日本イコモス国内委員会と京都市のやり取り

イコモス20世紀遺産に関する国際学術委員会からの意見書を受けて、日本イコモス国内委員会の第14小委員会で検討が行われてきましたが、京都市とのやり取りが日本イコモス国内委員会のサイトで公開されました。その一連のやり取りを、前段部分を除いた抜粋して紹介します。


日本イコモス第14小委員会
リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/index.html

日本イコモス国内委員会から京都市に送られた京都会館再整備計画に関する見解(2012年9月10日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_comment120910.pdf

(前略)しかしながら、
(4) 京都会館再整備基本設計において、20世紀建築のリビング・ヘリテージ(使われる建物としての継承)としての機能変化を含む改修などの変化に対して、継承すべき価値の判読が困難で、かつその資産のインテグリティ(完全性)の確保が合理的に示されていないこと。

(5) 京都会館再整備基本設計における資産のインテグリティ(完全性)が保たれているかの検証と、その確保のための新たな要求性能の再検討がなされていないこと。

(6) 「京都会館の建物価値継承に係わる検討委員会」提言の示す「近代建築を保存・継承する新たな道筋をつけること」に対する説明が不十分であること。

京都市は、(1)および(2)の点を止揚して、新たな京都会館のあり方を提案するのであれば、上記の(4)〜(6)の疑問点に対処し、かつ、その解決策が京都会館の最小限の改変案であることを合理的に示すべきであると考えます。

京都市が行う上記の作業を注視し、必要に応じて協働して検討するために、イコモス国内委員会拡大理事会(9月8日)において、国内委員会内に第14小委員会「リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討(京都会館再整備計画に関する検討)」(主査:苅谷勇雅)を設置することとしました。また、その検討結果を国際学術委員会ISC20Cに報告する予定です。

日本イコモス国内委員会の見解に対する京都市のコメント(2012年9月11日受領)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos120911.pdf

日本イコモス国内委員会から市長あて「京都会館再整備計画に関する見解」に対するコメント

京都会館再整備について,これまで本市が京都会館の建物価値を認めて慎重に検討を重ねてきたことには評価いただいている。その一方で,再整備に関して,なお丁寧に説明すべき点があるとの御指摘をいただいたと理解している。

○ 本日,いただいた御指摘については誠実に対応し,建物本体の本格的な解体に取り掛かるまで,仮囲いや建物内部の付属設備などの撤去を行っている期間である約1箇月を目途に,日本イコモスの御協力をいただきながら,再整備基本設計の取りまとめに至る経過の説明等に,精力的に取り組んでまいりたい。
京都市としては,英知を集めて再整備に取り組んできており,その内容については,必ず御理解をいただけると確信している。

日本イコモス国内委員会第14小委員会による質問状(2012年9月26日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_question120926.pdf

(前略)第一ホール「建物本体の本格的解体」着手前に御回答いただけますよう、お願い申し上げます。
質問事項

  • ? 京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し、どのように新たな要求性能を設定したか、経過を追って合理的、論理的、また具体的にお示しください。
  • ? 上記において、第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的、文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか、また、その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか、お示しください。
  • ? 第一ホール全面解体除去後においても、実際に京都会館全体として建築的、文化的価値が継承され、そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか、お示しください。
  • ? 第一ホールを全面解体除去するとした場合、建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか、お示しください。
  • ? 以上の点を踏まえ、京都会館の建築的、文化的価値継承の観点から、第一ホール再建後において、どのようにそのインテグリティを確保するのか、具体的方策を示してください。また、その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか、スケジュールも含めて具体的にお示しください。

質問状に対する京都市の回答(2012年10月9日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos121009.pdf

  • 1「京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し,どのように新たな要求性能を設定したか,経過を追って合理的,論理的,また具体的にお示しください。」

(前略)再整備の検討を重ねる段階においては,建築後50年に満たないこともあり,本市として国の文化財としての指定や登録について検討することはなかった。まして,現在,学術的に議論されているリビング・ヘリテージとしての「インテグリティ」の確保という観点からの検討は行ったことはなかった。まずは,経過としてこのような状況の中で再整備の検討が進んできたことについては御理解を願いたい。

