『バンクーバーの朝日』vs『KANO 1931海の向こうの甲子園』劇場鑑賞 両雄若し戦わば Which is win?&『バンクーバー朝日~日系人野球チームの奇跡~』 (文芸社文庫)読了


なんでバンクーバー朝日の公式はトレーラーにYouTube使ってないんだろう。
公式:http://www.vancouver-asahi.jp/
アサヒはフジTV系列が作って、そのフジのとくダネ!で映画嘉農を紹介してて、
それでこんな映画もあったなあ、と、見に行ったら、KANOは朝日新聞が支援してたです。錯綜。

公式:http://kano1931.com/
Wikipedia(日文):http://ja.wikipedia.org/wiki/KANO
Wikipedia(中文)http://zh.wikipedia.org/wiki/KANO
奥さんは映画力道山*1にも出てた中谷美紀かと思ったらちがくて、坂井真紀でした。
原住民語がアミ語であること、客家語も使われていること、中国で上映されていないこと、
などはWikipediaで知りました。
あとは後報で。ですが、けっこう時間がかかる気がします。


左上はミュータントタートルの腕。
【後報】
やっと小説を読んだので、まず、バンクーバーの朝日のほうの感想を書きます。
アマゾンで、品切れ発送延期のはずが、あっちゅうまに初版が届いた。事情を推察すると愉快。

【文庫】 バンクーバー朝日~日系人野球チームの奇跡~ (文芸社文庫)

【文庫】 バンクーバー朝日~日系人野球チームの奇跡~ (文芸社文庫)

この小説は映画の原作ではなくあくまで別物で、ただ、帯によると作者は、
映画に企画協力しているということでした。
作者は、小説主要キャラでもある、朝日初期中心人物の息子さんで、
日本名も持ってますが、ペンネームとしてはテッドを名乗っているとの由。
文庫の経歴を拝見すると、日立本体を55歳定年まで?つとめあげ、その後独立、
経営の傍らこの本を書いたそうです。神奈川県在住。
映画のエンドロールには、この小説以外に、もうふたつ、
ノンフィクションが参考文献として挙げられていました。
http://www.virtualmuseum.ca/sgc-cms/expositions-exhibitions/asahi/index2.php?loc=en-CA
石をもて追わるるごとく―日系カナダ人社会史

石をもて追わるるごとく―日系カナダ人社会史

小説を元にしたマンガ Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E6%9C%9D%E6%97%A5%E8%BB%8D
映画 Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9C%9D%E6%97%A5
実際のバンクーバー朝日 Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E6%9C%9D%E6%97%A5

映画を観てまず不満というか不可解だったのが、
二世中心のはずの朝日選手たちが、いまの若者のような日本語を話す点で、
私の知っているハワイ一世ですら、英語日本語チャンポンの会話になって、
「ルックアット、ハウナイスじゃけえ!!」になるのに、
なんでこいつらはカナダ人と話す時だけしか英語使わないんだ?
というのがありました。
小説では、二世たちは親と話す時だけ日本語で、英語中心の生活を送っているとあり、
(あと学校では日本語かな?)どこの国も移民二世三世はそうだよな、
と至極妥当まっとうな設定になっており、映画がアレンジなのだと分かりました。
この点、後述するKANOとは真っ向から作品作りのメソッドが異なるわけで、
それをつい宗主国と植民地国の違いで説明したくなる誘惑と戦わねばならないです。

また、映画ではバンクーバーのリーグがよく分からなくて、
緑のユニのチームはアイルランド系のクラブかしら、と思ったり、
あとはプレザントという優勝争いのチームがあることしか分かりませんでしたが、
このへんのリーグ構成は小説でも特に詳細に書いてあるわけではなかったです。
とりあえず、トップリーグ二部三部地方アマチュア、といった、
正三角形構造のリーグ構成でないことは伺えました。
長距離移動の困難な時代だから、西海岸バンクーバー中心のリーグだったのでしょう。
パシフィック鉄道、ブリティッシュ・コロンビア電力と言ったチーム名が見えます。

映画と小説の違いまとめサイトみたいのもあるかもしれませんが、
見つけられなかったので幾つか書くと、

・人名やポジション、特性は全部違う
・監督も違う
・妻夫木の妹でごちそうさんの妹の高畑充希役は小説にはない
・だから、私をボールパークにつれてって、も歌わない
(むかしベトナムを旅行した時、サイゴンでハンパな日本人がまじめな
 ベトナム人JKをひっかけて、お別れにタンソンニュット空港で、
 あなたにささげる歌を謳われた、という話を聞きました。
 見物したかったけど、ハノイのノイバイ空港に行ったので、見れませんでした)
日系人の仕事も、製材所だけしかかぶらない。
 三国連太郎の息子の土方や、松阪の高校入学時のバッテリーの豆腐屋*2
 本上まなみの女郎は小説には出ない
(カナダの日本人娼妓については、工藤 美代子『カナダ遊技楼に降る雪は』が詳しいです)
バンクーバー日系人チームは朝日だけではなかったが、
 スポンサーがついてセミプロ化して成功したのが朝日
・朝日は大正十年日本遠征している
・朝日が強豪チームになったのは、日本人純血主義を捨て、白人選手に門戸を開き
 人種と国籍の枠を越えてから
(なんとなく、サッカー関東リーグのFCコリアを連想しました)

