性があるから注意して、って言われてたの。でも忙しかったからそのままにしてたら、そしたらある日急にお腹が痛くなって、病院に駆けつけたら緊急手術が必要だって言われて」

律「いやいや、聞いてないその、そんな話全然」

 律子がダイニングの椅子に座ります。葉菜子は、まるで既に解決済みの事案について「一応報告だけはしとくね」くらいの感じで、淡々と、落ち着いて、時に笑顔を交えて話しています。
 夜中だったので連絡しなかったこと、和弥に口止めしていたこと、病院では自然妊娠の可能性がほぼないと告げられたこと。

f:id:sran:20160325144320j:image

葉「それでも当時二人は、離婚なんて全然考えてなかった」

律「…和弥さん? 彼がなんか言ったの?」 

葉「和弥は、うん、……和弥も当時忙しかったから。ほら、日本とドイツの行ったり来たり、してたでしょ。…………まあそれからしばらくして和弥が向こうのお母さんに言ってくれたんだけど、向こうのお母さんが、孫の顔も見れないのかって、泣いちゃったらしいんだよね。…そしたら向こうのお母さんが気つかってくれて、いろいろこう、病院の資料とか集めてきてくれて、でも私当時まだこう、頭がついていけなくて。なんか……そこまでして、子供つくんなきゃいけないのかなとか、そこまでして子供欲しいのかなとか、………和弥と一緒にいるのも辛くなって、離婚してください、って、頼んだ」

 淡々と語っているようでも、時折どうしても感情が滲みます。
 「孫の顔も見れないのかって」というところとか、「そこまでして子供欲しいのかなとか」というところとか、詳しい話はそれ以上はないけれども、その時にどれだけ葉菜子が傷つき、どれだけ悲しみや後悔にさいなまれたか、ということが、言葉の微細な震えや眼差しの色が変わることでわかります。
 それが、律子にわからないわけがありません。
 どんなに辛かっただろう、どんなに寂しかっただろう、誰にも言うことができずに、この子は5年間もずっとこんな思いを。今こうやって言葉にできていることは、ほんの氷山の一角。海の中には、その何倍もの思いが深く沈んでいることだろう。

f:id:sran:20160325142932j:image

f:id:sran:20160325143211j:image

 律子は、顔を背けて涙を流します。大粒の涙を、ぽろぽろ、ぽろぽろ。
 深いため息を続けてつきます。いきなりの告白、葉菜子ももちろん深く傷ついてきたけれども、今この瞬間から、律子も5年間遡及して、葉菜子の傷を追体験しているのです。

f:id:sran:20160325144321j:image

f:id:sran:20160325144322j:image

 そりゃあ聞きますよね、いくらなんだって母親なんですから律子は。
 「はああ…、葉菜子、……なんで話してくんなかったの?」って。
 そして葉菜子は答えますよね。
 「お母さんに、泣かれるの嫌だから」って。

 それは嘘じゃない。でも、それが一番の理由じゃないでしょ?
 律子は言います。

律「泣くのは私じゃないでしょ」

葉「泣いた顔見られるのもっとやだから。…もう大人だもん!」

 ああああもうヤバいヤバいヤバいちょっと待って、タオル持ってくる。

f:id:sran:20160325143511j:image


 

−−−−−−そのままお待ちください−−−−−−


 

 お待たせしました。ふう。

 律子は、葉菜子はきっと泣けてないだろう、と思ったんですね。葉菜子のことだから、こんな風に淡々と、一応報告、みたいに喋っているけど。
 どんなに深く傷ついても、どんなに悲しみや後悔にさいなまれても、思い切り涙を流すこともせず、母親にすらそれを打ち明けることもなく、ここまで張り詰めて生きてきたんだろう、と。そして今でも、自分を、母親を、傷つけないように、もう終わったんだよ、って他人事みたいに話してる、そのいじらしさ。

 「泣いていいんだよ」って言う律子
 「お母さんに泣き顔見られたくない」って言う葉菜子。

 なぜって、もう大人だから。

 時にはクレーマーハナコになって、自分にも他人にも厳しく、言葉や態度で武装して、その若さ総合商社プロジェクトリーダーを任せられる、そんな葉菜子の鎧の奥には、やっぱり傷つきやすい少女がいて、その少女は、私は大人だもん、お母さんに泣き顔見せたくないんだもん、って涙を流している。
 ベッドに仰向けに寝そべり、無邪気にお人形で遊ぶあの葉菜子が、彼女の中にいる少女の姿だったんでしょうね。
 お母さんの律子は、そんな少女の葉菜子、アルバムに残っている「よく泣く元気な子」に声をかけたんです。
 いいんだよ、思い切り泣いても。大人だから、泣いちゃいけないって、わけじゃない。

 葉菜子は、以前大介にも同様の告白をしました。むしろ、赤の他人だからいいんじゃない? と言って。
 でもそのことで、大介は自分なりに告白を受け止めるために、ドラマ1話分を使って、悩み苦しみました。どうやって声をかけてやればいいのか、どうやって今まで通りに関わればいいのか。
 知らなかったとはいえ、以前葉菜子にかけてしまった不用意な言葉、あんなこと言わなければよかった、って後悔にさいなまれて。

 でも、今回の告白律子が受けるショック、律子が受ける傷は、その比じゃありません。

 まず、赤の他人じゃありません、母親です。
 いくら葉菜子が言わなかったからといって、和弥に口止めしていたからといって、娘が子宮外妊娠の手術で妊娠できない体になっていたこと、それが原因で和弥と別れるきっかけになっていたこと、それから5年間誰にもそれを相談せず、自分の中だけで全てを処理していたこと、を、知らなかったなんて、と自らを責めるでしょう。
 もちろん、自分の娘が感じた痛みや悲しみや苦しみは、自分のことのように感じるでしょうし、この5年間葉菜子が味わってきた辛い思いを、律子は今この時に凝縮して同じように味わうでしょう。
 また、知らなかったとはいえ、大介と同じように、和弥との再婚話を勝手にサポートしたり、離婚の理由をしつこく聞いたりしてきました。
 そのことで葉菜子はどんなに辛かっただろう、と、それも律子を苛むでしょう。

 葉菜子が恐れていたのは、そういうことです。
 自分が話すことで、律子はこんな風に深く傷つくだろう。でも、自分のことでお母さんに傷ついてほしくないんだ。
 それで、なかなか話すことができずに、5年も経っちゃったんだから。

