塩の街―wish on my precious

リアリティのあるSF。著者の文章力が成す業であると思う。
非現実な世界観の中で、現実味のある人間関係や、それによる感動を生む著者の力量は脱帽もの。
中盤からの展開は、ライトノベルらしいと思った。個人差があるだろうが、その展開自体がなくとも、良作として完結を迎えられたと思う。

アキハバラ@DEEP

ドラマや漫画、映画にもなった話題作。所謂ヲタクたちが、自分らの創り出した人工知能を取り戻すために、普段縁のないアナログで戦う面が様々な意味で見所と思う。しかし、それが故にそういったシーンを陳腐に思う読者も多いはず。人工知能の一人称は、良い意味で斬新と思った。

イチゴ色禁区 1.夏の鳥居のむこうがわ

中身よりもキャラクターを目的として、読むべき作品と思う。例えば、主観が幼いヒロインを少々過剰に女としてみている面など、狙っているとしか思えない。或いは筆者の単なる価値観の問題か。会話のやり取りには面白味があるが、ライトノベルらしいライトノベルであったと抽象的なことを思った。

デュラララ!!

筆者の描く人物は、どの作品も共通して【濃い】。非現実な思考や力をもったキャラクターたち。しかし、世界観が異質なものであるとは感じさせない筆者の文章力。東京都池袋に集う、異常な者達の日々を描く。
筆者の特徴は、描く全ての作品の世界観が同一であるようにみえること。同じ世界の者らを、様々な視点で描いた作品。それが筆者の小説の形なのだろう。事実、筆者の他作品と今作品には共通した人物との関連もみえているようだ。

時をかける少女 〈新装版〉

当時としては斬新な話だっただろうが、今となっては新鮮さに欠けてみえる。短編が二作収録されているが、以下にも同じことがいえる。収録作【悪夢の真相】に至っては、魅力すら感じられない。主観の思考が現代人からみれば純粋すぎ単純にみえ、軽薄に思われる。そのため、表題作は含まれる恋愛要素に対しても共感出来ず、売りとしている切なさが感じられなかった。

博士の愛した数式

80分間の記憶しか保てない博士と、家政婦の母子の接しを描く。母子が博士と築く、一瞬一瞬の絆といえるべきものは、博士にとっては80分あまりで消えてなくなる。切なさの中に存在する、確かな暖かさ、幸福。