(中略:検討の経緯)

その結果,第一ホールを安全に使用し続けるための耐震性能向上を図るには建物内部での大規模な補強を必要とするなど大規模工事とならざるを得ず,結果として空間的に建物の利用方法やデザインなどに大幅な変化と制約を及ぼすこととなり,現状の形で第一ホールを保存することはできないことが明らかになった。このため,第一ホールはやむを得ず現在の外郭壁面の位置をほぼ継承しながら建て替えることとし,中庭を中心とした現在の空間構成を継承しながら第二ホールや会議場などの部分は耐震性向上やバリアフリー化など全面的な改修を行うことを方針とした京都会館再整備基本計画を平成23年6月に策定したものである。(後略)

  • 2「上記において,第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか,また,その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか,お示しください。」

(前略) また,再整備の過程においては,「1」で掲げたDOCOMOMO Japanや財団法人日本建築学会からの要望書における指摘事項を踏まえて,大庇の保存やピロティから中庭に至る空間構成を保存するなど,再整備内容を検討し,建物価値継承の実現を図ったものである。

このように,京都会館が,この岡崎の地で市民や利用者に受け入れられる機能を維持しつつ,ホールとして再生し,生き続けていくこと,それこそが,京都会館京都会館であり続けることであり,京都市と多くの京都市民が考える京都会館におけるインテグリティであると考えている。

そして,京都会館京都会館としてあり続けるためには,第一ホールの機能の抜本的な改善が必要不可欠であった。

(中略)

第一ホールの躯体を保存したままフライを付加する案についても,「1」で先述したような様々な機会に検討が続けられた。

しかし,舞台が2階部分にあるという根本的な問題や六角形のホールが持つ機能不全,改修する場合の構造上の補強の問題やフライを既存躯体に付け足した場合のデザイン処理の問題(西側疏水に面して約3m躯体が張り出したり,大庇の部分的なカットが必要など)など,機能のみならずデザインとしての総合的な問題が次々と明らかになってきた。

このように,第一ホールの要求性能を満たし,京都会館京都会館として継承していくためには,最終的には建替えという選択肢しかなかったものである。

なお,京都会館の建物価値継承に係る検討委員会において,設計者である香山壽夫氏(現在の日本でホール建築の第一人者で日本建築学会作品賞,芸術院賞,村野藤吾賞等を受賞)も交えた真摯な議論の上,第一ホールについては,建替えは行うが,深い軒庇から下部については基本的に既存部分の建物価値を継承しつつ,フライタワーを空に溶けていくよう,素材感やデザインを工夫し,景観に与える影響が過度なものとならないように配慮した。

以上のように,京都会館再整備に当たっては10数年にわたり,多くの検証がハード・ソフト両面から市民や利用者,専門家等も交えてなされてきた。その要求性能は京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承,担保し得る範囲であると考えており,今後も実施設計,施工の過程において,インテグリティの継承に努めるものである。

  • 3「第一ホール全面解体除去後においても,実際に京都会館全体として建築的,文化的価値が継承され,そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか,お示しください。」

京都会館は第一ホールだけではなく,中庭を中心とした第二ホールや会議場棟も含めた建物全体の空間構成に,その文化的,景観的価値がある。

特に,岡崎文化ゾーンのメインストリートである二条通り沿いのケヤキ並木をバックにした会議場棟と第二ホールは,建築そのものを保存し,中庭に至るピロティを通した冷泉通りまでの抜けについては,全体の空間構成の中で活かしている。

また,第一ホールはその位置での建替えであり,全体の空間構成を継承することが京都会館の建築的・文化的価値のインテグリティを継承・担保し得るものであるといえる。

中庭の共通ロビーは雨天の際の待ち空間として利用者から待ち望まれていたものであるが,大庇内で設置することにより,中庭の空間を狭めない最低限の広さとし,ガラスのカーテンウォールにより外部と一体感を感じるようなデザインとして手摺を内部化して,保存・継承に努めるとともに,カーテンウォール自体は鉄骨造による別構造として,将来的に復元も可能な構造としている。