 しかし、律子は、大介が受け入れるのに何日もかかったことを、ほんの一瞬で全て受け入れてくれました。
 律子が傷つくことで葉菜子がもっと傷つく、それがわかったから、律子は、過ぎたことで自分も傷つくのはやめよう、と一瞬で判断したんです。
 律子は、一言も、悲しいとか辛いとか言いません。
 辛かったね、苦しかったね、とも言いません。
 ただ、泣いていいんだよ、とだけ。
 だって、私は。

f:id:sran:20160325143933j:image

律「バカ。バカ。バカだねえ、葉菜子の泣き顔なんか、生まれた時から見てるよう」

葉「……ありがとね」

 どんなにあんたが成長して立派になっても、私はあんたのお母さんだし、あんたは私の娘なんだからね。
 葉菜子をきつく抱きしめて、体をさすりながら涙を流す律子は、あのアルバムの中の幼い葉菜子をあやしいるかのよう。
 そして葉菜子は「ごめんね」じゃなくて、「ありがとね」と言います。

f:id:sran:20160325144006j:image

 なぜ「ごめんね」ではなく、「ありがとね」だったのでしょうか?

 律子は、葉菜子が恐れていたような受け止め方をしませんでした。
 一言も責めなかった。葉菜子のことも、律子自身のことも。
 何より、このことで、傷つかないでくれたんです。

 葉菜子が一番恐れていたことは、律子を深く傷つけてしまうこと。
 でも、律子は、泣いてもいいと言ってくれた。
 子供のようにぼろぼろ泣く自分をそのまま受け止めてくれた。
 このことで、傷つかないでいてくれた。
 葉菜子が「話して良かった」って思えるように、してくれた。

f:id:sran:20160325144053j:image

 ごめんね、じゃないですよね。
 葉菜子は、一つも、悪いことなんてしてないんですから。
 葉菜子が「一つも悪いことなんてしてない」って思えるように、律子がまず「お母さんは大丈夫」って示してくれたんですから。

 だから「ありがとね」だったんです。
 こまごまとしたことを言わない、ただ全てを受け入れてくれてくれたことに万感の感謝を込めて。

 ドラマ開始から、いろいろな場面で、ずっと影を落とし、ずっと葉菜子の中でも律子の中でも通奏低音のように響いていたこテーマが、葉菜子の万感の感謝で結びあげることができたのは本当に素晴らしかったです。
 こんな名シーンにしてくれたスタッフキャストの皆さんにはこちらも万感の感謝を送りたい気持ちですよ。
 あと、適切この上ない言葉で葉菜子の背中を押してくれた大介にもね。

 この後、葉菜子から大介に送られた短いメール、そして、それに返された大介の、そっけないメール
 この短いやり取りに込められた、それぞれの万感の思い。いつの間にメアド交換してたんだ?って思うけれども、これまでに一度も、この二人だけがケータイメールでのやり取りをしてこなかったのは、このシーンのためだったんだな、と思うと、本当に心憎いですよ脚本スタッフ

葉(話して良かった)

大(そっか、良かった)

f:id:sran:20160325143624j:image

 7文字×7文字という語呂の良さも相まって、ドラマベストメール大賞があったとしたら、まちがいなく最優秀メール賞に輝くに違いない魂の交流でしたね。

 しかし次回、今度は大介にとって、真剣に陽三と向き合う時が近づいてきているようです。


 

4、「もうちょっと」の切実

 陽三が大介の家へ転がり込んできた理由はむしろこっちでしたね。
 もうちょっとお前の顔を見ていたい。

 陽三は、亡き妻が残してくれた「死に方」を見習って、自分も死のうとしているんでしょうね。妻の手紙で、陽三が生まれ変われたように、陽三も、大介に、必死に何かを残していきたい、そうやってきちんと死ぬ姿を見せたい、って願ってるんじゃないでしょうか。

 陽三が妻の仏壇を見る時、いつも他の時には見せないような優しく悲しく、そしてどこか凄絶な目をしていることが、ずっと気になってはいたんですけどね。

f:id:sran:20160325144327j:image

f:id:sran:20160325144326j:image


 

★今回の「愛のダメ出し

 僭越ながら、一言。

 とにかくあと2回なんて短い、短すぎるよ、ってことですが、きっと続編をやってくれるだろう、という希望的観測で、仕方ない、諦めます。周りの変な横やりに負けずに、最後までやりきってくださいねマジで

 あとはまあ毎度毎度のことなんだけど、HPに要望も出したりしてるんだけど、ひょっとしたら広報までいろんな声は届いていないのかもしれませんね。
 直接メンション飛ばすと少しは反応してくれるようなので、最終2話、視聴者部も後悔のないように、しっかり向き合っていかなくちゃな、って思います。

*1:咄嗟に考えたのであんまりいい例じゃなかったw

*2:「アリスの棘」では、明日美が健康に気遣った定食を食べるのは違和感がある、ということで丼物になったり、登壇の仕方が不自然だからと歩く方向を変えたり、エキさんから多くのエピソードを教えていただきました。そして「ウロボロス」では、プロデューサー上野さんが話し合って、ラストシーンを変更したのは有名な話です。

2016年03月06日

[][][]「家族ノカタチ」#07レビュー 〜信じる責任、信じられる覚悟


 

f:id:sran:20160307235624j:image

 このドラマは、はっきりそうとは言わなくても、毎回ふんわりとしたキーワードが設定されています。
 例えば、入江結婚式という大イベントがあった第5話では「他人」というキーワードが頻出し、それが恵と浩太の「本当の親子」という言葉と響き合って、夫婦という横のつながり、親子という縦のつながりの両方を鮮明に浮かび上がらせていました。
 前回の第6話では、これとはっきりした言葉は登場しませんでしたけど、ずっとその中に「人との距離」というテーマが横たわっていて、その微妙な距離を試行錯誤しながら探って行く大介と葉菜子の姿がデリケートに描かれていましたね。今思い出しただけで萌えまくりです。

 そして今回のキーワードは「信じる」という言葉でした。
 ドラマも終盤に向かい、少しずついろんなエピが収束していきます。その中で、「信じる」という言葉は、前回の「人との距離」という言葉とも相まって、ドラマテーマにグイグイ肉薄しているな、って感じました。