頁296
 後年、ハリー宮本は様々な事情からアングラーの収容所に強制収容されることになる。そこで英訳のニーチェを手に入れて、暇潰しに読んだ。パラパラとページをめくる中、ハリーは思わず目を見開いた。そこにはこう書いてあったのだ。
『敵を選ぶ時は気をつけねばならない。なぜならこちらも敵に似てくるから』

小説が、あちこちに持ち込みはしたのでしょうが、
大手の賞を獲ったり出来なかったのは、白人によるオリエンタル差別、
というセンシティブなテーマを抱えていること、
戦後の北米政府の日系人への謝罪と賠償*3が、
日本政府がアジア等に対し規定している政府間賠償を越えた対個人対民間であること、
などが響いたのではないかと思います。

マンザナーとか、平井和正のアダルトウルフガイマンハントとかで読みましたが、
いまの若い人はもうそんなの読まないし知らないだろうと思います。
映画でオリエンタル排斥を知ってナイーヴな反応をしても仕方ない。

小説冒頭の、白人暴動、日本人街襲撃シーンは、長崎で清国水兵が暴れた時、
日本側が返り討ちにした戦術と酷似してると思いました。
幕藩政治の頃から、身に沁みついてる三次元市街戦戦法なんですかね。
(前面の武装勢力が陽動で、屋根から遊軍が投石攻撃)

この戦法は焼き討ちや、飛び道具解禁されると弱いと思いますが、
暴徒対自警団なら、十分通用する戦法だったのだろうと。

小説は野球のシーンが実に細かくいきいきと躍動していて、
作者は都市対抗の日立を応援してたクチか?と思いました。
対する映画は、日本人ならではの細かい戦術を思いつくシーンが、
誰がその戦術を教えたんや、というくらい唐突で、ちょっと残念閔子騫

映画のキャラがもっと自然にちゃんぽん言語話していたら、
よかったのになあ、というのが、私の総括です。
(2015/3/2)
【後報】

頁84
 子どもたちの大半は日系の二世だ。彼らの親世代である一世たちと違って、カナダで生まれ育った二世たちは、家でこそ日本語を喋るものの、一歩外へ出れば英語を使うことのほうが多い。このままでは、子どもたちが日本語を喋れなくなってしまうと嘆く親たちまでいるほどだ。そうした不安を解消するために、排日暴動の前年の一九〇六年に日本人の子弟だけを対象にした日本語学校が設立された。だが、それでも二世たちの日本語離れに歯止めをかけることは難しくなっている。
 ところが不思議なことに、子どもたちは悪口の語彙だけは豊富に持っていた。

頁99などで、バンクーバー日系人の大半は、滋賀か和歌山出身とあります。
映画の日本語会話は、もっと関西弁でよかったということかもしれないですが、
そうなるとカツーンでなくせき関ジャニのほうがハマリ役という話にもなりかねず、
だから標準語だったのかとも思います。
というか、京阪神でなく近江と紀州の明治の話し言葉を忠実に再現したら、
それはそれで、ぞんざいとかなんとか、現代の観客には違和感があると思います。

あと、頁30などで、排日の事象として、一八九五年にブリティッシュコロンビア州
可決された、日系人はカナダに帰化しても選挙権が持てないとする選挙法の改正、
その前に可決された、
日系人帰化しなければ就労出来ないとした別の法律があがってますが、
現在日本の、外国人参政権を巡る論議とは当然別のはなしです。
当時のカナダでは底辺労働のパイの奪い合いから、排日は票やカネになるので、
排日組織がつくられ易かったそうですが、今の日本はどうかな、知らないので…
また、食習慣の違いとして、白人は紅鮭しか食べないのに、
ほかのシャケマスも食べ、筋子などをしろめしにのせて食べるのが、
嫌悪感がどうとかいう記述もありました。移民史などをちゃんと見た上での記述でしょうし、
ヘイトというのは隣人を知るようになってからがむしろ本番で、
恩讐を乗り越えるまでに、百年かかるのは普通だと思いました。
(2015/3/3)
【後報】
KANOの感想です。さすがセデック・バレの人。ここまで日本語を貫くとは思わなかった。
3時間を超える長い映画ですが、甲子園編に入ると突然テンポががらりと変わり、
熱闘死闘編になるので、飽きさせないです。その辺の工夫は当たり前のように仕掛けてくる。
http://113.196.56.91/Assets/product_images/957/957327499.jpg
http://www.m.sanmin.com.tw/Product/Index/004712322
ノベライゼーションもありましたが、さすがにそこまで翻訳されてないので、
マンガだけ読みました。