第一ホールについても,建物全体の外観の特色ともいえる大庇,手摺,ブリックタイル等,デザインについては基本的に継承していくものであり,機能的に最低限付加されたものを除いては,建物全体の価値が継承されておりそのインテグリティに問題はないと判断している。

付加されたデザインについては,現代の日本を代表する建築家である香山壽夫氏が,「保存再生されつつ建物が生き続けることは建築芸術の本質である。また優れた保存再生とは,単に老朽化した部分を補修することではなく,時代ごとの新しい価値を古い価値の上に重ねていくことでなくてはならない」とまさに現代建築の保存・再生におけるインテグリティについて述べておられる。

このように京都市としては,第一ホール解体撤去後も京都会館全体としてインテグリティについて担保し続けていると考えており,今後もそのための努力を続ける。

  • 4「第一ホールを全面解体除去するとした場合,建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか,お示しください。」

京都会館の建物価値継承に係る委員会でも,素材の継承について,部材ごとに丁寧に議論を行い, 基本設計に活かした。

第一ホールについては,「1」,「2」で先述した理由から建て替えざるを得なかったが,京都会館全体の特色ともいえる空間構成を守りながら,その位置で建て替えるとともに建物全体の特色でもある水平ラインを活かした大庇や手摺等をデザイン・素材を尊重するとともに外壁のブリックタイルもその素材感を現代によみがえらせるよう,努力する。

解体工事においては,第一ホールの特色あるディテール(タイルや大庇)の部分採取により当時の工法等を復元に活かすとともに,PC造の手摺については限りなく再活用を図る等,今後の実施設計や復元工事に反映できるように対処する。

ただし,内部空間については,第一ホールはその機能において根本的な問題を抱えており,舞台, 客席も含めて新たなデザインを創造していくことから,その外観について建物価値を継承していく ものとしている。

  • 5「以上の点を踏まえ,京都会館の建築的,文化的価値継承の観点から,第一ホール再建後において,どのようにそのインテグリティを確保するのか,具体的方策を示してください。また,その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか,スケジュールも含めて具体的にお示しください。」

第一ホール再建後のインテグリティ確保の方策に関して,基本設計と並行して実施した「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」の取組については先述のとおりであり,取りまとめられた基本設計の内容は,京都会館の建物価値を継承しつつ,公共ホールとしての機能再生と安全性の確保を図るもので,多くの市民や利用者の皆様の御期待に応えるために,現時点で考え得る最適な計画であると考えている。

なお,基本設計受託者である香山壽夫氏には,引き続き,実施設計の監修者として再整備に携わっていただき,京都会館の建物価値継承が確実に図れるよう,取り組むこととしている。

現在,京都会館では10月中旬からの本格的な躯体の解体工事に向けて作業を進めているところである。その一方で,ISC20C(20世紀遺産に関する国際学術委員会)から提出された意見書を踏まえて,日本イコモス国内委員会第14小委員会の御指導を仰ぎながら,本格的な躯体の解体工事と並行して,

? 素材及び部材の再利用拡大を検討するための調査(具体的には第一ホール北側部分の手摺に第一ホールの既存外部手摺の再利用を検討)
? 解体工事を通じた記録報告書の作成
を実施することとし,現在,スケジュール等について具体的な調整を行っているところである。

上記の調査及び報告書の作成は,京都市においては当初,想定していなかったものであるが,ISC20C及び日本イコモス国内委員会からいただいた指摘を真摯に受け止め,京都会館の建築的, 文化的価値継承の観点から,これまでの取組に加えて新たに取り組むこととしたものである。したがって,その結果について,できる限り尊重,実現を図ることとする。

日本イコモス国内委員会の質問は、20世紀専門委員会がこのプランは建物価値を継承していないと認定したところから出発しているわけですが、一向に変わらない主張を繰り返しているわけで、専門委員会の認定を愚弄していると言ってもいいでしょう。大体、調査や委員会の結論が出る度にそれと矛盾することをしてきたのに、調査や委員会を設置して慎重に進めてきたとか言われても、おかしいわけです。ただ、一般的な感性の日本人が相手だと、こうやって言い張っていれば相手が黙ってしまうので、これまでずっとそれが通ってきたわけです。そういうことは止めなければならないと、つくづく思います。