 「信じる」って、わりと誰もが使うけれど、決して、気軽に発することができる言葉ではありません。
 無責任に「信じる」って言ったら言いっぱなしというわけにはいかない。
 ときにその言葉は人を縛る鎖にもなるし、それでなんでも通せる免罪符にもなりがち。信じると言ったからには、最後までしっかり見届けなくてはならないし、信じられたからにはその思いになんらかの形で答えようとしなくてはならない。
 そう、「信じる」という言葉には、「信じると言った側の責任」と「人から信じられた側の覚悟」と、その両方が生じるのです。

1、陽三と恵と大介の場合

 信じるって、怖いことです。
 信じたからには、その結果がどうであれ「信じてたのに」って泣き言をいうわけにはいかない。
 だから、陽三も、恵のことになると、大介に「こういう時だけ昔に戻ってだんまりか」って言われてしまうほどにナーバスになる。
 陽三だってやっぱり不安ですからね。恵が行方不明になった理由もまだわからないわけだし。

 恵に拉致されて遊園地で無理やり遊ばされた後、浩太は遅くに帰ってきました。

葉「お母さん、なんだって?」

浩「もう、守れないかもって。約束

大「約束?」

陽「もういいじゃねえかよ帰ってきたんだからよ」

大「約束ってなんのことだ」

陽「うるせえうるせえうるせえ」

f:id:sran:20160307234124j:image

 ドラマ内では初めて見せる、意外なほどの陽三の頑固さ。
 それはそうですよね。約束を守れないかも、ってのは、陽三の信頼に応えられないかも、ってことですから。陽三だって苛立ちを隠せない。
 陽三が痛感してるのは、自分が恵を「信じたことの責任」なんです。自分の信頼の大きさが、恵を追い詰めてしまったのかも、っていう不安

 場末のスナックで恵に求婚した陽三は言いました。

恵「私、自分に自身が持てない。普通の人が普通に頑張れること私できなくて」

陽「でも俺は信じてるよ。恵ちゃんが自分のこと信じられない分、俺が全部信じてやるよ。俺はそんな、恵ちゃんに惚れたの。一緒にいてえの。結婚しよう! ……ごめんなあ、こんなじいちゃんで」

f:id:sran:20160307234307j:image

 陽三が「俺が全部信じてやるよ」って言って恵を信じたのは、その場限りの慰めなんかじゃなくて、恵のこれからの人生に全責任を負う、って宣言です。
 場末のスナックで黒い涙を流しながら頷く恵はその言葉が本当に嬉しかったでしょう。
 でも、その「信頼」に応えるためには、恵の方にもそれ相応の「覚悟」が必要になります。

 「普通の人が普通に頑張れること私できなくて」って言ってる恵が、陽三の信頼(それが「約束」になる)に応え、再び看護学校入学して、浩太と陽三と三人で暮らすためには、今までの生活をガラッと変えなければならないし、それ相応の努力をしなければならない。
 しかも、試験に落ち続ける恵は、その度に少しずつ覚悟が薄れていくのを感じていたでしょう。
 そういうところがこの人のまだまだダメなところでもあるんだよな、って思うんだけど、その苦しさからついつい浩太へ残酷二者択一(「私と暮らす? 陽ちゃんたちと暮らす?」)を突きつけちゃったり、浩太に甘えちゃったりしてます。
 「信じられる側」も辛いんですよ。

 まあ、ことここに至ってようやく、ああ、そういうことね、ってわかりましたよね、恵の謎の行動が。
 前々回のエントリ自分

 謎の「約束」の存在もあるし、恵が浩太に、陽三と暮らすか、自分と暮らすかという二者択一を迫ったということは、三人で暮らすという選択肢ははじめから無いということ。

2016-02-21 - SAY NO MORE!

 って書きましたが、要するに恵は「陽三の信頼に応えられないかもしれないから、申し訳なくて陽三と一緒に暮らすなんて言えない」って思ってた、ってことだったんですね。まどろっこしいわ!
 でも確かに、こういう、自分に全く自信が持てない、自分の今までの生活でうまくいったことがない人って、こんな風に勝手自己完結して、目の前に見えてきた可能性を勝手に諦めてしまう傾向があるんですよね*1
 今までの生活から抜け出ることへの恐怖というか、ダメダメでもそれなりに安定していた生活(端から見たら全然安定してないんだけど)から外へ踏み出すのが怖いんです。
 そのあたり、恵というキャラリアルだなあ、って思います。

恵「恥ずかしく情けなくて、陽ちゃんにもなんて言っていいかわからなくて、それで、逃げた」

恵「一個だけね、今週末に、試験残ってる。だけど、それに落ちたら今年の募集は、ゼロ。無理だよね、今までいろんなことから逃げてばっかいたのに、急に頑張ったって。もちろん、学費の200万には手つけてない。仕事もね、見つけたの。建設会社の社長さんと知り合って、ダメ元で頼んでみたら、その人のお母さんも看護師で、母一人で育ててくれたらしくって。でも、試験に落ちたら、それもどうなるか。ダメなんだよね。陽ちゃんたちの期待に答えたいのに、うまくいかない」

陽「恵ちゃん…」

恵「ここまでダメだと、私じゃ無理なのかなって、努力しても無駄だって

 もうダメ。陽三の信頼に応えられない。私じゃ無理。だから、また元のように、浩太と二人のあの生活に戻るしかない。せっかく信じてくれた、陽三に会わせる顔がない。
 そうやって自分を追い詰め、身動きが取れなくなっている恵。
 でもその恵を救ったのは浩太。そして浩太の中を巡り巡って恵に届いた、元々は陽三の言葉でした。

f:id:sran:20160307235611j:image

浩「無駄なんて、ないよ。…ね」

浩「俺、待ってるから。陽三さんと一緒に」

浩「俺も、学校行って、友達できるように、頑張る」

 友達無駄といい、花は全部枯れると言っていた浩太の変化。
 その変化をもたらしたのは陽三の言葉と、律子と一緒に弾いた思い出の曲「元気になる歌」。
 その浩太の変化が、恵の覚悟に再び陽を灯す。しっとりとした感動が広がるシーンでした。

