- 作者: 村松友視
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1994/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
『桃のシャンパン』
に比べると、
収録作品の幾つかは
少し前、
バブル絶頂期
だったりします。
当時の世相や
風俗の描写に、
私の中の記憶も、
蠢きました。
頁63「或る雨の午後」
梅宮は、まだ喋り続ける男女を尻目にエレベーターを出ると、そのままロビーを横切って、電話ボックスが列んでいるコーナーへ向った。そして、電話器にカードを差し込み、暗誦している番号を押した。「どう、デンキとテツとジドウシャは?なるほど分った、適当に頼んます」、短いやりとりのなかで持株のうごきを聞き、証券会社の担当に指示を与えたあと、梅宮は電話を切って腕時計を見た。
頁149「ボイルド・エッグ」
「でもさ、問題は結果でしょ。ねえ、おすしつまんでかない?腹立ちついでにおごるわよ」
ハリーは、そう言って強引に柳田を鮨屋へ誘った。
(中略)
「そうね、すみません、ゲソとトリガイとヒモ」
「せこいものばかり注文するねえ」
「あたしね、横綱や大関には抵抗があるのよ」
「何だい、横綱や大関ってのは」
「あたしたちが子供のころはさ、ほら、エビの茹でたのが高かったでしょ、そういうのを横綱大関にたとえたのよ。すみません、シャコとアオヤギ!」
「そう言えば、エビは高かったから子供は手が出せなかったな」
「次がウニ、イクラ、それにアワビ。そのうちおどりのエビがきて、白身の魚ね、エンガワなんてのが出世して、トロでとどめでしょうね。すみません、ゲソください」
「それが鮨の出世頭ってわけか」
「すみません、カッパとカンピョウ巻いて、手巻きじゃなくスダレでね」
「カンピョウの手巻きってのは怖いね、すっぽり抜けちゃうだろう。ところでいまハリーが食べたネタなんてのはさ、どう考えても横綱・大関じゃないね。ま、前頭の十枚目ってとこか」
「でもね、これがなかったらおすしは寂しいわよ。団十郎だけで脇役の揃わない歌舞伎の世界、ああいやだ」
「しかし、鮨を喰うのもハリーは貧乏症でいくんだねえ。全盛のころからそうだったの」
「全盛時代は大トロ専門」
「やっぱりそうか」
「嘘よ、すみません、ギョクください!」
「やっぱり、タマゴでしめるか」
「タマゴを最初に食べてシャリの味をみるなんて言うけど、あたしの場合はタマゴが横綱」
『桃のシャンパン』は女性のストーリーですが、『ワインの涙』は男の話だけでなく、
このハリーさんというオカマと、あと、ズーレーというか、百合の話があります。
セクマイって言葉、人口に膾炙してることばなのかなあ。
回転寿司って、なんか、シャリやネタの大きさ薄さで失望して、
なかなか満足感が得られなくて、ついつい頼みすぎる気がしてます。
また、値の張るものを幾つか取り混ぜると、普通のお寿司屋と変わらなくなる気もします。
いくら食っても飢餓感がある点で、パチンコと似てる気がするのですが、
どうでしょうか。コスト計算ばっか考えてこのネタのサイズなんだろうなあ、
と考えながら食べてしまうので、年に一度か二度しか行きませんが、
それでも回転寿司はもういいやと思ったりもします。
頁178「夢のいろどり」
「千円のうどん、あっちだべ」
ひとりの中年男が仲間を手招き、ロビーの一角へ向って走って行った。
アンカレッジ空港のトランジット・ロビーに、千円のうどんを食べさせるところがあって評判になっているのは佐久間も知っていた。
アンカレッジ空港、一度は行きたかった気がします。
マンガのエリア88とかでも此の空港の名前が出てきた記憶がありますが、
正しい記憶だったかどうか。
作者は、からだを「軀」けむりを「烟」と書きます。
この辺もワープロ登場以前の多様なクセという感じで、好ましかったです。
あと、著者の作品は、『ヴィンテージ』というのを読もうかと思っています。