KANO 1931海の向こうの甲子園

KANO 1931海の向こうの甲子園


http://24h.pchome.com.tw/books/prod/DJAH12-A83764819
遠流は、知られた出版社です。名前だけで、懐かしい。
ワーワーは、
嘩ー嘩ーです。

ゴゴゴゴは、
ありませんした。

映画で、
レイシスト的な
発言
しときながら
調子よく
嘉農ファンに
鞍替えする
記者が出て
きますが、
漫画に再録された
菊池寛
コラムが
似た感じ
だったので、
あの記者
菊池寛なの?
と思いましたが、
よくコラム読むと、
ラジオ観戦記
でしたので、
たぶんあの記者は
創作、フィクション
だと割り切って、
以降考えない
ことにしました。

②前進甲子園 頁129
甲子園ギャルの台詞
聴説這支球隊裡有日本人、漢人高砂族耶。

高砂族是食人族嗎?他們好可愛喔!

首狩り(出草)なら言うかも知れないが、ギャルサポが食人族って、
言うかあ?と思いましたが、言うかもしれない。分からない。
逆に言うと、首狩りの知識とか普通ないわな。
日本語版で読むと、さらに違和感ないです。ちゃんと訳してる。

映画は日本統治時代なので当然みな日本語を使うわけですが、
風呂のシーンとか、本土でこういうタメ口だと喧嘩になるなあ、
時代が変わって残留孤児三世とか日系南米人とかになっても、
そうだもんなあ、と思いながら観たわけですが、
マンガの日本語版だと、最初に登場人物紹介がないので、
漢人は名前で分かりますが、蕃人(原住民)と日本人は、
巻末の嘉農ナイン紹介を見るまで、誰がどっちか分からないです。
紙に書かれたセリフの訛りまでは分かりませんし…
対して、漢語版は最初のカラーページの次に人物紹介があるので、明確です。

①魔鬼訓練 主要登場人物介紹

②前進甲子園 主要登場人物介紹

③一球入魂 主要登場人物介紹
台湾のウェブ書店とかのチラ見せページからキャラ紹介画像引っ張ろうかと思いましたが、
気が付くとNot foundやフォービドンになってても嫌なので、絵は隠して掲示します。
で、台湾版は逆に、戦後國府中華民國で原住民が名乗った漢姓名を記載してないので、
そこを知ろうと思ったら、もう一度日本語版を開く必要があります。

八田與一が出てくるのもこの映画のびっくりさせられる箇所のひとつですが、
私的にここのキモは、深圳を皆シンセンシンセン読むもんで、
「圳」の発音はセンでFAっぽくなってますが、
嘉南大圳は「かなんたいしゅう」と読むんだよということです。勉強になりました。

これに関してウィクショナリー*4は「シュウ」を載せてないので、
今後の更新が待たれるところで、検索すると、下記がイチバン納得出来ました。

はてなブックマーク - “圳”という字の読み方|Colorless Green ...
http://b.hatena.ne.jp/entry/id.fnshr.info/2013/01/19/zhenorzu/

さて、私がわざわざ台湾版まで買ったのは、札幌商業の錠者博美くんについての説明が、
日本語版で全然なかったからであります。
彼は、冒頭で台湾を通過する出征兵士(一兵卒ではない?)として登場し、
第二部では狂言回しとメンタルを崩すナゾの敵キャラとして大活躍します。
実在の錠者選手については、公開後いろいろ情報が出てきたことが検索で分かりました。
が、なんでこのキャラが狂言回しに使われたのか分からない。
見ない苗字ですが、アイヌとか白系ロシア人みたいな虚構設定を加味したわけでもない。
ドカベンの中(あたる)みたいによく分からないままです。
マンガにも特に彼についての補足文章はありませんでしたので、
なんとなく監督や原作者が彼に託したものは分かるような気もしましたが、
それを言語化してはいけないのだな、と、ぼんやり思いました。

以上かな。パパイヤにはタンパク質分解酵素があるから、
あんまり素手でいじってると指紋が消えるです。ゴム手必須。

矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読 (岩波現代文庫―学術)

矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読 (岩波現代文庫―学術)

こういう映画が出てくると、この本が日本では絶版なのに、
台北の精品書店学術書コーナーには常時並んでいた時代など、
遠くなったと改めて思います。外蒙古が中華民國領土の地図はまだ買えるのか、どうか。

この映画は台湾では歴史認識の捉え直し、というとオオゲサですが、
台湾野球の栄光原点をリトルリーグ世界制覇の頃に置く従来の史観に対し、
日本統治時代にその萌芽を遡らせた、そういうパラダイムシフトを試みたと思います。
リトルリーグの話は何を読めばいいのか分かりませんが、
私は、王選手の父親について書かれた本で読んだと思います。

百年目の帰郷―王貞治と父・仕福 (小学館文庫)

百年目の帰郷―王貞治と父・仕福 (小学館文庫)

【後報】
アミ族選手のアミ語の名前を知ろうと思ったら、やっぱ日本語版読むしかないです。
台湾版には記載なかった気がする。
セデック・バレの人なら、どっかに書いてそうなもんだけど。もっかい読みます。
(2015/3/18)