 浩太と恵が歌っていた「元気が出る曲」は、中島みゆきさんの「ファイト!」でしたね。
 あの曲、今回扱われたサビの部分だけだと、心地良くつい一緒に口ずさんでしまうんですが、曲全体を聴くとその残酷リリックちょっと驚かされます。北マングスさんのブログで全歌詞を読むことができます(7かまし目 中島みゆきファイト!家族ノカタチ |北マングスのラフスケッチ帳)。

D

 ドラマの中では触れられませんでしたが、この曲を恵と浩太親子のテーマソングにしたのは、サビの心地良さだけではなく、この歌全体が表現している「世界」と、二人が体験してきた世界が地続きだって示したい思いがあるからでしょう。
 大介は恵の境遇について「そんな不幸話どうでもいい」って切り捨ててましたが(それはおそらく、センシティブな大介にとってそういう話が必要以上に食い込んでしまうことを自分で知っているから、でもありますが)、二人が歩んできた道のりは、この歌に歌われているような凄絶なものだったんだ、ということを語っているんですね。
 そんなシーン(男からのDVやら逃亡やら周りからの誹謗中傷やら)をこのドラマでそのまま描くと全体のバランスを欠くし、今までの雰囲気に繋がらないからあえて見せはしないけれど、この二人の背景にはそんな世界があるんだよ、それはわかってやってね、という作り手からのヴァイブスを感じます。

f:id:sran:20160307235612j:image

 だからこその陽三の「誰かよ、誰かちょっと力貸してやればよ、恵ちゃんも浩太もよ、もう少し楽に生きてこられたんだよ」なんですよね。
 その生き様を見てきた陽三でなければ言えない重い言葉

 でも自分としては、それだけに残念でした。陽三×恵パートちょっと描き方が性急だったなって感じられたんです。
 今までそこまでとは知らなかったけど、今回、西田さんの負傷がかなり重くて、その影響がもろに出てるな、って初めて思いました。
 今回の陽三×恵パート、いいシーンが連続しています。むしろ台詞オンパレード。だけど、やっぱりいろいろ大変だったんだな、って印象は否めません。状況をほとんど言葉だけで説明していますから。
 一人一人の役者ポテンシャルが高いので*2平板にはなっていないけど、これまでのこのドラマだったら、もっといろいろな動きがあって、もっとリアルに「もの」や「こと」を積み重ねて表現したと思うんですよ。
 他のシーンがいつものように素晴らしいだけに、そこは残念だったな、って正直な感想です。

 いや、disってるわけじゃないです。
 西田さんの負傷で、陽三の動きがかなり制限されるから、最初脚本を変更せざるをえなくなって、言葉による説明が増えてしまったんだな、ってことはわかるし、むしろその中でここまで仕上げてきたのはすごいな、って思ってます。
 こんなに動けなくなってしまって、痩せてしまって、あまりにもあからさまなフラグが立っちゃってるのに、大介はともかく、律子や葉菜子がその異常に気づかないなんてありえない。絶対「陽三さんあれただの風邪じゃないよ、急に痩せちゃって」「ちゃんと病院で診てもらったほうがいいよね」って話してるはず。
 マグロをさばいてカラオケがなってた頃のように元気に動きながらも次第に病魔に蝕まれてる、ってほうが絶対にリアル。びっくりするほど元気なくなっちゃった陽三の状況を置いといて、普通に演技するというのも周囲は辛いだろうな、って思う。

 そういう時こそ、どうにかやりくりして、ある程度のクオリティを保持しながら作品を作っていくんだ、っていうチーム力が問われます。
 このドラマドラマ本編と関係のないところで、SMAP解散騒動とか、今回は西田さんの負傷とか、いろいろとトラブルが続くな、って思うんだけど、でもその度にチームの結束力や、現場での臨機応変な対応力が感じられる。
 トラブルがあればあるほど結束が堅くなるっていうか、一丸となって進む感じがより強くなっていきますね。

 心配ニュースが相次いだ。俳優西田敏行(68)が自宅でベッドから転落し、頸椎を亜脱臼した。

 「入院はせず、車いす撮影現場に入っていますよ」と報告するのはテレビ誌ライターだ。設定も急きょ変更しているという。

 「せりふはすべて座っての場面に変更です。どうしても立ちでないと不自然場合は、壁に寄りかかってしゃべる。車いすで移動して、周囲に助けられながら立ち上がって壁に寄りかかる。共演者のSMAPの香取慎吾上野樹里らは、NGを出さないように集中しているそうです」

【芸能ニュース舞台裏】西田敏行、頸椎を亜脱臼 永六輔は腰を手術…車いすで転倒も - 芸能 - ZAKZAK

 そんな状況であっても、ドラマからは必要以上の緊張感や焦燥感を感じません。
 基本的に暖かく、穏やかで、でも突き刺さる言葉や深い思いが満載の大人のドラマ、というクオリティを保持し続けています。そのためのスタッフキャスト努力は大変なものだと思いますけど、それを表には出さない、そういう制作態度そのものもまた、大人だな、って思わされますね。

 さて、まあそんな性急さもあったので、陽三×恵パートトントントーンと順調に進み、綺麗にまとまりかけましたけど、そこに水を差したのが大介です。
 というか、この大介の冷静な横やりが入らなければ、自分も「西田さんの負傷というハンデがあったからこのシーン脚本的に説明過多になっちゃうのは仕方ないとはいえ、あんまりトントン拍子過ぎやしませんか?」ってクレーマースランになりかけたでしょうね。

f:id:sran:20160307235613j:image

f:id:sran:20160307235614j:image

 みんなが「よかったねよかったね、恵さんがんばれ浩太がんばれ」って空気になってる時、「あの一つ確認していいですか」って水を差す大介。大介がいなければ、この一連の流れ、もっと薄っぺらになっていたことでしょう。
 大介は、恵が「陽三が責任もって信ずるに足る」人間かどうか確かめようとしているんです。そりゃそうです、そうでなきゃいけません、それが大介。
 恵が受験しようという専門学校が本当にあるのか、受験日時や内容が正しいのか。そして、本当に受験当日その場所に恵は来ているのか。

 つまりこれは、大介が恵を「信じる」上での筋の通し方なんですね。恵に信頼に足るエビデンスを求めるというか。
 どうやら結婚詐欺じゃなかったみたいだし、色々な話のつじつまは合うし、浩太はいい子だし、何より親父がここまで真剣に信じているわけだし、それなら俺も信じるにやぶさかじゃないが、信じるからには、いろいろ確かめさせてもらうよ、と。

 大介は知ってるんです。
 人を信じるからには、信じた責任が生ずるんだということ。信じられた人間には、それなりの覚悟必要なんだってこと。
 だから、しつこく受験先の情報を聞き、陽三の真意を確かめ、受験会場までロードバイクで乗り付ける。
 大介が人を「信じる」までには、それだけの条件をクリアしなくてはいけないんですね。

 そんな大介が、信じているし、信じられていることを受け入れている相手、つまり、信じる責任も、信じられる覚悟も持っている相手、それが他でもない葉菜子です。


 

2、大介と葉菜子の場合

 今回は陽三×恵パートがかなり尺を取ったので、大介×葉菜子パートが少ないじゃないかあ!ってTLが若干荒れ模様でしたね。
 気持ちはわかりますよ。あの二人が一緒に出てきた時の空気感、演技のアンサンブル、本当に最高ですもんね。見てるだけで頬が緩んでニヨニヨしてしまう。

 なのに今回は、最初のマンション外の舗道シーン、エレベーター前のちょっとしたやり取り、そして最後の病室での律子プレッシャーシーンだけでしたからね。総時間数にして4分。そりゃ「少ないよ!」ってブーイングが起こるのも無理からぬこと。
 確かに自分も「今回は少なめだなあ」って思いましたが、どうせ最終2話はこの二人が中心に描かれるはずだし、大きくジャンプする前には一回屈まないとね、って割と鷹揚に見ることができました。

 最初の舗道のシーン、短いけど、大介が葉菜子のことを「信じてる」ことが伝わるやり取りがありました。
 目の前で浩太を恵に連れ去られてしまった大介。呆然としていると、葉菜子から声がかかります。

葉「え、いいの? 行かせちゃって」

大「良くないけど、こういう場合どうすんの」

葉「知らないけど、警察?」

大「警察って。…一応母親だし」

葉「とりあえず、陽三さん?」

大「そうだ、親父。親父に知らせてくる」

葉「あたし行くから会社。何かあったら知らせて、いい?」

大「うん」

 目の前で大変なことが起こった、その時に「どうしよう」って自然に葉菜子に頼っている大介。大介らしからぬうろたえぶりが伝わってきます。
 葉菜子の言葉を聞いて、陽三に真相を確かめに行く大介、そこへ葉菜子の「何かあったら知らせて、いい?」がかぶさります。大介の「うん」って返事が可愛いですね。
 前回、美和に相談に行き、素直に話を聞いていた時のように、大介は葉菜子の指示に従っています。敷居の低い、フランクな関係
 1分足らずだけど、二人の関係性がよくわかる良シーンでした。

f:id:sran:20160307235615j:image

 でも自分的には、今回のベストシーンは、実は大介と葉菜子が一緒じゃないシーンの中にあったんです。もちろん、大介×葉菜子的なベストシーンですよ。

 順繰りに行きますね。
 まず、豆の積み間違いが発覚して、その調査と処理に追われる葉菜子と田中莉奈
 もしも日本の倉庫に問題がなければ、現地(インドネシア)に飛ばなければならない葉菜子、しかし、その出張が手間取ったら、日本でのプレゼンに間に合わない。
 葉菜子がに間に合わなければ、プレゼンアシスタント田中莉奈がやることになる。

 マンションの前でタクシーを拾った葉菜子、田中莉奈に次々と指示を出します。が、それを聞く田中莉奈不安そうな顔。

葉「私は今夜中に、横浜の倉庫チェックして、朝に神戸倉庫に行くから」

莉「どちらも問題なければ?」

葉「そのまま現地に飛ぶ」

莉「えっ、……でも戻ってこれますか、明後日プレゼンまでに」

葉「う〜ん、インドネシアまで約8時間でしょ、工場チェックに3〜4時間だから、プレゼンにはギリギリかな」

莉「えっ」

葉「とにかく、明日連絡するから、じゃね、運転手さんお願いします」

f:id:sran:20160307234434j:image

 子供のように不安げに、唇をとんがらせて葉菜子の言葉を聞く田中莉奈
 タクシーが発車すると、弱々しく手を振りながら、ずっと葉菜子の方を見つめています。まるで、捨てられる子犬みたいに。心細さでいっぱいになって。
 対する葉菜子は、屈託のない笑顔で大きく手を振っています。これから大変なのは葉菜子の方なのですが、そんなことはおくびにも出さずに。

 ここでのコントラストがいいですよね。
 葉菜子のこの落ち着きようと、まあ何かが起こったら起こったで対処するまでなのよ、という肝の据わり方。今までに色々なトラブルを切り抜けてきた経験と、キャリアウーマンとしてのスキルの高さがわかります。

 一方、不安と心細さでいっぱいの田中莉奈
 まだ就職して一年足らず、経験スキルも、仕事に向かう覚悟も何もかもが未熟な田中莉奈ですが、積荷の確認を怠って、葉菜子に指導されて、やめますと泣いていたあの田中莉奈とは違っています。それなりに仕事重要さがわかってきているからこそ感じている不安と心細さ。
 あの表情は彼女なりのささやかな成長を物語るものでもあるんですね。

 神戸倉庫でも問題が発見できず、結局現地に飛ぶことになった葉菜子、田中莉奈に連絡します。
 いよいよ、田中莉奈が代わりにプレゼンする可能性が高まってきました。

葉「あ、和弥、今から空港に向かうからあんまり時間ないんだけど、ごめん、明日プレゼンもし時間なかったら、田中さんとお願い」

(略)

莉「あのう…、帰ってきてくださいね。私じゃ葉菜子さんの代わり無理なんで」

葉「何言ってんの。私のアシスタントでしょ?」

莉「そうですけど、でも冷静に考えて私じゃ」

葉「大丈夫、コーヒーの魅力を語らせたら和弥の右に出る人はいない。あなたは、私の作った事業企画書を読み上げてくれる、だけでいいから」

莉「でも…」

葉「やればできる。…っていうか、無理でもやんなきゃいけない時が人にはあんの。大丈夫。信じてるから」

莉「………わかりました」

葉「うん。じゃ」

 ああもう、なんて素敵なんですか葉菜子さん、あなたの元で自分も働かせてくださいっ!
 葉菜子もまた、田中莉奈指導することで、上司として大きく成長していることがわかりますよね。
 この田中莉奈への指示の言葉、あまりに的確で、厳しくて、優しくて、聞いててグッときてしまいますよ。

f:id:sran:20160307234614j:image

 葉菜子は、田中莉奈を信じています。というか「信じる責任」を引き受けることを決めています。
 もしもこのプレゼンが、田中莉奈不手際でまずい結果をもたらしたなら、その責任自分がとる、って決めてるんですよね。
 もちろんこの信頼には、そばに和弥がいるから、田中部長や安藤くんもいるから、ってのもあります。でも葉菜子は田中莉奈本人を信じてるんですよ。
 葉菜子の指示が素晴らしいのは、大丈夫、信じてる、っていう激励の言葉とともにきちんと「無理でもやんなきゃいけない時が人にはあんの」と、もう腹を決めなさい、と覚悟を促す言葉を入れていることです。
 優しさと、厳しさ。

 それを聞いて、田中莉奈の表情も変わります。
 「大丈夫、信じてるから」その言葉で、軽く息を飲み、眼差しが変わります。心配げに尖っていた唇も、キュッと結ばれます。しばらく沈黙したのちの「わかりました」にはもう甘えた色合いはありません。
 それを聞いた葉菜子の笑顔。よし、この件終了、とばかりに「じゃっ」と切り上げる潔さ。

 こういうちょっとした会話や指示の仕方、そこから葉菜子が本当に仕事のできる、スキルフルな商社ウーマンということがひしひしと伝わってくるのがすごいですよね。
 バリバリ仕事している場面ではなく、こんな片々のちょっとした仕草の中から、その人の仕事に対する姿勢ポテンシャルまでにじませてしまう。
 一度も勤め人をしたことがない上野さんが、こんなにも商社ウーマンの身体性を身につけているということが驚きだし、やっぱりすげえ、上野樹里、ですよ。

 さて、材料は揃いました。
 二人一緒じゃないのに、二人の関係性に萌え萌えになる名シーンは、その田中莉奈が大介を誘って、ビアバーでの一件を詫びる場面から始まります。

f:id:sran:20160307235616j:image

 田中莉奈は、大介をカフェに誘い、そこでまずはお気に入りのビアバーに押しかけてしまった件を詫びます。
 しかし本題はそこではありません。
 田中莉奈は、自分プレゼンをすることになるかもしれないことへの不安を、大介の「大丈夫」で解消してほしいと願ってきているんです。
 しかし、田中莉奈の健気な思いとは裏腹に、実はここで、大介の葉菜子への評価がいろいろと明らかになってしまうんですね。

大「葉菜子、さんはまだ出張?」 

莉「あ、インドネシアに行ったんです。向こうの工場で、積み間違いの原因がわかって、今から戻るって連絡がさっき」

大「インドネシア、そんなとこまで」

 聞かれてもいないのにいきなり葉菜子の話w。
 葉菜子の業務の一端がわかって、大介的にも「いきなりインドネシアに飛ぶような仕事なんだ」ってある種の感慨があります。
 エレベーターホールの前で出会った時には、出張とは聞いていたけど、行き先までは聞かなかったからね。

大「それで俺に何かお願いが、あるって?」

莉「葉菜子さんって、いい人じゃないですか」

大「そう、かな」 

莉「あんな風に厳しく言ってくれる人いないんですよ、みんなあたしのこと諦めちゃうから」

大「ああ」

f:id:sran:20160307234752j:image

 この辺の大介の表情、微妙な受け答え、たまりません。
 葉菜子を「いい人」と評価された時、大介の中では「いい人? 受け取りようによってはいい人、なのかな、でも、そんな、世間一般で言う『いい人』みたいな、単純な人間じゃないけどね。人をひっぱたくわ、遠慮はないわ」みたいな、複雑な思いがぐるぐるしてるのがわかります。
 そして「あんな風に厳しく言ってくれる人いない」に「ああ」と納得したような返事。絶対心の中で「クレーマーハナコだからね。そりゃ厳しいよ。でもそれがそれがまんざら的外れてないってことが一番困るんだけどね」って思ってるに違いない。
 つまり、田中莉奈の話を聞きながら、この時大介はずっと葉菜子のことを考えてるんですよね。なにそれ萌える

 そんな大介の心を知らずに、田中莉奈は本題に入ります。

莉「だから、葉菜子さんに頑張れって、信じてるからって言われると、頑張らなくちゃって気持ちに。…でも、あたしに葉菜子さんの代わりが務まるとは思えなくって。……それであの、言ってもらえません?」

大「…ん?」

莉「大丈夫、やればできるって」

大「…いや俺はね、仕事の内容も知らないし」

莉「お願いします」

大「……じゃ、ま、大丈夫。やれば、できる、…んじゃない?」

 急にそんなこと言われたってそりゃ困りますよ、大介じゃなくとも。
 本当に、仕事の内容も知らなければ、田中莉奈仕事ぶりも、そのシチュエーションもわからないし。
 そんな状況で、無責任大丈夫なんて言えないな、って普通思いますよね。大介ならなおさら。

 だけどそれを聞いた田中莉奈の顔。圧倒的なコレジャナイ感。深い落胆。そこまでわかりやすくガッカリすんなよ的な。
 それを見て大介も半分困り、半分イラっときて、煮え切らない田中莉奈に喝を入れます。

大「葉菜子が信じるって言ってんだろ、それなら大丈夫だよ、頑張れって!」

f:id:sran:20160307235617j:image

 はいありがとうございます! いただきました!
 あなた仕事のことはよく知らないけどさ、葉菜子が信じるって言ってるなら、大丈夫だよ。 葉菜子が信じるって言ってんだろ? じゃあ、俺も信じられるからさ。
 葉菜子が無責任にそんなこと言うわけない。だったら、俺が同じこと言ったって無責任じゃなくなるはずだ。

 萌えまくりですよ、なにこれ。なにこの二重の信頼。
 もちろん田中莉奈を元気付けてやりたいという気持ちはあったにしろ、恵を信じるために様々な検証必要とした大介的には、無責任に人を信じて「大丈夫」なんて言うことはできないんですよ基本。
 なのに、「いい人」かどうかはともかくとして、「人として」信頼してる葉菜子の言うことなら、俺も信じるよ、ってきちんと激励の言葉をかけることができた大介。
 一緒にいないのにその二人の関係性に萌える、っていう素敵なシチュエーション、マジありがとう

 陽三と恵と浩太をめぐる「信じる」関係は、きちんと口にして、確かめ合って、目に見える「信頼」のカタチでしたが、この大介と葉菜子の間の信頼は、見えない「信頼」のカタチで、やっぱりこっちの方がはるかにキュンときますね。
 ここまで大介と葉菜子が積み上げてきた二人の関係性をはっきり表すような素晴らしいシーンが、こんなにもさりげなくさらっと挟み込まれてくるあたり、実にニクい。
 前回、美和に「大介に足りないのは、ほんのちょっと覚悟だよ」って言われたそのことが、きちんと繋がってきているんですよね。葉菜子の言葉を、きちんと受け止める覚悟。その上で、田中莉奈を信じる、その責任

 大介の激励を受け、本当に嬉しそうに微笑む田中莉奈
 彼女もようやく、葉菜子に「信じられる覚悟」が据わったようです。
 そして、いつものように、妙に鋭い言葉で核心をつくのを忘れはしません。

莉「葉菜子さんも長里さんも本当はとっても優しいのにそういうの隠してる。ありがとうございます、これで明日何があっても頑張れます」

f:id:sran:20160307235618j:image

 しかしやっぱり香取慎吾さんの演技のデリケートさっていうか、何重にもなった思いをきちんと視聴者にわかるように届けてくれる表現力、っていうのはすごいな、って思いますね。
 こういう複雑で微妙感情を描くときには、いたずらに思わせぶりな表情を作りがちなんだけど、大介は普段とほとんど変わらないようにむしろ心がけてる。まあ、冷静に、温和に、感情的にならずに、ってね。
 だからこそ、ふと覗いてしまう生の感情や、強い思いが、上のレイヤーをついて一瞬出てくる時、大介の心の奥にあるものがかいま見えるんですよね。だって田中莉奈と話してながら、関連ワードが出るとピピって反応していて、頭の中では葉菜子のこと考えてるのが、見せないようにしてるのに見え見えだもの。こういう複雑さって、なかなか自然に出せるものじゃない。


 

3、葉菜子と和弥の場合

 見えない信頼といえば、葉菜子と和弥の間にも、今回、言葉にはしない信頼関係が随所に窺えましたね。
 前述の、倉庫から田中莉奈に連絡する言葉の中に、和也への全幅の信頼が表れていました。

葉「大丈夫、コーヒーの魅力を語らせたら和弥の右に出る人はいない」

 こんなこと言われてみたいですよね、もちろん葉菜子さんに、ですけど。
 それほどまでに、こと仕事に関しては、葉菜子は和弥に全幅の信頼を置いていて、それは全く揺るぎないものです。
 前回の「コーヒーバカ」呼ばわりといい、仕事パートナーとしては、信じられる最高のパートナーなんですよね、今でも。

 でも今回、そんな葉菜子の心に、ほんの僅かな変化が見え始めていました。
 葉菜子が体調を崩しながらもインドネシアまで出張しなくてはならなくなった、そんな状態を、和弥はいまでも夫として心配しています。
 倉庫からの電話ですぐに葉菜子の風邪に気づいた和弥、車の助手席で眠る葉菜子の様子を見てすぐに熱を確かめる和弥、テキパキと医者に運び、必要手続きを済ませる和弥。

 人はやはり、弱まっている時にはいつもと異なる感情が芽生えます。
 いつもより人恋しくなるし、人のちょっとした心遣いが嬉しくなります。
 葉菜子だって例外じゃありません。

 インドネシアから日本に帰ってきて発着口から入ってきた葉菜子が、そこに和弥の姿を認めたとき、彼女は本当にホッとした喜びを浮かべていました。

f:id:sran:20160307234943j:image

葉「あ、和弥、今着いた。これから会社に」

和「おかえり」

葉「どうして?」

和「この便だって聞いたから。プレゼンあるし、車置いてある」

葉「うん、ありがとう

 散々「葉菜子のマスクでかすぎ問題」でTLが賑わっていましたが、すごいのは、あのほんのちょっとしか見えていない目だけで、葉菜子の驚き、嬉しさ、安堵、と移り変わる気持ちがありありとわかるってことです。繰り返しますが、上野樹里すげえ。

 病院で気づいた葉菜子が、そばに和弥がいてくれることに深い安心を感じていること、そして素直な気持ちを和弥に伝えることができたこと。
 明らかに、葉菜子の気持ちが、ほんの僅か変化していることがわかります。

和「相変わらずだよなあ。でもよかった。大したことなくて、本当よかった」

葉「ありがと。迎えに来てくれて。助かった。っていうか、嬉しかった」

和「うん」

f:id:sran:20160307235620j:image

f:id:sran:20160307235113j:image

 二人の和やかな時間
 そういえば、第3話で律子がこんなことを言っていました。
 「私が川上村に戻ったら駆けつけてくれる人いる? 何かあったとき。熱が出たとかお腹壊したとか。仕事の付き合いなんか、会社離れたらそれっきりよ」
 いましたね、そういう時に駆けつけてくれる人が。
 葉菜子も、この時の会話をどことなく覚えていたんじゃないかなと思います。そして、やっぱり何かあった時に、誰かがいてくれることの嬉しさや心強さを、身にしみて感じたことでしょう。
 病室での二人の空気感は、完全に恋人夫婦のそれでした。

 トラブル処理で会社を慌てて出る時、さとりがエレベーターの前でつけてくれたネックレス
 葉菜子はそれを病院デスクの上で見つけて、手に取ります。

さ「これ、貸してあげる、買ったばかりのパワーストーン。なんかね、過去を清算して、こじれた仲を修復する力があるんだって。取引先との関係、修復しなよ」

葉「こういうの効く?」

さ「気分気分。信じる気持ち大事なのよ」

f:id:sran:20160307235619j:image

和「何?」

葉「友達に借りてたパワーストーン

和「パワーストーン? そういうの信じる方だっけ?」

葉「いやあんまり。……こじれた仲を修復する、か」

和「ん?」

葉「いや何でもない」

f:id:sran:20160307235621j:image

 パワーストーンを信じるか信じないか。このパワーストーンが、葉菜子と和弥の仲を修復する触媒となってくれるのか。
 それはまだまだこれから先のこと。
 でも、葉菜子にとって、再婚は100%ない、と言う結論だったはずが、今回のこのトラブルを通して、100%ないとは言えない、くらいのゆるやかさを帯びていることは確かです。
 和弥に対して、仕事パートナーとしての信頼とは別に、人生パートナーとしての信頼を、少しずつ回復してきているに違いありません。

 男女とか全く関係なく、「人として」お互い信頼し合い、理解し合っている大介と葉菜子。
 男女として、「人生パートナー」としての信頼を少しずつ回復しつつある葉菜子と和弥。

 「しんどくなったらまた俺に言え」と、何回繰り返してもいいと言ってくれる大介。
 「もう一度始められないかな」とやり直しを願っている和弥。

 再婚は100%ないはずだった和弥との関係が、というか、葉菜子の頑なな気持ちが、トラブル&病気のせいで少し溶けかけていて、先がまた見えなくなってしまった。
 一体どうなるのか、本当に、見えない。
 オリジナルドラマ醍醐味ここにあり、ですね。


 

4、そして葉菜子と律子場合

 さて、そう見てみると、さほど問題がないように思われてきた葉菜子と律子関係が、実は一番こじれていた、というね。

 葉菜子は離婚の原因も、自分がもう子供を産めない体になっていることも、律子に言うことができない。
 だから、事情を知らない律子が、離婚の理由をしつこく聞くのも、あんなにいい奴の和弥との再婚を望むのも無理はない。
 手詰まりね、今のところ。

 今回「ああ」って気づいたのは、恵って役は、葉菜子と位置的にかぶるんだ、ってことです。
 もちろん、みんなと同じことがうまくできなくて自信が持てない恵と、バリバリキャリアウーマンで、人生もきちんと計画してその通りに進んできてる葉菜子とは、むしろ真逆と言っていいキャラです。
 でも、二人とも、「信頼」を裏切ることが怖くて、裏切ったことが申し訳なくて、逃げてるんです。

 陽三の信頼に応えられないかもしれない、それが怖くて申し訳なくて逃げちゃった恵。
 和弥の「理想の家庭」を作りたいという信頼を裏切ったことが、多分律子が描いていた人生を実現してやれない、信頼にこたえられないことが、怖くて申し訳なくて逃げてきた葉菜子。
 他のすべてのことをうまくやっていても、これだけはダメなんですよね。そこだけは触れてほしくない。

 しかし、今回、葉菜子は明らかに和弥への気持ちが変化してきてます。それを自分でもわかっている。
 再婚の可能性も、今までは0だったけど、ひょっとしたら0.1くらいに、0じゃなくなったかもしれない。
 そうでなければ、パワーストーンを見て微笑みながら「こじれた仲を修復する、か」なんてつぶやいたりしない。

 退院する日に、葉菜子はPCを開いて、久々にPennaへのクレームを書き込もうとしています。
 最初は、ああ、ダイアリーに「愛あるダメだし、送るね」って言ってたし、あれか、って思ったんだけど、そんなのもう大介に直接言えばいいんだし、そもそも、病院で急いで書き込むことじゃない。
 なんだろう、って不思議でした。

f:id:sran:20160307235622j:image

 そういえば大介は、クレーマーハナコはほとんどストレス解消ですけどね、って言っていました。それで、あ、これは、葉菜子の不安の裏返しなんだな、って気づいたんです。
 葉菜子は、和弥との一件で、自分の中に、和弥との再婚という選択肢が0じゃない気持ち気づきます。
 でもそれは、果たしてただ嬉しいだけのことでしょうか。むしろ、とても不安なことなんじゃないでしょうか。

 5年間、和弥との連絡を取っていませんでした。律子にも、離婚の理由を言っていませんでした。もう、一人で生きていくと決めていました。
 なのに、また再婚するとなったら、そのすべての気持ちを精算して、新しい生活に踏み出さなくてはなりません。
 律子も言っていました、結婚って面倒くさいのよ、って。しかも再婚となったらその面倒くささは倍増するでしょう。
 自分気持ちに嘘をつかないとなると、そうなる可能性が0じゃない。でもそれは、とても不安なこと。

 恵も、あの場末のスナックと男に騙される日々という酷薄生活であっても、そこから光の方へ一歩踏み出すのは本当に怖かったはずです。
 どんなに辛くて厳しい生活でも、新しい生活に踏み出す怖さより、そこにとどまることのほうが安心、という考え方はあるのです。
 でも彼女は陽三のプロポーズで、そこから踏み出す決心をしました。

 同じように、ひょっとしたら再婚という選択肢が0じゃないのかも、という「新しい一歩」への不安から、葉菜子はまた、自分にとって慣れ親しんだ場所であるクレーマーハナコを、その中でも一番クレームを寄せ続けた場所であるPennaを選んで、そこに退行したくなってたんではないかな、自分でも気づかずに。
 そんなことを考えさせられたんでした。

f:id:sran:20160307235623j:image

f:id:sran:20160307235624j:image

f:id:sran:20160307235625j:image

 そこにちょうどよくやってくる大介。
 楽しく気持ちよく憎まれ口をたたき合う二人。
 そして律子のしつこく続く問いかけ、心を閉ざして何も答えない葉菜子、場にいたたまれない大介。

 さあ、これから物語は大きく動き出すよ、ってベルの音が鳴り響く、そのわずか手前の息詰まる瞬間。


 

★今回の「愛のダメ出し

 僭越ながら、一言。

 早くも残り3話。最後最後まで、悔いのないように、ぶちかまし切ってもらえれば、特に言うことはないですが、でも、1クールでこの人たちとお別れするのはあまりも惜しい。
 スペシャルか、来年のどこかのクールで、ぜひまたお会いしたい、って気が早いわ!

*1自分仕事柄、そういう人をたくさん見てきました。「その舟は泥舟だから乗っちゃダメだよ」って言うのに乗る人、「あと一歩進めば、光に届くから」って言うのにその一歩を踏み出せない人。

*2:例えば水野美紀さんの「言いたいことをうまく言葉にできないもどかしさ」が、大げさな腕のジェスチャーにつながっていて、「伝えなきゃ」って焦燥感がひしひしと感じられ圧巻でした。